「続・白日恋歌」

 3月17日。ホームの1室でシャルは…
「放せ!!放せーッ!!!!」
 捕まっていた。
 身体を柱に密着させる形で手を鎖で、両足首をベルトで縛られ。
「何で、オレがこんな目に遭わなくちゃいけないのさ!!!?」
「悪ィ、シャル!!」
 フィンクスが太い鎖で、シャルをグルグル巻きつけていく。
「アタシたちの収入の為なんだ!!」
 マチが、更に念糸で拘束していく。
「だからって、仲間を拉致監禁しても良いって言うの!!!?」
「仲間だからよ!!」
 パクが言い切る。
「貴方1人の我慢で、11人の仲間が助かるの!!仲間の為なの!!」
「その中にオレはいないじゃないかーーッ!!!!」
 1本の手足より、11本の手足。
『シャルが団長と仲直りしてくれないと、本当に困るから』
『団長がふさぎ込んで、ホームに引きこもっちゃうからね』
『旅団って、楽だし高収入だし面白ぇしで、解散して欲しくねぇし』
『確かに、悪いのは団長だってわかってんだけどな』
 コル・マチ・ノブ・ウボの順で、小声で頷き合う。
 そう。彼らは旅団解散の危機を回避する為、商談終わりのシャルをホームに拉致し、
縛り付けたのだ。
 全ては、自らの利の為に。
「嗚呼、シャル…」
 久々の再会。あまりの感動に、クロロの声は少し震えていた。
「会いたかった…」
 正面に腰を下ろし、ゆっくりと手を差し出す。
 ドスッ!!!!
「ゴフッ!!!!」

 シャルのベルトでくっ付けられた両足が、見事にクロロの腹にめり込む。そして、
 ドッゴォオォオン!!!!
 床と平行に飛ばされ、ガレキに壁に突っ込んでいった。
 流石、幻影旅団員。
「蹴ったぞ!!」
「押さえつけろ!!」
「床に貼り付けろ!!」
「止めろーーーッ!!!!」
 けれど、ただでさえ腕相撲ランキング10位。拘束された状態で、数人がかりの取
り押さえに敵うはずもなく
「は〜ず〜せ〜!!!!」
 己の自由となるのは、首から上だけとなった。
「下げてやる!!皆のお小遣い下げてやる!!」
 涙声で抗議する。
「下げればいいさ!!食い扶持が無くなるよりよっぽどマシだ!!!!」
 同じく悲痛な声で、フィンクスが叫び返した。

 

「嗚呼、シャル…」
 復活したクロロが、ホコリを掃いながらシャルの前に腰を下ろす。
「愛してる…」
 ゆっくりと手を差し出す。その手が、シャルの頬に触れようとした瞬間、
 ガブッ!!!!
「アダダダダダダッ!!!!」
 真っ赤に腫れたるクロロの手。クッキリと、綺麗な並びの歯型付き。
(噛んだぞ!!!!)
(アイツ、自キャラ捨てやがった!!!!)
(猛獣か、アイツは!!!?)
 あまりの変貌ぶりに驚くウボ・フィン・ノブ。
「ひッ、酷い…」
 腫れた手に息を吹きかけ、涙を浮かべるクロロ。傍らで、コルトピが救急箱持って
消毒と包帯の処置を施していく。
「シャル…アンタ、流石に噛んじゃダメだわ…」
 複雑な表情で、マチがシャルを見る。
「何でさ!?悪いのは団長じゃないか!!」
「それは十分にわかってるんだけれど…」
 わかっているけど、高収入の仕事は大切だ。パクは瞳をそらす。
「わかってないよ!!オレの気持ちなんか、…苦労なんかわかる訳が無い!!!!」
 力に任せ、腹から叫ぶ。
「多少はわかってるさ。携帯の未読メール・履歴・電話帳を消されたんだろ?」
 落ち着いた態度で、フランクリンがなだめようと努める。
「それだけじゃない!」
「ああ。大切な携帯、落とされたんだよな」
 根気強く、なだめようと。
「違うよ!それだけじゃない!!」
 だがシャルから、怒りが引く事は無い。
「未読メールも履歴も電話帳もまだ良い!!N○Tの受信記録を調べたり、データをパソ
コンから落としたりして、修復が効くから!!」
「だったら良いじゃない」
 疑問そうに、シズクが聞く。
「良くない!!」
 思い出す内に、ふつふつと怒りが甦ってくる。
「大切な、オレの能力の命とも言えるネコケータイ!!あの後、壊れてたんだから!!!!」
「何だって!?」
 マチが驚愕する。
「あの、ガンダムの装甲板より丈夫で、隕石落下の衝撃にも耐えられるって言う、携帯
が!!!?」
「いや、そこまで丈夫じゃない」
 いつの間に、そこまで尾びれ背びれが付いたのか。
「第一!!団長は団の金に手を出しかけたんだよ!!!?」
「団の!?」
「てかオレたちの金じゃねぇか!!!!」
 ギク
 固まる団長。冷たい視線が突き刺さる。
「オレの携帯見て口座情報を盗み出すのを失敗して、未読メール・履歴・電話帳を抹消
したんじゃないか!!!!」
 精一杯、自らの正当性を訴える。
「だからオレは悪くない!!チョコ貰えただけでも感謝して、真面目になるか団長辞める
かしてもらいたい位だよ!!この…ッ」
 ギリ…。口唇噛みしめ、氷点下の視線でクロロを睨みつける。怯えるクロロ。
「義理以下!!!!」
 グサァアアァァッ!!!!

「あ…お花畑が見える……がく」
 チーン
「ふんッ、いい気味」
(鬼だ、コイツ!!!!)
 クロロが悪い事は、百も承知なのだが。

 

「シャル〜、宇宙より広い心で接してくれよ〜」
 フィンクスが哀願する。
「何でさ?皆、いつも団長に苦しめられてるくせに!?」
「それでも、旅団以上の仕事は無い」
 断言する。他団員も、真顔で頷く。
「楽だし、面白ぇし、団長とヒソカに目をつぶれば同僚にも恵まれてるし。そして何よ
り高収入
「金だけの問題で?」
「シャル…」
 普段からは想像もつかない真剣な表情をして、シャルの肩に手を乗せる。
「所詮世の中、だ」
 それはもう、真剣に。他団員も先程以上に必死に頷く。
「反論出来まい?」
「く…」
 仲間と言えど金には厳しく。それが、幻影旅団。
「それでも、拉致されて鎖やベルトでグルグル巻きに拘束されて、こんな状況で広い心が
持てる訳ないじゃないか!!!!」
「じゃあ、いつも拘束されっぱなしのボノレノフはどうするんだ!!!?」
「オレのは衣装だ!!!!」
 涙ながら反論するボノレノフ。
「とにかく、甘やかすのは団長にとっても良くない。引きこもるなら引きこもって、ずっ
本と妄想の中で生きれば良いんだ」
(そこまで!!!?)
 ふんッ、と仲間からも顔をそらす。
『どうする?相当、本気で怒ってるぜ?』
 切り出したのはフィンクスだ。
『昔から責任感が強い奴だったからな。頭のくせ、いつまで経っても不真面目な団長が
許せねぇんだろぉな』
 ノブナガも意見する。
『それだけじゃないでしょ。今回は痴話ゲンカも入ってるだけにややこしいのよ』
『そうだね。シャルが携帯を手放すのは、自宅だけだ。団長と2人で過ごしてた時だっ
たんだろう』
『気を許してた隙に…ってのがまた、許せなかったんだな』
『シャルは、恋愛には余計に厳しいね』
 パクとマチに、フランクリン・フェイタンが同意する。
『はぁ…。なら、答えは1つだな』
 ウボォーの言葉の真意を、元祖旅団員は悲壮な面持ちで理解した。
「シャル!」
 ウボォーの真剣な、強い声がした。
「ふん」
 顔を背けたまま、説得されるものかとシャルは心構える。が、
「悪ィ!!」
 耳に飛び込んで来たのは、予想とは違う言葉。
 わずかに動かした視線が捕えたのは、自らに土下座するウボォーの姿だった。
「ちょ、ちょっと、ウボォー!?」
 シャルは驚く。1番、金に興味のない人間のはずなのに、と。
「悪かった!!」
「すまなかった!!」
「悪かたね!!」
「許してくれ!!」
「この通りだ!!」
「ごめんなさい!!」
 一斉に、シャルに向かって頭を下げる元祖旅団員。
「えッ?えッ?」
 訳のわからないシャル。ウボォーの詫びは続く。
「オレたちが、団長をあんな風に育てちまったばっかりに!!!!」
「えぇッ!!!?」
 驚愕。
「なまじか頭が良かったものだから、超放任主義をとってしまって…」
「流星街の気風も手伝って…つい」
「“まだ子供”だと思い続けてはや2X年。もっと早く、危険性に気付くべきだった」
「シャルとマチが、まだ!まともに育ってくれたのに気を取られて…」
「ワタシたちの、監督不行き届きだたね」
「アタシも、もっと気をつけるべきだったんだ」
 以上、パク・ノブ・フランクリン・フィン・フェイ・マチの謝罪でした。
「この通り、どうかオレたちに免じて許してくれ!!全部、オレたちの育児方針が間違っ
てた所為なんだ!!」
「いや、そこまで思いつめるのはどうかと」
 最終的にはクロロ本人の資質だと思うのだが。
「でもわかってくれ!!旅団を解散されたくないんだ!!」
 他団員の気持ちと共に、代表してウボォーは訴える。
「皆…」
 少し、心が動く。
「何より、オレにはもうすぐ生まれる子供が…」
「困難な手術を控えた妻が…」
「この春、私立の高校と大学に入る子供が…」
「トリプル結婚を控えた三つ子が…」
「待て待て、独り身軍団」
 即座に否定される、大金必要偽話。
「それ以前に、いくつだよ…」
 つくならあと少しでも、もっともらしい嘘が出てこないものか。
「うるせぇな!!ここにいる全員が、お前みてぇに座ってるだけで大金が入る奴らだと思っ
たら大間違いだ!!自慢じゃねぇが、犯罪者以外の職業じゃ食ってけねぇんだよ!!!!」
「本当に自慢じゃないよ!!!!」
 逆ギレフィンクスにツッ込み返すシャル。そもそも、犯罪者は職業ですらない。
「第一、それは男実動部隊の話でしょ?それ以外は他にも道が…」
「シズクはどうなる?」
「え?」

 フィンクスが、シズクの肩を押して前に出し、示す。
「コイツはどうなる?この世の中、携帯1つ満足に使えず、1度忘れた事は決して思い
出せず、食べ物に釣られてナンパをOKする様なコイツに、どんな道があると?」
「それは…」
「それは?」
「核廃棄物処理に困っている国と、裏で契約するとか」
「裏の時点で犯罪じゃねぇか」
 絶対に莫大な金が動く…と言うか、動かないとシズクは協力しないので、表は無理な
のでした。
「だ、大丈夫だよ!」
 慌ててシャルがフォローを入れる。
「発展途上地域に行けば、皆、重宝してもらえるって!!」
「発展“途上”じゃ収入は見込めねぇだろ」
「いざとなったら、オリンピック選手にでも!!」
「どの国から出るんだよ!?」
「それはもちろん…」
 スゥ、とシャルが大きく息を吸う。
「エジプトか中国か日本!!!!」
「黙れ!!!!」

 1番、シャルの意に当てはまった3人が、一斉に怒鳴ったのだった。

 

「とにかく!!これは民主的決定だ!!」
 フィンクスが言い放つ。
「人を指さすなんて、人格を疑われるよ」
 不機嫌にシャルが顔を背ける。
「まぁ、人を拉致監禁しちゃうような男に、何を言っても無駄か」
「テメェ、己の過去の行いは気にしてねぇ様だな」
 高ぶる感情を抑えつつ、低く返すフィンクス。
「いいか?お前と団長が仲直りするのは、お前のサブリーダーとしての義務だ」
「何でさ!?どうしてオレ個人の感情に、仕事が絡んでくるのさ!!!?」
「何でもだ!!!!」
「正当な理由も無く、そんな決定…」
「正当な理由ならあるわ」
 シャルの反論を、パクがさえぎる。
「貴方はサブリーダーとして団長を補佐し、また私たちの生活に責任があるの。だって
私たちの収入を握るのはシャル、貴方だから」
「それは…」
 優しく穏やかにパクは微笑み、シャルの前に屈む。
「このまま旅団が解散しても、利となる物は何も無いわ。私たちの生活を守る為に、何
より今後の利の為に、多少の我慢は必要だと思わない?」
「パク…」
 その言葉を噛みしめて、シャルがパクを見つめる。
「何だか物凄く正論に聞こえるけど、それって本来“頭”に言うべき事じゃ…」
「その“頭”が言っても聞かないから、貴方に言ってるんじゃない」
 どキッパリ
「〜〜〜〜ッ」
 うつむき、瞳を強く閉じて震えるシャル。
「苦悩したねぇ◆」
「苦悩したね」
「アンタら何を他人事みたいに…」
「言っても無駄だと思うぞ」
「…確かに」
 頷き合うヒソ&シズに、静かに頭を痛めるウボォーとマチだった。
「と言う訳で、シャル!!」
 強引に、話を進めるフィンクス。
「何が“と言う訳で”かわかんないんだけど」
 わずかに呆然としつつ、シャルが問う。
「“大切な仲間の為には我慢も必要だと決まった”と言う訳でだ」
「いつ決まったの!?」
「お前の拉致監禁を決めた時に。ちなみに、オレたちの過半数以上の賛成をもって」
 それからフィンクスは、明るく笑う。親指を立てて。
「民主的だろ
「どこがッ!!!?」

 力の限り叫ぶ。
 フィンクスはシャルの、床に固定された脚の上に横から座る。その肩をぽんぽんと叩
きつつ、シャルの瞳を見据えると
「大人なんだから、我慢しろよ」
「それを団長に言え!!!!」
 心の底から、涙したい面持ちで。
「言っても無駄。馬の耳に念仏、団長の耳に説教。ほら、今度美味いラーメンおごって
やるから」
「そういう問題!!!?」
 どれほど高級でも、数万Jで終わってしまう。
「お前なぁ、痴話ゲンカで職失いかけてるオレたちの気持ち、考えてみろよ」
「ちっ、痴話ゲンカって…ッ!!」
「痴話ゲンカだろ」
「そっ、そんなレベルじゃ…ッ!!」
 急にシャルが赤面し、滑舌も悪くなる。そのまま、弁明の言葉が見つからず、黙り込
んでしまう。
 この事件は先程彼らが確認しあった如く、クロロがシャルの携帯を、シャル本人に気
付かれずに触れられた状況に起因する。
「痴話ゲンカ、だろ」
 強い確信を込めて、フィンクスが答えを促す。
「うぅ…」
 返せない、シャル。
 その怒りは“サブリーダー”としてからではなく、“個人”としてからだと、シャル
も頭では理解していたのだが。
「じゃ、頼んだぞ」
「え!?」
 フィンクスが立ち上がる。
「大分、頭も冷えたし、オレたちの為って理由もありゃ、仲直りしやすいだろ」
「それは…」
「最低、団長を立ち直らせろ。いいな」
「いや、あの…ッ」
「シャルも承諾したみてぇだし、帰って飲むか」
 戸惑うシャルを背に、勝手に納得した他団員たちが去って行く。
「ちょっと!!鎖解いて行ってよ!!!!」
 ガチャガチャ。
 虚しく、鎖のぶつかり合う音だけが耳に届く。残されたのは、グルグル巻きシャルと
臨死体験中クロロ。
「はぁ…」
 ため息をつく。
 わかっていた。仲直りの必要性は。けれど意地と裏切られた思いとが邪魔をして、怒
りを抑える事が出来なかった。
「はぁ…」
 明らかに確実に、どうしようもなくクロロが悪いだけに。

 

 事件発生日、シャルもクロロもその舞台・シャル宅にいた。更に事件が起こる数分前、
別件の仕事終わりだったシャルは、一緒に入りたがるクロロをスマキにしてシャワーを
浴びていた。
 けれどそこは旅団長。スマキを恐るべき欲望で抜け出し、ほふく前進で浴室へと向かっ
ていた。
 そしていざ!シャルの元へvと、己とシャルをさえぎる扉に手をかける。が、
「こ、これは…ッ!!」
 愛しきシャルの衣服の上に、愛しきシャルの愛用品・ネコケータイが埋もれていた。

 ドキドキ…。

 シャワー音よりもなお、己の動悸が耳に響く。
 お小遣いを100万Jに値下げられて数ヶ月の彼にとって、その携帯が抱える情報は
物凄く、それこそ扉越しにシャワーを浴びるシャルと同等、魅力的に思えた。
(バッ、バカ!!何を考えてるんだ、オレは!!)
 頭を振り、瞬間過ぎった誘惑を振り払う。
(金なんて、金なんていくらでも稼げるじゃないか!!それにシャルにバレてみろ!!今度
こそ離縁状叩きつけられる!!!!)
 しかし、お小遣いを100万Jに値下げられて数ヶ月。
 この現状でなければ、いやせめて150万Jだったなら、間違いなくシャル一直線だっ
たろう。
 嗚呼、金とは何と罪深いものか。
(オレのバカ…ッ!!)
 涙を浮かべながら、クロロは携帯を持ってリビングの食器棚の隅へ駆けた。

 ドキドキドキドキ…。

「シャ、シャルの携帯…。他の男から、誘いのメールとか来てないよな」
 まずメールBOXを確認する。
「って、違う!!早く口座の暗証番号を入手して、元の位置に戻さないと!!」
 市販の携帯には無い機能を巡り、欲しい情報を探す。
「嗚呼、でも!シャルに悪い虫が付いてないか気になる…ッ!!」
 再び指がメールBOXを、それと履歴を開く。
「だが、もう財布の中には3074Jしか残ってないし…ッ!!」
 もう1度、あらゆる機能を巡る。
「けどけど〜ッ!!」
 苦悩その時、
「何してるんですか?」
「シャルの携帯データを盗み見…ッ」
 背後でした穏やかな声に、思わず応じかけたクロロがハッとする。
 物凄く、聞き覚えのある…と言うよりかなり愛しい声。持ち主はもちろん…
「シャ、シャル…?」
 声と裏腹に、過激に凶悪な殺気を突き刺す恋人へ、小刻みに震えながら振り向く。
「何してるんですか?」
 恐怖の対象でしかない笑顔で、シャルが近づいてくる。
「いや、あの!!は、肌がほんのりピンクで色っぽい…じゃなくて!!」
 携帯を、わらにすがる思いで無意識に、より強く握りしめてしまう。
「ふふ
 この微笑みの恐怖に比べたら、死など紙の銃と等価だ。
「団長!!!!」
「ごめんなさいッ!!!!」

 ビクッと身体を震わせ、反射的に立ち上がる。しかしその際、汗で手の内から携帯が
抜け、宙を待った。
「あ!!」
 シャルが気付き、瞳で追いかけるものの、
 ガシャ!!!!
 ちょっと素敵な勢いで、天井に衝突した。
「うわぁあぁ!!」
 悲鳴に似た叫びで携帯を受け止め、シャルがその無事を確認する。
「デッ、データが全部消えてる!!」
 嘆くシャル。クロロの前でなければ、その場に座り込み、泣き出したかもしれない。
「あの、シャル?」
「団長」
 びく。
「貴方と言う人は…」
「あああ、違う!!いや、違わない!!…じゃない!!シャ、シャルナークさ…ッ」
「滅びてしまえ!!!!」
「ぎやぁあぁあぁぁあ!!!!」

 
キラーン
 その回し蹴りは、普段シャルの持てる力の数倍の威力はあったと言う…。

 

「やっぱり、オレに非は無いよなぁ…」
 真相を回想し、余計に落ち込むシャル。
「でも団長が追い詰められてた状況なのを知っていながら、携帯を手放したのは、オレ
の判断ミスだよな。スマキから脱出可能だともわかってて、来たら殴れば良いか…なん
て武力に訴えようとしたオレにも問題は…あっ…た、かな。皆の…事もあるし」
 様々に理由をつけて納得させていく。
「つまり、飴とムチの使い分けが出来てないのか」
 最後の最後には飴を与えて、なのにつけ上がられたら過度にムチを振るう。
「管理者失格。あ〜あ、何でこんな男に惚れたのか」
 ようやく、いつも通りの笑顔を取り戻してシャルは思う。
(団長の態度に任せよう。それを見て、サブリーダーとして許すか、シャルナークとし
て許すか、決めよう)
 倒れるクロロに視線をやり
「団長。団長」
「…………」
 意識を呼び起こそうとするが、反応がない。少し考える。
「団長
「シャル!?」
 愛は、偉大だと思う。
「随分と長い眠りでしたねぇ」
「あ、いや…」
 戸惑うクロロに、大丈夫だとシャルが笑いかける。
「シャル…」
 即座に警戒を消し、シャルの傍に行く。
「ごめんな…その、携帯の修理費とか…必ず賠償するから」
 まるで抱きしめる様な体勢で、けれどそうはせず、クロロは最初に後ろ手の鎖を解い
ていく。
「しおらしい事を。先程までオレを怒らせた理由もわからず、わめいてたくせに」
「意識なくしてた間に…思い出したんだ。シャルが必死でデータを修復してた姿とか、
全部」
「その姿を見てたのなら、その時謝れば良かったのに」
「気まずくて、心から嫌いだと言われるのが怖くて…出来なかったんだ。そこへ、シャ
ルからチョコが届いて…許されたんだと、勝手に舞い上がってしまって…」
「なるほど」
 やはり1番悪いのは、この甘さかもしれない。
「そう言えば眠りは、脳内の情報を整理するんでした。もっと早く、眠ってもらえば良
かった」
「う…」
 クロロが言葉を飲む。クスとシャルは笑い、
「オレと、仲直りしたいですか?」
「え?」
 意外な質問だったに違いなく、クロロの動作が止まった。
 予想通りで、それがシャルにはおかしかった。
「オレと、仲直りしたいですか?」
「それはもちろん!!―――出来るものなら」
 あのバカ加減からは想像もつかない真剣な表情に、シャルはふと、痴話ゲンカと指摘
された事を思い出した。そうかもしれない、と思った。
「なら、条件があります」
「ああ」
 シャルは少し照れくさい気がして、それでも真っ直ぐ、難題を覚悟しているであろう
クロロを見つめた。
 間違いなく、彼に最も甘いのは自分だと心で苦笑し。
「今すぐキスして」
「え!?」
「オレの口唇を奪う事が出来たら、仲直りしてあげましょ。世界で1番の難題だと、思
いません?」
 優しく、一応の詫びも込めて、シャルは微笑む。
「……そうだな…」
 瞬時ためらった後、クロロも口元を緩める。鎖を解く事に集中していた手が、そっと
シャルの頬を包む。
「世界どころか、宇宙含めても1番だと思う」
 その口唇でシャルの額に触れて、
「ごめん……」
 精一杯の愛しさと懺悔を詰め込んだキスを、シャルの口唇に落とした。

 

「ふぅー、すっきりした
 数十分ぶりの自由を、シャルは肩を回し背を伸ばしたりで満喫する。
「でも、本当にすまなかった。必ず、償うよ。…しばらくは、これで許してもらえたな
んて、思い上がらないように自制する」
「別に良いですよ。そんなの、かなり気味が悪いから」
「え!?」
 何気にショック。
「それにほら、オレも大人気ないトコあったし。団長が子供な分、オレはもっとも〜っ
と大人でなくちゃいけなかったのに」
「子供…」
「今までの言動を見れば、そうでしょ?」
「うぅ」
 クロロのコートの土を払ってやりながら、シャルがクスクスと笑う。
「けど大人気なかったとは、本当に思います。あんな簡単に、本気で怒りかけたらサブ
リーダーとしてもダメですよね」
「そう、本気で怒りかけ……た!?」
 ちょっと言葉の奇妙さに、クロロが硬直する。
「今…何て?」
「はい?だから、本気で怒りかけたらサブリーダーとしてもダメだって」
「“かけ”!!!?」
 何をそんなに気に止めるのかと、シャルが首を傾げる。
「そうですよ。怒りかけ。オレ、本気で怒った事なんて…」
 そしてシャルは笑顔で、誰もを恐怖の底へと突き落とす発言を
1度も無いんですから」
 どキッパリと言い切った。
「変な団長
「――――!!」
 その明るく爽やかな笑顔が、何よりの恐怖へとも変わりうると、この時クロロは改め
て実感せざるを得ないのであった…。

END  

 

・後書き
 
続きです。前々作「君のために出来ること」で、『最高に長い&重い』と言ったくせに、
この「白日恋歌」が最も長い物となってしまいました;
“1”もかなり長かったのですが、“続”も平均以上の長さと、かなり長くなってしまいました。
予定では“オマケ”的なものだと思ってたのに…何でそんなに長く…(涙)

 内容としては、後半グダグダで反省です。いや、前半もグダグダですが;
ちょっとシャルの言葉遣いを他SSより“男”にしてみた部分が有ったり無かったり(←どっちや!?)
大金必要偽話は、誰がどれを言ってるかはお任せします。全部、本当に金が要るシチュかと。
それと最近の傾向として、意味なくボノをいぢめるのが好きです(笑)
 最後が急にラブラブなのは、風邪で沸騰した脳で考えた展開だからです。
仲直りさせるので確定でしたけど、まさかあそこまでラブラブになるとは…;
ラストの「怒りかけ」に繋がる程度の修復で良かったのに…。本当にウチのシャルは団長に甘い…。
結局は、何度も公言してる「シャルは団長に惚れてる」が根底にあるみたいです。
 ちなみに本気でシャルが怒ったSSは、約1年前にネタだけ完成して、今だ出来てません;(死)
それ思い出したから、今回シャルに本気で怒って頂く訳にはいかなかったのです。

 ほんのりでも「まぁ、面白かったんちゃうん」て思って頂けたら光栄です
vv(逃)