「白い恋人達」 4年前。流星街を大寒波が襲った。 大雪に見舞われた流星街は、ちょっとした陸の孤島となり出入りもままならず、人々 は春まで大人しく過ごす日々を余儀なくされていた。 世間的には無人の地。ニュースにもならないし、除雪車も出ないし、救援物資もボラ ンティアも、当然来ないから。 彼らも、そんな人々の1人であった。 「暇。暇暇〜!!」 「ワガママ言わないで下さい!!」 こたつにだらしなく倒れこむクロロに、エプロンシャルが怒鳴る。 「だって〜、もう3日もこんな、ガレキに囲まれたも同然な12畳の家に閉じ込められ てるんだぞ」 身体を起こして、瞳で訴える。 「オレだって同じです」 それをかわし、シャルが冷たく言う。 現在彼らは、先ほどクロロが言った通りの家に閉じ込められている。 内装は、昭和中期の日本の居間的と言うべきか、こたつ、座布団、カーペット、電気 ストーブ等々。 はっきり言って、幼き頃に、金をまだ手にしていない頃に、少しでも気に入った物を 持ち寄って作り住んだ家。いや、家と言うより子供の基地みたいな要素が強い。 とにかく、久々に正月を流星街で過ごすべく、かつての家に戻り住んだ所、閉じ込め られた訳である。 「だからオレは、パクたちと一緒にホームで過ごそうと言ったんです!!」 「まさか、こんな大積雪になるとは思ってなかったんだ…」 童心に戻って、シャルと2人っきりで…vなんて下心が発生したばかりに。 「第一、お前だって、クリスマスが終わるまでは…って承諾したじゃないか」 「承諾しないと“クリスマスをオレたちの結婚記念日にする”って脅してきたのは誰で したっけ?」 「うぅ…」 読み飽きた雑誌で、クロロは顔を隠す。 「はい、出来ましたよ。朝食」 こたつの上に、ご飯と梅干と具の無い味噌汁。 「…………」 何度も己のを目をこすり、近眼の様に目を細めて、献立を確認するクロロ。 「早く食べましょう。冷めますよ」 「あの…シャルナークさん」 「何ですか?」 「これ…ご飯と梅干と具無し味噌汁に見えるんですけど」 あまりの寒さが見せた幻覚と、クロロは思いたかった。だが、 「そうですよ」 シャルはあっさりと認めた。 「何故!?」 「それが最後の食糧だからです」 「えぇッ!!!?」 衝撃の事実。 「そそそそんな〜ッッッ!!!!」 「食糧は全部ホームに集めたでしょう。ここには、約3日分しか持ってこなかったじゃ ないですか」 「じゃあオレは独身のまま…、シャルと我が子に囲まれて楽しく明るい家庭を作り、や がては団長を子に継がせ、シャルと第2の人生を送り、最後までラブラブに墓まで添い 遂げる…という夢も果せないまま…、クリスマスイヴ前日に、こんなガレキの中で餓死 するのか!!!?」 「餓死しなくても、その夢は果せないと思います」 涙を流して悔やむクロロを、心底呆れるシャル。 「第一、死にません。今日は外に出れます。玄関の雪、少し解けてましたから」 「そうなのか」 ほっと一息。 「つまり、オレたちのあまりのラブラブさに、この寒さも敵わなかったという事だなv」 (貴方ほど強くなれたら…ッ!!) どうして自分は、こんな男と恋人関係なのか、改めて問いただす。 「そう言えば、ウボォーたちも昔の家で生活してるんだよな」 「ええ。貴方が、オレと家で過ごしたい一心で、騙した所為で」 要するに、ウボォーたちも家で過ごしてるんだから、とシャルを納得させる一因にす る為、彼らをそそのかしたのだ。 全ては下心の為に。 「じゃあ、アイツらも危ないんじゃ…?」 「皆、大丈夫ですよ。いざとなったら、家ごと雪をふっ飛ばせばいいんです」 「そうか。じゃあ、今朝だけの我慢なんだなv」 団長としての問題もクリアし、安堵にふける。 「では、団長。両手を合わせて」 「いただきます」 2人静かに、質素な朝食スタート。 「…………」 味噌汁を飲みながら、ちらとエプロンシャルに目をやる。 (こういうのも…ちょっとしたプレイみたいで良いな…v) 昭和の、貧しさに耐えながら(中略)おしどり夫婦ごっこ。 (イイ…v) 勝手に幸せな妄想に溺れるクロロ。 「あ、団長。朝食食べ終わったら、雪かきしてもらいますから」 「え?」 「言ったでしょう。雪が解けてきてるって」 間。 「そそそそんなの、嫌だ!!折角、この後はシャルと2人、互いの肌を温め合う行為をと 思ってたのに!!」 「蹴り飛ばしますよ」 冷たく簡潔で、無情なシャルのお言葉。 「けど、何で雪かきなんか…」 「聞こえませんか?」 「何が?」 ミシ…。 「え?」 ミシ…ミシ…。 「あの…」 耳を澄ますと、頭上から何となく嫌な音が。 「昼には潰されますよ、こんな家」 クロロの顔から、血の気が引いていく。 「で、でも…」 「“でも”じゃないッ!!」 ダン!!シャルがちゃぶ台を両手でブッ叩く。 「これだから貴方は!雪を見くびって!!明日のイヴと明後日のクリスマスを、雪に埋も れながら過ごしますか!?」 「やります!やらせて下さい!!」 本能的恐怖で承諾する。 「わかって頂けて、嬉しいですv」 ニコv爽やか&優しい笑顔。 「は、はは…」 クロロは、苦笑する事しか出来なかった。 朝食後。雪かきに備え、防寒具を身に付けていく。 クロロのジャケットのジッパーをシャルが丁寧に上げ、ボタンも止める。 「はい。これで良いですよ」 「ふぅ。…少し、動きづらいな」 「少し、でしょう。一般の防寒具より遥かに薄く、保温性に優れている高級品なんです から」 もう1度、息をついて、クロロがシャルのいれた緑茶を飲む。 「しかし思い出がかかっているとは言え…面倒だな」 「覚悟を決めて下さい。男でしょう」 不満げな顔をして、シャルは茶菓子を口に運ぶ。 「大体、雪かきなんて重労働しなくても、シズクに雪を吸ってもらえば良いだろ…」 「“シズク”って誰です?」 ※この話は、現在より4年前です。 「誰だっけ?」 「団長ってば、本の読み過ぎですよ」 |
「―――と言う訳で、これよりお前らにはここ一帯の雪かきをしてもらう」 真っ白い雪の上、ウボォー、ノブナガ、フランクリン、コルトピ、ボノレノフを集め て、クロロがシャルを傍らに命ずる。 「集めた雪はそこの川近くの低地に積む。いいな?」 「道具は一通り揃えたから、使いたい物があったら、持って行って」 彼らの眼前には、スコップ、バケツ等、雪かき用具一式。 「なぁ、団長」 「何だ、ウボォー?まさか、面倒だとか言い出すんじゃないだろうな」 キツく、クロロがウボォーを睨む。 「いや、そうじゃねぇよ。オレだって、小せェ頃の思い出がズブ濡れになんの嫌だし」 「そうか…」 自分との違いに、少し傷心。シャルの視線も痛い。 「なら、何だ?」 「フィンクスとフェイタンの姿が見えねぇけど」 「え?」 ウボォーの言葉に、周囲を見渡す一同。確かに、その2人がいない。 「まさかアイツら、逃げたんじゃないだろうな!?このオレだって、やるというのに!!」 怒りを爆発させるクロロ。 その裏には、自分だってサボりたいという不満と、人数が少ない分、己の労力と時間 が減るという怒りが交錯していた。 「団長命令だぞ!アイツら、一体旅団を何だと思ってるんだ!!!?」 泣き出したくなる悔しさいっぱいに、クロロが拳を固くする。 「あれ?でも今日…フィンクスとフェイタンの姿を見た人いる?ボク、見てないよ」 コルトピが首をキョロキョロさせて、シャルに問う。 「そう言えば…。ねぇ、誰か、2人の姿を見た?」 「いや、見てねぇ」 ウボォーが最初に。他の団員も、一様に首を横に振る。 「しょうがないな、アイツら…。このオレが直接、赴いてやる」 と、クロロが2人の家に足を向けるも、 「…………」 その足はすぐに止まった。 「どうしました?」 「なぁ…アイツらの家って、オレたちの家より低地の、盆地にあったよな…?」 「はい。7mほど」 「ここからすぐ近くで、坂が見えたよな…?」 「ええ。もちろん」 「何で…平地が広がってるんだ?オレの目の前」 「へ!?」 シャルも即座に確認する。確かに、見えて当然の2人の家が、全く見えない。 「まさか…」 「や、止めましょう、団長。その先の言葉…怖いです…」 「だ、だが…」 青ざめて震える2人。 「どうした、お前ら?」 フランクリンが不思議そうに聞いてくる。 「埋もれてる」 「何が?」 「2人の家が。盆地全てが。解けて滑り落ちた雪によって!」 「何だって!!!?」 他団員も急いで駆けつける。 あまりに広大な白に大地の高低があやふやだったが、近くで見れば下るはずの道は無 く、代わりに平らな大地の続き。 ウボォーが、ごくりと息を呑む。 「つー事は、フィンクスとフェイタンは…」 生き埋めv 「うわぁあぁああぁぁぁッッ!!!!」 男7人、悲鳴をあげて、音速を超えた速さで各々道具を手にする。 「早く!早く掻き出せ!!」 「待ってろ、フィンクス!!フェイタン!!」 「必ず、ぼくたちが助けるからね!!」 「クリスマスイヴに葬送なんて、面倒だしラブラブ出来ないからな!!」 「団長、貴方だけ動機が不純すぎます!!」 ぎゃいぎゃいぎゃい…。 |
と、危機感に背を押され、ひたすらに掘ってみたものの、体積にして平均的一戸建て 分の雪を掻き出さなければならない訳で…、はっきり言って先の見えない作業。 その単調さも手伝い、いつしか当初の早急さは失われていた。 「おい、まだ見えねぇのか?アイツらの家」 バケツに、ウボォー・フランクリン・ボノレノフの掻き出す雪を詰め、ノブナガが尋 ねる。 何度、川と穴とを往復した事か。 「しゃーねぇだろ!端から掘らねぇと、オレらの重みで潰れちまったら終わりだろ!?」 少しイラだった様子で、ウボォーが返す。 何度、スコップを上下させた事か。 「落ち着けよ。シャルの計算だと、後1時間でアイツらの家の屋根まで掘れるそうだ」 「1時間…」 頭に乗せたバケツを支え、コルトピが呟く。もう、2時間経っている。 「ったく!何だってアイツらも、こんな低地に家作ったんだよ!?」 力いっぱい、ウボォーが雪を掻き上げると、 「うわッ!?」 白い塊が、ノブナガの顔面に命中する。 「ウボォー!!!!」 「ワリィ、ワリィ!不可抗力だ!許せ!!」 「気をつけろ、バカ!!」 悔しそうに舌打ちをして、再びバケツに雪を詰めようとすると バサッ!! またも、ノブナガの顔面に白く冷たい塊が、 「オイ、ウボ…ッ」 バサ!!バササッ!!!! 数発続けて、全て顔面ド真ん中に命中するのであった。 「……のヤロウ!!」 バサッ!! バケツいっぱいの雪を、ノブナガがウボォーに叩き掛ける。 「ぅわッ!?…オイ!一体何しやがんだよ!?」 「それはこっちのセリフだ!!何度も人の顔に雪ぶつけやがって!!」 「だから不可抗力だ、つってんだろ!!故意はねぇんだよ!!」 「あれだけ当てといてか!?信用出来るか!!」 「ンだと、この!?」 バサッ!! 「ぐぁッ!!」 ウボォーがスコップを勢い良く繰り、ノブナガの顔に雪を見舞わせる。 「テメェ…、やっぱりワザとじゃねぇか!!」 「るせぇッ!!始めたのはお前だろ!!」 「この…ッ!これでも喰らえ!!」 雪をバケツで汲み、塊で投げつける。 「うおッ!?オイ!雪を戻すなよ!!このバカ!!」 バサッ!! 「2人とも落ち着け!!」 「そうだよ!落ち着いて」 下でフランクリンとボノレノフ、上でコルトピが、何とか2人をなだめようと努める。 その光景を、じっと見つめるクロロ。 「だ、団長、オレたちも止めないと…」 不安げなシャル。一方、クロロは 「――――そうだv」 ニィvと口元に笑みを浮かべた。 |
「雪合戦?」 作業を中断させられ、再び集められた彼らは口を揃えて言葉にした。 「そう、雪合戦だ。今から、3班に分かれて雪合戦をする」 クロロが爽やかな笑顔で告げ直す。 「お前たちだって、楽しく労働したいだろ。第一、今回流星街に戻ったのは、童心に帰 る事が目的のはず」 「フィンクスたちはいいのか?」 ウボォーが、まだ屋根も見えない深さの穴に目をやりながら、意見する。 「いい」 きっぱりと、クロロは言い切る。 「よく考えてみろ。あの重さに耐えた家が現在の重さに耐えかねて潰れるか?有り得な いだろう。それに昼となった今、オレたちの家をやらない方がマズイ」 「?」 「これからが、日中で最も気温の上がる時。解けた雪が家等に染み込み、夜に凍りつき、 その時の膨張で家の組織間に隙間が出来、また昼に氷が解ける。と、結合の弱まった家 を今度こそ確実に雪が押し潰す」 「はぁ」 「逆にフィンクスたちの家は雪に包まれ過ぎている為、その心配は無いという訳だ」 「なるほど」 納得する一同。 「でもよ、無計画に雪投げ合って、意味あんのか?」 適切な疑問を口にするノブナガ。 「大丈夫だ。川を挟めばいい。そうすれば、流域付近に雪は落ちる。他にも、玉の元と なる雪はオレたちの家付近のモノ限定と掟で定めて」 「それもそうか」 「後、念能力も禁止だ。特にコルトピ、お前の能力はな」 「はい!」 全員の了解を得ると、クロロが真剣な表情をする。 「班はオレ・シャル、ウボォー・ノブナガ、コルトピ・ボノレノフ・フランクリン。対 岸にはオレとシャルが行く。お前らはこちら側で適当に距離を開け、陣取れ。いいな?」 こうして、第1回団員(一部)対抗雪合戦の火蓋は切って落とされたのであった。 |
クロロ・シャル班。 律儀に美しい雪の玉を作りつつ、シャルがクロロへ振り向く。 「それにしても、よく雪合戦なんて思いつきました…、ね!?」 声を高くして、シャルが驚く。 嬉々としたクロロの周りには、バズーカ、マシンガン、そして太いホースを大地に刺 した珍妙な機械。 「どうした、シャル?」 極上スマイル・クロロ。 「団長、貴方が用意しておられるその怪しげな機具は一体?」 「ああ、これか。これは…」 よくぞ聞いてくれたvとばかりに、無邪気に笑う。 「2年前、面白そうvと通販したグッズだ」 キラリ☆クロロの瞳が光る。 「雪合戦用マシンガンにバズーカ。そして、雪を汲み出し、様々なサイズの球へと変え る雪玉製造機だ」 「は?」 「だがよく考えれば、ココは積雪が多くない。だから、しばらく忘れていたが…人生何 が幸いするかわからないな」 バズーカに雪を込めて、クロロは笑う。 「まさか…雪合戦は…」 「コイツらを存分に活躍させてやる為だ」 (この人は…ッ) 「ま、アイツらが熱しやすい性格だったおかげだなv」 バズーカを構え、楽しげに引き金に指を運んだ。 |
一方、その頃。救出を見放された穴では、雪が奇妙にうねっていた。 ガ…ガサ!! 突如、雪の中から人の手が。そして、 「ッ…はぁ!!」 全身を飛び出させる。―――フィンクスだ。 「はぁ…はぁ…。やっと出れた…。無事か、フェイタン?」 ぼこッ!! 「無事に決まてるね」 同じく雪の中から現れ、フェイタンが答える。 「はぁ。故郷の家ン中で凍死なんて、シャレにもなんねぇよ」 冗談混じりに、笑顔を見せる。 「でも、掘た跡あるよ。皆、ワタシたちの事掘り出そうとしてくれたみたいね」 「けど途中で止めるなって感じだよな。今、アイツら何してんだ?」 遠くで聞こえる大声が、より一層フィンクスを悩ませる。 「とにかくココでるよ。雪に衝撃与えない様、気をつけて跳ぶね」 素晴らしき跳躍で、フェイタンが穴から身体を出す。後は着地のみ…だったが。 バコォォオォオォン!!!! フェイタンの身体が、直角に宙を舞った。 その顔を起点に、白く細かく輝く結晶が放射状に広がっていく。巨大な雪玉は砕け、 フェイタンの顔に存在を刻む。 ダァン!! 再び穴の底に舞い戻るフェイタン。思わぬ展開に、つい見ていただけのフィンクス。 「???」 訳がわからず、フィンクスは注意を払って、穴を登る。ソロリと目から上だけを出し、 周囲を確認する。 「!?」 驚きで顔が引きつる。 フィンクスの目には、本気で雪合戦に熱中する仲間たちの姿が映った。 「な、何だ、アイツら。オレらの救出そっちのけで、雪合戦だぁ?」 「どういう事ね…」 いつの間にか隣に来ていたフェイタンも、信じられないとばかり、覗き見ていた。静 かな怒りを瞳に湛え。 「と、とにかく、ホームで何か温かいもの食おう!な!」 焦って、フェイタンをなだめるフィンクス。 「さ。今の内にホームへ…」 行こう、と言いかけた彼の視界の隅に、大量の強大な雪玉が飛び込んだ。 瞬間的に、その顔から血の気が引く。その間にも雪玉は、高速で迫ってくる。 「逃げるぞ、フェイタン!!!!」 フェイタンの後ろ襟を掴み、音速でフィンクスは穴から適当な建物の背後に隠れた。 ドォオオォォオンッ!!!! 「はぁ…はぁ…ッ」 けたたましい爆音を、青ざめた顔でフィンクスは聞いた。 玉は、見事に彼らの元いた場所を直撃し、穴の外輪を削り取っていた。 壁に全体重を預け、フィンクスは己の無事に安堵する。 「危なかったなぁ、フェイタ…」 フィンクスの思考回路が停止する。 背を丸め、フェイタンが黙々と雪も丸めていた。 「あの…フェイタン?」 「何ね、フィンクス?」 いそいそ。振り向く事も無く、フェイタンが返す。 「一体、何を御作りに?」 「……雪玉」 いそいそ。 「あの、中に石を詰めてる気がするんですが」 まさに、おにぎりに具を入れるが如く。 「入れてないね」 「へ?」 「石は小さくてダメね。だから、建物とか機械の破片(鋭利)入れてるよ」 いそいそ。 「大分出来たし、行くよ」 「わー!待て待て!!」 多量の雪玉を抱え、戦場へと赴かんとするフェイタンを、フィンクスが引き止める。 「冷静になれ!今はホームで身体温める方が先決だろうが!!」 と、建物の影から出た直後 バコォオォオォォン!! 巨大な雪塊が、フィンクスの顔に直撃する。 バコ、バ、バコォオォオオォン!!!! 続け様3発。 「大丈夫ね?」 「うぅ…」 顔の雪を拭い、その飛んで来た方を見る。そこには、バズーカ構えたクロロの姿。他 2組は彼らに背を向けている。犯人は明らかだ。 「………フッ」 フィンクスのまとう空気が変わる。 「あのガキ…ナメた真似しやがって…」 憎悪の炎が立ち上る。 「行くぞ、フェイタン!!奴らに目にモノ言わせてやる!!」 ここに、フィンクス・フェイタンの参戦が決定した。 「あ」 湯気を放つ紅茶を飲みながら、マチが窓越しに気付く。 「4班に増えてる」 「全く。いつまで経っても子供ね、男って」 同じく紅茶を味わうパク。 男性陣とは反対に、優雅な冬満喫の女性陣なのでした。 |
再び、クロロ・シャル班。 「何だか、オレたち忘れられてますよ」 雪の壁から顔を覗かせ、シャルが告げる。 そう。フィンクス・フェイタンの背後からの奇襲、しかも具入り玉に腹を立てた他班 が攻撃をその2人に集中させ、対岸のクロロ・シャル班を忘れて三つ巴になってしまっ たのだ。 「どうします?あれでは雪合戦を始めた意義が…」 「いや、オレの狙い通りだぞ」 シャルの両手を、クロロが取る。 「言っただろう。“アイツらが熱しやすい性格のおかげ”だと。その中には、フィンク スとフェイタンも含まれる」 そのまま、シャルとの距離を更に縮める。 「な、何でくっつくんですか?」 「愛してるから」 「なッ!?」 クロロの両腕がシャルを抱き、視線を捕えてくる。 「ここなら、ホームのどの部屋からも見えない。な?いいだろ…?」 「ちょ、ちょっと、こんな極寒の中で…」 「寒い時こそ、互いの肌を重ねなければ。何なら、服着たままでも」 「いや、オレが言いたいのはそうではなく…」 必死の攻防を展開する。 「照れるな照れるな」 「照れてません」 断言。 「オレが言いたいのは、オレが本気で怒る前にフザけた真似は止めろという事です」 「フザけてないぞ。オレは何時でも戦闘可能だv」 クロロが頬をすり合わせてくる。 「だ〜か〜ら〜」 シャルの拳が、震え始める。 「ま、バレたらバレたで、見せ付けてやろうv」 ブチッv シャルの拳に、念が集中する。 「こ…の色情狂!!」 バキィィィン!!!! クロロの身体が、雪に深く刺さる。 「うぅ」 雪から這い出し、シャルへ振り返るクロロ。 「折角、忠告したのに…。オレを本気で怒らせるな、って」 指の関節を鳴らし、シャルは微笑む。もちろん瞳は、笑っていないが。 「ふふv」 この時クロロが感じた悪寒が、外の寒さに勝っていた事は言うまでも無い。 「シャル!!悪かった!オレが悪かったからぁッ!!」 巨大な雪玉から顔だけ出して、クロロは詫び叫んでいた。 念で身動きを封じられ、雪上を転がされ、気がつけば巨大な雪玉。それを今、シャル がその体格からは想像もつかない力で、持ち上げていた。 「何言ってるんです。雪合戦したかったんでしょう?激戦区に送ってあげますから。遠 慮しないで」 「いや、だって!」 クロロの視界の先、自らに迫る雪玉を拳で砕くウボォーの姿。 「ウボォーに殴られたら、死ぬ!絶対死ぬ!!」 シャルには見えないとわかっていても、首を左右に振る。 「その時はその時で、貴方の運命ですv」 「嫌…」 シャルが、ウボォーへと狙いを定める。 「さようなら」 「嫌だァアァァッッ!!」 クロロ入り雪玉が、発射される。 「ん?」 背後からの気配に、ウボォーが振り返る。 「ッ!?」 最悪の事態目前に、クロロの顔が固まる。 「砕き甲斐がありそうだな…」 拳を構えるウボォー。 「待、待て、ウボォー…!オレだ…オレが中に…」 しかし訴えは届かない。 クロロの涙が、氷の橋を生成する。 「うわぁあぁぁああぁぁッッ!!!!」 その絶叫は、流星街全土を揺るがしたという…。 |
夜。クロロは積まれた雪の影で、沈んでいた。 「死ぬかと思った…」 ホームでは昼間不在の団員含む全員が、明日のクリスマスパーティの話題で花を咲かせ ている。 「団長」 「うわッ、シャル!!!?」 突然の声に心から驚くクロロ。その場から、思わず飛び退いて。 「そんなに怯えなくても…」 「つい…」 元の位置に座るクロロ。シャルも、その隣に腰を下ろす。 「はい」 「え?」 シャルが提示したのは、お盆に乗った小さな… 「雪だるま…?」 「ただの雪だるまじゃないですよ。額に十字が付いてるから、団長ダルマ」 理解不能の展開に“?”となるクロロ。その様子に気付き、シャルは笑う。 「童心に帰るんでしょう?」 「いや、けど…どうして急に…?」 「ちょっとやり過ぎたかな、と思って」 楽しそうに、シャルが笑う。 「可笑しいですよね。さっきまでは、顔も見たくないって思ってたのに。自分の行為は 当然だ!って、貴方の今までの馬鹿を振り返って、自分を正当化させようとしてたのに」 「うぅ」 小さくなるクロロ。 「振り返るというのは不思議なもので、そうするほどに“でも、こんな事も…”って良 いトコばかり思い出して…。いつの間にか“やり過ぎたかな”と反省になってて」 「シャル…」 穏やかな、裏の無い微笑み。 「きっと、そのギャップが好きなんでしょうね、オレは」 面と向かっての唐突な告白に、クロロは顔を手で覆い、背けてしまう。 「あれ?団長、照れてるんですか?可愛いーv」 「カッコイイじゃなくて!?」 反射的に振り向き、真っ赤な顔を曝すクロロ。 「アハハ…ッ」 堪えきれず、シャルが吹き出す。 「フフ…。貴方にはいつも苦労させられてますが、そんな貴方だから…オレは惚れたん ですよ。だから」 「だ、から…?」 続きを待って、息を呑む。 「責任取って下さい」 「…………」 ドキvとクロロの胸が高鳴る。胸が苦しい。 「あ、雪…」 柔らかく、氷の結晶が降りてくる。 「やっぱり、ホワイトクリスマスですよね」 「だが、また明日雪かきしないと…」 そして、今日を繰り返すのだろうか。 「大丈夫です」 「え?」 「雪玉製造機を改造して、常に雪を川へ汲み出す仕様にしました」 流石、理系人間。 「それにずっとこんな所にいて、身体が冷えたでしょう」 含みを持った笑顔で、シャルが己の背に手をやる。 「シャル?」 気になるクロロ。シャルが微笑む。 「はい」 白い布が、ふわりと揺れた。クロロの肩に掛かったソレを、シャルが優しく巻く。 「コレは…?」 「マフラーです。しかもオレの手編み。オレって何でも出来ますから。本当は、明日贈 るべき物なんでしょうけど」 つまりは、クリスマスプレゼントらしい。 「あ…」 おかしい。そう、クロロは思う。本来、冷えるべき身体が、熱を帯びていくのだから。 「ありがとう」 「どういたしまして」 嬉しそうに微笑むと、微かに赤い頬でシャルが立つ。 「さ、冷え込む前に、帰りましょう」 シャルの足が、ゆっくり進む。 「あれ?ホームじゃないのか?」 不思議そうに、クロロが後に続く。 立ち止まり、シャルが全身で振り返る。 「貴方は、明日だけでなく、今夜も13人で過ごすつもりなんですか?」 「……なるほど」 前へ踏み出し、シャルの両手を握る。 「愛してる」 淡い光に包まれて、クロロの口唇がシャルの口唇と重なる。 「Merry Christmas」 END ☆ |
・後書き どうだったでしょうか?長い?ご、ごめんなさい…;今回はKATSU様のオーダー、 『LOVE AND PEACE!!』&『雪合戦』を目指して書いてみました!! とりあえず、平和だと思います。途中を除けば(笑) 現在は“Spiders’DAY(11/25)”の出来事(詳しくは“ジャンプ感想”&“時川近況”)のおかげで、 “団長に優しい月間”実施中なので、このSSでも結構団長にサービスしたかと思います。 それ故、本当は“団長が最凶シャルに投げられウボォーに”シーンは没にする予定でした。 でも、後輩が「ヤッちゃいましょう(笑)」と言ってくれたので、GO!!(爆) タイトルがタイトルで、時期的にも近いしと、クリスマスネタでv時川は、楽しめるかどうかわかりませんし; 4年前なのは、シズクネタ使いたかったからです。その為、旧4番&8番ボカシ…; けど、マジで彼らのクリスマスパーティは出席したいですvイヴの夜からオールなんですよv あの後、2人が家でどう過ごしたかは、皆様のご想像にお任せしますv このSSで、少しでも喜んで頂ける事を願うのみですvでわ☆ |