「幻影旅団員のスゝメ」

 ヨークシン、幻影旅団アジト。
 全員が集まる一室で、静かに広がる“死”の波紋。
「あッ!」
 シリアスな雰囲気をブチ壊す様に、シャルが声をあげる。
「どうした、シャル?」
「一つだけあります。このヨークシンを離れ、かつホームにも戻らずにすむ方法が」
「本当か?」
クロロの問いに頷くシャル。
「旅行に行きましょう」
 
ズベシャァァァァ!!!!
 思いっきり床に滑り込む団員たち。
 怒りを抑える事無く、シャルに詰め寄るノブナガ。
「ふざけんなよ、シャル!!折角、鎖野郎を見つけ出して、ブッ殺せる事になったってのに!!!!
 それを……旅行だぁッ!!!?」
「待ってよ、ノブナガ。コレは、同時に鎖野郎の情報も手に入るんだよ」
「は?」
 シャルの表情は真剣だった。
「とある島国に、恐山という山があってね」
 神妙な目線で、ノブナガを見つめる。
「そこには『イタコ』という死者の霊魂を呼べる人たちがいてね」
「…だから?」
「ウボォーを呼んでもらって、似顔絵描いてもらうの」(真顔で)
 間。
「ふざけんな、何が『イタコ』だってんだぁぁぁッッ!!!?」
「何で!?オレはノブナガの事を考えて言ってるのに!!」
「ンな訳わかんねぇ所に全員で行けってのか!?」
「誰が全員で行くっていったのさ!?」
「は!?」
 一瞬理解に苦しむノブナガ。
「…あの、どういう事でしょうか?」
「だから、恐山に行くのはノブナガだけって事」
「で、オレが行ってる間、お前らは?」
 心からニッコリと笑うシャル。
「近くの宿で温泉卓球

 間。再び。
「シャルぅぅぅぅぅッッッ!!!!」
「何が気に入らなかったの、こんなにもイイ考えなのに!?」
「全部だ!!!!」
 瞬時に即答するノブナガ。
「ひっ、ヒドイ…」
 みるみるシャルは、悲しげな表情を浮かべ、泣き出しそうな声になる。
「オレは、来週みんなが無事に過ごせて、鎖野郎の情報も手に入る様にって、
 一生懸命考えて…なのに……」
 うつむく。
「明日、起きた時にどうなってても知らないから」
「オレに何するつもりなんだ、お前!?」
「別に。おさげ二つ作って、昭和的女子中学生の制服を着せるとは言わない
けど」
「言ってるじゃねぇか!!」
 恐ろしい男だ。ノブナガだけでなく、他団員たちも、そう思った。
「フン。枕元に爆弾置いて、クモ初のアフロ侍にしてやる」
「お前ソレ、クモ初っていうか…世界初だ」
 その時、団長がスッっと立ち上がる。そして、シャルへと歩み寄る。
「シャル、いい加減にしろ」 
 いつもより低めの声。真剣な眼差しで、シャルの肩に手を置く。
 これでシリアスに戻れると、安堵する団員たち。
「そんなノブナガ連れて歩く気か?ヒソカの存在意義はどうなるんだ!?」
(えーーーーーーーーー!?)
 その時、団員たちの心は一つだった。珍しく、ヒソカを含めて。
「って言うか…ボクの存在意義ってソレなの?」
 周囲の驚愕を他所に、ひどくショックを受けるシャル。
「ぁ…、オ、オレ……」
 瞬時にヒソカの両手を取り、シャルは真顔で謝る。必死に。
「ごめんよ、ヒソカ!!君の存在意義を奪うなんて、オレは何てヒドイ事を!!」
「だからボクの存在意義って、本当にそれなのッ!?」

−−−−−

 静かな空気流れるアジト。
 シリアスを装った雰囲気の中、見た目には、普段、指示を出している時と同じだった。
「いいか、オレが新たに団員をスカウトする時、重視するポイントがある」
 真剣そのものな態度で、説明を開始するクロロ。
 息を呑んで、見守る団員たち。
「一つは強さ。コレは、単純な腕力だけでなく、念能力などを含めた総合的な強さだ。
 だが、同程度の実力を持った者が複数いた場合…」
 顔をしっかりと上げ、全団員を見渡す。
お笑いポイントが、決め手となる」
「お笑いポイント!?」
 本日の驚愕、その二。
「お笑いポイントには内面ビジュアルの二つの要素がある。
 これらは欠けた団員により、どちらを優先するかが決まる」
 あまりの真剣さに、ツッ込む事が出来ないフィンクス始め、ツッ込み陣。
「例えば、ウボォーに求められたのは、周囲に流される単純さだ。
 ボケに流され、ツッ込みに正され、自覚なく流されていく単純さ。そして何より…」
 悔しそうに、右手を握る。
「あの『純情』という言葉では片付けられない、記念物級ウブ(死)さ!!!!」
 簡単に言い切るクロロ。うなずくシャル。言葉を失う他団員。
「大の大人が普通、ドラマのキスシ−ンごときで赤面するか!?顔を背けるか!?耳までふさぐか!?」
 堪えきれない悔しさに、うなだれる。
「惜しい逸材だったんだ…。
 この超個性集団を作るのに、オレがどれだけ苦労した事か…。ウボォー…(がっかり)」
 いや、“がっかり”じゃねぇだろ、という気分の団員たち。
「そして死に組だ。まず先ほど会話に出たヒソカ」
 らしくなく、ヒソカは落ち着かない。“存在意義”を引きづってるらしい。
「ヒソカはビジュアル重視の団員だ。その変態的奇抜な格好。語尾に付く トランプマーク。
 もしヒソカが外面内面ともに普通の人間だったら、オレは入団を認めなかったかもしれない」
「!?」
 驚くヒソカ。団員たち。
「あの、それじゃ…入団志望者のルールは…?」
 相次ぐボケに、我慢がきかなくなってきた天性のツッ込み・フィンクスがとうとう口をはさむ。
 だがクロロはあくまで幻影旅団の団長だった。
「オレが“幻影旅団”のルールだ」
 どきっぱり

「団長ぉぉぉぉぉぉッッッッ!!!!」
 泣きながら、団長の襟首つかむ勢いでつめよるフィンクス。
「何だ、オレに逆らうか?クビにするぞ」
(職権(?)乱用ッッ!!!!)

−−−−−

 気を取り直して。
「ヒソカが欠けた場合、求められるのはビジュアルだ。
 外見で笑いと恐怖を同時に取れる人材が求められる」
 言いながら、クロロはヒソカを見る。
「だから『アフロ侍』なんて強烈なキャラが出来ると、
 ヒソカだけでなくボノレノフの旅団内存在意義が無くなるんだ」
(そんなッ!?)
「そうか…。オレ、本当にひどい事を…」
「そういう問題じゃないと思うけど」
 冷静を装いつつ、マチがシャルに小さくツッ込む。
「そしてシャル」
「?オレですか?」
「ああ。シャル、お前が欠けた場合、求められるのは内面だ。だが」
 息を呑むシャル。
「同時に爽やかビジュアル系で、知識が豊富で、ハンター証所持者で、
 仕事中、オレがアジトでゆっくりくつろいでいても、
 現場で実働部隊を指示してくれて、驚異的トランプ勝負の弱さで…かつ」
 言いながら、クロロは何故か次第に楽しそうになっていく。
「ねぇ、ずいぶんと注文が多くない?」
「楽したいのよ。また新しい文庫全集、盗ったばかりだから」
「シャルに任せっきりだったからねぇ」
 女性陣の冷めた会話を他所に、クロロは希望を述べていく。
「『アフロ侍』を発想するほどの豊かな独創性を兼ね備えたヤツが、
 他にどこを探せば見つかるんだ!?オレにとって、お前の代わりなどいないんだ、シャルっっっ!!!!」
「団長…」
 クロロの言葉に、感動いっぱいのシャル。瞳には涙が浮かんでいく。
「嬉しいです、団長ッッッ!!!!」
「シャルッッッ!!!!」

 抱き合う2人。
「フィンクス…、ツッ込まねぇのか?」
「何か…もう、どうでも良くなってきた…」
 ノブナガも同意見だとばかり、ため息をつく。
「って事で、シャルの命とオレの娯楽の為に、温泉行くか」
 威厳たっぷりに、団員たちに顔を向けるクロロ。
 が、そこでクロロが見たものは、怒りに満ちた団員たちの表情だった。
「……。ダメ?」
「ダメに決まってんだろうがッッッ!!!!」

 その後、このシーンが1から撮り直された事は言うまでもない。

END



・後書き
 まず始めに、旅団Fanの皆様、ごめんなさい。
いえ、ボクも旅団Fanですが。
 本当はもっとちゃんとした(?)話だったのですが、あまりにも長くなりそうだったので、
無理に短くしました。だからあんな、ダメダメに;あう;
 本当はもっとシャルはボケボケだし、団長もどんどん死に組が欠けた場合の希望団員を述べてくし、
フィンクスはびしびしツッ込むし、パクノダもシズクもマチもフェイタンもノブナガも……
みんな出て、出番たっぷりのハズだったのに!!!!(涙)

 次は、ウボォーも出せるとイイなぁ
(っていうか出す!!!!)