「例えば夏カゼをひいたら」

 その日は、風と雨音のひどい、嫌な天気だった。
「たまには雨もいいけど…、これだけひどいとなぁ…。風もうるさいし」
 空調のきいたリビングのソファーにもたれ、読みかけの雑誌を閉じる。
「こういう日に限って、事務もないんだよねぇ…」
 ここでいう事務とは、クロロの飽きた宝の売却や、仕事に参加した団員への報酬配分
等をまとめる旅団関連作業を指す。
「てるてる坊主でも作ろっかなぁ」
 冗談混じりに、シャルが腕を高く上げ、背筋を伸ばした時だった。
 ピンポーン、ピンポーン……♪
 インターホンが、鳴った。
「あれ?誰だろ?こんな日に珍しい」
 しかし、鍵を開けて入ってこないという事は、団員ではないのだろうか。
 そう考えながら、シャルは戸を開ける。
「どちら様ですか?……って」
 開けた途端、シャルに倒れかかってくる来客。その姿に、驚きを隠さなかった。
「団長!?」
「シャル……」
 弱々しい声で、クロロはシャルにもたれかかる。
「苦しい…………」
 そう言ったクロロは、顔を紅潮させ、全身は雨に濡れて冷え切っていた。
「まっ、まさか団長…ッ!?」
 額に触れると、瞬間的に手を引いてしまうほど、熱い。
「熱があるじゃないですか!とっ、とにかく、早く部屋の中へ」
 シャルは今にも倒れそうなクロロの身体を支えながら、部屋へと連れて入った。

 手際よく、和室に布団を引いて、着替えさせたクロロを寝かせる。氷枕と冷たく濡ら
したタオルをあてがい、少しでもクロロの苦痛を和らげようとする。
「大丈夫ですか、団長?」
「全然大丈夫じゃない……」
「まぁ、そうでしょうけど」
 幻影旅団の団長が、こんな状態にまで陥ったのだから。
「でもどうしてですか?今まで、こんなにひどい症状になった事、なかったのに」
「そうだな、おそらく……」
 クロロは思い起こしながら話す。
「さすがにそろそろ筋トレしないと、身体がなまるなーと思って、古き良き日本の歴史
にのっとって全身強化ギブスを着け、タイヤを引いて荒野を走り、ろくに汗も拭かずに
腕立て、腹筋、背筋をそれぞれ2万回ずつ行って、その時少し頭痛がしたんだが、気に
せず滝に打たれていたら本格的に気分が悪くなって、どうしようもなくなったので海峡
数万キロを(クロールで)泳いでようやくここまで来た、というのが原因かと…」
 予想不可の原因に言葉を失うシャル。
「そんなに感心しなくても……」
「呆れてるんですけど…」
「だって……」
 訴えかける様な瞳で、シャルを見つめる。
「お前にしか、こんなオレの姿を見せたくなかったからな…」
「団長…」
 呆れは一転、感動へと移っていく。
「そこまでオレのコトを……」
 クロロの想いを受けて、シャルは決意を固める。
「わかりました。必ず、オレが団長を完治させてみせます。団長がココにいる事、誰に
も知られる様な真似はしません」
 優しく微笑みかけ、シャルはクロロの手をとる。
「アナタが治るまで、ずっと傍にいます」
 こうして、シャルの献身的な看病が始まったのである。

 

(ああ……)
 天井を見つめながら、苦しいながらもクロロの心は弾んでいた。
(シャルがあんなに優しくしてくれるなら、熱を出すのも悪くないなぁ…
 不謹慎な幸せをかみ締める。思わず、顔がほころびっぱなしになる。
「ああ、シャル〜vvv
「はい、呼びましたか?」
 ビクゥッ!!
 ふすまを開けて、エプロン姿のシャルが笑顔を見せる。
「い、いい、いや、べべ、別に…」
 布団を頭まで被り、笑顔を隠す。
「そうですか…?でも苦しかったら、どんなにささいな事でも言って下さいね」
 にこ。
 シャルの慈愛に満ちた微笑みに、クロロはドキッとしてしまう。
「あ、おかゆ作ったんで、持ってきますね」
「え…?」
「食欲なくても、食べて下さい。そういう時ほど、無理にでも食べないと」
「そうじゃなくて…オレの為……に?」
「当たり前でしょう。オレが自分の為に作って、どうするんです?」
 おかしな事を聞くんですね、とシャルは笑ってキッチンへと向かっていった。
(ああ……)
 心で、自らの涙に溺れる自分の姿を想像して感激するクロロ。
(カゼ、万歳……vvv
 本気で、そう思った。

 シャルはすぐにお盆を持ってやって来た。
 おかゆとコンソメゼリーが、病体にも食欲をそそらせるほど、五感に訴えてくる。
「はい、ちょっと、腰浮かせてください」
 そう言って、背もたれのついたクッションにクロロをもたれかけさせる。そしてその
背に、カーディガンをかける。
 さらにミニテーブルを、クロロの前に置く。それからお盆を乗せる。
「はい、どうぞ」
「あ、あの、シャル…、その…な」
「?」
 ただでさえ至れり尽せり。が、“遠慮”なんて文字が己の辞書にはない、というか、
あれば“幻影旅団”の団長なんてしていないクロロは、一歩突っ込んだ要求をする。
「食べさせて…欲しいなぁ、なんて」
 シャルの表情が固まる。
「…………ダメ?」
「えッ、あ、あ、あああ、あの……」
 じーッ、とシャルにキラキラ視線攻撃を浴びせるクロロ。
「シャル……」
「……わ、わかりました」
 意を決して、シャルはうなずいた。
「オレに出来る事なら何でもします。それで少しでも、団長の気分が楽になるのなら」
 さじを手に取り、シャルはそっとおかゆをすくう。
 ふぅー、と息を吹きかけて熱を冷まし、クロロの口元へと運ぶ。
「はい、どうぞ」
「あ、ああ……
 顔をさらに、真っ赤にしながら、クロロは食べる。
「美味しいですか?」
「それはもう…
「では次を。はい、団長」
「…………
 クロロは、あまりの幸せに目を開けたまま意識を彼方へと飛ばしそうになるのを、懸
命に、堪えるのであった。

「ごちそうさま」
「ふふ。食欲があるのは何よりです」
「それはお前の手料理の上に、食べさせてもらえるなんて、かなり幸せすぎる思いが出
来るんなら……、じゃなくて…」
 自業自得で高熱出して、それで幸せだなんて言った日には、シャルを本気で怒らせか
ねない。怒らせないにしても、シャルに悪い事に変わりはない。
「何でも……ない…」
「そうですか?」
「ああ、もちろん」
「それならいいんですけど…」
 どこか納得いかない様子を見せながらも、シャルはコップに水を注ぐ。
「シャル…それは……?」
「薬ですよ。食後30分以内に服用しないといけませんから」
 またもクロロに、不謹慎な考えが、というかお約束が過ぎる。
「出来れば、口移し希望なんだが……」
「え?く、口移しですか?」
「ああ」
 どうせ口唇を重ねあう行為は初めてじゃない。元々そういう関係なのだし。
「でも……」
 戸惑った様なシャルの表情。
「粉薬ですよ、コレ……」
(そんな!!!!)

 しかしクロロはめげない。
「シャル…オレのコートを見てくれ」
「コートですか?」
 部屋にかけられたクロロの逆さ十字プリントコートに近づくシャル。
「そのコートの右内ポケットに…」
 言われた通り、右内ポケットを探る。すると、何やら感触が。
「錠剤が入ってる」
 シャルの手には、まだ封の切られていない風邪薬の箱。
「団長……。ずいぶんと用意がいい気がするのは気のせいですか…?」
 その声色は、ちょっと冷たかった。

 

 夜も深まり、すっかり暗くなった室内で、クロロはまだ起きていた。
「はぁ……」
 寝付けない。
「そりゃ、中途半端に寝たり起きたりすればな…」
 身体が火照っているというのも手伝ってなおさら。
「団長、起きてたんですか?」
 ふすまが開き、光と共にシャルが顔を覗かせる。
「シャル。どうしたんだ?」
「いえ、氷枕の氷を入れ替える頃だと思って」
 クロロの枕元に座ると、上手に、そうとは感じさせずに氷枕を取る。
「ダメですよ、ちゃんと寝ないと。それだけ治るのが遅くなりますよ」
(そっちの方が好都合なんだけどな…)
「?どうかしました?」
「えっ?い、いや、別に……」
 シャルは安堵を与える微笑みを浮かべ、クロロの頬に触れる。
「早く元気になって下さい……」
「…………」
 驚きに、クロロの瞳が大きく開く。
 優しいくちづけ。シャルからクロロに。
「オレにうつせば、それだけ早く治りますから」
「シャル…」
「アナタの代わりの苦しみなら、オレは喜んで引き受けますよ」
 少し照れた様に、微笑むシャル。
 クロロは上手く思考回路の機能しない頭が、さらに狂っていく。
「あの、じゃあシャル……、大変ぶしつけで申し訳ない上に、かなり無理があるかもし
れないんだが……少し頼みたい事があるんだ………」
「何ですか?何でも言って下さい」
 再びコートを指さすクロロ。
「そのコートの左内ポケットに……」
「あ、はい。左内ポケットですね」
 急ぎ、クロロの指示した箇所を探るシャル。
 またも、何やら感触が。しかも先ほどよりも大きい。
「メイド服一式があるから、それ着て看病してほしい…………」
 シャルの手には、綺麗に透明パックに包まれたメイド服セットが。
「団長…。オレ、アナタのコートの仕組みがわからないんですけど…」
 その声色は、やはりちょっと冷たかった。
「シャル、頼む…。一生のお願いだ……」
「そのセリフ、2週間前にも聞きましたけど…?」
「シャル〜…」
 訴える様な、クロロのキラキラ視線攻撃第2段。
「……はいはい」
 呆れにも取れる返事をして、シャルは部屋から出て行った。ちゃんと、氷枕とメイド
服セットを持って。
 シャルが戻ってくるまでの時間、クロロは今まで以上に落ち着きがなかった。
(あんな要求まできいてくれるなんて…。いつもなら、絶対5時間はネバらないときい
てくれないのにな……)
 実は相変わらずの高熱の割に、大分苦しさは引いていたりする。
(今度…旅行にでも誘って、楽させてやろう…)
 じゃあ旅行先はどこがいいかな、とクロロが考えを巡らせると、
「団長……」
 ふすまの向こうから、シャルの声が聞こえた。
「こ、コレで…ッ、い、いいですか…?」
 メイド服シャル。
「…………
 幸福。
 クロロの心境を最も簡潔かつ的確に表す言葉が、この2文字だった。
 見とれるクロロ。必死で鼻からの流血を我慢する。
「あの、氷枕……」
 顔を赤くして、シャルはどこかぎこちなく氷枕を頭の下に入れる。
「シャル……vvv
「は、はい?」
 重い身体を、欲望の助けを借りて起こす。
「好きだ…」
 もたれかかる様にして、シャルを抱きしめる。
「シャル…」
 がしり。強くしっかりと、メイド服を握りしめるクロロ。
「な…、何ですか?」
 そして素早く、
「好きだーーーーーーッッッ!!!!!!!!」
 熱に浮かされた身体もなんのその、クロロは布団にシャルを押し倒す。
「うわぁぁぁッッ!!!!」
 突然の事に、シャルの身体は反射的に反応してしまう。
 ごん
 シャルの見事な巴投げがきまり、柱へ頭を食い込ませてしまうクロロ。一応、病人な
ので、普段ならばたやすい受身もとれなかったのだ。
「だッ、団長ーーーッ!!」
 瞬時に青ざめた顔で、柱の側に小刻みに伏しているクロロへ駆け寄る。
「ゴッ、ゴメンナサイ!オ、オレ、病床の団長に何て事を…ッ!!」
 クロロの身を抱き、心から詫びる。
「いや、いいんだ…シャル……」
「でっ、でも、オレ…ッ。ゴメンナサイ…ッ」
 オロオロ。半泣きで必死に詫びる。
「なら…、同じ謝ってくれるなら…“申し訳ありません、ご主人様”って言ってくれ…」
「はっ、はい!」
 自らのしてしまった行為に、シャルは冷静さを欠いていた。その為シャルは、クロロ
の言葉の意味をあまり理解しない内に、うなずいていた。
「も…ッ、申し訳ありません、ご主人様…ッ!!」
(ああ…ッ!!)
 クロロは思った。
(神様…オレ……)
 シャルの声が、どんどん遠くなっていく。
(もう死んでもいいです……)
 がくり。
「だッ、団長ーーーーーッ!!」
 クロロは、この上なく幸せな笑顔を浮かべたまま、シャルの腕の中で意識を失った…。
 ちなみにこの一連の行動を、後にクロロ自身は“あの時、オレには何か悪いモノが憑
いていたんだ”と弁明したという。

 

 真夜中の午前3時過ぎ。
 クロロは、やっぱり眠れなかった。
(う〜ん。さすがにもう寝ないと、朝がきついよな…。だが、寝たり起きたりの繰り返
しで、眠気なんてほとんど沸き起こらない…)
 正確には、“意識を失ったり”なのだが。
(ここはやはり、お約束に従うしかあるまい…)
 冴える目を閉じる。それからクロロは数える。
(クモが1匹、クモが2匹、クモが3匹…――――――――)

 クロロの心象風景。
 その中でクロロは、次々と現れる12本足のクモにどんどんまとわりつかれていく。
その内、クロロの全身がクモに覆われ、黒い塊へと化していく。
 うじゃウジャうじゃウジャ……。

(気持ち悪いわぁぁああぁぁぁあぁッッッ!!!!)
 ガバッ!!と起き上がるクロロ。
「はぁ、はぁ、はぁ…ッ」
 今の想像を振り切ろうと、首を左右させる。
(も、もっと、心癒されるものを考えよう…)
 身体を倒し、心を落ち着け目を閉じる。
(シャルが1人、メイド服シャルが1人、ウェイトレス風シャルが1人、ナース服シャ
ルが1人、ピンクハウスシャルが1人、ウエディングドレスシャルが1人……)
 クロロの脳内で繰り広げられる、シャルのコスプレパレード。
 それは、シャル本人に見られた日には軽く冥王星辺りまで飛ばされてしまうに違いな
い、いかがわしい妄想へと発展していく。確かに、クロロには癒しなのだが、
(逆に興奮して寝れるかぁぁあぁぁあぁああぁぁッッッ!!!!)
 ガバァッ!!
 先ほどよりも激しい勢いで起き上がる。布団まで蹴り飛ばして。
「どうかしましたか、団長!?」
 深夜の物音に、シャルが部屋に飛び込んでくる。
「!?」
 布団はふすま際で丸まっており、クロロは服を乱し汗まみれ。
「な…ッ、何が…あったんでしょう…?」
 その1言を、どうにか押し出すシャル。
「え、あ、いや……ハードな夢(妄想)を少々……」
 ごまかす。
「そ、そういえば、シャル、起きてたのか」
 話題を転換する。
「はい。あ、すみません。傍にいなくて。お風呂に入っていたものですから」
「こんな時間にか?」
「ええ。団長が良く眠っていたので、少しなら傍を離れても大丈夫だと思って…。本当
にすみません。目覚めた時に、傍にいられなくて」
 飛ばされた布団を、クロロに掛け直し、タオルでその汗を拭う。
「じゃあ、まさかお前……、それまでずっとオレの傍に…?」
 クス、とシャルは微笑む。
「当然でしょう?だって、“アナタが治るまで、ずっと傍にいます”って、言ったじゃ
ないですか」
「シャル……」
 身体が弱っているから、涙腺まで弱くなっているのだろうか。
 クロロは、シャルにバレない様ににじんだ涙を拭う。
「さ、寝ましょう。ずっとオレが、傍にいますから」
 そっと、シャルがクロロの身体を横たえさせる。
「おやすみなさい」
 シャルは、両手でクロロの手を優しく包む。
「ああ。おやすみ……」
 安らぎをくれるぬくもりに、クロロはそっと、穏やかな眠りに誘われていった…。

 

 窓から眩しい陽が差し込んでくる。
(あ…、今日は晴れなのか…。じゃあ、暑くなるな……)
 そんな事を思いながら、クロロの意識は次第にはっきりしていく。
 片手で目をこする。ふいに、もう一方の手がわずかに重い事に気づいた。
「あ…ッ」
 クロロの瞳に、シャルが映る。言葉通り、ずっと、シャルは傍にいてくれた。
 シャルは看病疲れからだろう、クロロの手をとったまま、こくりこくりと頭を揺らし
て眠っていた。
(シャル……)
 愛しさが、より一層強くこみ上げる。
 世界で1番、愛しい恋人。
「……あ。団長……」
 シャルが、目を覚ました。
「すみません…オレ……寝てたみたいで……」
 重いまぶたをこすり、身体の催促する休息を必死で抑えつけるシャル。
「オレこそ、スマナイ…。起こしてしまったみたいで……」
「そんな事ないですよ…。これくらい、何ともないですから…」
 それがウソである事は明らかだった。
「そうだ。熱計らないといけませんね。はい、団長」
 心配かけさせまいと、シャルは微笑んで体温計をクロロに使う。
 体温計が鳴るまでの間、クロロは思っていた。
(シャルには悪いが…もう少しだけなら……病人でいたいかもな………)
 不謹慎な望みだとはわかっている。けど、それでも願ってしまう。
(まぁ、さすがに1日であれだけあった熱が完全に引くわけないか……)
 ピピッ、ピピッ、ピピッ♪
「あ、計れたみたいですね」
 シャルが体温計の液晶の数値を確認する。
「!」
 シャルの表情が、驚きに染まった。
「どうした、シャル?」
「スゴイ……」
 シャルが満面の笑顔を見せた。
「平熱です、団長!さすがですね。たった1日で、あの高熱を平熱にしてしまうなんて」
(うっそーーーーーぉ!!!?)
 この時ばかりは、自らの丈夫さを呪ってしまうクロロ。
「じゃあオレ、朝食の準備してきますね」
 機嫌良く、看病疲れもどこへやら。笑顔で、シャルは部屋から出て行った。
 シャルのいなくなった部屋。
 クロロは半ば放心状態といった表情で、天井を見つめていた。
(嗚呼……)
 昨夜とはかなり違う意味で、泣き出しそうなクロロ。
(日ごろの行いが悪いばかりに……ッッッ!!!!)
 顔を両手で覆い、心から悔やみ、残念がる。
(……でも)
 昨日からのシャルを、クロロは鮮明に思い出す。
 一生懸命に、自分を看病してくれたシャル。
 そして、自分が平熱に戻ったと知った時、あんなにも喜んでくれたシャル。
(どれだけ愛されてるかわかっただけでも、十分すぎる贅沢だ。…反省しないと)
 両腕を頭部側へ伸ばす事で、体側を伸ばす。
「やっぱり健康が1番だな」
 笑いながら、クロロは軽くなった身体に、シャルへの感謝を噛みしめる。
 けれどその日、クロロは大事をとらされ、1日中布団に縛り付けられるのであった。

「本当に良かったです。元気になってくれて」
「お前のおかげだよ。本当、感謝してる」
 2人ソファーに座り、笑いあう。クロロは、シャルを自分にもたれかけさせていた。
「お前にうつしてしまったら、どうしようかと思った」
「でもオレ、うつらない自信がありましたよ」
「どうして?」
「実は、予防としてオレも薬飲んでましたから」
「えぇッ!?」
 知らされざる事実。
「じゃ、じゃあ、“オレにうつせば早く治る”って言ってくれたのは?」
「もちろん本心ですよ。アナタの代わりの苦しみなら、オレは喜んで引き受けます」
 シャルは悪戯な笑みを浮かべる。
「このオレにうつってしまうほどの、重病だったなら」
「シャル!!」
 謀られたみたいで、クロロは不機嫌に、後ろからシャルの首に腕を回して捕らえる。
「だって、オレまで倒れてしまったら、誰がアナタの看病をするんです?」
「だからって…ッ」
「フフ、ごめんなさい」
「ったく…」
 力を緩め、そのまま愛しさを込めて抱き寄せる。
 シャルが当然の様に、クロロの腕に手を添える。
「なぁ、シャル…」
 熱に浮かされながら、ずっと考えていた事。心に留めていた言葉を、シャルに囁く。
「今度2人で、どこか旅行でも行こうか…」
 その言葉にシャルは一瞬驚いて、しかしすぐに幸せそうな微笑みを返す。
「いいですね、それ」

END  

 

・後書き
 ふぅ。現在、↑書き上げてから数時間経ってコレ書いてますが、体温急上昇中です。熱いです…;
 何だかとんでもないモノを書いてしまった気がしますが、占天サマのオーダー
『クロシャルでラブラブ』を意識して描きましたベタ(お約束)ネタ多いですが;

 とりあえず、わかっている方多いと思いますが、時川は髪上げてても、髪下ろしてても“団長”と呼びます。
“クロロ”って呼ぶのはかなり違和感が;SSで“クロロ”と描くのも実は仕方なくです。

 余談。実はこの後、団長は“夏カゼはバカがひく”という言葉を知って、物凄く悔しがったそうです(笑)
だから夏カゼひかせたんですけどね、団長に。ギャグ団長だし(笑)
 そしてこのシャルと、「逆さ十字の恋人」シリーズ(?)のシャルは
全くの別人です。
だって
アノ超純情シャルだったら、団長死にますから。確実に(笑)
 さらに時川も、コレ書いてる時、微熱&頭痛と夏カゼ気味に;オレがうつったさ、団長のカゼ(笑)

 とにかく!!ご希望にそえている事、喜んで頂ける事を願うのみでございます
vvv