いつもいつも一緒にいたい。
ダメな事は分かってるけど、無理な事も分かってるけど、

それでも君が好きだから。

   
「Always」

「若ー」
名を呼びながら、小走りに駆け寄る。
「長太郎」
彼が名を呼んでくれるだけで、心はどうしようもない程に跳ねる。

日吉 若。
俺の、俺だけの、、、大切な人。

校内の廊下で、俺は小さく頭を下げる。
「ごめん、待った?」
「いや、平気だ」
若はほとんど表情を変えず、端的に返した。
「なら、良かった」

俺たちは現在恋人同士。
一月ほど前に俺から告白して、若が頷いてくれたから。

「あのさ、今日俺、掃除当番なんだ。だから…図書室で待っててくれない?」
「そうなのか?」
「うん。俺の前の奴が欠席でさー、繰り上げ当選」
冗談めかして、苦笑する。
「だから……ごめん」
「そうか」
「うん」
ついてない。明日は休日だから、本当ならこのまま若と夜デート直行なのに……。
「じゃあ、後で。終わったら図書室行くから」
去りがたい。けど行かなきゃ。早く終わらせないと、いつまでもデート出来ない。
あーあ、何でこんなついてないんだろう。
そう思っていたら――多分、感情が顔に出てたんだろうけど――若が、
「!」
俺の制服の裾を掴んで、引っ張ってきた。
確かに廊下にはほとんど生徒がいないけど……それでも、人前なのに。
「わ…か?」
凄い…。若の顔、耳まで真っ赤だ。
さっき立ち去ろうとするまでは、普段のポーカーフェイスだったのに。
若にそんな顔させてるのって、もしかしなくても俺、だよね?
「どう…したの?」
ちょっとドギマギしながら、若と向き合って尋ねる。
「俺も…手伝ってやる」
「え?」
「特に図書室で読みたい本も無いからな。それに俺が手伝った方が早く終わる。だからだ。
別に他意はないからな。俺はただ、その方が効率が良いと判断しただけだ……」
ふい、と若は顔を反らせた。
――可愛い。
ねぇ。それって、俺とのデートを少なからず楽しみにしてくれてたから……って思って良いの?
もしそうなら…そうだとしたなら俺……

自惚れちゃうよ。

「有難う、若」
俺は満面に笑って、そう返す。
「別に感謝される事じゃない」
そう気まずそうに告げた若は、やっぱり可愛かった。

教室内は夕陽に照らされ、いるのは俺と若の二人きり。
流石、金曜日の放課後……ですか?

若がホウキで床を掃く音を背に、俺は黒板の水拭き中。
「今日さ、若と遊ぶって言ったら親がカード貸してれたんだー。若、何食べたい?」
「和食」
さらり、若が実に若らしい答えをくれた。
「いや、あの…もっとムード重視でフランス料理とか……」
「お前が聞いたんだろう?」
「そうだけどー…」
「なら、お前に任せる」
そうやってこの後についての会話を交わす内にも、少しずつ綺麗になっていく教室。
本来ならもっと高速で、結構見えない手抜きやっちゃったりするんだけど、若が一緒だとそんな気も起きてこない。
(まぁ、若の前で手抜きなんてしたら怒られるもんなぁ…)
以前、俺の部屋の掃除の時も凄く怒られて、結局若が8割方やってくれた。
「若ぁ」
「何だ?」
顔だけで振り向き、若の顔をじっと見る。
「ホントにアリガトね。俺、若と一緒だと掃除でもこんなに楽しい」
「ふん……」
若は顔を赤くして――夕陽の所為かもしれないけど、俺はそう思った――わざとらしく俺に背を向けた。
きっと、照れた顔を見せたくなかったんじゃないかな。
若は一見、素直じゃないから。
(ふふ。若ってば、表情が素直だから良いんだよねv)
若に聞こえたならそれこそ怒鳴られ、最悪帰られるかもしれない思考をそこで打ち切り、俺は黒板拭きを再開した。

十数分後、漸く教室の掃除は終わった。
「おー…綺麗になるもんだねー」
全く手を抜かれる事なく清掃された教室は、一気に数年蘇った感じ。
「皆きっと驚くよ。俺、この教室なら転げまわったって平気」
「実際したら、即行でシャワー室に連れて行くけどな」
俺を背に、若は机の上に置いた荷物を取ろうとしていた。

――その仕種一つ一つが、俺を惹きつける。

窓から吹く風が若の髪を揺らし、夕陽が赤く若を染めている。
不意に後姿に引き寄せられて、俺は気付かれないよう背後へ近づく。
「若」
「何、っ!?」
抱きしめた感触から、若が体を一気に緊張させたのが分かる。
俺は背中から抱きしめていた腕を解くと、若の体を反転させて向かい合う。
もちろん、若の肩は抱いている。
「ちょ、長太郎…!こ、こんな所でいきなりお前…!!」
若は顔を紅潮させ、驚き一色に染めていた。
「いーじゃない、別に。誰もいないし、見てないし」
「そ、それはそうだが……。だが……」
納得いかない…なんて顔をして、若は気まずそうに視線を落とす。
(ああ、若可愛いなぁ。そんな顔されると、余計可愛い)
若さえ許可してくれるなら、全世界に若の可愛さを訴えて、この人が俺の恋人だ!って自慢したい。
「ねぇ、若」
「…何だ…?」
「キス…しても良い?」
「へっ!?」
とは尋ねても、俺は若の答えを聞く前に顔を近づけて…
「だ、ダメだ!!!!」
「うぎゅ」
…近づけていった俺の顔は、若の拒む手によって押し退けられて歪んだ。
「ま、まったく何を考えているんだ、お前は!尋ねたら答えを待つのが礼儀だろう!」
「なら、『良い』って言ってくれた?」
「言う訳ないだろう」
はっきりと切り捨てられる。
そりゃ、確かにそういう性格だとは熟知してますけどー。
「良いじゃない、別に。俺たち恋人同士だし」
「恋人なら相手の同意なくキ……、その、しても良いのか!?」
若の顔はずっと赤い。まるで体中の血と体温が全て顔に集まったみたいに。
もう少し突付いたら、若の心臓の音も聞こえてくるかもしれない。
「えーでもしたいよー、キス」
「ダメだダメだ!」
「けど…付き合ってもう一月なのに、キスもまだなんて…」
「まだ一月だ!!」
「俺、欲求不満の塊になっちゃうよぅ」
「なるな!!!!」
いや、『なるな』と言われてならずに済むものじゃないと思うんだけどー…。
流石、純粋培養。
俺はやれやれと、一つため息。
「了解」
そのままギュッと抱き締める。
若の髪に触れ、そのサラサラとした感触を楽しみながら撫でてみたり。
「本当に……了解したんだろう、な……?」
「うん。俺、若の事本気だし、凄く大切だし、ずっと若と仲良く一緒にいたいから……若の心の準備が出来るまで待ってる」
「……」
本当は強引にでも奪ってしまいたい心持ちなんだけど、若を傷つける方が嫌だしね。
「本当、ゴメン」
耳元で囁いて、俺は若を放した。
「じゃ、行こう。今日は行きたい所が沢山あるんだよ」
思いっきりの笑顔を投げかけて、若の手を取る。
そのまま、せめて教室の扉までとささやかに思っていたら――――
「ま、待て!」
「!」
強く手を引かれ返され、俺の足が止められた。
「ほ、本当だな?」
「へ?あ……うん。一週間前から徹夜でデートコースを…」
「そうじゃない!その前だ!」
「その前……」
あ。若の手…震えてる……。
「その、本当に…信じても良いんだな。本当に、本気で思っているんだな…ずっと……俺の傍にいる、というのは……」
声さえも震えていて、若が余程勇気を振り絞っているのが分かる。
俺は若の両手を、若を落ち着かせるように握った。

「もちろん」

たった一言、まずは短く。
「生半可な気持ちで若を好きにはならないよ。若を好きになる為に生まれてきた…って断言できる程、若が大好き」
「――――!」
目の前の若は、まるで豆鉄砲が鳩…じゃなくて、鳩が豆鉄砲喰らったみたいに驚き真っ只中。
言った俺も、相当恥ずかしいな…これは。
ああ、何だか俺まで緊張してきた。頭真っ白になりそう。
「えっと恥ずかしい事言って悪いなーとは、その、俺にも自覚はちゃんと…」
「長太郎」
「は、はい!」
「…なら、良いぞ。その……だから、しろ」
「へ?」
今、、、何て?
「責任が持てるなら、その覚悟があるならキスをしても良いと言ってるんだ!!!!」
「えぇッ!?」
心臓が、口から飛び出しそうとはこの事です。
「本当…に?本当に、若……」
コクン。
若は無言で、俺を見据えたまま頷いた。
『責任』に『覚悟』、か。
そんなの、もうとっくに若に捧げてるよ。

「じゃあキス、しよう」

包み込む様に若の両頬に手を添える。
刹那、若がビクと震えた。
微笑ましいなと思いつつ、俺はそっと顔を近づけ…
「あの」
「何だ?」
数センチの所で、一旦停止。
「瞳…瞑ってくれると嬉しいんだけど」
「あ、ああ……すまない」
若が瞳を瞑ったのを見て、改めて距離を近づけ始める。
近づけながら、俺も瞼を下ろしていって。

ほんの数センチ。この僅かな距離が、物凄く永く思える。
まるで永遠に届かない距離を、進んでいっている様な気さえ、起こる程。

――愛してるよ

届いたかどうかも分からない囁きを込めて、、、

『ちゅ……』

俺たちは夕陽と風を受けながら、初めてのキスを交わした。

「ねぇ」
「…………」
「予定狂っちゃったしさ、一から二人で考えようか」
「…………」
「若は何したい?」
「…………」
「…………」
若はさっきから、ぽーっと湯上りな表情ばかり。
時折、昔からの癖みたいに口唇に触れては慌てて離して、落ち着かなくなって、
落ち着いてからまた触れは慌てて離して……を繰り返してる。
玄関へ向かう若を、俺は数歩追い越す。
「わーか」
「ぅわっ!」
真っ正面から顔を覗き込ませると、やはり上の空だったらしい若は過度に反応した。
「な、何だ、長太郎?」
「若がぼーっとしてたから。大丈夫?」
「別に何でもない。ただ、」
「ただ?」
少し躊躇ってから、若が口を開く。
「……知っている事と実際に経験してみる事は違うのだな…と」
「ああ、キスの事」
「はっきり言うな!……お前はもう少し、自制と場の空気を読む事を覚えた方が良い」
呆れたように告げ、若はふいと俺を避けてまた進み出す。
(自制はともかく、場の空気が読めないのは若も苦手な方だと思うんだけどなー)
けれどそれが若の精一杯の強がりだと思えば、一層想いが増してしまう俺は相当単純な訳で。
「待ってよ、若」
追いかけて、隣を歩く。
「若」
「今度は何だ?」
「掃除手伝ってくれて、ホント感謝してる」
「くどい」
「だからさ、何でも我儘言ってよ。若の為なら何だってしてみせるから」
「……ならやはり、第一に自制を覚えろ、お前は」
「う゛」

漸くのファーストキスを迎えても、『甘い余韻』なんてものはすぐ消えて。
それが俺たちらしいと言えばらしいけど。
まぁだけど、ゆっくり一歩ずつでも進んでいけば良いか。
だってずっと一緒にいるんだもんね、俺たちは。

「じゃあ、次のステップまでまた一月は我慢する」
「つ、次!?」
「ほら若、デートデート

「ちょ、長太郎!」

愛しい君の手を引いて、せめて正門までは走ろうか。
好きで好きで好きすぎて、大好きだから触れ合いたい。愛してるから繋がりたい。
『いつも』と片時も離れず、一緒にいるのは不可能だけど、
『永遠』に負けない位愛し合うのは可能でしょ?

だから、

「大好きだよ、若」
「ふん…」

若も同じ気持ちだと嬉しいな―――――。

+++

長太郎は知らない。
若が掃除中、申し訳ないと長太郎に感謝される度、
(嫌な訳ないだろう。……お前と、一緒にいられるのだから)
その顔を夕陽の所為だけでなく、赤く染めていた事を。

長太郎の願いは既に叶っているのかも――――しれない。

END


・後書き(7月11日)
 やっちまったSS第一弾(えぇ!?)予定ではもっとコンパクトに纏めるはずだったのに…;
無駄に長くて大変申し訳ありません;;何気に若が乙女思考でゴメンナサイ;!
何か恐ろしい程心の中では甘ラブしててゴメンナサイ;私、まだまだです!(爆)
 タイトルはちょい前の曲「Always」
(光永亮太)から。でも当初の曲のイメージと大きくズレてしまいました;
まぁ、長若の二人が幸せならそれで良いのです(オイ)

 内容は二人のファーストキス物語(待て)。恐ろしい程にチョタが若愛。
そして全編通してギャグでもシリアスでもない中途半端な代物。…自爆です…(ゲフ)
細かくツッ込むと数え切れないので、矛盾点や可笑しな点は脳内補完推奨と言う事で(逝け!)
けど若は、凄く貞操観念が堅いと思ってまして。
きっとキスは生涯添い遂げる相手と…位に思ってるんではないかと(若は何時代の方ですか?)

 それでは、これからも長若始め、若受けに愛を捧げ続けます。むしろ若に愛を捧げます(ぇ)でわ☆
…ちょっと久々で後書きの書き方も忘れてしまったかもしれません…(オイ)