「定例トランプ大会」

 シャル宅・和室。その中央、向き合って座るクロロとシャル。
「なぁ、シャル?3」
「何ですか、団長?4」
 彼らの手には、トランプ大枚。
「このダウトに意味はあるのか?5」
「ありますよ。数をこなして、経験値を積むんです。6」
「しかし…。7」
「何か異論でも?8」
「ダウト」
「えッ!?」

 ふいを突かれ、一瞬、時が止まるシャル。
「なッ…何でわかったんですか!?まさか、オレの表情に違和でも!?」
「いや、8は全てオレが持っている」
「あ」
 ようやく、クロロが伝えんとしていた事を理解する。
「シャル…やはり、2人でダウトをやっても意味は無いと思うんだが…」
「でも…特訓してるなんて知れたら…、絶対フィンクスにバカにされて、笑われるに決
まってるんです」
「なら、ウボォー・パク・マチ辺りも誘ったらどうだ?アイツらは口も固い。特にパク
の協力は強いぞ。何を隠してるか調べる本人に嘘をついてもらう訳だから」
 名案とクロロが笑う。反して、シャルの表情は暗い。
「オレもそう思いました。けどウボォーは口は固くても嘘は上手くないから、突付かれ
たらボロが出そうだし…」
「パクとマチは?」
「人数が問題なんです。いくら仲が良くても、団長・パク・マチ、そしてオレの4人が
来週の『定例トランプ大会』までず〜っと秘密の用事があるなんて…おかしいでしょ」
「なるほど。確かにオレは、姿消したら消息不明だからな」
 連絡がつかなくても怪しまれない。
「それに『団長・サブリーダー』の仲で、物心以前からの親友じゃないですか」
 お願いします、とシャルは己の手を合わせてクロロに頼み込む。
「う〜ん…」
 考え込むクロロ。2人でやるダウトは、2人でやるババ抜き以上に意味が無い。
「団長、お願いします!!もう、最下位になりたくないんです!!!!」
「シャル…」
 『定例トランプ大会』。それは数ヶ月に1度、暇な…と言うか、不参加に対し余程の
事情が無い団員全てを集めて行われる催し。
 団内の親睦を図る、との名目で今まで行われてはいるが、実はその後の余興が目当て
だったりする。
 酒もつまみも食事も全て一級品が出揃い、なおかつ最下位の罰ゲームだってシャルが
いれば免除も同じ。
 事実、今までの最下位は全てシャル。当然、罰ゲームも。
「お前の気持ちは、よくわかる」
 自分だって、あんな罰ゲームは嫌だ。
 その数々を思い出したのか、シャルは拳を握り、口唇を噛みしめていた。
 過去の罰ゲームでシャルは、ある時は各団員に1億Jずつおごらされ、ある時はコル
トピが増やして100本になったネコケータイの中から本物を、1分に1本フィンクス
が砕いていく状況で探させられ(実は本物は未入)、ある時はホステスもびっくりド派
手衣装で余興の晩酌や給仕をオネェ言葉でやらされ、ある時は1週間ネコ耳・グローブ・
ブーツ・シッポ装着で語尾に『ニャ』をつけさせられ…。
 それはもう、屈辱的なものばかり味わってきた。
「このまま行くと、次は“赤ピクミン(花)の着ぐるみ来たまま『おさかな天国』合唱”
だな」
「嫌だぁあぁああぁぁッッ!!!!」
 顔を両手で覆って、泣き出すシャル。
「嫌です、団長!!」
 滝涙で顔を濡らして、クロロの腕を、決意表す様に強く掴む。
「あんな、あんな芸人みたいな罰ゲーム嫌ですぅうぅぅッッ!!!!」
「シャル…」
「オレ、オレ、これでもヴィジュアル系で売ってるのに、芸人と同じ事、いいえ、それ
以上の事をやらされて…ッ!!」
 酷く震えた泣き声が部屋中に響き渡る。クロロも、支える様にシャルの肩を包む。
「いや、でもほら…T●KIOとか●6とか、ジ●ニーズでも身体はってるバラエティ
してる奴多いし…」
 精一杯フォローしてみる。
「でもあれじゃ、藤●隆(吉本●業)の方が近いですよぉッッ!!」
 えうえう。クロロの白いシャツに、シャルの涙がどんどん染み込んでいく。このまま
では飽和状態も近い。
「嫌です!!オレは“歌って踊れる芸人”より“笑いも取れるヴィジュアル系アーティス
ト”の方が良いんですぅうぅぅッッ!!!!」
「いや、わかる!その気持ちわかるから…ッ!!」
 チーン!!
「ふぅ…」
 少し気が済んで、とりあえず落ち着くシャル。
「シャル……」
 かなりテンション低く、クロロが呼ぶ。どこか切ない瞳で。
「あ、はい。何ですか、団長?」
「良ければ、シャワーと服と洗濯機と乾燥機を貸してくれないか…?」
「はい、どうぞ」
「ありがとう…」
 支えた腕を空に留めたまま、前半身をずぶ濡れに、クロロはこっちが泣きたい気分で
笑ってみせるしかないのだった。

 

 30分後。今度はテーブルで向かい合って座る2人。ちなみに場所替えは、クロロの
『涙で畳が濡れたから』との意見による提案。
「オレは何故、こんなにもトランプが弱いんでしょう?」
 心痛な面持ちでシャルが切り出す。
「そうだな…」
 それがわかっていたら、ここまで連敗しなかったと思う。
「実際どうなんでしょう?オレは。何か癖でもあるんですか?」
「う〜ん…。癖と言うか…お前に相手にした時だけ、妙に勘が冴えると言うか…」
「と言うか?」
「物凄く勘が冴える」
 キッパリ。
「それって…?」
「神がかり的にこう、『あ、今のは本当だな』とか『今のダウトだな』とか。他の奴ら
は注意深く見てればわかる事もあるが…お前の場合、注意深く見なくても、言い方は悪
いが…目を瞑っていてもわかる」
「そんなのオレ、どうしたら良いんですか…?」
「どうしようもないな、あ」
 思わず口をついた本音に、しまったとクロロが内心後悔する。シャルを見ると…
「…………」
 瞳いっぱいに涙が溜まっていた。
(嗚呼…また泣かせてしまう…)
 自責の念に駆られるクロロ。
「うッ…」
(ああ、泣く…ッ!)
「メエメエ」
(羊!!!?)

 その予想外さと言ったら、オールバックもばさりと下りる勢い。いや、元から下ろし
てはいたが。
「団長!!」
 ガタン!!
 シャルが立ち上がり、イスがそのまま倒れる。
「見捨てないで下さい〜ッッ!!!!」
 音速を超えるスピードで、シャルは即座にクロロに掴み寄る。
「お願いです!お願いですから、オレと一緒に最下位脱出の為の良案の考案を考えて下
さいぃ〜ッッッ!!!!」
「いや、お前、意味が重複してる!!!!」
 おまけに3重に。
 もちろんそれだけ、精神的に追い詰められている証でもある。特に普段冷静沈着、旅
団1の知能の持ち主と言っても過言ではないシャルがこうだと、余計に。
「うわぁあぁぁん!!団長ぉおぉおお〜ッッ!!!!」
 えぐえぐ。
(ああああああ〜…)
 再びシャツとズボンに涙が落ちる。小さな滝が目の前にある錯覚すら覚える。
「団長……」
 しかし、次第にクロロの中で肌にへばり付く衣服への嫌悪感が消えていく。
 シャルの涙を見る内に、ある感情が急速に芽生えていく。
「シャル、顔を上げてくれ」
「団長…?」
 大切な、大切な親友の頼み。こうまでして自分を頼ってくれている親友を、見捨てる
事など出来るのか。いや、出来ない(反語)
 クロロは、シャルを励ます様に精一杯の思いを込めて微笑むと、
「これだけは、出来るものならしたくなかった…。だが、シャル!」
 涙に濡れたシャルの両手を、同じく涙に濡れた両手で握る。
「お前の為に協力する!!」
「団長…」
 シャルの声に、明るさが甦っていく。
「嬉しい、団長!!!!」
「わ!?ちょっと!!」
 ガターン!!!!
 シャルが喜びのあまり抱きついてきた勢いで、イスごと背後に倒れこんでしまう2人。
「ありがとうございます…ッ!!」
 今度は感激の涙が、クロロを濡らしていく。
(またシャワーと服を借りよう…)
 結果、その場はバケツをひっくり返したよりも酷い惨状となったのだった。

 

 『定例トランプ大会』当日。
「よぉ、シャル。今日もご苦労だな〜」
 100%からかいの笑顔で、フィンクスが声をかける。
「そんな事ないよ。フィンクスこそ、今日は“ご苦労”になるんじゃない?」
「お前には負けるけどな」
 今回もシャルが完敗だと120%の確信を込めて、フィンクスが笑いながら去ってい
く。その背を、
(ふふふ…。その言葉…そっくり返してあげる…
 いつも通りの爽やか笑顔を装って見送るシャルなのだった。
(ふふふふ……vv

 シャルの心に、嘘はなかった。
 その日のシャルの躍進を、一体誰が予想できただろう。本人とクロロを除いて。
「ダウト」
「ふふ残念でした」
「あ…ッ」
 シャルは酔いしれていた。
 言われる度に辛酸を舐めさせられた言葉を、そのままのし付けて返す。
 こんな快感が、この世に存在していたなんて。
「ダウト!」
「う…」
「はい、全部取って
「わかったよ」
 シャルは泣いてしまいそうだった。
 言う度に恥をかいた言葉を、相手へのダメージとして使用する。
 こんな優越が、この世に存在していたなんて。
 心から笑い、花を撒き散らす雰囲気のシャルを見て、クロロも我が事の如く喜ぶ。ク
ロロの視線に気付いたのか、シャルは満面の感謝を込めて微笑んだ。クロロは他団員に
悟られぬよう、小さく頷く。

 シャルの快進撃には、当然理由がある。
 実はシャルが手からカードを出す時、横から引けば何も言わない。上から引けば『ダ
ウト』と指摘。(同時にシャルの視線を感じた時)
 そうするよう、団員たちは催眠術をかけられていたのである。
 この1週間、シャルとクロロは各団員に暗示をかけ続けた。定住組には家に忍び込み、
家の至る所に、放浪組には衣服や皮膚に、脳だけが聞き取れる音声を放つ超小型スピー
カーを設置した。就寝時には男団員限定だが、枕元で囁き続けたりもした。
 けれど本当に、言うは易し、行うは難しだった。
 相手は何と言ってもあの旅団。
 その為クロロは、空き巣…じゃない、作戦に使えそうな能力を片っ端から盗み、実行
した。もちろんその能力者検索は、シャルの仕事だった。
 こうして、最凶コンビは周到に準備を張り巡らしていたのだ。
 それでも催眠術と冴える勘とのせめぎ合いか、3回に1回しか暗示は失敗していたけ
けれど。

 

 すっかり夕暮れのホーム。そこへ、
「やったぁあぁああぁあぁッッ!!!!」
 建物全体を震撼させる喜声が、流星外すら巻き込む程度に響き渡った。
「やった!夢じゃないんだ〜ッ!!」
 両の拳を握り、満面の笑顔で飛び跳ねるシャル。
「バンザ〜イ!!!!」
 今度は両腕を高らかに挙げる。
「凄い喜び様だねぇ」
「仕方ないわ。今まで万年最下位だったから」
「そうだね」
 裏事情も知らず、マチもパクも微笑ましく見守る。
「でも…」
 シズクが無表情に呟く。
なのに」
「何言ってるの!」
「わ」
 シャルが即座に、シズクの眼前に。驚いてもやっぱり無表情なシズク。
「9位だよ、9位!!下に4人もいるんだよ!?」
「でもヒソカ来てないし…」
「不戦勝になってるの!嗚呼、もう…こんなの…」
 己の胸の前で手を組ませ、うっとりと空を見る。
「こんなの初めて…vv
 夢見心地。
「良かったな、シャル」
「団長!!」
 おめでとう、とクロロが笑顔で祝う。
 確かに裏技?使用ではあるが、この場合は引っかかった方も悪いと言う事でイーブン
だろう。だってお互い旅団なのだから。
 ちなみにクロロは、普通に3位。
「よく頑張ったよ」
「団長〜!!!!」
「あ、ちょっと!」
 抱きッ!!感極まったのか、シャルがクロロに抱き付く。
「嬉しいです!!本当に…嬉しいです、団長〜ッッ!!!!」
「よしよし」
 抱き付くシャルの頭をそっと撫でてやる。
「本当に嬉しいんです!」
 クロロを放し、眩しい笑顔を放つ。
「ああ、わかってる」
 平常の冷静さとはまた違った、幼くもある一面に懐かしさも感じる。
「ほら、オレ、こんなにドキドキしてるんですよ!!」
「え!?」
 シャルが、クロロの手を引いて己の左胸に当てがう。
「ね?」
「あ、…ああ…」
  これはNOカップリング話です。
「ふふふじゃ、ちょっと失礼します」
 楽しげ笑顔で、シャルは軽く手を振ってその場を離れた。

 一方、ハイテンションなシャルとは対象に、絶望の淵に片足を突っ込んだ男がいた。
「やっほー、フィンクス
「シャル…」
 まさか、こんな事になるなんて。フィンクスの表情は、心から悔しそうだった。
「大変だねー、これから」
「く…ッ」
 シャルは愉悦に浸って笑う。
 最もシャルが暗示に力を入れ、ゲーム中も何度も術を発動させ、見返したかった男。
それがフィンクスだった。
 そう企まれ、仕組まれ、恨まれているとも知らぬまま、最下位の罠に転落していった
フィンクスに、シャルは冷たく笑いかける。
「はい、罰ゲームBOX」
 この箱の中に命題に、一体どれ程の苦悩を味わわされた事か。
「…………」
 無言で、フィンクスがBOXに手を突っ込む。
「早く引きなよ」
(そうだよ。こん中のもん全部が最悪な訳じゃねぇ。程度が激しいのも特徴じゃねぇか)
 思い直し、覚悟を決める。
「うらぁあぁぁッッ!!!!」
 自らの命運を分けるプレートが、夕陽を浴びてキラリと輝いた――――。

 

 日が変わっても、シャルの心は晴れ晴れしていた。目覚めも常より快かった。
「団長、どうしたんですか?ほら、早く上がって」
「いや、そんなに気を使わなくても…」
「遠慮しないで下さい!団長の食べたい物、好きなだけ作りますから、沢山食べて下さ
いねもちろんデザートも飲み物だって
「でも、そこまで…」
 シャルに腕を引っ張られて、玄関をくぐるクロロ。シャル曰く、ご恩返し。
「それとも先にお風呂にします?入浴剤になりますけど、世界中のありとあらゆる名湯・
秘湯を用意したんですよ!」
「いや、だから、そこまでしてもらう事は…」
「何言ってるんですか」
 溢れる感謝を込めてクロロの手を握り、シャルは微笑む。
「オレの気持ちだから、受け取ってもらわないと困るんです」
「しかし…」
「遠慮しないで。こうでもしないと、感謝が収まらないだけだから」
「シャル…」
 少しだけ考えて、クロロも微笑む。
「わかった。ありがたく感謝を受けるよ」
「はい!」
 まさに幸福の絶頂が、そこには確かに存在していた。
「ところでフィンクスの罰ゲームは何だったんだ?」
「“造花作り1万本”だそうです。フィンクス、細かい作業嫌いだし、我慢も忍耐力も
根気も無いから…相当時間かかりますよ

 その頃のホームでは、
「フェイタン〜、親友だろ〜。手伝ってくれよ〜」
「ダメね。1人でやる決まりね」
「うぅ…」
 無数にも思える紙と針金の海に溺れるフィンクスが、涙ながらにうなだれていたので
あった。

END  

 

・後書き
 どうでしたでしょうか?これはHP開設当初からお世話になり、たくさんの恵みを授けて下さった、
KATSUさんへの時川の祝・お誕生日(ご恩返し)SSだったのですが。
その割に急ごしらえで、結果、最短完成記録を更新してしまったブツだったり;(約6時間32分)
まぁ、その分短いから微妙なラインなのですが(^^;)

 KATSUさんがフィンクス好きと言う事で、団長もシャルもフィンクスも出せるSSをと思って書きました。
フィンクス、物凄くシャルに恨まれてますが、ウボォーやノブナガもからかってます。実は。
罰ゲーム中も「はい」「いいえ」じゃ答えられない会話もちかけたりして

 でも、シャルが本気で怒るか泣くかする前に、止めるてるんです。フィンクス以外は!!
その繰り返しで、シャルは次第にフィンクスだけに恨みを連ねていったと思われます。自業自得♪
 フェイタンはフィンクスの見張りです。きっと仲良いから、自ら買って出たのかと。
「メエメエ」は後輩の泣き声パクリました。ヤツが以前、メールで「メエメエ」泣いてましたんで。
 あくまで弁解しますが、これは決してカップリング物ではありません(^^;)団シャル傾向強すぎ;

 本当に、お誕生日おめでとうございます
vv&今までありがとうございますvvv
せめてものお礼とお祝いを兼ねて、こんなヘボSSで少しでも楽しんで頂けたら光栄です
vvvでわ