「君のために出来ること」

 某月某日。旅団ホームにて、彼は憂いでいた。
「はぁ…」
 これが何度目で、いつからつき始めたため息か、恐らく本人ですらわからないだろう。
「はぁ…」
 ガレキの段になっている場所に腰をかけ、膝の上にヒジ、ヒジの上に顔を乗せて、彼
は沈んでいた。
 と、そこへ
「どうしたの、ボノレノフ?」
 爽やか笑顔で、所用終わりのシャルが近づくる。
「シャル…」
「何か悩み事?だったら、オレに何でも相談してよ。力になるから」
 明るく優しい口調に、シャルがサブリーダーとなった理由がまた1つわかった様な気
がした。
「ほらほら、言ってみて。オレ、口堅いから信じていいよ」
 目の前に立って、無言を通すボノレノフに言葉を促す。
「…………」
「ね?」
「……無いんだ」
 その優しさに心が和んだのか、一言小さく、ボノレノフは答えた。
「無いって…何が?」
「い、いや、いいんだ。別に」
「言いから最後まで言ってみてよ。水くさいなぁ。無くし物?それとも探し物?どっち
だって見つけてあげるよ。それがオレのお仕事なんだから」
 その爽やかさが、ボノレノフにはとても眩しかった。
「けど…こればっかりは……」
「大丈夫だって。ハンター証もあるし。あ、ボノレノフは身内だし初めてだから、情報
料×1,1割って所でいいよ」
「いや、あの…」
 どうしようか。口にしても良いものか。甘えてみても良いものか。
「で、何が無いの?」
「オレの人気」
「ごめん。オレ、ちょっと急用が」

 素早くその場を離れるシャル。顔を背けつつ。
「じゃあな」
 見送るボノレノフ。
 ピタリ。
 シャルの足が止まる。
「どどどどうして!?こういう場合“待て”ってオレの肩掴んだり、そのベルト使ったり
して、呼び止めるのがお約束なんじゃ!!!?」
 瞬時にボノレノフの両肩を掴みに戻り、シャルが真剣な表情で覗き込む。肩を掴む手
の力は、爪が食い込むのではと感じる程。
「最初から諦めてたからな」
 素っ気無く力無く、ボノレノフは遠い目で返す。
「ボノレノフ…」
 気まずそうに、シャルが手を離す。
「いいんだ、お前が気にする事じゃない。…ごめんな。オレの所為で、お前に嫌な思い
をさせちまって」
 シャルの肩を持ち、立たせてやる。
「あ…」
 何て、悲しげなのか。シャルは言葉を失った。
 本当に、自分は何て酷い行いをしてしまったんだろう。申し訳なさで泣けてくる。
 ボノレノフがいい人間(シャル的に)だと、真面目で努力家で実は熱い心を持ったい
い人間(シャル的に)だと、自分はとても良く理解していたはずなのに。
 心から、シャルは後悔した。
 キッと瞳に決意を固め、顔を上げる。
「ボノレノフ!」
 元いた位置に座り直していた仲間の名を呼び、シャルがその両手を握る。
「オレ、協力する。一緒に、どうやったらボノレノフの人気が上がるのか考えよう!」
「え?だが前に団長が我欲の為に開いた会議中でも、結局答えは出なかったし…」
 捧げモノ『君のために僕がいる』参照。
「大丈夫!あれから本気に冗談抜きでかなりの日数が経ってる。きっと良いアイディア
が浮かぶよ!!」
「しかし…」
 戸惑い、ためらうボノレノフに、シャルは笑いかける。
「へーきへーき。ほら、1本の手足は折れやすくても、2本の手足なら折れにくいって
言うし」
「何か嫌な例えだな…」

 

「う〜ん…」
 腰掛けボノレノフを、ジロジロとシャルが見回す。
 第一に外見のチェックから。
「そうだなぁ、やっぱり、服装かな」
「服装?」
 ボノレノフが、怪訝に言う。
「服装が変わった所で意味がないのは、もう証明済みだろ。それに今更変えても…」
「違う違う。オレが言いたいのは、その服の…正確には全身取り巻いてるベルトの事」
「これ?」
 シャルが頷く。
「オレが思うに、まずその色が良くない」
 ビシィ!と指さして言い切る。
「その暗い小豆的な色がNG。白に、それも純白にした方が良い」
「何でまた?」
「清潔感が伝わらないんだよ」
「え!?」
 驚くボノレノフ。むしろショック。こんな服装だ。汗の問題を含め、様々な問題が発
生しないよう、いつも気を使っていた。それなのに。
「原作版(12巻表紙)はまだしも、特にアニメ版!あんな、廃墟の背景と同化する勢
いの色じゃ、絶対不衛生に映るに決まってる。この超潔癖時代に、それじゃ女性の指示
なんて得られる訳ないよ!!」
 ガァアァァァン!!!!
「た、確かに…どこか薄汚れてすら見える…。おまけに背景同化色な為に余計、目立て
ていないし…」
「ね。だから、そのベルトを白くしようよ。原作ならまだ間に合うよ。アニメと色が違
う事なんて、そう珍しくないし」
 シャルも然り。特にマチに至ってはゲームでさえPS版とWS版で色が異なる。
「だが、既に原作では薄い灰色となってしまったぞ」
「それは問題ない。第2回公式人気投票結果の時、マチの服は薄いピンクだったけど、
12巻表紙では水色と、同じ原作でも異なってたから」
「……よく、覚えてるな」
「まぁ、それがオレの売りなので」
 シャルは苦笑気味に言う。
「だが…」
 それでも、ボノレノフは疑問を唱える。
「白って難しいだろ。オレは近距離型だから、土ぼこりとか返り血とか。この服、着替
えるの時間かかるし、その間に重要なシーンが入ったらなぁ…」
「バカッ!!!!」
「ガフッ!!!!」

 いきなりベルトを締められ、呼吸が詰まるボノレノフ。現在・絞殺1歩前。
「人気って大変なんだよ!!楽して人気は出ないんだよ!!そんなの1%の運と99%の努力
で何とかなるんじゃないの!!!?ねぇッ!!!?」
「わわわかったからッ!!し、死ぬ…ッ!!に、人、気の、前に…オレの命が…ッ!!!!」
 風前の灯火
「ああ、ゴメン。絞めやすかったから、つい」
 気付いて手を離すシャル。その場に膝をつくボノレノフ。
「いやぁ…お花畑が見えたなぁ…」
 もう、彼には笑うしかなかった。

 

「と言う訳で、色々あったけど…服装の改善で良い?」
 申し訳無さそうに、シャルが言う。
 ボノレノフにしてみれば、真剣に詫びる気持ちがあるだけクロロよりずっと良くて、
本音ではそんなに気にされるとありがたい反面、悪い気持ちになる。
 嗚呼。これ程まで自分は“哀れ”に慣れていたのか。
「そうだな。お前が、着替えやすいベルト&着用方を開発するって言ってくれたしな」
「大丈夫だって、絶対イケるよ。返り血って、一部の女子には絶大な人気を誇るスキル
だしさ」
「それもどうかと」
 第一、返り血も時と場合と人物による。
「だけど、これで少しは印象が変わるよ」
「ああ。まずは、そこから始め…、
 ボノレノフの表情が固まる。
「?どうしたの?ボノレノフ」
「今気付いたんだが、服の色が変わったって…どう伝わるんだ?」
「え?」
 その言葉に、シャルも嫌な予感を催す。
「アニメは現在OVAのみ。その中でのオレの活躍いや、出番なんて、皆無に等しい。
かと言って原作に色はない。現状況じゃ巻頭カラーもセンターカラーも難しく、そうなっ
た所で、オレが描かれるはずも無い。この条件で…どうやって?」
 答えを求めて、ボノレノフがシャルを見る。旅団1のブレーンを誇る彼なら、ちゃん
とこの疑問を消してくれると信じて。だが、
「…………」
 シャルは気まずそうに、わずかに目線を下へ向け、無言を続ける。
「シャル?」
「…………」
「シャルナーク?」
「…………」
「シャルナークさん?」
「……、ごめんなさい」
 ようやくシャルから出た言葉は、謝罪だった。
「ごめん!!そうだよね、オレたちにとってはカラーもカラー、フルカラーの世界でも、
相手側にとっては白黒の世界だって事、すっかり忘れてた!!」
 両手で顔を覆い、必死で詫びる。
「オレとした事が、こんな初歩的な事に気付かなかったなんて!!もう、サブリーダー失
格で…頭脳派キャラも失格かもしれない…ッ!!」
「いや!!そこまで思いつめる必要は!!!!」
 何だか泣き声へと変わったシャルに、焦り200%のボノレノフ。
 これでは本当に、どちらが被害者なのかわからない。
「ほ、ほら!!このハンカチで涙拭いて!!」
 ポケットからハンカチを取り出し、シャルに差し出す。丁寧に正方形に折られた、白
く綺麗なハンカチ(クモ刺繍付)を。
「ありがとう、ボノレノフ…」
「こっちこそ、オレの為なんかに…」
 感動ムードが2人の間に漂い始めたその時、
「こらぁあぁあぁぁッッ!!!!」
 ダダダダダダダ!!!!

「え?ええ?」
 突然の大音に困惑する2人。
「貴様か、シャルを泣かせたのはッ!!!?」
「ゲフゥッッッ!!!!」
 突如現れたクロロの“スキルハンター”によって、ぶん殴られるボノレノフ。
「ボ、ボノレノフ!?…って、団長!!!?」
 どちらに駆け寄るべきか、シャルが悩んだその一瞬に、
「貴様〜!!シャルを泣かせるとはどういう了見だ!!!?」
 クロロは倒れたボノレノフの襟首掴んで、ガクガク揺すっていた。
「オレのシャルだぞ!!シャルを泣かせて良いのは、このオレだけなんだからな!!」
 “スキルハンター”構え、クロロは本気の殺気を瞳に浮かべ、全身にまとっていた。
「念魚の餌にするぞ、この土ミイ…ッ」
「何、勝手な事並べてるんですか、貴方は」
 ドス
 シャルのかかと落としが重く決まり、大地に崩れるクロロ。
「何するんだシャル?お前を助けにさっそうと現れた黒馬の王子に対して〜!?」
 蹴られた頭を擦りながら、クロロが不服そうにシャルを見る。
「どこの誰が王子ですか?どこの誰が!?」
「このオレ
 にこにこ
「〜〜〜〜!!」
 頭を抱えるシャル。
「そんなに喜ばなくても
「どこからツッ込むべきか苦悩してるんです!!!!」
 それは、紛れも無く本心からの叫び。
「照れるな、照れるな
「〜〜〜〜!!!!」
 シャルの中で、熱いものが込み上がっててくる。
「さ2人で楽しい事…」
 だらしない笑顔のクロロの眼前に、飛び込む赤と肌色。
「をぉおおぉおぉぉッッ!!!!」
 キラーン
 空へと吸い込まれた黒い塊を、何層にも開いた天井の人型から見上げるシャル。高く
真っ直ぐに、その脚は空を指していた。
「……ふぅ」
 自分でも驚くほど美しく、見事な蹴りだった。
「大丈夫?ボノレノフ?」
 精神的に痛む頭を堪えつつ、シャルは倒れるボノレノフを起こしてやる。
「うぅぅ。酷い目に遭った…」
「ごめんね、あんな人が団長で」
「あははは…」
 シャルの声は、本当に申し訳無さそうだった。

 

 ボノレノフ人気者化計画・その
「次は、誰かとのペアによる相乗効果を考えたいと思います」
「はぁ」
 どこからか持ち出したホワイトボードをスティックで叩きながら説明するシャル。そ
の向かいに、と言うか最初から座っていた場所にボノレノフが腰掛け、講義を受ける。
「例えば、最も顕著な例がスクワラだと言えます。彼は犬、恋人の存在のおかげで人気
を得ました。またオレの場合も、ウボォーとの掛け合いが互いの人気に影響を及ばした
事は否定し難い事実でしょう」
「シャル」
 ボノレノフが手を挙げる。
「はい、ボノレノフ」
「何故、さっきから先生口調?」
「何事にも雰囲気は大切かな、と思って」
 ただのお茶目でした。
「って言うか、それも以前出た案じゃねぇか」
 頂きモノ『がんばれボノレノフ6』参照。
「その通り。前回は某・変態ピエロの娯楽目的が含まれていた所為で失敗したんであっ
て、本来この方法はとても有効なんだよ」
「けど…なぁ」
 1度失敗…と言うか、死にかけた過去があるだけに不安を隠し切れない。
「あッ、気にしなくていいよ!別に人様のネタをパクッた訳では決してないから!!」
「いや、そういう事じゃなくて…って、自覚はあったんだな」
「まぁ…あの、そこら辺をツッ込んで来そうな人物に心当たりがあったもので」
 誰とは言わないまでも、2人の心は同じだった。
「とにかく!動物にせよ死者にせよ、乙女心に訴える関係を持つのは良い事だよ。ここ
は、ボノレノフの“ミステリアス”って部分をフル活用しないとね」
「しかし、どうやって?それに相手はどうするんだ?動物にしても、オレは調教師じゃ
ないから…簡単には行かないと思うぞ」
 もっともな意見を、ボノレノフは口にしていく。
 誰か恋人を作るにしても、少ない出番でも人気を得られなかった自分。外見が…その、
何と言うか…他の仲間に比べ…いや、自分ではそこまで思いたくないが…えっと、確か
に…悪…じゃなく、良くない…のはわかっている。
 いくら外見じゃないと叫んだところで、第一印象は重要だ。
「それに。恋人が出来ればそれでOKな訳でもないだろ」
「そうなんだよね。相手が重要だからなぁ。はっきり言って、今のボノレノフじゃ相乗
効果は難しい」
「うぅ」
 相乗効果とは、互いにある程度の力があってこそ。
「とりあえず、相手はそんなボノレノフの人気を引き上げてくれるだけの、高い人気を
誇る相手が望ましい。それでいて、今回の計画に協力してくれる人物」
「ほうほう」
「あまり贅沢は言えないんだけど、ボノレノフと急に仲良くしても内容的に変じゃなく
て、今後も安定した出番が約束されてると嬉しいよね。この際、性別不問で」
 少年漫画と言えば、友情モノでもある。それに友情が愛情に置き換えられる事などざ
らなのだから。
「そうなると、人気の原因に“外見”が多く含まれてる人物の方がいいって事か」
「そうなるね」
「で、旅団に近しく○○編って枠にも捕われない人物」
「うん。てか旅団員かな。協力を仰ぎやすいし」
 互いに意見を言い合っていく。
「じゃあパクはダメだな」
「シズクやマチもね。あの2人は演技が不安だし。それ以上に協力を仰ぐとなると…一
体何J請求される事か…」
「男でも、オレより身長が高い奴はダメだろ」
「だね。外見も“可愛い”と表される回数の多いのが」
「って事は…」
 ボノレノフは、シャルの言う条件をまとめてみる。
「人気が高く“可愛い”と表される外見で、オレとペアを組んで人気向上の協力を快く
引き受けてくれる、今後の活躍が見込まれる“受”要素を持った旅団員……って」
 ボノレノフの言葉が途切れる。
 その視線が、目の前の爽やか青年に注がれる。
 2人の間に、沈黙という名の奇妙な空気が流れる。
「…………」
「…………」
 見つめ合う2人。同じ結論が、両者の脳裏で固まっていた。
「……オレ?」
 何とも言えない複雑な表情で、自らを指さすシャル。
「ほ、他のアイディアを探そう!!」
 慌ててボノレノフが結論を振り払う。だが、シャルは続けた。
「いや、冷静に考えてもオレしかいないよ。今後の活躍には不安が残ってるのは確かだ
けど、それ以外だと」
「だけど!!そんな事してもし、お前の人気が陰ったりしたら…ッ!!」
「バカだなぁ」
 シャルは、明るく笑う。
「同じ、鉄の結束・旅団の仲間じゃない」
「シャル……」
 嗚呼。何て良い人物なんだろう。
 ボノレノフは感動した。そして尚更、自分の為に迷惑はかけられないと、そう思った。
「やっぱりダメだ!!」
「どうして?オレじゃ役不足?」
「そうじゃない。お前の協力が得られるなんて、こんな幸運はない。人生の逆転サヨナ
ラホームランだって夢じゃない。だが…ッ」
 強い瞳で、
「それでお前の名に傷がつく位なら、人気も出番もない方がずっとマシだ!!!!」
 微塵もためらいを見せず、ボノレノフは言い切った。
「ボノレノフ…」
 今度は、シャルが感動していた。
 この思いやりを破片でも、あの人が持っていたなら。
「ありがとう、ボノレノフ。その気持ちだけで十分だよ。こんなに素晴らしい団員を持
てて、オレもサブリーダー冥利に尽きるよ」
 本当に、シャルは感激していた。
 これが本来“頭”が言うべきセリフであるとツッ込む人物もいない事だし。何よりそ
れだけ“頭”がだらしないのが、最大の問題だろうが。
「―――あ、そうだ!」
「?シャル?」
 満面の笑顔を浮かべるシャル。
「イイ事思いついた。これならオレの名に傷をつけず、ボノレノフの人気だけを上げれ
るかもしれない」
「えぇ!?でもどんな!!!?」
「うん。ちょっと待ってて!!」
 そう言うとシャルは、機嫌良く軽い足取りで、手を振りながら去って行くのだった。
「……え?」
 訳のわからないボノレノフ1人を残して。
 
 待つ事23分。
「お待たせ」
「ああ。何してたんだ、シャ」
 振り向いたボノレノフは
「うわぁああぁあぁぁッッッ!!!!」
 叫んだ。
「な、ななな、な、な!!!?」
 ボノレノフが口をパクパクさせる。その様、金魚もビックリv
「そんなに変な格好かなぁ?…まぁ、まともな格好とは言えないけど…男として」
 わずかに頬の赤いシャルの現在の姿。それは三つ編みロングにナチュラルメイクな、
ショールを羽織った水色ロングスカート。胸パット(E)着用。
 頂きモノ『ちゅう、その後』&捧げモノ『逆さ十字の恋人』参照。
「……何だか、恐ろしく参照の多い小説だが」
「それは言わないお約束だよ」
「成り立つのか、コレ!?」
 :そうまでしないと、ボノメインで書けないから。
(く、くそぅ……)
 ちょっと屈辱チック
「で、でねッ!何でオレが女装したかって事なんだけど!!」
 話を戻そうと努める。
「あ、ああ。何でだ、シャル?」
「この格好の時は“シャルロット”でお願いします」
 ペコリ。
「それも、雰囲気を大事にって事か?」
「いや、オレの恥ずかしさを誤魔化す為」
「そ、そうか…」
 恥ずかしいならしなければ良いのにとは、口が裂けても言えないボノレノフであった。
「じゃあ改めて。何でだ?」
「思ったんだけど、非公式カップリングとは全て読者の想像力の産物な訳」
「なるほど」
 納得するボノレノフ。
「つまり想像力を掻き立てられれば、こっちの勝ち」
「どうやって?」
「カップリングの相手がメインキャラである必要は無いでしょ?例えば回想の人物で、
死者であっても生者であってもOKなんだよ。そこで…」
 クスと笑うと、シャルは1度回って見せる。三つ編みとスカートが、軽く緩やかに揺
れる。その一瞬の光景は、清純な女性そのものだ。
「今のオレの後姿を鮮明に記憶してさ、出番が回って来た時に思い出すの。そうすると
“あの女性は誰!?”って謎が駆け抜け、想像力を刺激する。そこへ更に大切に想ってる
んだ―――的な言動を取れば、一途な想いに乙女心がトキめいてボノ株急上昇
「なるほど!確かに、女性票さえ固めてしまえば……」
 自然とボノレノフに笑みが湧いてしまう。両の拳も握って期待を露にする。
「これなら、少ない出番でも最大アピールが見込めるな!!」
「でしょ?これなら完璧
「そうだな!………あれ?
「どしたの?また何か問題が?」
 今までの冷遇から、つい用心深くなっていたボノレノフが、重く口を開く。
「けどいつかは正面からの姿とか、どういう関係か?とかを明らかにしなきゃいけない
だろ?その場合、どうするんだ?お前と似てるって騒がれたら?それに、皆の前で…そ
の、女装させる訳には……」
「あ」
 流石にこの姿でいると、あの人を調子に乗せてしまう。それは間違いない。
 かと言って、こんな良い手を逃すのも惜しい。
 シャルは悩んだ。高い知能をフル回転させ、最善の答えを弾き出そうとする。そして、
「オレの双子の妹(故人)と言う事で手を打ってはいかがでしょう?」
「そんな急に!!!?」
 それ以前に、初期メンバーでもない自分がどうやって出会ったと言うのか。
「ま、まぁ!ほら!まだ先は長いし、十分考える時間はあるよ!!大体、回想出来る程度
出番だけでも回ってくるか不安なG.I.編の今日この頃だし!!」
 グサッ!!!!
「あっ!ご、ごめん!!悪気はなかったんだよ!!ただ、冷静に事実を…じゃなくてぇ…」
「い、いいんだ…。いいんだ…本当の事だから……」
 ベルトの目元近くが、涙に濡れていた。
「…元気出して」
「!」
 あたたかい手が、ボノレノフの頭を撫でた。
「大丈夫!必ず、出番…ううん、活躍が回ってくる。苦難ってね、それを乗り越えられ
る人だけに降りかかるものなんだって」
「シャル…」
 優しい、穏やかな笑顔。
「だから、ボノレノフは大丈夫」
 慈しみ深い励ましの言葉に、ボノレノフの心が癒えていく。
 感動のシーン再来。その時、
「シャル〜〜〜ッッ!!!!」
 ドドドドドドド!!!!
(まさか!!!?)

 2人の脳裏に、黒い人の姿が過ぎる。
「何故なんだ、シャルーーーッッ!!!?」
 ドゲシッ!!!!
「ぐわぁッ!!!!」

 走る足運びの勢いでボノレノフを蹴り飛ばすクロロ。
「何故!?どうして!!!?一体、何があったんだ!!!?」
 必死の形相で、シャルの両肩を掴みガクガクする。
「オレが…、このオレがどんなに真剣に頼んだって、セーラー服もナース服もメイド服
もウェディングドレスも着てくれなかったくせに、どうしてこんな土ミイラの前で女装
を見せるんだ!!!?」
 それはもう真剣な表情で、涙を流しながらクロロは問う。
「何か弱味でも握られてるんだな!!そうなんだな!!」
「いや、あの」
「何も言わなくてもいい!!」
 シャルの肩を放すと、床に突っ伏しているボノレノフの元へ向かう。もちろん手には
“スキルハンター”。
「オレがこの土ミイラを死滅させて…!!」
「団長
 シャルの甘い声当然クロロは
「何だシャ」
 視界に飛び込んでくる肌色。
「うわぁあぁぁああぁぁッッッ!!!!」
 キラーン
 空へと吸い込まれた黒い塊を、先程と同じ人型から見送るシャル。その右拳は、高ら
かに天へそびえていた。
「……ふぅ」
 自分でも驚くほど力強い、見事なアッパーだった。
「……シャル、この方法はとても、諦めるには本当に惜しい程に有効だが、オレの
もたない……」
 身を切ったが如く涙に濡れた声が響く。シャルは
「そうだね…」
 そう答えるのが精一杯だった。

 

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