「酒と泪とクロロとシャル」 その夜は恒例の“仕事”の打ち上げをしていた。 シャルは、新たに酒とつまみを盗って来ると出かけたものの、本日のアジトの場所柄 の所為か、小1時間も戻るのが遅れていた。両手いっぱいに荷物を抱え、本日のアジト へ急ぐ。 「早く帰らないと、文句言われちゃう」 アジトに駆け込み、団員のいる部屋を目指す。と、かなり見覚えのある靴が階段横に。 「あれ?このブーツ、確か団長の…」 疑問が浮かぶ。 普通、部屋から離れたこんな場所で、脱いだりするだろうか。明らかに、おかしい。 「いるんですか?団長」 笑顔で近くの部屋の戸を開ける。もしかしたら迎えに行こうとしたが、自分の姿を確 認し、驚かそうと隠れたのかもしれない。 だったら、ちょっと嬉しかったり。 「団長、どこですか?」 何となく気配はあるのに、肝心のクロロの姿がない。 「団長?」 側にあったダンボール(20×30×40cm)を開ける。 「団長?」 同じくダンボール(同上)を開ける。 「団長?」 やっぱりダンボール(同上)を開ける。 「…これだけ探してもいないなんて…」 考え込む。確かに、この部屋にいるはずなのに。 カタカタ。 「!」 背後で、音がした。 カタカタ。 「あ!団長、そこですか?」 ごみ箱サイズの小物入れが、震えていた。 「見つけましたよ、団長」 シャルは満面の笑顔でそのフタを取ったその瞬間、 「ヤッホーーー、シャル!おっかえりー!!」 「うわぁああぁぁッッ!!」 両腕を広げ、服を乱し、額布を酔っ払いの様に横結びで頭に巻き、顔を真っ赤に、だ らしなくゆるみきった笑顔を浮かべたクロロが飛び出てきた。 「会いたかったZO、シャル!」 グッ、と親指を立てるクロロ。 「誰だ、アンタッ!?」 「ヤダなぁ。シャルの愛しの幻影旅団長、クロロ・ルシルフルじゃないかv」 「嘘だッッッ!!!!」 シャルは顔を青ざめさせて泣いていた。 |
「どどど、どうして!?一体、一体どういう飲み方をしたら、こんな事に?」 シャルは悩んだ。確かに、自分がアジトを出た時既に、それなりに飲んでいた。が、 シラフに近い状態だった。それが何故。 本来、旅団ともあろう者がここまで酔う事など、滅多どころか、絶対に有り得ない。 いくら酒を飲んでも、心はどこか正気を保ち、酔う事など出来ないのに。 シャルに疑問に答える様に、クロロはさらにだらしなく笑い、説明する。 「いや、“酒池肉林”という事は本当に可能なのかを確かめようという話題が起こり、 お前の帰りも遅かったから、シズクに命じて、デメっちにありったけの酒を吸わせて来 させ…」 「はぁ…」 マズイ。 勝手に愛称を付けてる辺り、ふざけでも何でもなく、泥酔している。 「一気に吐き出させてみたら、あまりの急流に全員溺れてしまって…」 「全員!?」 「全員」 こくり。うなずくクロロ。 「そしたら、何かすごく身体が軽くなった気がして、お前にもこの気持ちを分けてやろ うと…」 「いえ。軽くなったのは貴方の身体じゃなくて、理性です」 「あっはっはっはv相変わらずシャルの冗談は面白いなぁv」 「冗談じゃなくて本気です」 どうしよう。シャルは真に思った。クロロの話は本当だろう。ということは同じく、 文字通り“酒に溺れた”団員が上の部屋にいるはず。 本日参加した団員は、ウボォー、ノブナガ、フィンクス、フランクリン、シズク、マ チにシャルと7人。それにクロロを加えて8人。 自分1人では到底、面倒見切れない。 「……あ!そうだ!シズクにみんなの酔いを吸ってもらえばいいんだ」 生き物以外は、何でも吸えるのだし。 「さっ、団長。オレと一緒に上に行きましょう」 「シャル〜v」 抱き。シャルに抱きつくクロロ。 「ちょ、ちょっと団長…ッ。や、止めて下さい」 「シャル〜v」 そのままシャルの背中にしがみつき、足までシャルに巻きつける。ハタ目には巨大な “だっこちゃん人形”。 「お前って抱き心地イイな。柔らかくて」 「うわわわわわ。みっ、耳に息が、息がかってますっ!」 「照れるな照れるな。いや、照れた顔も可愛いがv」 「ひゃっ!やっ、止めて下さい!わわわわ…」 背筋に気味の悪いゾクゾク感を受けながらも、シャルは半ば“子泣きじじい”と化し たクロロを背負いながら、大広間目指して階段を登る。 「やっ、…ちょっ、どこを触って…ッ。止めて下さ…ッ」 前に回された手がさわさわと動く。 「だって、シャルが可愛いから、つい…」 「うわわわわわ」 ヤバイ。 シャルはかつてない危機感を覚えた。背中のクロロの所為で、思うように動けない。 このままでは、自分は大広間まで辿り着けないだろう。 そうなれば、この、ますますグレードUPするセクハラに耐えなければならないのだ。 「そっ、そうだ。シズクに来てもらおう」 ネコケータイを取り出し、シズクの携帯に電話する。 『もしもし?』 『あっ、シャル。どうしたの?』 『う、うん。あの…、うわぁぁ…ッ』 保留にして、シャルは瞳を潤ませて震えた。 「団長!何してるんですかッ!?」 涙声で、叫ぶ。 クロロは、シャルの上着の前を開きに、いや、脱がしにかかっていた。 「いいじゃないか。減るモンじゃなし」 「時と場所を考えて下さいッ!」 そこでふと、意外と冷静にシャルは気付いた。 (いけない!もし今シズクを呼べば、確実にみんなもついてくる。こんな団長の姿を見 られたりしたら、団長としての威厳が…。それに最悪、旅団解散問題に発展しかねない。 サブリーダーとして、それを許してもいいのか!?いや、良くない!/反語) そしてシャルは、静かな悲しみを映す瞳で保留を解除した。 『もしもし…』 『何かあったの、シャル?』 『ううん。何でもないんだ。オレ、もう帰るから。楽しんでね』 『うん。わかった。じゃあねー』 ピッ…♪ シャルは、ケータイを切る。 「…って、どっ、どこ触ってるんですか!?」 クロロはシャルの上着に手を滑り込ませ、その肌を直に触りまくっていた。 「シャル〜v」 ぞぞぞぞぞぞぞぞ。 全身を、鳥肌の立つ様な寒気が駆け抜ける。 「うわぁああぁぁぁあぁッッッ!!!!」 5枚の天井それぞれに同じ人型を残し、クロロが夜空を流れた。 「…………」 ぐったりとしたクロロの腕を自ら首に回し、寄り添わせて歩く。 こんな状態のクロロを1人放っておく訳にもいかず、家に送ろうにも、団員にすら手 がかりを掴ませない男をどこに送ればいいのかわからず、結局、シャルは自宅に連れ帰 るしかなかったのだ。 「オレ…よくサブリーダーやってるなぁ…」 その声は、泣いている様にも聞こえた。 |
シャル宅。 「ふぅ。まだ寝てる」 玄関を開け、クロロを連れて入る。 「フフ。ホント、よく寝てる。オレって、愛されてるなぁ」 優しく微笑む。 常に警戒を怠れない旅団の、その団長が、安心して寝顔を見せてくれる。それが、シャ ルはいつも嬉しい。 常に行き着くのは、シャルもクロロが好きだという事実のみ。 「後はこういう所を無くしてくれれば、文句ないのに」 笑いながら、布団を敷くまでと、クロロをソファーに寝かせようとしたその時、 「えっ?」 急に手首を引かれ、シャルはクロロの下敷きとなる。 「シャル…」 「だだだ、団長!?い、一体いつから目を覚ましていたんですか!?」 「そういう細かい所は気にするな」 「細かくないです〜ッ」 クロロはまだ酔っていた。 「では、いざ」 服を脱がしにかかるクロロ。 「いいい嫌だ〜ッ!!」 顔を真っ赤にして訴えるシャル。その必死の訴えにクロロは… 「ひどいぞ!期待させておいて!」 泣いた。 「期待って何ですか!?」 「普通、男を部屋に連れ込むのは、コトに及ぶ覚悟があるからじゃないのか!?」 「その“普通”は団長だけの“普通”です!」 服の乱れを直しつつ、反論する。 「どうしてわかってくれないんだ!オレは、こんなにもお前が好きなのに!!どうせ初 めてじゃあるまいし!!」 「だから時と場所を考えて下さい!!」 「じゃ、ベッド行くから」 「嫌です。団長、酒臭いし」 きっぱりv 「シャル…。お前、オレの事嫌いなのか?」 「嫌いじゃないですよ」 「でも好きでもないんだろ!」 その強い口調に、泥酔状態だとわかっていてもムカッとくるシャル。 「好きですよ!いつも言ってるでしょう!?一度でもオレが団長自体を嫌いだって言っ た事がありますか!?ないでしょう!!そういう所は、大ッ嫌いですけど!!」 「今、嫌いって言ったじゃないか〜ッ!!」 「団長自体を嫌いとは言ってないでしょう!!よく聞いて下さい!!」 「嘘だ!!オレの事、本当は嫌いなんだぁあぁあぁぁぁッッ!!!!」 「団長ッ!!!?」 クロロは顔を手で覆い、泣きながら部屋から出て行った。 (マズイ!あんな状態で街に出られたら、明日の朝刊の一面記事を飾ってしまう!!) 怒ってる場合ではないと、シャルは押入れからある物を取り出し、ベランダに出る。 ベランダから見下ろす。マンションから出る場合、必ずこのすぐ下を通過しなけれ ばならない。 シャルは11階から、ソレを構えてクロロを待つ。 そして、小さな動く黒い物体が見えた。 「はッ!」 物体に向かってソレを放つ。ソレは、とても長い鎖の付いた巨大なJ字型針。少し して、シャルに微かな悲鳴と手ごたえが届く。 シャルは辺りを見回し、気配が無いのを確認すると、 「えいッ!!」 一気に鎖を引き上げた。すぐに、ぐったりとしたクロロが姿を現す。 「おかえりなさい、団長」 シャルの笑顔は、冷たかった。 |
「あ…、あの、シャル……?」 クロロが、とても脅えた声で恋人の名を呼ぶ。 今彼は、逆さで宙吊りにされていた。おまけに、その下には水風呂が広がる。 「ど、どうしてこんな事に、がぼごぼごぼごぼ…ッ」 水に突っ込むクロロ。クロロをぐるぐるに縛る縄の端は、イスに足を組んで腰掛け、 読書中のシャルの手にあった。 シャルはにっこりと微笑むと、縄を引く。クロロが水上げされる。 大量に水を含んだコートからはザバザバ水が落ち、髪も同様に水を滴らせている。 「オレは、一刻も早く団長に酔いを覚ませてもらいたいだけなんです」 「でっ、でもコレ、水責めって言うんじゃ、がぼッ、ごぼごぼ…ッ」 シャルが縄を放す。 「嫌ですね、団長v」 そして極上の、天使の冷笑のまま優しく告げた。 「ほら、よく“酔いを覚ますには水をかけるか、飲ませるか”をするでしょう?コレ は、その双方を1度に行える、とても効率的な手法なんですよv」 「シャ、シャルッ、がぼごぼごぼごぼ…ッ」 その手法は、クロロの意識が完全に遠のくまで行われたという。 和室に敷かれた布団に、クロロは寝かされていた。 その額に冷たく濡らしたタオルを置いて、シャルはため息をついた。 「折角の貴重な時間なのに…」 どんどん、情けなく夜は更けていく。 「少しやりすぎたかなぁ…。つい、頭に血が昇っちゃって…」 反省。 「嫌いだなんて、思った事はないのに」 濡れた髪を整えてやり、シャルはその部屋を出た。 「さて、朝食の準備をしよう。どうせ、明日は二日酔い確定だろうし」 脳内で、二日酔いに効く献立を組み立てていく。 「……何て謝るかも考えよ」 |
しばらくして、シャルはやる事全てを片付けた。既に日付は変わっている。 そろそろ目を覚ます頃だろうかと、クロロの様子を見に行くシャル。 「団長」 ふすまを開ける。しかし、そこにクロロの姿は無い。 「団長!?」 気配も無い。シャルは焦る。 「いっ、一体どこに…?」 おろおろ。 とりあえず、耳と感覚を澄ませてみる。 ガサガサ。ゴソゴソ。ゴロゴロ。 「……?」 妙な物音が、隣の、自分の部屋から聞こえてくる。 ぞく。背筋に、嫌な寒気が。 シャルは迷いを吹き飛ばして、自室の扉に手をかける。今まで、こんな思いで自室に 入ろうとした事があっただろうか。いや、ない。(反語・その2) 「団長!?」 ガチャリ。 「団ちょ…うッ!?」 言葉を失うシャル。クロロは… 「ふふふふ、シャ〜ル〜ッvvv」 ごろごろ。 シャルのベッドの中でだらしなく笑い、シャルの枕を抱いて転がりまくっていた。 「嗚呼…、シャルの香りとぬくもりが伝わってくる…v」 その光景は、“標的の部屋に侵入したストーカー”の図にしか見えなかった。 「…………」 シャルは、再び絶対零度をも連想させる冷たさを瞳に灯す。 「起きて下さい、団長v」 笑う。穏やかに、それは穏やかに。 「シャル、一緒に寝るか?」 ハイテンションに立ち上がるクロロ。 ぷす…ッv クロロの額のイレズミの中心に、アンテナをブッ刺すシャル。 「さぁ…、イイ子だから布団で大人しく寝てましょうねぇv」 「シャッ、シャル!お前ッ、オレに“ブラックボイス”を!かっ、身体が、身体が勝手 にーーーッ!!!!」 ストーカー、もとい、クロロの泣き声は静かに響き渡りゆくのだった。 |
強制的にクロロを寝かせてから1時間後。 「う、う〜ん…。シャル…?」 「あ、お目覚めですか、団長」 「ああ」 ズキ。クロロの頭を痛みが襲う。 「ッ…」 そして、背中と額にも。 「あ、あれ?オレは一体、何をしてたんだ?」 ふとした小さな疑問。その問いにシャルは、 「聞かない方が幸せですよ。っていうか、聞いたら貴方、一生立ち直れません」 顔を背けて答えた。 「ええっ!?」 驚くクロロ。しかし、彼にはもう1つ疑問があった。 「そ、それと…何でオレはぐるぐるに縛られてるんだ?」 「オレの平和を守る為です」 「本当に何したんだ、オレッッ!!!?」 「いいから、さっさと寝て、酔いを完全に覚まして下さい。じゃないと、一生口ききま せんから。全部、“ブラックボイス”経由で会話します」 「そんなッ!?」 流石にショックらしい。 「…なら、せめて添い寝くらい…」 「嫌です。そんなストーカーの隣で寝る様な真似」 かなりキッパリv 「シャル…、愛が感じられないぞ……」 寂しげにつぶやく。 「シャルぅ…」 「はいはい。愛してます、愛してます」 「で、出来ればもう少し溜めてから……」 じゃあ、とシャルは呆れた息を吐くと同時、 「愛してます」 クロロの口唇に軽く自らの口唇を重ねた。 「これで文句ないでしょう」 「そ、そんな安売りみたいに…」 「ワガママすぎますよ」 素っ気無く言い放つと、そのままシャルは部屋から出て行った。 「シャル…」 不機嫌の原因がわからず、どうしようと悩みの無限地獄に陥るクロロを残して。 |
「はぁ…。オレも大人げなさすぎたかな…」 大量に盗った酒を消化する、という言い訳の下、シャルはビール缶をまた1つからに する。 「でも…元を正せば団長が…」 新しい缶を開ける。 「だけど…酔っ払いに理屈は通用しないって言うし…」 何度も同じ自問を繰り返す。その繰り返しの最後は決まっていた。 「何でこんなに好きなんだろ、あの人のコト…」 感傷的になりすぎているのだろうか。こんな馬鹿げた事を問うなんて。 ヒジをつき、手の甲で頬を支えて。バカみたいにため息ばかりつく。 「団長……」 「呼んだか?」 「うわぁぁッ!!」 イスに座るシャルの顔のすぐ側に、クロロの顔が。しかも縄でぐるぐる巻きのまま。 「シャクトリ虫ですか、貴方はッ!?」 「誉めるな、誉めるな」 「まだ酔ってますね」 シャルは怒るとも呆れるともつかない顔でツッ込んだ。 が、シャルの感情を他所にクロロは、シャルの見慣れた笑顔を見せる。 「それはどうかな」 パラリ…。ものの見事な縄抜けを披露して。 「1人で随分飲んだんだな」 そう微笑むと、シャルの隣に座る。 「誰の所為だと思ってるんです?」 「誰の所為だ?」 「…………」 心から呆れる。クロロは、いつもは嫌になるほど鋭いくせに、時々妙に鈍い。 しばらく無言の空気を放った後、シャルは、静かに口を開いた。 「今から言うのは、オレの独り言ですから。次に目を覚ました時には、全部夢に流して しまっている様な…。絶対に、聞かないで下さいよ」 もちろん、その言葉のどこにも本心は無い。 「オレ…、いつも、独りになるといつも、貴方に愛されたくなかった。貴方なんか好き にならなければ良かった。って、そう思ってるんです」 「シャル?」 「好きなのに。何もかも全て。何故そう思うのかわからないのに、どうしようもなく好 きで。けど素直になれなくて…」 切なさで身を飾り、シャルは言葉を紡ぎ続ける。 「貴方に触れられると嬉しい。貴方に名を呼ばれ、貴方が傍にいて、共に在れる事が、 例え様もなく嬉しい」 白い喉を、酒が潤す。 「でも、傍にいてくれなくていい。触れなくても、名を呼んでくれなくてもいい。憎ま れたって、殺されたって。ただ、貴方が生きてさえくれるなら」 自らの目元を、片手で隠すシャル。 「どんなに辛いと、貴方が苦しんでも。ただ一瞬の笑顔の為に、生き続けてくれるなら」 泣いているのだろうか。 「それだけで、オレは狂いそうなほど幸せになれる」 クロロはもどかしく思う。傍目にはわからない。こんなに傍にいるのに。 「わからないでしょう。普段のオレからじゃ」 「シャル、オレ…」 「これは独り言です。オレにしか、聞こえるはずのない」 強く、クロロの言葉をさえぎるシャル。 「いつも後悔する。本当は、あんな事言いたかったんじゃない。あんな事したかったん じゃない、って。オレ、本当に愛されてるか不安で、かまって欲しくて、でもオレへの イメージを壊したくなくて、態度に出せない。その後、後悔するとわかっていても」 自らを嘲る微笑みを、クロロに向ける。 「いつもどこかで疑ってる。オレだけが、貴方に愛されてるという自信がないから。そ んな自分が嫌いで苦しいんです。罪悪感に付きまとわれて」 空になった缶が、テーブルに転がされる。 「好きなのに、上手く思いを言動に乗せられない事が、苦しい。いっそ、貴方に愛され なければ良かった。ただ想っていたあの頃の方が、よっぽど気が楽だった。貴方を好き になんてならなければ、こんな想い、知らずにすんだのに」 「シャル…」 その愛しい両肩を抱き寄せるクロロ。 「酒の所為ですから。酒が入ってなきゃ、こんな独り言、絶対に言わない」 「わかってる。独り言、だろ?」 シャルの頬に手を添えて、クロロは己の口唇をシャルの口唇に近づける。 「ん…」 素直に、シャルはそれを受け入れる。 「……嫌がらないんだな」 「酒が入ってるから素直でしょう?」 「まさか。お前はわかりやすいよ。オレが、バカなだけだ」 可能な限りの愛しさを込めて、素直な気持ちを告げる。 シャルは、その優しさが心地良かった。 ずるく思えるほど、クロロの声はいつだってシャルの不安を打ち消してくれる。 「いいんですよ。どうせ目覚めた時には忘れてる事ですから」 もう大丈夫だと、シャルは笑う。心から、感謝と安堵を込めた満面の笑顔で。 そしてあたたかい腕から離れ、クロロの太ももに座り替える。今度はシャルから抱き しめて、自らの胸にクロロの顔をうずめさせる。 「……ここでシてもいいですよ。今なら、酒の勢いって事で許してあげます」 「……それはそれは。その寛容さに、感謝します」 笑いあう。 視線を重ね、今度は深く口づけを交わす。 「…ぅッ。ぁ…ん…」 次第に、シャルの身体を熱と息苦しさが支配していく。 あまりの息苦しさに逃れようとする舌を、クロロは舌でからめとる。同時にシャルを 抱き支えていない手を服の中に滑りこませ、2重の甘い痺れをシャルに与えていく。 力の抜けたその両手が、反射的にクロロの肩を押し退けようとする。 「もッ、ヤダ…ッ」 ようやく解放されたシャルの口唇から、上がった息と共に無意識の言葉がもれた。 そのつぶやきに、クロロはからかう様な笑みを浮かべる。 「嫌か?なら、止めるか?」 答えを確信しきった、イタズラを仕掛けた子供の様な笑顔。 「も…う、ホン…ト、意地の…悪い……ッ」 そしてまた、何度交わしても飽きる事の無い、優しいキスを2人は交わした…。 |
「ん……?」 心地良いぬくもりを感じながら、シャルは目を覚ます。 「えーと、オレはどうして和室で寝てるんだっけ…?」 眠りの足りない目をこすり、身体を起こす。 隣で眠るクロロの姿に、瞬時に疑問の答えは思い出された。 「……うわー…。オレ、凄い恥ずかしい事言っちゃった…」 別の意味で身体が熱くなる。 「ともかく、起きて朝食の準備を…」 布団から出ようとしたその時、 “せめて添い寝くらい…” シャルの脳裏に言葉が甦る。 何とも言えない表情で、気持ち良さそうなクロロの寝顔を見つめる。 (…朝食は、後は温めるだけですぐ出来るし、オレも寝足りないし、今なら安全だろう し……) 起こした身体を横たえ、綺麗な黒髪を撫でる。 (ま、添い寝くらいなら) 機嫌良く、シャルは微笑んだ。 その後、クロロはというと… 「シャル〜!頭が、頭が痛い〜ッッ!!ぁうッ!!」 「もうッ!自分の声で頭痛引き起こしてどうするんですかッ!?」 ピーピー泣くクロロに、シャルは呆れて答える。 「うぅ…。シャル〜、トマトジュース…」 「はいはい」 しっかり、二日酔いにかかっていたのであった。 END ☆ |
・後書き ・ごめんなさい。本当に、心から謝せて下さい;(最近、始まり方同じ…;)何故なら、ユウカ様のオーダー、 『酒に酔った団長を介抱するシャルで!またラブ甘でお願いしますv』を、 かなり守れませんでした;(死)全然ラブ甘じゃなかったです…;すみません; おまけに団長を壊れすぎ?(←何で疑問形!?)本当に、18禁セクハラ指定生物と化してました…; で、でもっ、軟体動物になるくらいの泥酔状態って事でOKでしょう!!(←必死;) シャルが団長を自宅に連れ帰った時、シャルの機嫌が直ってるのは、 それまでに距離と時間がかかったのと、団長が(気絶の為)大人しくしてたからです。 基本的にというか、やはりシャルは団長に惚れてますからv だからってリビングで…、みたいな気はありますが;多分、途中で布団に移動してるかと(苦笑) それにしても、今回は3人目の時川版シャル、最凶シャルが初お目見えです。どうでしたか? これからも最凶シャルは出てくる予定です。その分、団長が情けなくなります(笑) 少しでも喜んで頂けたら感無量です!!そうなる事を、心よりお祈りしますvでわv |