某月某日、そして某所。旅団メンバーは、全員その場にいた。 企業の会議室の様な円状の机に着き、完全会議体勢。 「さて、今日、お前らを集めたのは他でもない」 その上座側に座るクロロ。机に両ヒジを、組んだ指に顔を乗せ、神妙な面持ちで言う。 「人気投票対策会議を行う」 「君のために僕がいる」 どよめく一同。しかしそんなもの無視して、クロロは続ける。 「第2回人気投票において、オレたちクモは4人がトップ10入りした。トップ20で 考えれば8人だ。だが果たして、それで満足していいのか?」 「と、言いますと?」 シャルがその真意を問う。 「オレの目標は、第3回人気投票において、クモ全員がトップ20入りする事だ!!」 クロロの目はどうしようもないほど、本気だった。 「何でまた、急に…。ンなくだらねぇ事で」 「くだらないだと!?」 口をはさんだフィンクスを、クロロが睨みつける。 「くだらないものか!いいか!?オレたち旅団全員がTOP20入りしてみろ。その人気の 高さに、作者はオレたちを活躍させざるをえなくなる。そうすれば、今後の展開において オレたちの死亡率は激減すると言っても、過言ではないんだ!」 「確かに、人気を保てなければ“打ち切り”ですからね」 冷静にシャルが分析する。 人気の高いキャラをむざむざ死なせる事は、看板を自ら捨てる事と同義だ。高い人気を 訴えれば、その後の扱いも良くなり、例え死ぬ運命から逃れられないとしても、寿命は出 来る限り延び、最期は誰もが涙するカッコイイ物になる可能性は高い。 クロロの単なるワガママかと思われた会議も、あながち無意味ではない。 「わかってくれたか?オレの、お前らを想う気持ち」 気持ちは別として、決して無駄でないという結論に、団員たちは了解した。 |
「会議と言っても…何を話し合うんですか?」 サブリーダーとして、団員を代表してシャルが聞く。 「簡単な事だ。今後、どう振舞えば人気が上がるか。各自アイデアを出し合うんだ」 「なるほど」 「とは言っても、アイデアはもう既にオレが考えてるから、その指示に従うだけだがな」 「それ…“会議”って言うんでしょうか?」 「細かい事は気にするな」 さらりと、笑顔で流すクロロ。 「まず、TOP10入りした者からだ。マチ」 「アタシ?」 マチが、少し期待に満ちた瞳でクロロを見る。彼女だって、人気は少ないより多い方が 良いと思っている。 「お前の売りはクールさだ。そして、その中に見え隠れする可愛さ。今後、お前はそのクー ルさを押し出す一方、仲間思いで優しく、頼れる姉御肌としての面を見せろ」 「なるほど…。確かに、団長の言う事も一理あるね。わかった」 心のどこかで、どんなとんでもない指示を出されるのでは、と不安を抱いていただけに、 意外とまともな意見に、マチだけでなくその他の団員も安堵する。 「良し!次、フェイタン」 「ワタシは何すればいいね、団長」 「お前の人気は、そのカタコトの喋りと残忍な所だ。小柄な外見が可愛いという意見もあ る。特にその“拷問マニア”という設定は他のキャラには無い、特筆すべき点だ」 果たしてその理由は、喜んでいい事なのか。少し、フェイタンは複雑になる。 「よって、これからもカタコトで行け。“ッ”の発音は特別な場合を除き厳禁だ。後、残 忍な拷問マニアなのは地だから大丈夫だな。フェイタン、お前はこんな所だ」 「わ…わかたね、団長…」 やはり、喜ぶべき理由ではない気がする。 だがそんな事、クロロが気付くはずも無かった。 「こんな所だ。TOP10入りした者は、特に何もしなくていいレベルだしな」 「そうですね。何も意識せずに、人気を集めた訳ですから」 隣に座るシャルの言葉に、クロロがうなずく。 手元の資料を、めくろうと手を動かす。 「あの…」 そこへ本来、語尾にトランプマーク必須な声がした。 「ボクもTOP10入りしてるんだけど…」 全員の視線が、一挙にヒソカに集中する。 そして全員同時に、 「ヒソカは偽なのでカウントしない」 見事な“鉄の結束”を、披露するのであった。 おまけ(団長&シャル編)。 「ところで、団長は?」 「オレは生まれ持ったモノが違うからな。必要ない」 |
「次、コルトピ」 「は、はい」 コルトピが、小さな身体を一生懸命伸ばす。 「お前の人気は可愛らしさだな。仲間思いの一面も、その言葉遣いも可愛いと一部で大評 判だ。その小柄さもな」 「その“一部”って、誉められてるんですか?」 「もちろん」 キッパリv 「何と言っても、その外見とのギャップだからなー♪」 「やっぱり誉めてないじゃないですか!!」 コルトピは涙声だった。勢い良く立ち上がっても、その身長では着席時と大差ない。 「落ち着け、コルトピ。な、あの人、悪気はねぇから」 「余計悪いよ…」 「よしよし…」 コルトピの頭を撫でながら、なだめるフィンクス。素直に、コルトピが腰を下ろす。 「フィンクス」 「何だ、フェイタン?」 「お前、きといい教師になれるね」 「なってどうしろと…」 小柄な2人に囲まれて、その落ち込みが自分にも伝染しそうになるのをフィンクス必死 で耐えるのだった。 「さて、次はシズク」 「あ、はーい」 相変わらずの無表情で、シズクが手を挙げる。 「私は何をするんですか?」 「特に何も」 「え?」 首をかしげるシズク。クロロは説明する。 「お前の人気は、その天然と毒舌だ。毒舌は天然に含まれると言ってもいいからな。まさ か、天然を心がけろ、とは言えないだろう」 「“天然”じゃなくなっちまうもんなぁ」 腕を組んで机に伏せるフィンクスが、シズクを見ながらツッ込む。とりあえず、両隣か らくる暗い空気から、意識を反らしたかった。 「確かに…」 うなずく一同。 今まで彼女の天然には苦労させられてきたが、それは天然だからこそ笑って許せた事。 もし人気の為と天然を演じられた日には、鉄の掟もぶち壊し、マジ切れする事は確実だ。 団長の意見のまともさに、ちょっと安心する団員たち。 「でも、それだと弱くないですか?」 やはり彼女も人気は高い方が良く、不満そうに尋ねる。 「大丈夫だ。お前には、“眼鏡”という強力アイテムがある。それは、かけているだけで 効力を発揮する、最大の武器だ!!あ、その外ハネ(髪型)にも気を配れよ。なるべく、ハ ネさせろ」 「はーい」 納得し、満足した声で返事するシズク。 (決して満足してはいけない気が…) 誰もが抱いた疑問だが、皆、そっと心に仕舞いこんだ。 「次、シャル」 「あ、はい」 「お前は第2回投票開始時、名前が判明していなかったというハンデがあったからな。第 3回はTOP10入りも予想できるが、油断は出来ない」 「別に油断も何もしてませんけどね」 あくまでシャルは冷静だった。 「とにかく!お前の重要キーワードは“爽やか”だ。サブリーダーとして皆をまとめ、か つ知識豊富で可愛くカッコイイ。難しいかもしれないが、これを自然に現せれば、お前の 人気は安泰だ」 「元々オレは、それを自然にやってるんですけど」 「シャル…」 「はいはい。次は誰ですか?」 クスクスと、子をあやす様にシャルは笑うのだった。 「…次は、ノブナガだ」 「オレ?オレ、は何をすりゃいいんだ?」 「お前の人気は、初登場時の何物にも捕われない飄々とした雰囲気。そして、仲間思いの 一面だ。だがお前の場合、その仲間思いの度が過ぎて“しつこい”という意見も出始めて いる。しかも、スワクラを殺した事で好感度ダウンしている」 「しゃあねぇだろ。アレは、誰かが殺らなきゃなんなかったし。第一、動かなけりゃ…」 「わかっている」 真面目な顔で、さえぎるクロロ。 「だが、その事実についてフォローを出しても無駄だし時間が無い。お前は、先に述べた 飄々とした雰囲気、時に激しい仲間への思い。この2つの微妙なバランスを保て。どちら もやり過ぎると逆効果だ。それだけ困難だが、頼んだぞ」 「ああ!任せろ、団長」 強気に明るい表情で、グ!とノブナガは拳を作る。その返事に、大満足するクロロ。 「その意気だ。これで“スパッツ侍”なんて呼び名も返上出来るな」 「…誰がいつ、そんな風に…?」 ギシ!と鞘をきしませ、ノブナガは涙するのであった。 「そしてフィンクス」 「わかってるよ」 少し面倒そうにフィンクスが返事する。ここまで来ると、クロロが50音順に指示して いるのが、簡単に読める。 「お前は衣装を変えてからの好感度が抜群だ。当分、その熱血体育教師ジャージ姿でいろ」 クロロは己の意見に、自信に満ちた笑顔でにっこりと笑っていた。 「そのオレやパクの命を巡っての熱い所も、熱血さの良いアピールになった。これからも 愉快で熱いお兄さんキャラで売り出せ」 「つまり、このままで良いって事か?」 「だってお前に演技を求めるのは、ヒソカを常識人に変えるのと同じくらい無理だからな」 クロロは相変わらずの笑顔だった。さらりと、問題発言を発したというのに。 (コイツ…!!) この時フィンクスは、本気で悔しかったという。 「さ、次はフランクリンだ」 「ああ…」 少しずつ、antiまともな意見が混じる様になったクロロに、フランクリンが無意識 に身構える。 「お前は、“頼れる保護者”としての顔を売れ。特に、シズクのお守役というポストはも う公式設定も同じだからな」 あえて何も言わないフランクリン。変な事を言えば、自分もまたantiまとも意見を 喰らわされてしまう。 「よって、これからもシャルとは違った意味での、皆のまとめ役に徹しろ。以上」 何とか無事にやり過ごせた。フランクリンは、ほっと胸を撫で下ろす。 その態度に、物足りなさを感じるクロロ。 「返事は!?」 「はっ、はい!!」 とっさのフランクリンの返事。 これだ、とクロロは満足の笑みを浮かべた。 |
「それからパク」 パクへ、向き直るクロロ。 「お前のキーワードは“大人の女性”だ。これは他に類を見ない、貴重なアビリティだ。 お前はその雰囲気を保つ為、日々精進しろ。ナチュラルメイクが基本だぞ」 「はい…。あの、しかし私はもう…」 死んだ身ですが、と続けようとした言葉は、 「わかっている」 クロロの言葉とナルシス的満面笑顔にさえぎられる。 「だが安心しろ。このオレが、最良の案を考え出したからなv」 ニコニコv 「…はぁ」 「いいか?死んだからといって、出番が0になる訳じゃない。そう、回想がある!」 「回想、ですか?」 「そうだ!お前の場合、お前が最期に何を伝えたのか、を回想するシーンが挿入される可 能性が高い。今後オレたちも、お前を思い出すよう心がける。死んだからといって気を抜 くな。いつ出番があるか、わからないからな」 「はい。わかりました」 微笑むパク。そう。実は彼女も、上位にランキングされたいと夢見る一人。 女性陣とっては、“人気=美”という意識が根底にあるらしい。 (女って、恐いな…) そう思わざるを得ない、男性陣(一部除く)であった。 「後、ウボォー」 クロロが、レポート用紙の最後の1ページをめくる。 「何だよ?オレも同じ、回想だろ?」 ウボォーの問いは、至極当然のものだ。 一応、立場としては、パクと同じ位置にいるのだから。 「確かにお前は死後、回想によって出番を得ている。会話中に名が出る事で、常に忘れら れる事がないようにも。だが、回想が2人もいるとややこしいし、いずれ読者も当然の事 と受け止め、新鮮さを失い、逆に人気が陰るかもしれない。そこでウボォー!」 キラリ☆クロロの瞳が怪しく光る。 「生き返れ」 「無理だ!!!!」 ダン!と両手で強く机叩き、立ち上がるウボォー。 この場合、まず先に、ウボォーの一撃に耐えた机を誉めてやりたい。 「無理なものか!!」 クロロも負けじと立ちあがる。 「お前、強化系だろ!心臓を潰され、鎖が外されてから死ぬまでの数秒に、自己治癒力を 限りなく強化し、心臓を再生したものの、肉体調整やあまりの疲労で戻るのが数日遅れま した――――で、いいじゃないか!!」 「無理があり過ぎるだろッ!!逆に反感を買うぞ!!」 「大丈夫だ。“そんなムリムリな展開の末の生還であっても、お前が生きてくれるなら良 い”との回答が、現在2/2だ!!!!」 親指を立て、確信259%にきっぱり言い切るクロロ。 「思いっきり少数意見じゃねぇか」 むしろ、その自信が逆に賞賛に値しそうで、恐い。 「そんな事も出来ないのか!?お前、漢だろ!!!?」 「それ言やぁ、オレが何でもすると思ったら大間違いだ!!!!」 ぎゃいぎゃいぎゃい…。 |