「クロロの休日」

「はぁ…」
 床に座り、窓から外の眺めに瞳をやり、クロロがため息をつく。
 嗚呼。外はこんなにも晴れ渡っていると言うのに。
「はぁ…」
 浮かないクロロの心。
 しかし何かの気配を感じ、落とした視線を上げる。
「慰めてくれるのか…?」
 クス、とクロロは力ない笑顔を見せる。
「クリスティーナ。パトリシア」
 優しく呼びかけて、その白く滑りのいい肌を撫でる。
「お前たちだけだ、オレの気持ちをわかってくれるのは」
 ぎゅと、2匹の念魚を抱きしめる。
「お前たちだけが、オレの心の支えだ…」
 頬擦りする。
「何やってるんですか、団長?」
 グチャ、グシャ。
 シャルが扉を開けた事で、クロロの腕の中で醜悪な肉塊と崩れていく念魚2匹。
「うわぁああぁあぁッ!!!!」
 顔面蒼白。頭を抱えて、突然の悲劇に驚き嘆くクロロ。
「クリスティーナ!!パトリシアーーーッ!!!!」
 床に残る肉塊に、悲しみの涙を落とす。
「うっうっ…」
 その様子に呆れるシャル。
「何やってるんですか?本当に」
「…………」
 瞳いっぱいに涙を溜めて、声にもならない悲しみを訴える。
「クリスティーナが…パトリシアが…」
 それだけを、何とか口にする。
「全く、たかが念魚。念の生成物でしょう。そんな程度で、泣くなんて…」
「その程度だと!?」
 シャルを睨む。
「その程度なものか!?お前は、あんなつぶらな瞳をした可愛い2匹を殺しておいて、何の
罪悪感も感じないのか!?謝れ!!2匹に謝れーーー!!!!」
 バンバン!!と床を叩く。
「何言ってるんですか!?念魚でしょう?貴方だって、用事が済んだ後は扉なり窓なり開い
て、殺してるじゃないですか!!」
 不当な責めだと、シャルも言い返す。
「それはオスの場合だ!!ソイツらは戦闘用の、言わば使い捨てタイプだ!!だが、あの2匹
は違う!!メス、いや、女の子なんだ!!リボン(赤)付いてたろ!!!!」
 力強く反論する。
「“元気出して”とか“頑張って”とか慰めてくれたり、グチに付き合ってくれたり、素
直で…優しくて…ッ!お気に入りだったのに…ッ!!!!」
 シクシクシクシク。
 両手で顔を覆い、再び涙。
「それ以前に、念魚には性別もなければ、喋る事も出来ないでしょう」
 やっぱり冷静なシャル。
「微妙な違いがあるんだ!微妙に、鱗の並びや艶。言葉だって、心と心で…。同じ念魚は、
もう…も…2度と…具現化出来ないのに…ッ」
 暗く、重い空気。
 本気だ。クロロは本気であの2匹を愛し、その死に嘆いている。
 とりあえず、放っておく訳にいかないので
「ごめんなさい」
 シャルは謝っておいた。

 

「気分…落ち着きました?」
「シャル…」
 穏やか笑顔で、シャルがクロロと向かい合って座る。
「何か悩み事でもあったんですか?」
「いや、そのな…」
 低いテンションで、シャルを見る。
「オレ、“団長”辞めようかと思って」
「ああ、そうなんですか」
 なんだとシャルは笑う…が。
「え?」
 間。
「なッ!?なななッ!?」
 予想外の言葉が、シャルを混乱させる。
「その時には、お前が“団長”を継いでくれ」
「絶対嫌です!!!!」

 シャルは泣いて、即答するのだった。

「で、でも、一体どうしてそんな事に?」
「いや…何だか最近、仕事が楽しく感じられなくなって…。思うんだ。どこで何を間違
えて、盗賊になったのかなぁ…って。小さい頃は、もっと別の仕事に就きたかったはず
なのに…」
(盗賊以外に、この人に向いてる仕事って無いと思うけど…)
 とシャルは思いつつ、
「では、どの様な職業に就きたかったんですか?」
 一応聞いてみた。
「そうだな」
 考えるクロロ。
「警察官とか運転手とか大工とか社長かな」
(普通すぎて意外だ…ッ!!!!)

「それで“団長”辞めて、人生やり直そうかなと」
「いや、それは…あの、急に辞められても、オレたち…て言うか、特攻組が…」
「安心しろ。再就職先なら考えてある」
「あるんですか!!!?」
 素早い準備に、シャルを驚きが襲う。
「ウボォーは土木業、ノブナガは日○江戸村の役者、フィンクスは体育教師、フェイタ
ンはわら人形制作で…」
 語るクロロの瞳は、遥か遠くを見ていた。
(ヤバイ!!!!)
 疲れている。シャルは、長年の付き合いから、サブリーダー的才能から、敏感に感じ
取る。
「シャル、オレ…辞めていい?」
「団長!もう一度考え直して下さい。団長は疲れてるんです。(あれだけ楽してて、何
でオレより疲れてるのかわかんないけど)だから、落ち着いて考えましょう。旅団長ほ
ど貴方に向いている仕事はありません。オレは、そう確信しています」
「そうか…?」
「もちろん」
 キッパリと、シャルは告げて笑う。
「そうか…そうだな。そうだよな!」
 思い直して、クロロが笑う。
「ル○ンとネズ○小僧に憧れたオレの選択は、間違ってなかったよな!!!!」
(何だって!!!?)
 初めて直面した真相に、またもシャルは驚かされるのであった。

 

「…とは言っても」
 励まされてみたものの、取り戻したやる気は
「目標も何も湧いてこないんだよなぁ」
 一瞬で消沈していた。
「これからのビジョンと言うか見通しが、何にも浮かんでこない」
「それは困りましたねぇ」
 シャルの言葉は本心だった。
 今までだって“最初だけ”感が強かったのに、この上更にやる気を無くされたら、ど
れだけ自分の仕事量が増える事やら。
「正直、長年同じ事繰り返してるから、マンネリ感は否めないって言うか…」
 遠くを見つめながら、クロロの中で再び団長辞職への想いが募っていく。
「なぁ、シャル。倦怠期を迎えた時、お前ならどうする?」
「やはり、気分転換でしょうか」
「気分転換?」
「そうですよ。団長も気分転換すれば良いんです!そうすれば、気分一新、原点回帰!」
 名案と、シャルは無理に明るく笑う。何としても、クロロに“団長”でいてもらわな
ければ。
 そんな想いが通じたのか、少し乗り気なクロロ。身を少し乗り出す。
「具体的には?」
「趣味に時間を費やすとか、美味しい物でも食べるとか、ゆっくり休むとか」
「なるほ…」
 ど、を口にする前に、クロロは気付く。
 自分の趣味と言えば。
(盗みと読書)
 美味しい物は。
(いつも食べてる。高級料理を)
 ゆっくり休むのは。
(いつもの事)
 結論。
「シャルナークさん、その定義でいくと、ワタクシいつも気分転換です」
「もういいです…」
 負けるな、オレ!と心で自らを励ますシャル。
「なら、普段と違う事をやってみるのはどうでしょう。新鮮な気持ちになれますよ」
「普段と違う?」
「はい」
「普段と違うと言う事は…」
 ごくり。クロロが息を呑む。
「盗みも読書もせず、不味くて粗末な物を食べ、更には血の一滴まで絞り取られる程に
働けと言う事か!?」
「最後には殴りますよ」
 本当に、気分転換が必要なのは自分の方だ、とため息をつく。
「う〜ん…」
 2人で悩む。それは、ある種奇妙な時間だった。

 

 30分後。クロロの表情が、ハッとなる。
「――――そうだ!」
「どうしました?」
「街へ行こう!街へ遊びに!」
「え?」
 街へ遊びに行くなど、珍しくも何ともない。特に常に放浪の日々を送るクロロには。
クロロの真意を、量りかねるシャル。
 そんなシャルに、クロロは続ける。
「普通の若者として過ごすんだ。標準的な休日を。世間で言う“普通”こそ、オレにとっ
て未知の世界!コレはいいぞ!!」
 立ち上がり、拳を握る。眩しいまでの笑顔。
「シャル、付き合え」
「えッ!?オレもですか!?」
「当然だ。お前は、オレの親友だろうv」
「はい…」
「それに1人で街を歩いても、ちっとも珍しくない」
 ほら、とクロロがシャルに手を差し伸べる。
 その姿が、昔の記憶と重なる。
「強引なんですから、ホント」
 笑顔で、シャルはその手を取った。

 

 “普通”の休日を過ごす為に・その1。
「まず、着替えましょう。団長、本日の服は?」
「いつものコートとスーツ」
 クロロは機嫌良く笑っていた。シャルも笑う。
「団長
「ん?」
「そんなバラエティ番組に採用される様な服を、日常生活において着用する一般人が
どこのに世界に存在するって言うんです?」
「えっ…」
 わずか驚きと悲しみが、クロロの瞳に灯る。
「コレじゃダメなのか!!!?」
「ダメに決まってるでしょう!!!!」

 クロロのファッション感覚は、シャルの想像を絶していた。

「仕方ないので、オレの服を貸してあげます」
「すみません」
 正座するクロロの頭には、しっかりと巨大なたんこぶが。
「しばらくココに滞在する予定でしたからね。結構持ってきてますけど…団長にはど
れが似合うかなぁ?」
 大き目のカバンの中を探りつつ、シャルは脳内でコーディネートする。
(額をヘアバンドや包帯で隠しても、変じゃない組み合わせじゃないとな…)
 がさごそ。
「あ。コレがいいや。団長、コレ着てみて下さい」
 服を、軽く投げて渡す。
「こ、ココで?」
 顔を赤くするクロロ。
「首絞めますよ?」
 シャルの瞳は冷たく輝いていた。

 それから数分。クロロの着替えを、シャルは雑誌片手に待っていた。
「シャル、着たぞ」
 扉の向こうから、クロロの声。シャルも少しドキドキして、その登場を待つ。
「似合うか?」
「うわぁあぁぁあぁッッ!!!!」
 シャルの悲鳴が、仮宿を震撼させた。
 クロロは、上着を上端まできっちり締め、その裾をズボンの中に仕舞う。それだけ
でも問題だったが、1番の問題は、額を覆うヘアバンドの着け方。
「似合うか?」
デビュー当時のふかわ○ょうですか、貴方は!!!?」
 雑誌で思いっきり頭を叩く。
「ああ、もうッ!!こういう服は、こう着こなすんです!!本当に、センスが皆無なんだ
から、貴方って人は!!」
「わ!ちょ、ちょっと、い、いたたたッ!!」
 結局、シャルが全て面倒を見るハメになったのだった。

 そのまた数分後。
 今度こそ、イマドキの若者ファッションに身を包むクロロ。額のヘアバンドも、個
性重視と言い聞かせ、いつもの白布にした。
「わー、似合うじゃないですかvカッコイイですよ」
「そ、そうか?」
(少しキツそうに見えなくも無いけど…)
 おだてておくのもサブリーダーの務めだろう。
「じゃ、準備も出来ましたし、街へ行きましょうか」
「ああ!!」
 またも機嫌良く笑うクロロを他所に、シャルはまだ出かけてもいないのに疲れを覚
えるのだった。

 

「あ、そうだ。シャル」
 街へと足を進めながら、クロロが声をかける。
「今日1日、オレの事は“クロロ”と呼べ。そして、タメ口。敬語は禁止だ」
「えぇッ!?」
「だっておかしいだろ。世間では、親友相手に“団長”と呼びかけたり、敬語を使っ
たりはしないだろ。だから」
 もっともな意見を伝える。
「でで、でも、団長は団長であって、団長以外の何者でもなく…」
 シャルは困ったを顔して、遠まわしに断わろうとする。
「ダメだ。それに気分転換だ。なのに“団長”と呼ばれ、敬語を使われたんじゃ、い
つもと変わらず、旅団長の立場を忘れて楽しめない。いいか?今日だけ、オレたちは
旅団を休む。そこらにいる、普通の若者の休日を過ごすんだ」
「はぁ…」
「じゃ、ちょっと呼んでみろ。“クロロ”って」
「は、はい!」
「だから、敬語もダメだって」
「す、すみません…」
 長年かけて染み付いたものは、そう簡単には変えられないらしかった。
「ま、とりあえず名前の方から。ほら」
「え…とじゃあ、クロ…クロ…」
 互いに緊張する2人。クロロは、もういつでも返事出来る状態だ。
「黒い日傘って、紫外線対策に凄く有効なんですよ」
「マメ知識には感謝するが、話の流れ、無視どころの騒ぎじゃないぞ」
「うぅ」
 他の団員は、平気で出来る事なのに。
「じゃあ、こういうのはどうだ。オレの名を“クロ”と“ロ”に分けて言うんだ。そ
して少しずつ2単語の感覚を狭める」
「わかりました。それで行きましょう!!」
「だから敬語もダメなんだって」
 クロロは苦笑する。
「じゃ、ほら」
「クロ………ロ」
「うん!」
「クロ……ロ」
「あと少し!」
「クロ…ロ」
「もう一息!」
 ゴク。シャルは、渾身の力を込める。拳を握って、
「クロロ」
 記録的瞬間。
「言えた…」
「わー!凄いです!!言えました。懐かしい響きですね。うわー!!」
「言えた、言えた!やったな、シャル!!」
「はい!!」
 抱き合う2人。
「って、大の大人がそんなに興奮して喜ぶ事でもないな」
「そうですね…」
 冷静になると、かなり恥ずかしかったけれど。
「それなら次だ。敬語禁止。これは簡単だろ。語尾を変えるだけだから」
「そうですね、それなら」
「シャル」
「あ」
 早速、出来ていなかった。
「なら問題。“今日も良い天気ですね”をタメ口に直せ」
「簡単すぎます…あ」
 シャルの笑顔が引きつった。
「何で出来ないんだ?」
「それがわかったら、苦労してませ…してない、です」
「“です”が余計だ」
 こうしてる間にも、時は刻一刻と過ぎていく。もうすぐ、昼食の時間だ。
「大体、昔は呼び捨てにタメ口だったじゃないか」
「そうなんですよ。あ」
「不思議だな。他の奴らは、今でもそうなのに」
「オレがサブリーダーだからでしょ…だよ。常に、貴方…えっと、クロロに敬意を払う
人物が居ないと。親しみのもてるリーダーは好ましくても、それだけではバカにされて
しまいま…しまうから」
「いいじゃないか。今日は休日なんだから。どうしても無理なら、潜入の仕事だと思え
ばいい」
「なるほど」
 その後、シャルが脱・敬語を果した時には、既に陽は頭上高く在ったという。

 

「すっかり時間を食ってしまった」
「ごめんね、オレの所為で」
「いや、お互い様だろ」
 非・普通度からいけば、クロロの方が上だろう。
「しかし…普通の若者とは、一体何をして過ごすんだ?」
 考える。
 思い起こせば、読む本読む本、物語に専門書。トレンド雑誌など、幼少時代しか見て
いない。
「シャル、お前は普段、どんな生活をしてるんだ?」
 常に放浪生活の自分と違い、郊外に定住し、近所付き合いも良好なシャルならきっと
参考になる日々を送っているに違いない。
「オレ?そうだなぁ…」
 シャルの次の言葉に、クロロは精一杯の期待を抱く。
「盗品整理に売却相手の信用度を確認、次回の仕事の下調べとか」
「いや、そうじゃなくて仕事関係以外で。ほら、休日の過ごし方として」
「仕事以外?なら」
 自らの日常を振り返り、平均的に費やす時間が多いものを算出する。
「料理、洗濯、買い物、掃除。時にコンビニで“主婦○友”を立ち読みしたり、TV見
たり。株なんかも結構。後は…」
「…いや、もういい…」
 ちっとも普通じゃない。
「オレ…もう少し、仕事選ぶよ…」
「え?どうしたの、急に」
「ごめん。ごめんな、シャル…」
 クロロの瞳には、光るモノがあった。

 

 と、まあ色々あったものの、ようやく賑わう街を行く2人。
 最終的にぶらぶら街を歩き、自分が興味を惹かれる物を見つける事にした。
「うーん何か、今までとは違って見えるな。心構え1つで、こんなにも違うのか」
 小さな感動を噛みしめるクロロ。
「ん?シャル、あの様々な人と物いっぱいの店は何だ?」
 早速何かに興味を抱き、目標を指さして尋ねる。
「ああ、100均だね」
「100均?」
「商品の売値が全て均一の店だよ。ここは商品が全部100Jになってるの。2階は…
500J均一みたい。ま、とにかく子供からお年よりまで人気なんだ」
 簡単に説明するシャル。
「本当に!?本当に全部同じ値段なのか!?100Jって言ったら、ミニブックも買えない
値段だぞ!!!?」
「本当だよ。入ってみる?」
「みる!!」
 子供の様に無邪気な笑顔で、クロロがシャルの手を力強く握る。賞賛に値するほど、
瞳を期待に輝かせて。

「どう?入った感想は?」
「…………
 初体験の感動に身を震わせ、夢見心地に辺りをキョロキョロ見回すクロロ。
 こういう姿を見てしまうと、休日だとわかっていても
(これ位、仕事にも夢中になってくれると、嬉しいんだけど)
 シャルは思ってしまうのだった。
 苦笑するシャルとは対照的に、クロロはある文具に心を奪われていた。それは

 上部にバネ&丸っこいオモチャの付いた、ボールペン。

 びょんびょん…♪
「……
 びょんびょんびょん…♪
「……vv
 規則正しいオモチャの動きに、顔を綻ばせるクロロ。
「どうしたの、クロロ?」
「…………」
 じぃ…ッと、クロロはシャルに視線を送る。
「欲しいんだ。その瞳は“びょんびょん”に夢中の瞳だね」
 言わずともわかる、クロロの心。
「欲しいなら無理せず…、って!」
 シャルが素早く、クロロの手首を取る。
『シャル、何をするんだ!?』
『普通の若者が、万引きなんかする!?』
 そう。クロロは、ペンをポケットに入れようとしていた。
『だが、オレは盗賊だ。幻影旅団の団長なんだ!いかに休日中とは言え、盗賊である事
を、旅団長のプライドを忘れる事は…』
『じゃあ言うけど、その幻影旅団長が、たった100Jの物を盗むの?』
『!』
『たった100Jのボールペンを、今までのSS〜C級のお宝で占めてきたリストの1
つに加える事は、プライドに傷の付かない行為なの?』
『そ、それは…。いや、だがしかし!例え100Jであっても、盗むのが盗賊。欲しい
物は、殺してでも奪うのがオレたちだったはず』
『そんなの日常生活下でも律儀に守ってるのは、ウボォーぐらいだよ!!』
 ガァアァアアァァン。
『そ、そんな…』
 クロロは落雷に打ちのめされる。
『どうする?買うの?盗むの?』
『あぁぁ…ッ!!』
 たった100Jに苦悩する、大の大人1名。

 

 苦悩結果。
「ありがとうございましたー」
 お買い上げ
「か、買ってしまった…」
(まさか、たった100Jに1時間も悩まれるとは思わなかった…)
 微妙に異なる、疲労感を味わう2人。
「シャル。オレはこの日を、“びょんびょん購入記念日”として、永遠に脳に刻み付け
るぞ」
 100Jに、真剣な面持ちをする大の大人。
「思えば、自ら金を払い物を買うのは…食事以外では初めてだ…」
 遠い瞳で、空を見上げるクロロ。
「感動するのはいいけど、お腹空いたし、何か食べようよ」
 あくまでシャルは冷めていた。
「そうだな。じゃあ、どこか料亭でも…」
「普通の若者は、昼から高級料理なんて食べないよ」
「なら、普通の若者の食事って何だ?お前みたいに、皆、家で作るのか?」
「クロロは普段、どうしてるのさ?」
 わずかに苛立って、シャルが聞く。
「お前やパクやマチといった、まともな食事が取れる所に押しかけたり、高級料理を食
べたり、コンビニで何か買ったり」
「ちょっと待て」
 クロロの言葉を、シャルが制止する。
「何か今、全く“普通”な行為が混じってたけど」
「そうか?」
 相変わらず、天気の良い思考回路のクロロ。
「まぁ、いいよ。それなら、ファーストフードにしてみる?」
「何故?」
「平日は半額、ってので流行ってるの。それこそ、1個65Jとか」
「ええぇッ!!!?」
 大道芸人も真っ青なリアクションな、驚愕ぶり。
「“びょんびょん”より安いぞ!!!?」
「確かに均一ショップも、街によっては10均や1均があるほどだからね」
「そ〜んなぁ〜!!」
 本当に、時流に取り残された男がそこにいた。
(ウボォーだって最新物には詳しいって事を言ったら、傷つくんだろうな…)
 黙っておこう。シャルはそっと、事実を封印した。
「時にシャル」
「なっ、何ッ!?」
 心を読まれたか、と心拍数を急増させてしまう。
「ファーストフードって、何だ?」
「はいぃ?」
 コンビニ食品を知ってるくせに。
「あの、ハンバーガーとか、ポテトとか…」
「ハンバーガー!!!?」
 どういう訳か、不思議な所にクロロが反応する。
「ハンバーガーの肉って、ミミズなんじゃ…」
「ンな訳あるかぁあぁぁッ!!!!」
 こうして、彼らの休日…もとい、クロロの休日&シャルの災日は過ぎていった。

 

 夜。暗闇の中、2人は帰路についていた。
「シャル…今日は、ありがとう」
「いえいえ。これで、貴方が真面目に働いてくれるのなら、全然」
「手厳しいな」
「サブリーダーって、そういうものです」
 休日の終わりと共に、シャルの言葉遣いも普段通りに戻っていた。
「ま、良い気分転換になったのは確かだからな。いつかまた、頼むな」
「“いつか”なら、ね」
 シャルは今日の仕返しと、意地悪な笑みを浮かべる。
「その時は、もう少し“常識”を学んでおいて下さいよ」
「うぅ」
「ふふふ」
 今日も1日、旅団の平和はシャルによって守られたのであった。

 

 が、
「シャルー!今度はUFO探しに行こう!UFO!!」
「はぁッ!?」
「気分転換に連れて行ってくれぇ
 シャルの腕に抱き付くクロロ。
「先週もオーロラ見にいったばかりでしょう!!」
「また“団長”辞めたくなったんだ
「もう…」
 シャルの中で、込み上げ行く衝動。
「いい加減にして下さぁあぁあぁぁい!!!!」

 すっかり気分転換グセが付いたクロロが、出来上がっていたそうな。

END  

 

・後書き
 
どうでした?今回特に、笑いの薄さに自己嫌悪してます。スミマセン;はっきり言って、
“団長と念魚”、“団長とびょんびょん”、“呼び捨て&タメ口に悩むシャル”が、
書きたかった
だけなんです(死)
 だから、休日ネタ。しかも“団長と念魚”ネタは、つい数日前に思いつき急遽、挿入したと言う…;
後輩ウケは良かったんですけどね;自己採点だと、お笑い点は低いです。
ネタ思いついて、話考えて、後輩に語ってる時点では「イケル!」と思ったのになぁ…。

 タイトルは、一応「ローマの休日」を意識しました。ネタ思いついた時、某紅茶CMがそうだったので。
それに何より、「コトノハ」ってミニ番組で偶然「ローマの休日」が取り上げられたし。
 本当は、このタイトルに1番悩んだんです。タイトル、とりあえず時川は、今までも、あんな駄タイトルでも、
語呂と勢いと重視して考えていたんです…!!!!(実話です)スパッと言い切りたいんですよね。うん。

 でも、楽しんで頂けたら光栄です。今回は、いつもの補足は書きません。きっと、いや、確実に
言い出したらキリがなくなります。それはもう、時川の旅団語りの如く(苦笑)故に、今回は時川の心に封印!!

 ちなみに念魚の命名は、“夢日記”おなじみの彼女に手伝ってもらいました