「君の価値」

 9月3日。旅団アジト。
 その日、本日の収穫・ゴンVSノブナガの腕相撲が行われていた。
 要するに10巻の例のシーン。
「お前、調子乗りすぎね」
 ノブナガを打ち負かしたゴンが、フェイタンに動きを封じられる。
「質問に答えるね。鎖野郎、知らないか?」
「そうだよ、答えて」
 その時、ス…っとシャルが歩み出た。台に手を着き、ゴンを見る。
「何でもいいよ。どんなに些細な情報でも」
 冷たい瞳。感情を、どこかに置き忘れた様な。
「オレたちにとって、ウボォーは大切な仲間だった。そう、ウボォーのいない旅団なんて…」
 グッ、と拳を握る。そして、シャルは真顔で言ってのけた。
「マカダミアナッツの入っていないチョコと同じなんだ!!!!」
(えーーーーーーーッッッ!!!?)

 その場の空気が固まる。
「シャルぅーーーッッ!!訳わかんねぇよ、それぇッッッ!!!?」
「無くても美味しいけど、あった方が美味しいし、何より嬉しいじゃないか!!」
「じゃあ、ウボォーはいなくても良かったってのか!?」
「そんな事ないよ!!オレ、マカダミアナッツ好きだもん。脂肪分多いけど」
「論点がずれてるわぁッッッ!!!!」
 シャルの襟首を掴み、ガクガクするフィンクス。彼は泣いていた。
 よりにもよって旅団以外の奴らの前で。
 団員たちは心の奥で嘆く。
 そしてはたと気付く。そう、『旅団以外の奴らの前』なのだと。
「え、え〜と…」
 フィンクスが、悩んだ末に一つの提案を出す。
「今の、無かった事に出来ないか…?」
「え!?」
 当然、ゴン&キルアは戸惑う。だが旅団も必死だ。
「やり直してくれるよな!おい!?」
 ノブナガの手に力がこもる。腕相撲の時よりも目に力がこもる。
「やり直すだろ!!!?」
「は、はい!」
 あまりの必死さに、思わず提案を受け入れてしまうお子様組み。
「よし!やり直しだ!!」
「みんな、元の位置について」
 マチの声に、先ほどと同じ位置につき、同じ格好をとる団員たち。
「で、どこからやるね?」
「じゃあ、コイツの動きをフェイタンが封じて、シャルが台に手ぇついて…ってトコからな」

−−−−−

   TAKE.2
 先ほどと同じ状況。シャルが口を開く。
「ウボォーのいない旅団なんて…」
 ごくり。息を呑む一同。
「コーヒー牛乳の無い銭湯と同じだ!!!!」
 
ズガーーーーーーンッッッ!!!!
「だからわかんねぇってぇえぇええぇぇッッッッ!!!!」
「やっぱり風呂あがりは牛乳だよ!!
 イレズミの所為で銭湯にもサウナにも入れないけど、定番でしょ!!!?」
 きっぱり

「あ、オレ、何となくわかるかも…(ドキドキ)」
「マジか、ゴン!?」
 で、結局。
「…もう一度いくか、なぁ」
「…今度はもう少し、わかりやすい例えで頼むぞ、シャル!!」
「十分、わかりやすいと思ったのに〜」
「いいから!!!!」
 フィンクスは、隠れて涙をぬぐった。

−−−−−

   TAKE.3
 真剣な表情のシャル。いや、始めからシャルは十分本気だったのだが。
「ウボォーのいない旅団なんて…」
 ビシ!!とゴンを指さすシャル。
「M●RI総理のいない日本と同じ!!!!」
「シャルーーーーッッッ!!!!」
 フィンクスがツッ込むよりも速く、ノブナガがシャルの襟首をガクガクする。
「ウボォーの代わりはいくらでもいるって事か、オイッッッ!!!?」
「だっ、だだ、だって、時勢を織り交ぜた方がわかりやすいかなって!!」
「伝わらねぇだろ、ウボォーの大切さも何も!!!!」
「じゃ、じゃあ…」
 シャルは何のためらいも無く、言った。
「拷問禁止令の出た、フェイタン!!!!」
 ピシッッッ!

 凍りつく時間。
 団員全員がフェイタンに視線を送る。それから、
「「「くぅッ」」」」
 全員が、目頭を覆った。
「何故ねーー!!!?」
 不満爆発のフェイタン。
「だって、すごいよく分かったから…」
 さめざめ、さめざめ。涙をこらえる団員たち。
「そんな事ないね!!失礼ね、みんな!!!!」
「いや、でもさ…」
 もめる団員たちとフェイタン。
 原因のシャルはと言うと、何食わぬ顔で感傷に浸っている。
「身内ネタ持ってこられても、分かんないよなぁ」
「とりあえず、誰が『フェイタン』なのかは分かったけどね…」
 ぽつん。放って置かれるお子様組み。
「やり直すね、やり直すね!!!!この2人にもわかる様に、言い直すね!!!!」
「え〜。せっかく、みんなが納得してくれたのに…」
「ワタシは納得してないね!!!!」
 結局、フェイタンの切実な訴えにより、やり直しが決定した。
 もうこの時点で、当初の目的を覚えている者など、0に等しかった。

−−−−−

   TAKE.4
 という訳で、お子様組みの理解だけを得る為に、
 シャルの、そして旅団の最後の戦いが始まった。
「ウボォーのいない旅団なんて…」
 キッ、と鋭くお子様組みを見据えるシャル。
「チョコの入っていない『チョコロボ君』と同じなんだッ!!!!」
 言っている事の割に、声も表情もとてつもなく切なげ。
 フィンクスは遠い目をして、呟く。
「シャル…それは…どうだろう?」
「でも子供向きのネタって言ったら、お菓子かなって」
「お前…半分冗談入ってるだろ?」
「え?オレ、ノブナガを元気付けようと本気だったけど?」
「ああ、そう…。いや、そうだな、そういうヤツだよ、お前は…」
 諦めムードが、1室を包んでいく。だが、奇跡は旅団を見放さなかった。
「?キルア?どうしたの、キルア?」
「…………」
 応えない。ただ小刻みに、キルアは震える。
「……ゴン、オレ…」
 顔をあげる。その顔は、いや瞳には、涙がたまっていた。
「すっげぇ、よくわかる…!!」
(えーーーーーーーッッッ!!!?)
 驚愕。ゴンだけでなく、団員たちにも、広がる。
「もう、何でも聞いてくれって感じ!」
「本当?!やった、みんな!!」
 シャル1人だけが心の底から笑う。他の団員達は、ひきつり笑いしか返せない。
「えっと、それじゃあねぇ…」
「うんうん」
 シャルがまず何を尋ねようか考えるのと、同時、
 ピピピピピピピピ…♪
「あ、ちょっと待って。携帯かかってきたから」
 懐から携帯を取り出すシャル。
「もしもし。あ、団長。どうしました?……あ、はい。……、わかりました」
 電話を切る。
「シャル、団長、何だって?」
「う、うん…、それが…」
 ピピピピピピピピ…♪
 今度は、フェイタンの携帯が鳴った。
「団長?……わ、わかたね」
 ピピピピピピピピ…♪
 次に、マチの携帯が鳴った。
「シャル…、あ、あの…団長は何て…」
 嫌な予感がする。
 携帯を受けていない団員たちは、この時ばかりは自分たちの勘がハズれる事を切に願った。
 シャルも、どうしよう、という顔をしている。
「セメタリービルで暴れてるから、来い…って」
 予・感・的・中

 間。
「忘れてたぁぁああぁぁあぁあぁぁぁッッッッ!!!!」
 アジトが崩壊する勢いで絶叫する全団員。
「どっ、どうしよう!?オレ、ノストラード組構成員リスト11人分、
 すごい時間と労力と金かけてまとめて来たのにッッ!!」
「とっ、とにかく、向かいながらリスト見て、殺りながらリスト見て、でいくしかねぇだろ!!」
 旅団は慌てふためき、急いで部屋から駆け出していく。
「リスト、全員持ったな?行くぞ、フェイタン!」
「分かてるね!」
「私達も行くわよ、シャル!」
「ああ!」
「シズク、行くぞ!」
「うん」
「何やってんの、ノブナガ!?アタシたちも行かないと!!」
「で、でもコイツらを見とかねぇと」
「じゃあ、置いてくからね!!」
 バタバタバタバタ…ッ!!!!
 こうして旅団員はアジトにノブナガとお子様組を残し、夜の街へと消えていった。

−−−−−

 おまけ。
「どうして何も…ッ、起こらないんだぁぁッッッッ!?」
 クロロの悲しき叫びが、むなしく満月に吸い込まれていった。

 なお、このやり取りは旅団のイメージを著しく損なうとして、
後日、全面修正が決定された。

END



・後書き
 またまたやってしまいました;原作脱線物語。しかもウボォーいないし;
オチも似てるしなぁ…;あ、団長もいないなぁ…。最後だけ;
 ま、ネタ思いつきから完成まで2日だし、作った期間も近いし。う〜ん;
 今回もシャル君、天然大爆発
vvv(笑)
 フィンクスも、「スゝメ」よりは天性のツッ込み色が出せたかな?
 ゴン&キルアは…もう出ないだろうなぁ;基本的に。
 次はシリアスで行くべきか、またギャグで行くべきか…?
どっちも、
同人誌用のワープロ原稿なんですけどね;(パソコン入れ大変;)
でも、本に出来そうにないしなぁ…、挿絵描くの遅いし、下手だし;
 はたまた
パソコン原稿でせうか?けど時間がない…;
しかし、どれもウボォーが出ているし!!!!(GWか、GWだね・涙)

 
ごめんよ!!ガンバルよ、ウボォー!!!!(号泣)
 ……。後書きか?コレ;(…死)