ちゅッ…ドォオォォオオォオォオォォンッッッッ!!!!
 全ては、あの日の爆発から始まった。
 うららかな晴天の日に、爆音がとどろいたあの時から…。

   
「シャル・幼児化計画」

「なっ、何だ!?またシズクが料理に失敗したのか!?」
 ビルの揺れに、即座にフィンクスが原因例を叫ぶ。
「失礼だよ。私の料理に失敗なんてないもん」
「じゃあ、団長の料理か!?」
「何を言う。オレの料理は天下一品だぞ」
 2人は知らない。
 フィンクスへの反論に、頷く団員が一人としていなかった事を。
 そして、自覚なき2人に対して密かに涙した事を。
「あれ?そういやぁ、シャルの姿を見かけねぇな」
 ウボォーの指摘に一同がハッとする。
 そう。1番原因である可能性の高い人物の存在を忘れていた。
「とにかく、爆音のあった場所に行ってみるぞ」
「はい!」
 駆け出すクロロ。後に続く団員たち。
 廊下を駆け、煙をもらす扉を、勢いよく開ける。
「シャル!!何があったんだ!?」
 顔を腕で隠し、流れ出る煙を防ぎながらシャルを探すクロロ。
 次第に、視界が明らかになっていく。誰かのシルエットが見える。
「シャルか…?」
 注がれる団員たちの視線。
「ッ!!!?」
 全員の、、、呼吸が止まった。目の前の、予想を裏切る人物に。
「?」
 目の前にいたのは、煙に涙をうるませる5歳程度の幼児だった。
「うわぁぁああぁぁぁあぁぁッッ!!!!」
 爆音に続き、今度は団員たちの悲鳴が轟くのであった。

−−−−−

「な、何だ、この子供は…」
 落ち着きを取り戻し、幼児に近づくクロロ。
 その幼児はブカブカな、普段シャルが着ている赤い服をかろうじて身に纏っていた。
「…おじちゃん、誰?」
「はははははは。この26歳という若さを誇り、髪を下ろしている時など、
 10歳くらい更に若く見えるというこのオレに、おじちゃんかぁ…」
「うー!」
 幼児の両頬をつねったまま、抱え上げるクロロ。
「ヤメロ、団長!大人気ない!!」
 慌ててフィンクス泣き出しそうな幼児をクロロから救い出し、あやす。
 床に下ろし、よしよしと頭を撫でる。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「キッサマーぁ!!このオレが『おじちゃん』で、
 フィンクスが『お兄ちゃん』とはどういう事だッ!?
 髪か?!髪さえ下ろせばいいのか?!ああ!下ろすさ!!」
 クロロは泣いていた。
「だから落ち着け!!マジで大人気ないから!!!!」
 そこへ、パクノダがス…ッ、と幼児を抱き上げる。
「ボク、恐がらないで」
 にこ…、と聖母のごとく優しく微笑みかける。
「ボク、名前は?歳は…いくつ?」
「ぼくはシャルナーク。5歳だよ」
 にっこり笑う幼児。目を丸くする団員たち。
 全員が、パクノダに『ホントか?』という視線を送る。
「……………」
 本当ですとばかり、パクノダは頷き返す。衝撃に、彼女は言葉を失っていた。が、
「どうしたの、お姉ちゃん?」
 幼児の言葉には即座に反応し、ぎゅ…
っとしっかりと抱きしめていた。
「可愛い子じゃないですか、物凄く」
「お前…、自分が『お姉ちゃん』と呼ばれたからって…」
 クロロは、この時本当に悔しかったという。

−−−−−

 アジト、中心(?)部屋に戻った一同。
「状況を整理しよう」
 クロロが、シャルと名乗った幼児をヒザの上に乗せ、
 その小さい手を握って遊びながら切り出す。
 幼児は、マチに作らせた園児用スモッグ的服を着せられている。
「この子供は何らかのきっかけ、恐らく先程の爆発が大きく関わっていると思われるが、
 シャルが幼児化したものだ。そうだな、パクノダ?」
「あの、団長。その前に少しいいですか…?」
「何だ、フィンクス?」
「何で…シャル、ヒザの上に乗せてんですか?」
「カワイイからに決まっているだろう」
 きっぱり

「じゃあ、パクノダ。話せ」
「はい。その子は嘘をついていません。
 シャルが消えた事からも、そう考えて相違ないでしょう。ですが、私たちの記憶も一切ありません」
 その事実に、団員たちはショックを隠せない。
「で、どうすんだよ、団長?」
 ウボォーが代表して尋ねる。
 ちなみにこの場にいる団員(シャル除く)は、
 名前の上がった5人以外にシズク・コルトピ・ノブナガと計8人。
「とにかく、元に戻すしかない。パク、服からは何か読めたか?」
「いえ。爆発の影響を受けたのか、断片的なものしか…」
「そうか。だが引き続き調べてくれ。お前らもだ。いいな!!」
「はい!!」
 全員、声をあわせて返事をする。流石、鉄の結束。
「で、それまでシャルは?」
「オレたちで世話する他ない。言うなれば、ココは幻影託児所だ」
「いや…言わんでいいッス……」
 複雑な気持ちで、フィンクスはツッ込んだ。

−−−−−

「わーい
お兄ちゃん、こっちだよぉ〜」
「コラ、待てって!そっちは崩れやすくなってんだぞ」
 と言いつつも、笑顔でシャルを追いかけるフィンクス。
「ほら、捕まえた」
「捕まっちゃった
じゃあ次、ぼくがオニになるね」
「ああ、そうだな。ノブナガ、コルトピ、マチ!お前らも逃げろよ」
 良い保護者ブリを発揮しつつ、3人を仲間に入れる。
 そんな和やかな風景の中、
「シャルー!!シャルはいるか!?」
「あ、クロロお兄ちゃん

 クロロの姿にシャルは団員たちを追いかけるのを止めて、駆け寄る。
 クロロの傍らにはシズクとウボォーがいる。 
「どこ行ってたんですか、団長?」
 シャルを抱き上げながら、クロロは機嫌良く笑う。
「シャルに似合う服と、おもちゃとお菓子を盗って来たんだ」
 その後ろでは、シズクがデメちゃんから大量の盗品を出し続ける。
「何やってんですか、団長ーーー!!!?」
「仕方ないだろ!いつまでもシャルにこんな適当スモッグ着せ続けろと言うのか!?」
「だからって、『適切』って言葉を知らないんですか、貴方って人はぁっ!?」
「だってどれもシャルが喜ぶ姿が思い浮かんで…、可愛かったんだ!!!!」
 どキッパリ
クロロは、真剣な眼差しで言い切った。
(…この、親バカがぁああぁぁあぁぁぁッッ!!!!)
 フィンクスが心で絶叫する中で、クロロはシャルと心底幸せそうに笑いあっていた。

−−−

 これがA級首の旅団だろうか。そんな、風景の連続。
「ちょっ、ちょっと止めてよ!痛いッ、痛いッてば」
「お、どうした、コルトピ?」
 半ば、半泣き状態の声ながら、シャルの世話をするコルトピ。
「ウボォー、交代してよぉ。シャル、ボクの髪を引っ張るんだもん」
 見ると、長い髪はしっかりとシャルの手に握られていた。
「だってね、ウボォーお兄ちゃん。
 コルお兄ちゃんの髪長いから、つかまってると楽しいし、安心するの」
 無邪気な笑顔で、シャルが明るく笑う。
「ハハッ!好かれてる証拠じゃねぇか。良かったな、コルトピ」
「笑い事じゃないよぉ。もう1時間もこの状態なんだから」
「ハハ。ワリィ、ワリィ。ほら、シャル。オレと遊ぼうぜ」
 コルトピから、シャルを受け取る。
「よしよし…、と。にしてもコルトピ、
 髪引っ張られんの嫌なら、切ればいいじゃねぇか。スッキリするぞ」
「人事だと思って勝手な事言わないでよ!」
「本音は、髪切った事でシャルが残念がるのが嫌なだけだろ?」
「そっ、そんな事ッ!……ないとは…言わないけど…」
 最後にシャルの手を握ると、『じゃ』とコルトピは照れた様に笑っていた。
「じゃ、シャル。外行くか?フィンクスもそろそろ帰って来るしな」
「うん!!」
 去り際、ウボォーの腕の中からコルトピに手を振るシャル。
 コルトピも、軽く手を振り返した。

−−−

「そ〜れ、高い高〜い!」
 ポーンと高く、シャルの小さな身体が宙に浮く。
「ハハ。無邪気だな、シャルは」
「あ、団長」
 フィンクスがシャルを抱きとめる。ウボォーがクロロに『だろ』と笑う。
「ねぇ、フィンクスお兄ちゃん。ぼく、もっと高くが良い

「お?ならオレだな」
 得意げに、ウボォーはフィンクスからシャルを受け取る。
「じゃ、いくぜ!!!!」
 キラリ。ウボォーの目が光る。
「そぉーらぁーッッ!!!!」
 力の限り、ウボォーはシャルを真上に投げ飛ばした。
「…………ッ!!!?」
 言葉を失う3人。空を見上げると、キラッと星1つ。
「………団長、シャル…どのくらいしたら帰ってきますか?」
 とても静かな口調で、ウボォーが尋ねる。
 同じく静かな口調で、クロロが答える。
「そうだな…。大気圏突破してなければ…2分くらいだな…」
 無言の3人。
「ウボォー、お前…命をかけてシャルを受け止めろよ」
「はい…」
 静かながらも低く、クロロは絶対命令を下した。
 その後、何とかシャルは無事に生還を果たしたと言う。ただ、
「あのねぇ、すっごく近くで飛行機見たよ!楽しかったぁ

 シャルはしっかり、楽しんで来ていたりする。

−−−−−

 再び中心(?)部屋。
「ウボォーお兄ちゃん。はい、あ〜ん」
「いや、いいって!オレ、あんま甘いモン、ダメなんだよ。
 シャルのなんだから、お前が食えって」
「いいの!さっきのお礼だよ

「しゃ、しゃあねぇなぁ…」
 と言いつつも、ウボォーも内心悪い気はしない。
「くそう、オレだってあのくらい…」
「嫉妬かよ、団長。ウボォーにシャル盗られ…、ッ!?」
 言い終わる前に、ノブナガの頬をナイフがかすめた。血がたれる。
「ん?何か言ったか、ノブナガ?」
 クロロは変わらず爽やか笑顔。しかし、決して笑っていない。
「い、いや…何も………」 
 顔を引きつらせ、もうノブナガはそれ以上何も言えなかった。
「はい、あ〜ん

 ウボォーはシャルの手から食べさせてもらうその瞬間!!
 タタタタタタタ!!
バンッッッ!!!!
 パクノダにより、勢い良く扉が開けられる。
「わかりました!!シャルが幼児化した原因が!!!!」

−−−

 静まる1室。パクノダの不規則な呼吸だけが、微かに響く。
「ほ…本当かい、パク?!」
 マチが驚きを露にする。他の団員も、一様に驚いていた。
「ええ。見つかったの。いつもシャルの傍にあって、
 運良く爆発の影響を受けずにいられたモノが!!」
「そっ、それは?」
「携帯よ!」
 バン!とパクノダがネコケータイを見せつける。
「シャルや服と違って、携帯は爆発と同時に部屋の隅に飛んでいったみたいなんです。
 でもそのおかげで、影響をほとんど受けていませんでした」
「そうか!なら、爆発の直前、シャルが何をしていたかも分かったんだな!?」
「ええ…」
「シャルは、何をしていたんだ?!」
 しばしの沈黙。パクノダは呆れに泣き出しそうな顔で答える。
「爆発の直前、シャルは…」
 全員が息を呑む。
「ド●えもんを造ろうとしてました…」
 
ピシッ!!(そ〜らをじ●うに〜♪)
 静かに、空気が凍りついた。
「でっ、でも良かったじゃない。コレで同じ状況を作り出せる訳だし。
 シャルも、元に戻るだろうしさ」
「なるほどなぁ。確かにマチの言う通りだよな」
「そう?そうとも限らないんじゃない?」
 シズクが、マチ、ノブナガの意見に異を唱える。
「何でだよ?それで一件落着じゃねぇのか?」
「だって、また爆発が起こるんでしょ?誰が起こすの?シャルが1人で?」
 ハッとする一同。
「確かに…。爆発の影響を受けない為にも、爆発はシャル1人に起こさせるしかない。
 しかし今のシャルでは何の受身もとれない…。もしもを考えると、非常に危険な賭けだな」
 クロロの考えに、全員が頷く。
「そうだな。それに同じ事やって元通りになるとは限らない。
 また更に小さくならねぇとも言い切れねぇしな」
「そうすると、今度は胎児以前に戻っちゃうって事だよね」
 フィンクス、コルトピの意見に、絶望にも似た空気が広がっていく。
 リスクや不確定要素が、あまりにも多すぎるのだ。
「く…」
 悔しそうにクロロが口唇を噛む。その時、コートが引っ張られた。
「どうしたの、お兄ちゃん?どこか痛いの?」
 素直で優しい、純粋な瞳。シャルが大きな瞳で見上げてくる。
「はい。コレあげる。元気の出るキャンディだよ」
 小さな手で差し出される、精一杯の優しさ。
「シャル……」
 自然に、クロロにも微笑みが浮かぶ。小さな身体を、大きなコートが包みこむ。
「わぁ
おっきいねぇ。スゴーイ」
 上機嫌に、コートを着た自分を見回すシャル。
「お返しだ。コレを着ていれば、強くなれる」
「本当?お兄ちゃんみたいに?」
「ああ」
 クロロの返事に、シャルは心の底から嬉しそうに笑う。
 たった1つの笑顔が場の雰囲気を和らげ、絶望を幸せに変えた。
 団員たちに向き直すクロロ。
「このままでも良いじゃないか。焦る必要はない。
 どんな姿をしていようと、シャルはシャル。大切な…団員だ」
「そうですね…」
 全員の気持ちは、その時一つになった。クロロの言葉こそ、一致した答え。
「と、いう訳でシャル。好きなお父さんを選べ(オレ以外)」
 ズベシャッッ!!!!
 こける一同。
「団長ォオオォォォオォォッッッ!!!!」
「しょうがないだろ!!シャルに『お父さん』なんて呼ばれた日には、
 一生立ち直れないぞ、オレは!!!!」
「だからって、オレたちに押し付けないで下さい!!」
「両親は必要だろ!!!!」
「アンタがそのセリフを言うかぁッッッ!!!?」
 もめるクロロとフィンクスを他所に、シャルは嬉しそうにコートを引きずって歩く。
 そしてウボォーの下へ行くと、思い切り顔を上げた。
「ねぇ、見て。似合う?ぼく、強そう?」
「そうだな…」
 笑いながら、ウボォーがシャルを抱き上げる。
「スッゲェ強そうだぜ」

 満面の笑顔。単純で純粋で、天使とも例えられる、子供の笑顔。
「あ、ウボォーお兄ちゃん。お口にお菓子ついてるよ」
「え?」
 ちゅっ。
 2人の口唇と口唇が、かする様に触れ合った。その時、
 BOMBッ!!
「………………ッ!?」
 シャルが、元の『幻影旅団サブリーダー』のシャルに戻っていた。
 あまりの驚きに、全員が言葉と時間を失う。
 力の抜けたウボォーの手から、シャルが床に落とされる。
 落とされたシャルはそのまま、床に座り込む形になる。
「ッ…たぁ…」
 シャルが顔を上げる。1番に視界に飛び込んで来たのは、
「シャルッ、良かった!!元に戻ったんだな」
「私たちの事、覚えてる?!」
「ったく、人騒がせなヤツだぜ、お前は」
「シャルぅッ!!」
仕事終わりの打ち上げよりも嬉しそうな、団員たちの笑顔だった。
「は?…え、な、…?」
 突然の事に、頭が混乱してしまうシャル。
 必死に、事態を理解しようとシャルは頭を巡らせた。
 そして気づく。今の自分の格好に。
 同時に他団員も思い出しす。
 幼児化した時、シャルの普段着ている服は『元の大きさのまま』だった。
 つまり、服のサイズは変化しないのだ。
 当然、今のシャルに子供服が合う訳はなく…。
「ぅ…ぁ、ぁ…」
 コートと座り込んでいた状態のおかげで、見えているのは白い首下くらいだったが、
 素肌にコート1枚という己の姿に、みるみるシャルの顔が赤くなっていく。
 喜びもどこへやら。マズイ、という表情になる団員たち。
「ぁ、ぁ…、っ――――――――――」
 全員が、素早く耳をふさいだ。
「うわぁぁああぁあぁぁあぁッッッッ!!!!」
 シャルの涙混じりの悲鳴が遥か天さえ揺るがした事は、言うまでもない。

−−−−−

 という訳で、シャル幼児化事件は無事幕を閉じ、
団員たちは『子連れグモ』の恐怖から逃れる事が出来た訳だが…
「シャル」
「何ですか、団長?」
「ドラ●もん…造ってみないか?」
 ただ1人、この男だけは懲りていなかったという。

END



・後書き
 …ふぅ。何か、久しぶりにシャルがボケを(そんなに)かましてないSSを書いた気がします。
いや、ギャグでもシャルがあまりボケじゃないヤツ、あるんだけど;
 恥ずかしかった…。後半とか特に。体温急上昇で書いてました;
まぁ、砂まで吐かなかったけど;(それに近いものが…;)
笑いもあまりなかった気がします。時川の自己満足に近い作品かも;あう;

 ちなみに、元への戻り方は、相手がウボォーだったからとかそんな事ありません。
実は、
相手は誰でも良かった!!(もう、団長だろうがパクだろうがマチだろうが…)
とにかくキスさえすれば。おまけにシャル、幼児化してた時の記憶ないし。
 後、シャルにコート着せるというムリムリで強引な展開は、
当然ラストへの伏線っていうか、考慮です。流石に女性の前では…シャルがカワイソ過ぎ。

 ま、やはりギャグの方が向いてるのか、書いてて楽しかったです。長過ぎだけど;