「Kiss you」

「若、もうすぐ誕生日だよね」
「そうだったか?」
「そうだよ」
部活終わりの帰り道。とっくに陽の落ちてしまった中を二人で歩く。
「何が欲しい?」
「……別に」
笑顔の長太郎に、つれなく返す。
「別にって訳にもいかないでしょ。やっぱ若が欲しい物をあげたいし…」
値段にも寄るけどね、と苦笑を付け加える。
「て事で、何?」
「テニスの実力」
「それは……流石に俺には特訓に付き合う位しか……」
「冗談だ」
とは言いつつも、若の顔は全くのポーカーフェイス。
長太郎はふぅと一つ息をついて、表情を元の笑顔に戻す。
「ねぇ、若ぁ」
「…………」
チラと、若は長太郎に瞳をやると、
「ソレが欲しい」
「え?」
手を肩程に上げて、長太郎を指差した。
「嫌だな、若
今更言われなくても、俺はもうとっくに心ごと若の」
「誰がお前を欲しいと言った」
キッパリ。即行で切り捨てる。
そこまではっきり言い切る事ないのに……と、内心ちょっと落ち込む長太郎。
「ソレだ、ソレ」
「ああ、コレか」
手にクロスモチーフをすくい、長太郎が納得する。
「正確には…違うけどな」
「?」
「ソレと同じ十字架が付いていれば、何でも良い。ブレスレットでも、キーホルダーでも」
言う若のポーカーフェイスは、どこかぎこちない。
「…………」
「どうした、長太郎?」
「…いや。うん、わかった。クロスモチーフ付きの物、だね」
「ああ」
返事を受けて、長太郎がクスと笑う。
「でも恋人の誕生日にキーホルダーなんてあげないよ。
 別にコレ、純銀製だとか限定品って訳でもないし、ね

「う゛」
やっぱりまだ、長太郎の笑顔に弱い若なのだった。

−−−−−−

12月4日―誕生前日―。
「若、若

「……何だ?」
ジャージから制服へと着替えながら、若が顔を向ける。
既に日の落ちた遅い刻限。室内には二人しかいない。
「明日の予定をお知らせしようと思いまして」
にこにこ。長太郎がご機嫌に笑う。
「明日?」
「バースデーデートするって言ったじゃない

「ああ」
「明日は六時に迎えに行くよ」
「……一度、帰宅するのか?」
部活後にそのまま出かければ良いだろと、長太郎の言葉に首を傾げる。
「でも荷物置いた方が楽でしょ。それに私服に着替えた方が暖かくて良いよ」
「わかった」
「あと、明日は俺の家にお泊りだしね

「っ…!」
「本当は今日もお泊まりで、抱き合って日付越えってのも理想なんだけど…流石にね」
「あ、当たり前だ!バカ!」
こういったやり取りには慣れてるだろうに、
未だ免疫無く赤面してくれる若に微笑ましさいっぱいの長太郎。
「うん。それは来年以降のお楽しみにしとくよ」
「うるさい!」
「とにかく、明日の宿泊用の荷物は今日受け取りに行くよ。若を送るついでに」
「送られずとも、後で届けに行く。または明日、俺がお前の下へ行けば良いんだ」
「ダーメ
若の誕生日なんだから
「……わかった」
ふん、と真っ赤な顔を逸らし、若が止めていた着替えを続行する。
「それに若の身を危険な夜道から守るのは俺の役目だもん

「俺がテニス以外に何を習ってきたと思ってるんだ」
呆れつつ、そう言えば一緒に帰るのはあの日以来だな、と若はブレザーに腕を通した。

−−−−−−

12月5日―誕生当日―。
午後5時55分。自宅玄関前で、既に頬を紅潮させて若は待っていた。
「若!」
「長太郎…」
笑顔で、長太郎が駆け寄ってくる。
「ごめん、待った?」
「ああ、十分程…って、べ、別にお前が謝る必要はないだろ。
俺がただ…約束より、早すぎただけだ」
「だろうと思って早く出たんだけどね、実は。俺もまだまだだなぁ」
寒かったでしょ、ともう一度が謝る。優しい微笑みと共に。
「!……」
内心、まだまだなのは、その微笑だけで体温が上昇してしまう自分だと、ため息をつく。
もちろん口が裂けてもこんな事は言えないが、思ってしまうだけでも少し自分が気に入らない若。
「?どうかした?やっぱり寒い?」
「いや…、!長太郎…いつもの十字架のヤツは…どうした?」
常時、そしてつい先程帰り道の途中で分かれるまで彼の胸元で揺れていたペンダントが、今は見えなかった。
長太郎は、ああと普段の笑顔を浮かべた。
「ほら、このニット、厚手のタートルネックでしょ?流石に外に出すのは格好悪くて。
内側にはちゃんとしてるけど……見る?」
襟元をぐいと引いて、内にあると言うソレを指差す。
「だ、誰が見るか。それより、そんな事をして身体を冷やしたらどうする?早く手を放せ」
「は〜い」
「まったく……」

−−−−−−

「時に若」
夜のモール街を歩きながら、長太郎が切り出す。
「何だ?」
「この後、どうする?そろそろディナーとか?」
「お前に任せる。好きにしろ」
若は至って簡素に答える。
「若の誕生日なんだから、若の好きにして良いんだよ?」
「そうは言われても…」
「なら」
「!?」
長太郎がそっと指を絡め、若の手を握った。
「俺、勝手にこんな事しちゃうけど、良いの?」
クスと口元だけで笑いかけ、冷えた手に熱を送る。
「長太郎…!」
「ほら、俺の好きにしたらこうなっちゃうんだから。我儘言って

「……放せ、恥ずかしい……」
赤い顔で、搾り出されたように音となる小さな声。
「はい。……ちょっと、名残惜しいけど」
「っ………」
複雑な面持ちで、若は拗ねたように瞳を逸らす。
「何でも言ってよ。若の我儘、出来るだけ叶えたいんだから」
「…………」
「若?」
明るい笑顔で、赤い顔を覗き込む。
「お前の、好きにしろ」
「え…?」
「それじゃ、ダメなのか?」
「!」

可愛い。
紅潮した顔。少しうつむき加減だった為にサラサラの前髪から覗く、わずかに不安たたえた澄んだ瞳。
望み続けて、漸く腕に抱けた確かな存在。
共にいるだけで、『永遠』なんてモノさえ信じたくなるような。

「長太郎…?」
「あ、…ゴメン」
「?」
不思議そうに、長太郎を見る。
「ダメじゃないよ。ただ…一番責任重大な我儘だなぁと思って」
「どういう意」
紡ぐ口唇を、指で押さえて。
「じゃあまず、ディナーと行きましょうか」
「……俺の、選択ミスだったかもしれない……」
「あはは。もう変更きかないもんね」
「あ…っ、こら!」
若の手を引いて満面に笑いかけ、長太郎はクリスマス用にライトアップされた路を駆け抜けた。

−−−−−−

澄み切った、深まる夜空。
波音を遠くで聞いて、他の人影とは離れた場所に二人はいた。
「若、大丈夫?寒くない?」
「ああ。問題ない」
歩きつつ、より静寂へと向かう。
「ねぇ、若」
ふと、長太郎が足を止めた。
「どうした?」
若の足も止まる。振り向いて、多少の間を挟み、二人が向かい合う。
「これを、どうぞ」
「あ…」
長太郎の手には、小さな包みがあった。
数歩、その微笑に導かれるかの如く、若が歩む。
「おめでとう、若」
「…………」
両手で差し出されたそれを、両手で包み込むように受け取る。
「開けても…良いのか?」
「もちろん」
「そうか……」
まるで幻でも手にした表情で、存在を確かめながらゆっくりとリボンを解いていく。
もしかしたらそれは、はやる気持ちの裏返しなのかもしれない。
包みを取り、現れた小さな箱を開ける。
「――――!」
若の瞳が、大きく開く。
箱の中には、彼が望んだ通りのクロスモチーフが違わずあった。
心の底で、望んだ通りの物が。
「こ、れは……」
驚きに支配されたまま、実物を手ですくう。

知っている。見間違うはずが無い。
綺麗に磨かれ、新品同様に輝きを放ってはいるが、これは…

常に恋人の胸元で揺れていた、その物。

「長太郎、お前……」
「欲しいって言ったでしょ」
目の前の恋人は、普段と何ら変わらない…優しく穏やかな微笑みを浮かべるだけ。
「俺は……お前と『同じ』で良かったんだ……」
「そう、同じ物。俺とお揃い」
「これは……お前の、だろ」
震える声で、若は長太郎を見据える。
微笑みをたたえたまま、長太郎は首を横に振った。
「違うよ」
「嘘だ。これは、新しく買われた物じゃ…」
「本当だよ。お揃いなだけ」
遮り、長太郎は微笑みを冗談めかした笑いに変える。
「実は…さ、発売されて随分と経った物だから何処にも売ってなくて。
リサイクルショップで買ってきちゃったんだよね。それで」
「嘘だ…。なら、お前のは何処にある?」
「言ったでしょ。ここにちゃんとある、って」
「…!」
襟元を引いて、ニット内からクロスモチーフのペンダントを取り出して見せる。
「長太郎……」
わかる。それこそが新たに買われ、『その物』の様に細工された別物だと。
ずっと見てきたのだから、わかれないはずがなかった。

求めたのは代替品。ペンダントの、ではなく、彼の。
彼を感じられる物なら、別に十字架でなくても良かった。
変わらないと思っていた自分の世界にいつしか彼が入り込んで、その笑顔で根をおろした。
自分の中を認めたくない想いばかりが占めていって、叶わぬと知りながら、

例えば彼に、ずっと傍にいて欲しいと願った。

「……返す」
手の中で光を受けるそれを複雑な視線で送り、腕を長太郎へと伸ばす。
「これは、お前の大切な物だ」
「…………」
「いつも肌身離さず、身に着けていただろう」
伏せ目がちに、長太郎の表情を見ぬように、返す意思が揺らがぬように。
「!」
そ…っと長太郎の手が触れて、若の身が強張る。が、
「……?」
長太郎の手は、若にそれをしかと握らせた。
握る手を両手で包み、心地良い温もりを伝えてくる。
「仮にこれが、本当に俺のだったとしても」
その声色に、漸く若は長太郎を見た。
見えたのは体温や声色と同じく、穏やかであたたかい、、、優しい微笑み。

「俺にとって、若より大切な存在なんて無いから」
「――――」

互いの瞳に映るのは、ただ互いの姿。

「バカだ…お前は……」
若はわずかにうつむいて、空いた片手を両の瞳にやった。だが静かに顔を上げ、
「ありが…とう……」
「!」
その顔は赤く、だが確かに―――笑っていた。
「若……」
「ッ……」
慣れない言葉だったのか、すぐに気恥ずかしそうに顔を背けてしまったけれど。
「若」
「ぁ…」
長太郎が若の両肩を抱き寄せる。同時に、頬に口づけて。
そのまま手を背に回し、しかと抱き寄せる。
「誕生日、おめでとう」
耳元で、そっと囁く。
「…………」
無言のままゆっくりと、躊躇いがちに若は手を上げていく。
そしてその手が、長太郎の肩へと触れた。
ぎゅ…と、長太郎の衣服が握られる。
再び見つめ合い、キスへの流れは極自然。
口唇から、触れ合う全てから互いの熱が一つに溶け合っていく。

―――『ありがとう』を言いたいのは、こちらの方だと思った。

「来年も、再来年も、そのまた先も…こうして誕生日を祝えると良いね」
「……お前次第だ」

−−−−−−

12月6日―誕生後日―。
「まったく…今朝はお前の所為で遅刻する所だった」
「だって若が余りにも可愛かったもんだから、燃えちゃって

「その話はするな!」
午前授業であった事も手伝って一層静かな裏庭を、二人並んで歩く。
「あ」
その最中、長太郎がとある事に気付く。
「そう言えば若、ペンダントはいつしてくれるの?まだ着けてないよね?」
「ああ」
「何で何で?」
「…………」
追求に、若は不満そうに返す。
「同じ物を着けていると、周囲に気付かれたらどうする?」
「別に構わないけど?」
「構う!」
即座に強く、長太郎は言い返される。
「でもそれって何だか寂しいなぁ…。折角、若とお揃い
だと思ったのに」
「…身に……着けては、いる…」
「え」
若の顔は真っ赤に染まっており、照れているのは明らかだった。
「…………ほら」
長太郎から瞳を逸らしつつ、若が自身のジャージ袖をまくる。
―――と、手首に見慣れた物が巻き着けられていた。
「若……」
「次のデートの時は、正しく着けてやる……」
そう言うと袖を戻し、また隠してしまう。そんな若に長太郎は、
「若、可愛い!」
「バ、バカ!校内で抱きつくな!」
周囲に誰もいなかった事が若には幸いだったのだが、それは行為の延長も意味していて。
「長太郎、早く…!」
「若、部活終わりね!部活終わったらデート!」
「は?」
満面笑顔で力強く抱き締めながら、長太郎が催促する。
「約束してくれるまで放さない!」
「ひ、卑怯だぞ!」
「若が可愛すぎるのが悪いんだよ

「可愛くない!」
「あはは!もう、すっごく可愛い〜
vv
「うるさい、黙れ!」

部活終了後、にこにこな長太郎と赤面した若の姿があった事は、言うまでもない。

Happy Birthday


・後書き(12月3日著)
 …何て言うか、『時川は深夜に裏SS以外を書いたらあかん』と言うSSです(爆)
完徹後の朝10時に書き上げましたからね、これ。つか何時間寝てないんだ、俺;
 最初はここまで若にフィルターかける気無かったのに…というのが、読み終わっての感想です。
でもこのネタのおかげで、ずっと使いたかった背景使えたんで、良しとします(待て)…スミマセン;
 題名はEXILEの曲から。歌詞が鳳若でしか在り得ないととの、独断と偏見で(逝け)
「キミに会うために生きてきた…なんて 少し大げさな言葉でさえも」とか、
「ぼくがそこにずっといると 信じていて」とか。曲も良いですし♪くそう、チョタに歌わせたい(笑)

 内容。どんなデートだったかは皆様のご想像にお任せします。
何て言うか、今回は全てあの結末にもってく事しか考えてませんでした。おかげで何気にラブいです;
「十字架が〜」って言われた日からチョタが一緒に帰らなかったのは、同じペンダント探し回ってたからですし、
最後の若の「お前次第」ってのも若はずっとそのつもりだって事ですし。こんな鳳若が大好きだ(え)
 一応ペンダントは、チョタにとって思い入れの深い品だった、という設定で。お気に入りでも可。
それと「6日は金曜日なのに午前授業?」と思われたかもしれませんが、期末処理日でお願いします。
 とりあえず、まだ言っておきたい言い訳がありつつも、この辺で(そろそろ痛い;)

若、誕生日おめでとう
vvチョタといつまでも幸せでいて下さいvv(笑)