「白日恋歌」

 3月12日。午後23時28分。
「なぁ」
 召集した手足に、クロロが背で問う。
 現在、本日のアジトに到着済みなのはフィンクス・フェイタン・フランクリン・シャル
以外の9人。
 クロロのあまりに真剣な声に、皆が固唾を呑む。
 一体、どんな重要事項かと思えば
「今日のオレ、カッコいいか?」
 
ズベシャッ!!
 こける団員
(ヒソ&シズ以外)
「どうした?床に何かあるか?」
「黙れッ!!」
 こけた全員が、一斉に怒鳴った。
「何だ!?さっきまでのシリアスは!!!?」
「そうよ!折角、真面目に始まると思ったのに!!」
 ウボォーとパクの怒りに、全員が頷く。
「何を言う。オレは至極真面目だ。こんな真面目なオレは、自分で言うのも何だが、一
生目にかかれるものじゃないぞ」
「本当に自分で言うのも何だよ」
 全身で呆れるマチ。
「お前ら、明後日が何の日か、わからない訳じゃないだろう」
「もちろんですよ。ホワイトデーです」
 平然と、読書の手を止めシズクが答える。
「そうそう
だからボクも、今回はサボらずに来たんだよマチを食事に誘おうって
「アンタとの食事なんて、死んだってゴメンだ」
 そんなやり取りお構いなしに、シズクが続ける。
「バレンタインのお返しを、給料3ヵ月分でくれる日ですよね」
「あら、それはイイわね

「アンタたち、まだ2日あるからヨロシク頼むよ」
(ちょっと待て、お前ら!!!!)
 これだから女ってヤツは。そのしたたかさに男性陣は心で泣いた。
「給料の3ヶ月分か…。ついこの前、シャルにお小遣い値下げされたからなぁ…」
「値下げられたのか」
「月100万Jまで」
 悲しい瞳のクロロに、また何かしたのかとウボォーが呆れる。
「とにかく本題に戻るが」
 悲しい過去を振り切って、クロロが立ち直ったその時、
「チーッス」
「何だ、お前ら一緒だったのか?」
「まぁな。買い物に付き合わせようとフェイタンと待ち合わせたら、コイツがフランク
リン呼んでて」
 扉を開けたフィンクスの後ろには、その2人の姿があった。
 これで未だ来ていないのはシャルだけとなる。
「遅刻しねぇで感心感心」
 からかって、ウボォーが笑う。
「当たり前ね。その為にフランクリンを呼び出したよ」
「その為だったのか!?」
 初耳の事実に驚くフランクリン。
「感謝しろよ。面倒見てくれてありがとう、ってな」
「うるせぇよ!ノブナガ、お前だって遅刻常習組じゃねぇか!!」
「なら、今度は2人一緒に呼ぶよ」
「…………」
「感謝しろよ、お前ら」
 言葉を失ったノブナガとフランクリンの姿を愉快と、ウボォーは必死で笑いを堪えた。
もちろん、他団員もやれやれと楽しんでいた。
「お前ら、少し黙れ」
 
ぴた。
 明るいムードが、クロロの心底真剣な声に止まる。
「重大な2つの事実を忘れている様だな」
「重大な2つの事実?」
 己の記憶を探りながら、パクが聞いた。
「そうだ」
 その瞳は、自分たちの“頭”に相応しい強さを灯していた。が、
「オレがカッコいいかどうかの答えと、シャルだけがまだ来てない現実だ!!!!」
 
ズベシャッ!!!!
 こける団員
(ヒソ&シズ以外)
「どうした?床がそんなに好きか?」
「黙れッ!!!!」
 こけた全員が、一斉に怒鳴った。
「いや、でも待て!確かに、シャルがまだ来てねぇってのはおかしいぞ」
「そんなにおかしくない」
 
静。
 何故ならウボォーの否定をしたのが、提示したクロロ本人だから。
「あの…どういう事でしょう?」
 フィンクスが、遠い瞳と脱力した声で尋ねる。
「明日13日に仕事と打ち上げするだろ。となると14日の朝に解散して、その後は楽
しいホワイトデーデートが待ってる訳だ。オレとシャルの」
「はぁ」
「すると、シャルはそのデートを意識して照れ、この場に来にくい」
(そんな奴だったか、シャルは?)
「そしてデートの準備で忙しいんだ。服選びとか身だしなみとか。何と言っても、最愛
のオレとの記念日デートだからな」
 自信たっぷりに、だらしなく笑うクロロ。
「それで団長」
 コルトピが手を挙げる。
「シャルから、一体どんなチョコを貰ったんですか?」
 純粋な好奇心から、コルトピが質問する。一瞬、パクとマチの表情が凍る。
「ふっふっふっふ」
 待ってました!!とばかり、どこからかクロロにスポットライトが当たる。何かの写真
が入った額を掲げ、
「愛情比例大きさ方式で、何と!!25×37×20mmの巨大台形チョコだ!!!!」
 
ピシャァアァン!!!!(効果音)
「…………」
 黙りこむ団員。
 写真には『団長』と蜘蛛印の入った巨大チョコ&ラッピング。
「そうか、そうか。オレへのあまりの愛情の大きさに驚いて、声も出ないだろ」
 ご満悦クロロ。周囲を明るい花が舞う。
 そのスポットライト外で、パクとマチの手招きにより団員は一箇所に集まり、ヒソヒ
ソ話をしていた。
「何だよ、話って?」
「アンタたち…シャルからどんなチョコ貰ったか、言ってみな」
「は?」
「良いから言ってみて」
 2人のあまりの神妙さに、わからないながらも男性陣が口を開く。例え1月前の事と
言え4個中の1つ。更には皮肉な事に1番美味しかったのだから、その記憶は鮮明だ。
「ボク、色々な動物のクッキー3種」
 ココア・マーブル・チョコチップ。
「ワタシはミニチョコ詰め合わせだたよ」
「オレはチョコベースのブランデーケーキ。飾りとかスッゲー凝ってて」
「生チョコ使った和菓子」
「ハート型ミルクレープ・チョコパウダーがけ」
「生チョコシュー」
「ハート型ホワイトチョコムース」
「ティラミス

 ちなみに略してコル・フェイ・フィン・ノブ・フラン・ボノ・ウボ・ヒソの順。
「何!?ヒソカも貰えてたの!!!?」
 フィンクスが、男性陣を代表して声に出して驚く。
「そうだよ
手のひら1カップ」
「それはチョコ作った日のデザートの
余りだ」
「え?」
 嬉々とするヒソカに、刃を刺す。
「チョコ作った日、シャルが食事をご馳走してくれて…そのデザートだ」
「材料が余ったってシャル言うから、ヒソカにでもあげればって。だから、皆のみたい
に防腐剤とか冷却剤が入ってなかったでしょ?」
 無表情のまま毒を吐く。
「じゃ、お前ら、シャルと一緒に作ったのか?」
「そうよ。機具も調味料も何でも揃ってるから」
(だからシズクのチョコが食えたのか…)
 しみじみ。自らの身体に異変が起こらなかった怪奇に納得する。シズクに今食えと押
し付けられた時は、死すら覚悟したものだが。
「だがそれと団長と…どう関係があんだよ?」
 ウボォーの言葉に頷きを返し、マチは語り出す。
「そう。あれは1ヶ月半前の事…」

 

 2月初旬・シャル宅。
 女性陣+シャルの4人は広いキッチンとカウンター越しのテーブルをフル活用し、数々
のチョコ作りに精を出していた。
 何と言っても、確実に10個は作らなければならない。
「ったく、見返りがなかったやらないよ、こんな事」
 テーブルに着き、チョコを湯銭で解かしながらマチがぼやく。
「そう?作るのって、結構楽しいと思うけど」
「パクはそうかもしれないけど…」
「私も楽しいよ。料理好きだし、デメちゃんも喜んでくれるし」
 そう言いつつ、シズクは麺棒でナッツを砕いていた。シャルの指示だ。
 もし彼女1人での料理だったら…それこそ旅団壊滅だろう。
(好きならせめて…生物の食べれる物にして欲しいよ…)
 どうして、自分の掃除機は味に関わらず何でも吸い込むと理解してくれないのか。
「それにしても面倒だ。第一、ヒソカにまでやると言うのがわからない。いつもサボっ
てんだから、別にいいじゃないか」
 マチの手作り
とヒソカが付け上がるのが、また気に食わない。
「しょうがないよ。付き合いは大事だよ、この世界。信用第一」
 果物を器用に剥きながら、シャルが笑う。
「オレだって、団長を調子に乗せる様な真似は控えたいけど…上司への気づかいは大切
だからね」
「はいはい。だから、団長のは他のヤツのよりは立派にしろ…だろ」
「よく出来ました
あ、シズク!それ以上叩いたら、ナッツが粉になっちゃう!!」
「粉にするんじゃないの?」
 シズクの声は、シャルの慌てた注意にも起伏なく応じた。
「トッピング用に小さく砕くだけだって、始めに言ったじゃない…5回も」
「どうしてそう天然なのよ、アンタって娘は」
「?」

 

「おい」
「何だ、ウボォー?」
「肝心の箇所が全く見えてこねぇんだが」
 他団員(特に放出系)も、少し苛立って見える。
「でもまだ、3時間分あるんだよ」
「そうよ。その後シャルが食事作ったり、2時間のラッピングを…」
「はしょれよ」
 フィンクスが、明らかに血走った目で要求する。
「つか、チョコ製作中の話だろ?その3時間の間の話じゃねぇのか?」
「そうだよ。ウボォー、冴えてるね」
「誉めるより先に、重要な部分を抜き出してくれ」
「えー。ここからが面白いのに」
「いいから!!そこまでの経緯は全部はしょってくれ!!!!」
 それは本当に、男性陣の心の叫びだった…。

 

 はしょり後。
「…ふぅ」
 シャルが、1つ息をつく。腰に手を当て、首を回す。
「全く、男のアンタがどうしてそこまでこだわるかねぇ」
「だって見返りが良いんだもん。皆、旅団なんてやってると世間離れして、チョコなん
て仲間からしか貰えない。団長はオレにねだるけど、団長だけに作る…って言うのも皆
が可哀相で」
 個々のチョコ材料の余りを整理しながら、シャルは苦笑してみせる。
「良いんだよ、チョコ渡すのは日本だけの風習。他所じゃ男女どちらがプレゼントして
もOKだし。でも本当数少ない獲得チョコだから、お返しは奮発してくれるし」
 機嫌良く、とあるアルミ製のブツをシャルが取り出す。
 その形は、30×40×20mmの台形。

「どこかで…似たのを聞いたな」
「口はさんじゃダメだよ、フランクリン」
「ああ、悪い」

 シャルは、ボゥルに残ったチョコを流し込んでいく。
 そんな様子に、マチはホットチョコを味わいつつ視線をやる。
「まだ作るのか?苦労するね、アンタ」
「しょうがないわ。天性のサブリーダーだから」
 クスクスとパクが瞳を細めて笑う。
「でも、ただの型に量の違うチョコそれぞれを適当に流し込んで…1番どうでもよさそ
う。誰にあげるの?」
「ヒソカに決まってるじゃないか」
 すぐさま断言するマチ。
「ほら、余ったトッピングも全部ぶち込んでるし」
 耳を澄ませるだけでも、その光景がありありと見える。
「んーん。違うよ」
「は?」
 予想外の否定にマチが瞳を丸くした。当のシャルは、まだ完全に固まってもいないチョ
コに、メッセージクリームを施していた。
「そんな作り方もトッピングも適当なチョコ、ヒソカ以外に誰にやるのさ!?」
 マチが席から立ち上がる。
「アイツ以上に嫌な奴、旅団にはいないじゃないか!!」
 どキッパリ。
「ヒソカって、本当に嫌われてるんだね」
 平然と、どこか感心した様にさえシズクが呟く。
「確かにヒソカも相当な問題児だと思うけど…サボりも多くて滅多に会わないから」
 穏やかに語るシャルの瞳は氷よりも尚、冷たかった。
「これは団長用

(えッ!?)

 先程『上司への気づかいは大切だ』と言ってた本人なのに。
「団長…傷つくよ…」
「大丈夫、大丈夫。それで傷つく繊細な心の持ち主なら、とっくに
自害してるって」
(酷い!!!!)

 

「―――と、まぁ…こんなトコだね」
 額を押さえて疲労して、マチが静かに話を終えた。
「あんなに喜んでたチョコの裏に…まさかそんな真実が…」
 巨大な呆れと疲労の訪れた空間で、ノブナガが言葉を紡ぐ。
「けどンなデカい型がよくあったな。アイツ、何でも持ってんのな」
 同じ風にフィンクスが、ため息をついた。
「そうね。私もそう思ったわ。調理器具でもないのに…って」
 パクの声は、遠かった。
「どういう事だ?調理器具だから、チョコを流したんだろ?」
「いいえ。フランクリンたちにも物凄く馴染みのある…いえ、あった物よ。少年期に」
「も?」
「も」
 頷くパク。周囲に益々“?”が飛び交う。
「型じゃなくて…本来はトレーとして扱う物だから…」
「想像してみな」
 促されるままに、男性陣は改めて情報を整理し、頭の中で形にしてみる。

 材質:アルミ
 形:台形
 縦×横×高:30×40×20mm
 本来の用途:トレー
 馴染みある年齢:7〜15歳

「え〜っと」
 次第に、男性陣の顔が青ざめていく。絵が鮮明になろうとするのを恐れる様に。
「もしかしてソレは…お昼ご飯に関係が深くないですか?」
 恐縮して、フィンクスが問う。
「一般的には」
 マチが答える。
「意外と大人に大人気?」
「数年前、特集組まれてた」
「配給的な昼食時に使われる?」
「ああ」
「オレは強く生きていけますか?」
「そんなの知らない」
 返答が霧に、恐怖の鮮明さを与えていく。
「もう、答え出ただろ」
 
ギクゥッ!!!!
「3・2…」
「やっ、止めろ!!せめて心の準備を」
 慌てふためく男性陣。
「ゼロ」
「…………
給食トレー?」
「最終返答?」
「最終返答」

 外れてくれ。頼む、違うと言ってくれ。それだけが男性陣の本音だった。
 長い沈黙が、辺りを包み込む。
「正解」
「嫌ぁあぁああぁッッ!!!!」

 

「マジで!?」
 多少、落ち着きを取り戻した男性陣が、今だ浮かれてしかも踊り始めたクロロ横目に
確認する。
「冗談で言えるか。間違いなく、シャルは給食トレーを型に使った」
「団長、シャルに何したんだ?小遣い値下げられたって言うし」
 うなだれるウボォー。
「間違っの携帯の未読メール消したらしい」
「そりゃ怒られるわ」
 大いに納得してしまう。
「とにかく、あれだけ喜んでるのに真実を知ったら、ショックで益々仕事しなくなるわ。
だから団長が気付かない様に協力して」
「けど…アレで団長、極たま勘が鋭いしなぁ。バレた時怖ェし」
 フィンクスが難色を示す。
「確かに。何か思いついた時、真っ先に犠牲にされる気がする」
 ウボォーの言葉に、特にボノレノフが反応して頷いた。
「でも」
 シズクが、じぃ〜っと男性陣を見つめる。
「私たちの
お小遣いの為でもあるのに」
「どうか協力させて下さい」
 女性陣の前に一斉に土下座する男供の姿が、そこにはあった。

 

 そうこうしている内に、午後23時58分。シャルの姿はまだ、ない。
「おかしい…。このままでは、シャルは遅刻してしまう」
 例の写真を抱いて不安がる。
「なぁ、お前ら、何か聞いてないか?」
「全然」
「嗚呼、シャル…。何を照れてるんだ…」
 ウロウロ。
「まさか!何か緊急事態が起こって、オレに助けを求めてるんじゃ!?」
「落ち着けよ」
 なだめるフランクリン。
「黙れ、005!!!!」
「誰デスカ!!!?」

 お馴染み逆ギレが、フランクリンを襲う。
「お前、知らないだろ!?昔は“フランケンシュタイン”だったが、今は“005のガタ
イをした004”と呼ばれてるんだぞ!!!!」
「関係ねぇだろ!!!!」
「うるさい!!シャルの救いに耳を貸さない卑劣漢!!」
「全部団長の妄想じゃねぇか!!!!」
「止めろ、お前ら!!!!」
 ウボォーが叫び合う2人の間に割って入る。相当の抵抗が見込まれ、他団員も手伝う。
「放せ、お前ら!!“手足”のくせに生意気な!!」
(耐えろ、自分!!!!)
 ムカつくフレーズにも負けず、彼らは事態の沈静化に努める。
「ええい!放せ!!オレはシャルの元へ向かうんだーーーッッ!!!!」
 けれどクロロはシャルへの想いだけに突き動かされ、動きを抑制する団員たちを振り
払おうとダダッ子顔負けにジタバタする。
「いっそ殴ったら良いのに」
 
ぴた。
 一同の動作が止まる。
 彼らの視線は、ただデメちゃんを構えたシズクに注がれている。
「団長、殴りますけど、我慢して下さいね」
「それはあまりにも可哀想だろ!!」
 一瞬にして、団員のクロロへの思いが同情に変わっていた。
「うわぁあぁ、シャルーーーッッ!!!!」
(また始まりやがった!!!!)
 ジタバタ。
「人権侵害だ!!国際アムネスティに訴えられるぞ、お前ら!!!!」
「自分が何者かわかって言ってんのか!!!?」
「やっぱり殴った方が良いよ」
「だから流石にそれは…ッ!!」
 事態がどんどん混乱の極みへと落ち込んでいく中、

 ピルルルルル

 携帯電話の呼び出し音が響き渡った。
「おい、誰のだよ!?」
 この忙しい時に、と不機嫌になるフィンクス。
「アタシじゃない」
「ボクも違うよ◆」
「オレも違う」
「団長のでもないみたいね」
「悪ィ、オレ」
(なッ!!!?)

 怒る仲間を無視し、確認した本人が言葉ほど悪びれずに携帯に出る。
「シャル」
 
ぴく!!
 ダンボになるクロロ耳。
「あのな、お前が来ない所為でこっちは…何?そうなのか?仕方ねぇなぁ」
 誰もが、そのやり取りに耳を傾けていた。
「マジで!?5chじゃねぇの!?2ch!?」
(何の話だ、それは!!!?)
 笑いまで飛び出し始めた和やかな会話に、苛立ちが立ち込める。
「わかった。じゃなー」
 ピッ♪
「フィンクス!!シャルは…シャルは何て!!!?」
 開口一番に、シャルの様子を尋ねるクロロ。その顔は真剣その物だ。
「まさか、オレへの救いを求めてるんじゃ!!!?」
(今の会話のどこに、そんな緊迫した要素が!!!?)
 相変わらず、団員とは1も2もかけ離れた思考回路を持った人だ。良くも悪くも。
「えっとな、シャルは」
 フィンクスが、携帯片手に口を開く。
「ああ!!」
 早く!!と、クロロの瞳が訴える。
「急用出来たから休むって」
「え?」
 クロロだけでなく、全員が耳を疑った。
「そ…それだけ?」
「それだけ。何でもお宝の売却先が決まって、これから詳しい商談交わしに行くって。
相手が複数だから、4日はかかるとさ」
「それならしょうがないね」
「そうだな」
 シズクの発言に全員が納得した。当然、クロロ除く。
「嘘だ!!そんなの…ホワイトデーが終わってしまうじゃないか!!」
「仕方ないわ。シャルは旅団の財務省兼外務省だから」
「だからって仕事の日に!!同じ休むなら、
ボノレノフが休めば良かったんだ!!!!」
(酷い!!!!)
 潔いまでの断言に、ボノレノフは目頭を覆った。
「大体何で、団長であるオレじゃなくフィンクスに連絡するんだ!?」
 火事場のバカ力で団員を振り払い、クロロは自らの携帯を取り出す。
「団長?」
「自分で確認する!!この耳でシャルの声を聞くまで、納得するものか!!」
 物凄い速度で、電話帳から1番上にある『シャル
』を選択する。即座に、
『この電話番号は、現在使われておりません』
 
くぅッ!!!!
 携帯掴み呆然と、何が起こったかも理解できず立ち尽くすクロロに、全員が涙した。
ボノレノフさえ、自ら以上に哀れへと追いやられたクロロの為に泣いた。
「ちょ、ちょっとお前の携帯を貸せッ!!」
 困惑満面のクロロは、フィンクスから携帯を奪い取るとシャルの番号を確認する。
「オレのと一緒だ…」
 ならば何故、自分の携帯ではダメなのか。それともこの携帯からもダメなのか。
(そうに決まっている!!そうだ、シャルはまだ番号変更の連絡をしてないだけだ)
 祈り、確定ボタンを押す。
 トゥルルル…ガチャ♪
『もしもし、フィンクス?』
 嗚呼…―――。
 久々に聞くシャルの声。何て、何て耳に心地良く響くのか。
「もしもし、シャ」
 
ブチィッ!!ツー…ツー…。
「ル…」
 
くぅッ!!!!
 クロロの手が力無く下りる。その姿に、団員はまた涙を流した。
 あまりに背中が哀れだ。
「ど、どういう事だ…?」
 クロロが答えを団員に求めて、首を動かす。
「えっと…」
 告げて良いものか、返答に困る団員。もちろん教えられずとも、クロロにはわかって
いた。だから余計に、トドメを刺してしまいそうで怖かった。が、
「迷惑電話防止機能です」
(!!!?)
 そんな雰囲気をちっとも解さず、毒舌天然少女は答えた。
「指定した番号しか受信しなかったり、逆に指定した番号のみに不使用アナウンスを流
す機能です。でもシャルは1機しか持ってないし、商用にも使ってるから」
 そして無自覚に、
「確実に後者です。団長は、受信拒否指定を受けてる
だけです」
 トドメを刺した。その“だけ”が辛いのに。
「…………」
 硬直したまま、まばたき1つしない。いや、出来なかった。
「あの…ほ、ほら!今電波が届かない所に入っただけだって!!」
「シャルのケータイが、か?」
 気まずい雰囲気。
 シャルの携帯は、いつでもどこでも使用可能。電波の届かない地域を探す方が難しい。
 ウボォーには、次のフォローが見つからなかった。
「メール…」
「え?」
 ぽつり。クロロが呟く。
「メールを送る」
 その表情は、悲痛と祈りと決意とがひしめき合っていた。
「メールなら、シャルは目を通さざるを得ない。メールで呼びかけて、機嫌を直しても
らう。ウボォー、お前の携帯を貸せ」
「オレの?」
「フィンクスの携帯からじゃ、読んでもらえない可能性がある」
「けど…」
「借りるぞ」
 瞬間、クロロはウボォーの携帯をスっていた。
 腐っても幻影旅団長。
「これで良い。後は、シャルが読んでくれるのを待つだけだ。…何日でも」
「団長…」
 感動する。どんなバカやっても、そこまで人を愛せるのは凄い事だ。

 ピルルルルル

 また、携帯が鳴った。今度は
「オレの携帯だ

 パァァと快晴の面持ちでクロロが液晶を覗く。メールが受信されていた。
 何と、シャルの名で。
 ドキドキしながら、期待に震える指で選択する。
「!!!?」
 クロロの表情が凍りつく。そして、石化していく。
「団長!?…団長!!!?」
「どうしたんだよ、団長!!」
「メール、何て!?」
 口々に心配が飛び出す。
「なぁ、お前ら…」
「ん?」
『黙れ、義理以下!!』って…どういう意味だ?」
「!!!?」
 驚愕する一同。ついさっき隠し通そうとした事実が、あっさり露呈してしまった。
「お前ら…シャルからどんなチョコを貰ったんだ…?」
「えッ!?いや、チ○ルチョコ少々…」
「ボク、ティラミ」
“念糸捕縛”
“居合”
“ビッグバンインパクト”
“ダブルマシンガン”
「ひ、酷…がく
 “ヒソカのバカ”と走り書かれた墓を背に、団員がクロロの動向を見守る。
「お前ら」
 
ビク!!
 クロロの瞳は、とても冷たい殺気を放っていた。手には“スキルハンター”。
「正直に答えろ…」
 怖い。正直言って、怖い。
「“手足”を切り落としても良いんだぞ…」
 間違いなく、虚偽は死だ。例え、1対10であっても。
「実は…」
 彼らは、己の命を選択した。

 

「そうか…」
 悲しい事実を、クロロは実に静かに耳に入れた。その身体が、小刻みに震える。
『どうなると思う?』
『泣くんじゃねぇか?』
『意外と笑うかも』
 様々な憶測が飛び交う中、
「ふぅ」
 穏やか120%の、田舎のおじちゃん風表情を浮かべたクロロ。
「まぁ、わかる。確かに誤りとは言え、携帯の未読メール・履歴・電話帳を抹消し、更
に落として壊しかけたら…激怒するよな」
(そこまでやってたのか…)
「今まで悪い団長で…すまなかった。特にボノレノフ。人気ないのをいい事に、色々傷
つけて悪かった」
「いや、そんな事…」
 あるにはあるけど。
「今日をもって」
(え!?)
 嫌な予感。食い扶持がなくなってしまう様な、そんな予感。
「旅団を解散する」
「嫌ぁあぁああぁぁ!!!!」

 予感的中

「解散して、団長どうする気だよ!?」
「古本屋の店長でも」
(ヤバイ、似合う!!)
(本気だ!!)

 遠い瞳で空を見上げるクロロ。
「考え直せよ、団長!!」
 ウボォーが説得する。
「そうだよ!旅団長は、団長の天職だって!!」
 マチも続ける。他団員も、一様に励ます。
「仕事しようぜ!!今日はどんな仕事なんだ!?何でもやる!!」
 フィンクスの言葉に、クロロが反応を見せる。
「本当か…?」
「ああ!!」
「じゃあ……そうだな」
 クロロの答えは決まっていた。
「何を盗るんだ?」
 漆黒の瞳が、旅団長の名にふさわしい輝きを取り戻す。
「シャルの信頼と心」
「え?」
 団員の笑顔が固まる。
「どうした?」
 
ゾクゥッ!!
 彼らの背筋を、嫌な汗が伝う。
 クロロの表情は本気で、鬼気に満ち…本能を怯えさせる。
「返事は?」
 それは、拒絶も逃れも許されない、絶対的な命令。
「返事は!!!?」
「イエス、ボス!!!!」

 こうして、彼らの史上最難仕事が幕を開けたのだった…。

  

 

・後書き
 
また長いです。今までの抑圧の現れ?しかし本当はもっと書く気でした;
でもかなり久々の、シャルの出番がほとんどないSS。『団シャル』ってあるのに;
気がついたら、17Kだったんです;だから諦めました。削りまくっても20Kだったし。
『白日』てのは、もちろんホワイトデーの事。今回の題、語呂が良くて結構好きなんですが。
実際、舞台はホワイトデーじゃないですけど。でも、バレンタイン話書いたら、ホワイトデー話が欲しくて。

 しかしシャル怖いです。メールだと、結構言いにくい事も言えるんですよね。TVで言ってました。
彼は怒らせてはいかんです。他団員の比じゃないです、このHPでは(^^;)
そんなシャルの愛を一心に貫く団長も凄い人ですよ。その為に、団員に逆ギレかまして。
フランクリンやボノが可哀相です。嗚呼、ボノはいつもの事か(涙)
ヒソカは自業自得なんで、かばいません。“発”喰らっても、仕方ないです(笑)
けど時川、「009」をそんなに知らないんですよね(死)
たまにはこんなのも良くないですか?コレは続きます。次回こそシャル出ます。ちゃんと団シャルします!!
果たして、団長はシャルの許しを請う事が出来るんでしょうか?(^^;)

 それでは、長くて重くてごめんなさいでした。