「猛暑のアブない過ごし方」 とある快晴の夏の日。旅団は“仕事”で集められていた。 街から遠く離れた、周囲に乾燥した大地が広がる廃墟が、今回のアジト。 「暑い…」 全身を汗で濡らしながら、ウボォーがつぶやく。 周りの団員たちも、極わずかな風を求め、窓近くの日陰へ逃れていた。 彼らが今いる国はこの年、例年に無い異常な猛暑に襲われ、電力消費量の最高記録が ここ数日で幾度も塗り替えられていた。 そんな、とんでもない国のとんでもない天候の中、午後1時というとんでもない時刻 に彼らは呼び出された。 現在アジトにいるのは、呼び出した張本人・クロロ、クロロを引きずってでも連れて くると誓ったシャル、さぼり常習犯・ヒソカ以外の全団員。 「あー!暑いッ!!ったく、マジでまだ団長は来ないのかよッ!?」 我慢出来ないと、ウボォーが口火を切る。 「“暑い暑い”言うなッ!!こっちまで暑くなんだろうがッ!!」 窓際の日陰に避難中のノブナガが叫ぶ。 「全くだよ。ウボォーのその格好で暑いんなら、アタシたちはそれ以上のモンなんだ」 「それにお前見てると、余計に暑く感じんだよッ!!」 マチ、フィンクスが苛立って言い返す。 「ウボォーがもう少し背が低くて、筋肉も少なかったら、逆に涼しげだったのに…」 「ダメね、パク。気持ち悪いだけね」 「お前ら、オレに何の恨みが…」 ウボォーが拳を握る。 「まぁ、待て。ここで暴れてみろ、更に暑くなるぞ。ただでさえ汗がベトついて気持 ち悪いのに、もっと汗かきたいのか?」 フランクリンが、耳たぶからぽとぽと汗を滴らせて諌める。 「つれぇ…。早く団長が来ねぇと…オレは、死ぬ」 フィンクスの言葉は、今や全員の言葉。 雲1つ、本当に無い。おまけに無風。吹いても生温く、暑さを増幅するばかり。 それでも風を求め、彼らは自然と2つしかない窓際で苦しんでいた。 「シズク。お前、よくンな格好で汗1つかかず、本なんて読んでられるな」 気をそらせようと、ウボォーがシズクに問う。 この中で汗をかかず、涼しげな表情が出来ているのは、シズクだけだ。 「うん、あのね」 シズクは相変わらずの無表情で答える。 「ボノレノフの側って空気が冷たくて、気持ちいいよ」 「えぇッ!?」 (ヒドイ!!) 突然の不幸に襲われたボノレノフに、心から同情する一同。 返事に困るウボォー。 「えっと、夜のお墓みたいな冷たさ」 「なッ!?」 (もっとヒドイ!!!!) ボノレノフは心に、64279のダメージを負った。 「うッ、うぅ…」 落ち込むボノレノフ。 「あっ、ダメだよ、ボノレノフ。落ち込んだら、寒くなっちゃう」 「うわぁあぁああぁッ!!!!」 号泣するボノレノフ。 (こいつ、鬼だ!!鬼に相違ない!!!!) 第3者の団員たちでさえ、皆、ボノレノフの悲痛さに涙したという。 |
一方、その頃。 シャルは、ようやくクロロを発見していた。 「団長!!何やってるんですかッ!?」 シャルの声には怒気が含まれている。それも無理は無い。 「何って…」 ホットティの注がれたカップ片手に、ソファーに体重を落としているクロロ。 「涼んでる?」 「何、平然と言ってるんですか!!!!」 怒鳴るシャル。 「どうしたんだ、そんなに怒って。お前も飲むか?暑い時期に、クーラーの効いた涼し い部屋で暑い飲み物を飲む。最高の贅沢だぞ」 「団長!!!!」 白いふさふさが、クーラーの風に揺れる。 「ほら、カッカするのはカルシウム不足の証拠だ。ココのホテルのミルクティは美味い んだぞ」 「いりません!!!!」 更に怒鳴るシャル。 「なら、レモンティ?」 「それもいりません!!団長、わかってるんでしょう!?皆がアジトで待ってるんですよ!!」 現在2人は、最高級ホテルの1番金額の高い、スウィートルームにいた。 団長を連れてくるとアジトを出てから1時間。クロロから電話を受けて来てみれば。 やっと見つけたクロロは、この有り様。 「いいじゃないかvほら、シャルの好きなムースもあるからv」 「団長!!!!」 |
舞台は再び、灼熱地獄(アジト)。 「あづい〜。死〜ぬ〜ッ!!」 「だから、“暑い暑い”言うんじゃねぇッ!!この、筋肉バカッ!!」 全身からだらだら汗を流し、ノブナガが叫ぶ。 「この暑いのに、元気だね、アンタら…」 「もう、止めてよ…。大声出されると、余計に暑いのよ」 「お前らも“暑い”って言ってんじゃねぇか…」 活気のない声で、ウボォーが体力を消耗していく。 「フェイタン、大丈夫か?お前、黒尽くめだしさ…」 「それはフィンクスも似たような物ね。そのジャージ、黒いトコ多いよ」 お互い意識のある事を確認しあいながら、うだる。 「寒い…寒い…」 「?ど…どうした、コルトピ?」 急に何かを呟きだしたコルトピを、フランクリンが心配する。 「……“暑い”って言うと暑くなるなら、“寒い”って言ったら寒くなるかな…って」 そう告げたコルトピの瞳は、とても虚ろだった。 「コ…コルトピ?」 「寒い…寒い…」 「も、戻って来い!!コルトピ!!!!」 汗をかくのも構わず、コルトピの小さな身体をガクガク揺さぶるフランクリン。 「コルトピ…ただでさえ長ぇ髪、してるもんな…」 「おまけにあの服装だしな…」 もしかしたら、あれが未来の自分の姿かもしれない。冗談ではなく、クロロが来なけ れば、本当にああなってしまうのだ。 「どうして誰も、ミニ扇風機だの冷てぇ飲み物だのを盗って来なかったんだよ…?」 ノブナガが恨めしそうに団員たちにふる。 「すぐ指示があるから大丈夫だと思ったんだよ。集合時間には、もう酒も飲みきってた しな。それに、飲み物用意はいつもシャルがやってくれてるから…」 とっくに空になり、中の水滴も既に蒸発したビール缶を潰すフィンクス。 「シャル…、団長を見つけられたかしら?」 「さぁね。シャルは大丈夫だろうけど…団長がね…。あの人、逃げたり隠れたり得意だ からねぇ」 「…マチ、ヒソカは何故来なかたか?」 床にうつぶせになり、生気なくフェイタンが尋ねる。 「そうだね、確か…」 普段なら知らない、と答えるマチだが、今回限りはサボリの理由を聞いていた。 「“汗でこのメイクが落ちちゃったら困るからね”って言ってた…」 「……だから嫌いね、アイツ…」 フェイタンのヒソカに対する嫌悪が、5万点UPした。 「落ち着けよ、フェイタン。団員同士のマジ切れは禁止だろうが」 「フランクリンは悔しくないね?ワタシたちがこんなに苦しんでるいうのに、アイツは きと涼しい場所でストーキングやてるに違いないね」 「……ありえそうで、恐いな…」 「きとそうね。もしそうだたら、絶対許さないよ」 殺意を燃やすフェイタン。 「やめろよ!暑いだろッ!!こんな所で火を出すなッ!!」 「まだ叫べる元気があって、筋肉バカは本当、丈夫だよな…」 壁にぐたりともたれ、この数時間でどこかやつれて見えるノブナガ。 「でも、オレたちがこんな目にあってる中、涼しんでる奴がいたら…殺りたくなるよな」 上着を脱ぎ、Tシャツ1枚になり、それでも暑さからは逃れられない。 フィンクスの声は、かすれ始めていた。 |
一方その頃。 「いいから、行きましょう!!」 「いいじゃないか、別に」 「良くありません!!!!」 シャルの怒声が、部屋中に響き渡る。この部屋は防音も完璧なので、いくら怒鳴って も問題ないが。 「皆、待ってるんですよ!!」 「だって暑い」 「それは皆も同じです!!いえ、あのアジトで待ち続けてる皆の方が、よっぽど苦しいん ですよ!?」 「あいつらなら大丈夫だろ。特質系は繊細なんだ…」 ソファーに、より身体を静めていく。 「パクだって特質系です!でも、あの灼熱地獄の様なアジトで、貴方を待ってるんです! 貴方の命令を待ってるんです!!」 「灼熱地獄なのか…それは行きたくないな…」 「団長!!!!」 クロロが、ルームサービスのキャビアクラッカーを頬張る。 「命令を待ってるんだろ?だったら、ここから携帯かけて指示を出せばいいじゃないか」 「それじゃ団長として示しが付かないでしょう!」 「示しより涼しさだ。人間とは、快楽に弱い悲しい生き物だ」 「ダメです!!さぁっ、早く行きましょう!!指示を出せば、済む事でしょう!?」 クロロの腕を引っ張るシャル。 「だが…」 「“だが”じゃありません!!面倒だと後回しにしてる事こそ、意外と楽に終わるもので すから!!」 抵抗するクロロ。 「だってこの服、暑すぎるんだぞ」 黒。長袖。そして、ふさふさ。暑くない訳がない。 シャルは一層、息を吸い、またも部屋を震撼させるのだった。 「その服を選んだ貴方の責任でしょう!!!!」 |
午後2時。上から太陽熱、下から地熱。益々暑くなるこの時刻。 「お前ら…生きてるか…?」 生き絶え絶えに、ウボォーがぐったりして動かない仲間に声をかける。 「何とかな…」 答えたフィンクスも、辛そうだ。 「なぁ、お前ら…」 無感情な声で、ボノレノフがつぶやく。 「どうしてオレの周りに…?」 涙が包帯を濡らしては、乾燥していく。 「あ、悪ィ。つい……」 ボノレノフを取り囲む様にして倒れている全団員。皆、無意識の冷気に導かれた行動 の結果。 「いいんだ。どうせ、どうせオレなんて…」 冷える空気。だがそれでも、暑さは一向に収まる気配が無い。 「嗚呼、明日の新聞の一面が思い浮かぶぜ…」 フィンクスが口元を緩めて、空に灰色の紙を想像する。 「“幻影旅団、ミイラとなって滅ぶ!!”って」 乾いた笑い。けれど、冗談に聞こえないから不思議だ。 「バカ。こんなトコに、一体どんな暇人が来るってのさ?それにこの暑さ。乾燥した大 気中ならまだしも、こ〜んな多湿な暑さの中じゃ腐乱するのが先だね…」 マチも笑う。もうヤケだ。 「そして、この身体が鳥や虫の餌となって行くのね…。フフフ…」 涙混じりにパクが、己の手や腕、身体へ視線を動かす。 「ああ、何かワタシ…昔飼てた鷹が見えてきたね…」 「ボクも旧団員の皆が手を振ってるのが見えるよ…」 「オレは綺麗な河と花畑が見える…」 「目を覚ませ、お前ら!!!!」 命の危機迫るフェイタン、コルトピ、ノブナガに、フランクリンが慌てて叫ぶ。 もう、全員の限界はすぐそこに潜んでいた。 |
一方その頃。 「シャルだって暑いのは嫌いだろ?」 「嫌いですよ!でも、今はそんな事行ってる場合じゃありません!!」 「嫌いなら話は早いv一緒にココで涼しもう」 「ダメです!涼しむのは仕事が終わってからです!!」 「いいじゃないかv」 笑顔でシャルに抱き付くクロロ。 「ダメです!!!!」 大声で叫び、それを引き剥がそうと努めるシャル。 「いいじゃないか〜vなvお前と2人、水入らずで過ごそうと、このスウィートをとっ たんだぞv」 「ダメです!もう、このままでもアジトに連れて行きます!!」 シャルは覚悟を決め、クロロの身体に鎖を巻く。 「引きずってでも貴方を連れて行くと、そう約束したんです!!」 そのまま、扉を目指す。 「そんなに“仕事”に固執すると、その内過労で倒れるぞ」 「貴方に仕事に対する意欲が無さ過ぎるだけです!!」 「強情だな。ま、ソコもお前の魅力だが…v折角なんだ」 クロロの手が、シャルの頬に触れた瞬間、 「え?」 シャルの視界が揺らぐ。 「涼しい中で熱くなる事をするのも、悪くないぞ」 「そんな事より」 怒りが呆れに達しそうな声。 「どうして扉から一瞬でオレがベッドに押し倒されてるのか、聞きたいんですけど?」 広く柔らかなベッドの上、シャルは鎖抜けを達成したクロロに押し倒されていた。 「細かい事は気にするな。それより、外の猛暑に負けないくらい熱くなろう」 「言っておきますが、不自然な冷涼下での身体を熱くする行為は、細くなった血管を無 理に広げる事となり身体に悪いんですよ」 「そんな理論、オレたちには関係ない」 ぷちv シャルは遠くで、何かが切れる音を聞いた。 |
午後2時半。地熱の放出も盛んに、気温がピークに達していく。 「…………」 会話もなく、皆、無意識の内にわずかな風を求めて窓際の影に集まる。 「…………」 けれどそのわずかな風さえ、熱を帯び、彼らに追い討ちを与える。 「シズク…」 「何、フェイタン?」 「その掃除機は、生き物以外何でも吸えるね?」 「うん。吸えるよ」 「湿気を吸うね…」 ぼんやりとした瞳で、外を見やるフェイタン。 「暑いのは湿度が高いからね。気温が高くても湿度が低かたら、むしろ肌寒くなるね。 その掃除機でここ一帯の湿度を吸えば、涼しくなるよ」 拭っても拭っても汗は滴る。おまけに湿度飽和状態な為、身体にベタつくばかり。フェ イタンは、とっくに限界を突破していた。 「ダメよ」 パクがフェイタンをいさめる。 「何故ね?」 「冷静に考えて。湿度は徐々に変わるのよ。そしてある範囲内で、一定に保とうとする。 だからいくら湿度を吸っても、新たな湿気がやって来るだけ。この一帯はいつまでも暑 いままよ。いいえ。大量の湿気が集まる分、更なる蒸し暑さを感じなければならないわ」 「なら、それも全部吸い取るね」 「それもダメだろ」 今度は、フランクリンが異を唱える。 「世界中の湿気が消え、ここに集中してみろ。次にやって来るのは絶望的な異常気象だ。 最悪にも気温上昇が起こったら、確実に死ぬぞ、オレたち」 「…………」 納得したのか、フェイタンが沈黙する。暑さに、思考回路はダウン寸前。 もう、自分たちに希望など無いのか。 自分たちの後を継ぐ新団員はどんな奴らだろうか。 そんな事をふと、考えてしまい始めた頃。 「……着替える」 「は?」 突然のフィンクスの言葉に、力無い中、驚かされる一同。 「着替える。オレは、着替える。そうすれば、もう少し涼しくなるはずだ」 「涼しくって…」 疑問が渦巻く一同。 現在フィンクスは、上は裸、下は厚手のジャージという格好。袖をまくり、ヒザを出 してはいるが。 「あんまり変わらないんじゃ…」 冷静にマチが意見する。 「変わるさ。こんなジャージじゃなく、風通しイイ奴に着替えれば。何より、気分的に」 「確かに、精神的なモノは重要ね」 フェイタンもフィンクスに同意する。 「そうだな…」 「いい考えかもな」 続いてウボォー、ノブナガも受諾する。 「フェイタン以外は大差ないだろ。特にウボォー」 ツッ込むマチ。意外と自己を保っている。 「何言ってんだよ。このスパッツを風通しの良いズボンに穿き替えるだけでも、随分違 うもんだぜ」 「そういうものか?」 「そういうものよ」 「パクッ!?」 予想外な人物の参入に、マチは声を高くしてしまう。 「私も着替えるわ」 「えッ…」 それ以上、どこをどう脱ぐと? 「私も、もっと布地薄いノースリーブに着替えるわ。大体、黒は重苦しいのよ」 「……」 「ボクも着替える…」 「オレも着替えよう」 「じゃ、私もー」 コルトピ、ボノレノフ、シズクも、次々に衣替えを決定する。 「…フランクリン」 「何だ、マチ?」 訴える瞳で、心の最後の良心・フランクリンを見上げる。 「…………」 無言で見詰め合う2人。互いの心が通じ合う。 「…悪い!!」 「そんな!!!!」 フランクリンが衣替え組に参入した。 マチと彼らとの間に、大河が見える。 「マチは着替えない(ねぇ)の?」 衣替え組が、真顔で尋ねてくる。 マチの心は既に決まっていた。 「着替えるに決まってるだろ」 数刻後。 部屋には、とても涼しげな色を身にまとい、けれどやっぱり暑がる大人ども。 「でも、気分的には楽になったよね」 「そうだな」 笑い合うコルトピとボノレノフ。 「お前ら…どうしても前髪と包帯は譲れないのか…?」 ウボォーが、むしろ賞賛を贈りたい気分で2人を見る。 コルトピは長い髪をあろう事か前でくくり、ボノレノフは身体取り巻く包帯を頭部 のみ残し、素顔を隠していた。 「彼らなりのポリシーなんでしょ」 パクがサマードレスに空気を含ませながら、簡潔に述べた。 |
一方、シャルの“何か”が切れたスウィートルーム。 彼らにも、ゆっくりと結末が近づいていた。 「なぁ、シャルvベッドに戻ろうv冷房弱くして、段々と温まる行為にいそしめばい い」 冷たく無言で背を向けて、扉を目指すシャルの足にしがみつき、ズルズル引きずら れながら、だらしなく笑うクロロ。 「…………」 冷たい無表情で、シャルはクロロを見下ろす。 「シャル〜v」 「うるさい!!離れろ、ゴキブリ!!!!」 「ッ…」 突然のシャルの変わり様に、表情と息が止まる。 「団長、オレ…」 足にまとわる腕を払う。そして、シャルは言い切った。 「この瞬間をもって、クモを辞めます」 「そっ、そそ、そんな!!!?」 「貴方には愛想が尽きました」 「でも、クモを辞めてどうするんだ!?この不況の時代に再就職なんて!!」 必死でシャルを引き止めるクロロ。 「盗賊なんて、あって無きが如し職でしょう。オレには、ハンターという立派な職が あります。第一、株と投資で儲けてます。座ってパソコンに触れるだけで、オレは一 生遊んでも使い切れない金を得てるので」 ニッコリvしかし、それが本心の微笑みでない事は十二分にわかる。 「で、でも…」 「それにオレ…」 シャルは、容赦なく追い討ちを与える。 「他に好きな人が出来ました」 「えぇッ!!!?」 驚愕。 「うっ、ううう嘘だ!!!!」 「嘘じゃありません。貴方より責任感があって真面目な人と、恋に落ちたんです」 「嘘だ!!だって、一体どこでどんな出会いが、クモにあるというんだ!?」 「株主総会で。優しい人で、たまに食事とか一緒にしてる内にv」 「うぅぅ…」 涙目で、クロロが情けなく首を横に振り続ける。 「嘘だ!!オレよりイイ男がこの世にいる訳無いんだ!!!!」 「いますよ。ゴロゴロ」 「うわぁあぁぁん!!」 シャルの足に抱きつき、号泣する。 だがクロロの言動にも、シャルは冷たく笑うばかり。 「その人はカッコ良くて、優しくて、頼りがいがあり、自分より他人を思いやれる心 を持ち、誰かの為に自分が苦境に陥る事も省みない、素敵な人なんです」 「うぅぅ…」 「どれも貴方にはありませんね」 「ッ…」 クロロは怯えた。シャルは本気だ。本気で、捨てられてしまう。 「嫌だ、嫌だ〜!!頼む、シャル!!捨てないでくれ、見捨てないでくれぇッ!!!!」 えうえう。 「けど…」 「わかった!誠意を見せる!!示しもつける!!真面目になる!!責任感も強くする!!だか ら捨てないでくれッッッ!!!!」 「本当ですか?」 「本当だ!!信じてくれ!!お前の為に生まれ変わる!!!!」 「じゃあ、アジト行きますよ」 「うん!!!!」 この瞬間、クロロ<シャルの図式が確定した。 |
一方、アジトでは、 「あぁ…死ぬ…。もう、オレの命は後わずかだ…」 「負けんな、フィンクス。力の限り生きよう」 「ウボォー、でもッ…」 「暑さに耐えて、頑張りましょう」 「パクの言う通りさ…。苦しいのは、皆同じなんだ」 「死ぬ時は一緒決まてるよ」 「お前ら…ッ」 お涙頂戴感動シーンが繰り広げられていた。 「あーあ、もうこの本読み終えちゃった。退屈になるなぁ」 「シズク…」 「何?」 「良いシーンをぶち壊すな」 おそらく、この女だけは生き残るだろう。全員が実感した。 「……」 ノブナガが、天井を見上げた。とっくに見慣れ、マスの数さえ記憶した天井を。 「ノブナガ?どうした?」 ぼーっとうなだれるノブナガに気付き、心配そうにフランクリンが声をかける。 「……」 「ノブナガ?」 「人間…50、ね…」 「バッ、バカッ!!著作権がッ!!!!」 「安土城が見える…」 「ノブナガーッ!!」 皆、限界を越えている。後、数分の命である事は間違いない。 そんな時だった。 「ん?」 「どうした、ボノレノフ?」 「聞こえる…」 「何が?」 ウボォーが首をかしげる。耳を澄ましても、聞こえてくる音など… ヒュゥウウゥゥッ!! 「聞こえる」 何かが、何かが迫ってくる音が。 だるい身体を動かし、辺りを見回す。が、窓から見える光景に違和感はない。 ヒュゥゥゥウゥッ!!!! 近づいてくる。 「なっ、何だ…」 妙な気分だ。嫌な予感で頭が溢れそうだ。 ガコンッ!!!! 「へ?」 全員が、上を見上げる。 目に、天井4枚を突き破って落下した、巨大な氷塊が飛び込んでくる。 「うッ…」 今の身体では、まともに動く事も出来ない。 「うわぁあぁぁあぁッッ!!!!」 彼らを、悲鳴と共に氷塊は包んだ。 |
「どうだ、お前らv涼しいだろ?」 砕け散った氷塊の上から飛び降りたのは、彼らが待ちわびた団長・クロロ。 「待たせて悪かったな。たっぷり休め」 自信満面の表情で、笑う。 「…………」 無言の団員たち。彼らは、氷の衝撃、重み、加えて数十m落下の痛みに、これまでの 限界が重なり、意識を失っていた。 「どうした、お前ら?嬉しくて声も出ないのか?」 都合の良い解釈に益々喜び、クロロは勝手に納得してうなずく。 その背後の、おびただしい殺意に気付かず。 「団長…」 「あ、シャルvどうだ?灼熱地獄も解消されたろ」 自らの偉業に、シャルの愛を勝ち得たと確信するクロロの笑顔。 「そうですね…」 シャルは、心からの冷笑を浮かべた。 |
「シャル…」 「どうしたの、フィンクス?まだ寒い?」 「いや…」 「あ、お腹が空いたんだね。待ってて、鍋でも作るよ」 「あの…」 フィンクスは、正直怯えていた。 それは、この光景を見たなら、誰もが怯えるだろうアジトの様子に。 一足早く気がついたフィンクスは、シャルの用意した防寒具を着て、1階にいた。他 の部屋では、同じく目を覚ましたウボォーが他団員の世話に手を焼いている。 「大分、アイツらも気がついてきた様だから、報告に…」 言いつつ、視線は何度も動く。 「どう?氷彫刻って初めてだから、心配だったけど」 「上手い…んじゃねぇか?」 「ありがと」 シャルが笑う。巨大な冷凍庫と化した広間の中で。 あの後、氷塊が落下した広間はシャルの持ち込んだ装置等で、巨大な冷凍庫となった。 たった1つの氷塊を、そのままに留める為。 「…………」 部屋の中央、黒い氷塊が建っている。当然、氷に色は無い。黒いのは、氷中にクロロ が眠っているから。 情けなく怯えた顔が、その顔に刻み込まれた恐怖が、意識の無い間の惨劇を連想させ る。 その元が、目前で爽やかに笑うサブリーダーなのだ。 「大丈夫だよ、フィンクス」 「え?」 シャルは、無邪気に氷の微笑をたたえた。 「生かさず殺さずでやってるからv」 END ☆ |
・後書き …って感じ(どんな感じだ;)のSSでした。時期外れ。本当は、8月下旬〜9月上旬にUP予定でした; 当然、とある国のモデルは我が国・日本です。今年の夏は暑うございました。 何気にボノイジメがヒドイです。“64279”は“無視に泣く”です。最近、こういう下らぬシャレに夢中(恥) でも、結構みんなに出番をプレゼントしてみましたvヒソカ以外。 これは、やはり「ヒソカは偽なのでカウントしない」精神で(笑)キャラ的には、普通に好き…だと思う; ちなみにシャルの「他に好きな人」発言は嘘です。団長を改心させる為の。 けど、最後は恐かったですね…。自分で書いてるくせに、「ゴキブリ!!」には「ヒドッ!!」と1度消したほどです。 最後まで情けないまま、団長は氷漬けの刑。しかもさらし者。おそらく、3日ほど仮死状態。 時川が1番泣きそうです;シャルは、怒らせなければ、全然優しいし可愛いんですよvvv 実は『団長の氷塊に団員が感謝して、カキ氷パーティを始め、シャルも見直す』ってネタもありましたが、 最終的に(ていうか昨日)別ネタでGO!最後の氷漬け描写が、2行程度→あの長さになりました。 それでは、今年の猛暑を思い出しながら、少しでも笑って頂けると嬉しいですvでわ☆ |