その事件は、ある叫びから始まった。
「うわぁあぁぁああぁぁぁッッッ!!!!」
「どッ、どうした、シャル…ッ!?」
 突然の大声に耳を押さえながら、近くにいたフィンクスが尋ねる。
 シャルの顔は蒼白で、今にも泣き出しそうな雰囲気が伝わってくる。
 恐る恐る、シャルは口を開いた。全ての始まりの言葉を。
「ケータイが…壊れた……」

   「ケータイ哀歌」

「けっ、携帯って、『ブラックボイス』に使ってるネコのヤツか!?」
「うッ、うん!!」
 2人は困惑気味だった。
 特に、操作系のシャルにとって致命的な出来事である事は間違いない。
「これじゃ、オレの念能力は50%カットだし!」
 シャルはオロオロと、手の動きに落ち着きがない。
「どどどど、どうしようッッ!?もし今、入団志望者が来て、オレを指名したりしたら!!!?」
「お、落ち着けって!そんな簡単にオレたちの居場所なんてつかめねぇし、
 万が一、来たとしてもお前選ぶとは限んねぇし!!」
 何とかシャルを落ち着かせようとするフィンクス。
「いや、それよりも!もし今フィンクスが、
 『エジプト4000年の呪い』をかけてきたりしたら…ッッッッ!!!!」
「出来るか!!!!っていうか、オレを何だと思ってるんだ、お前!!!?」
 反射的にシャルの襟首を掴む、フィンクス。
「…あのさぁ」
 今までの展開を黙って見ていたシズクが、口をはさむ。
「直せばいいんじゃないの?壊れたんなら」
「あっ」
 シャルとフィンクスは同時に思った。ああ、そうか…、と。

−−−−−

 人通り賑やかな街を、シャルはウボォーと2人して、歩いていた。
「でも、何でオレなんだ?オレ、機械の事なんてわかんねぇぜ」
「だってウボォーなら、荷物たくさん持てるでしょ」
「携帯の部品って、そんなにたくさん要るのか?あんな小せぇのに…」
 すごいんだな、と素直に感心するウボォー。
「そうだよ。もしもの為に、3機分は盗っておきたいから」
「もしもン時?」
「そう。最初作った時は、7機分の材料をゴミ箱送りにしちゃったから」
 実は恐ろしい事を、シャルは笑顔でさらりと言い流した。

−−−−−

「ただいま〜」
「おっ、帰ってきたか。大変だな、シャル」
 笑いながら、ノブナガが出迎える。その部屋には、
クロロ、ボノレノフ、パクノダ、ヒソカ以外の団員が揃っていた。
「で、ウボォーは?」
「呼んだか?」
「ッ!?」
 息を呑む一同。
 ウボォーは、両手いっぱいに荷物を抱えていた。
 自身の視界をさえぎる程、いっぱいに。
「……ウボォー、お前、何持ってんだ?」
「あん?決まってんじゃねぇか」
 床に、ドサッ、と大荷物を置く。
「シャルの携帯の部品」
「バカかおまえはぁぁッッッ!!!?」

 訳のわからない責めに、ウボォーが『?』となる。
「コレ…8割方、お菓子やお酒だよ」
「ホントだ…」
 コルトピ&マチが袋の中身を全て確認しながら、呆れていた。
「シャル…?」
 冷たい視線で、尋ねるフィンクス。
 だがシャルは気づかない。笑顔で、難なく言ってのける。
「だって、おやつは必要かなって思って」
「真面目に修理を考えろよ!!!!」
「何事にも、休息は必要だよ」
「オイ!!!!」

−−−−−

 かくして、ケータイ修理が始まった。
「ノブナガー」
「お?何だ、シャル?オレ、言わなくてもわかると思うが、
 機械なんてさっぱりわかんねぇからな」
「コレを、線の通りに切って欲しいんだ」
「コレを?」
 シャルは、白い線の引かれた金属板を持っていた。
「切りゃ良いのか?なら、楽勝だぜ」
 自信たっぷりに、ノブナガは刀を構えた。

−−−

「うん。外観は、こんな感じかな」
「もう出来たのか?」
「違うよ。外観だけ。あとはこの中に回路を組み込んでいくだけ。
 ま、それが1番大変なんだけど」
「へぇ…」
 感心して、覗き込むフィンクス。
「……おい」
「何?」
 フィンクスの目の前、シャルの手の内にあるモノ。
 その形は、確かにネコだった。確かにネコだったのだが!!
「コレ…ドラ●ホンじゃねぇのか…?」
「市販版じゃないよ。昔の耳あった頃の」
「色以前に、形…違うよな?」
「実はオレ…最初から、コレ目指してたんだけど、失敗しちゃって」
 その場にいた全員が、己の思考回路をフル回転させる。そして気づく。
(じゃあアレ、ドラ●もんのつもりだったのかーーーッッ!!!?)

 結局、あの『ネコケータイ』の方が使い込み時間が長く、
(シャルいわく)失敗作ながら愛着が強いという事で、1から作り直しとなるのであった。

−−−−−

 外観の組み立ても終わり、シャルは回路の組み立てを行っていた。
 ドライバー、はんだごて、集積回路……。
 真剣な表情で、それらを丁寧に組み立てていく。
「全く。いつもあんな風だったら、『頼れるサブリーダー』の名を欲しいままに出来るのにな」
「言えてる」
 フランクリンの言葉に、マチが笑う。
「両極端なのがシャルの悪いトコね」
 フェイタンが冷静に呟く。
 シャルの作業を、お菓子とお酒の余興の様に見つめる団員たち。
「ふぅ…。とりあえず、こんな感じかな」
 キリが良い所までいったのか、シャルが手を止めて額の汗を拭う。
「ごめん、コルトピ。オレの為に」
「ううん。ボクの力で役に立てるなら、何でも言ってよ」
 シャルが今組み立てているのは、コルトピによって作り出されたコピーの部品。
 作ってから随分経っている為、昔の勘と記憶を取り戻そうと、
試作品の意味でコルトピにコピーを頼んだのだった。
「で、調子はどう?」
「う〜ん。やっぱり大分忘れてる。
 どことどこをつなげば良かったのか、かなり危うい感じ。
 コレだけじゃ、コピー足りないかもよ?」
 冗談めかして、シャルが笑いかける。
「じゃあ、ボクも頑張らないと」
 コルトピも、冗談で返す。
 だがコルトピは、後にこの冗談を後悔する羽目になる。

−−−−−

「何をやっているんだ、アイツらは?」
 別室。本を読む手を止めて、クロロが尋ねる。パクノダが、それに答えた。
「シャルの携帯を修理しているそうです。壊れたらしくって」
「それにしても、9人がかりでか?」
「ええ。私は能力的に役に立てないので、団長につく事にしたんです。
 皆、あのケータイを作る工程に興味があるみたいで」
「ふぅん。そうか……」
 立ち上がるクロロ。
「団長、どちらへ?」
「いや。オレも暇だし、顔くらいは出してやろうかなと思ってな」
「とか言いつつ団長、実は寂しいんでしょう?」
「…だって、全く会話が無い上に、
 隣りの部屋からはわいわいと楽しそうな騒ぎ声が絶えず聞こえて来るんだぞ!」
 この時、室内にいたメンバーはと言うと、クロロ・パクノダ・ボノレノフのたった3人。
 正直、クロロはいかに読み飽きたとはいえ、
本でも読まなくてはやってられない心境だったのだ。
 クロロが、他団員のいる部屋のドアノブの手をかける。
 その時、
「わっ、いけない!!!!」
 
バフーーーーーゥゥゥッッッッ!!!!
 部屋中を、破片と黒煙が襲いかかった。
「……ふぅ」
 シャルが、危なかった
と息をつく。
「『ふぅ』、じゃねぇえぇぇええぇぇぇッッッッッ!!!!」
 部屋にいた全員が、シャルに詰め寄る。
 皆、一様に全身黒づくめになっていた。
 おまけに飛び散った破片が顔に突き刺さり、コレがギャグでなければ、
ウボォー以外全員
『顔だけボノレノフ』になるトコだった。
「何で無関係のオレたちがススまみれで、
 元々の原因であるお前が、ウボォーの後ろに避難してんだよぉおぉぉッッ!!!?」
 代表して、フィンクスが泣きながらツッ込む。
「だ、だって鋼鉄の肉体を誇るウボォーの後ろなら1番安全だと思って」
「そういう問題じゃねぇだろッッッ!!お前にもスス、付けるぞ!!!!」
「…なぁ、オレはどういうリアクションをすればいいんだ?」
 団員たちの背後で、とても聞き覚えのある声がした。
 硬直する団員たち。ゆっくりと、叶わぬ希望を願いながら振り返る。
「団長……」
 扉の側に、クロロはリアクションを求めて立っていた。
 今、彼もまた他の団員たちと同様に、ススまみれの黒づくめだった。
 ただでさえ黒メインの服を着ている為、真に“全身黒づくめ”。
 誰もが返答に困った。
「え、えーと…」
 流石のシャルも、どうしよう、と悩んでいるかの様な表情で口を開く。
真っ黒クロロ、って事で」
 
ピシ…ッ。
 凍りつく空気。
 絶対零度をも軽く凌ぐ驚異的寒さに、
この事がうやむやの内に抹消された事は、言うまでもない…。

−−−−−

 その後、シャルは何度も原因不明の、
本来ならどんな失敗を犯しても起こるはずのない大爆発を繰り返した。
 その度に、コルトピは部品をコピーし、シズクは破片やらをデメちゃんで掃除し、
フィンクスはツッ込んだ。
 しかし2日後のあけぼの。要約、全団員の苦悩と苦労は報われた。
「やったぁ!!皆、ケータイ直ったよ」
 心底嬉しそうに、シャルは満面の笑顔で修理したてのケータイを提示する。
「本当か!?本当に、完全に直ったんだな!!!?」
「もちろん、完璧だよ!!何なら…誰か操ろうか?」
 ニッ、とネコケータイを構える。
「良かったァ…
コレで、もう団員志望者がいつ来ても、
 フィンクスが『エジプト4000年の呪い』をかけてきても大丈夫

「いや、そんな事より…」
 フィンクスは、シャルにツッ込まなかった。
 彼は困惑と心配と焦燥に満ちた表情で、ある人物に視線を向けていた。
「コピーの出し過ぎで瀕死のコルトピを、どうしてやれば良い…?」
 床にぐったり…と伏しているコルトピ。ぴくりとも動かない。
「だが良かったな、シャル。もう、壊したりしないよう、気をつけろよ」
「はい。わかってます、団長」
 機嫌良く、シャルが笑顔で返す。
「みんなには本当、感謝してる。おかげで予備も直ったしね。ありがとう」
「ああ。そりゃ、どういたしまして。……んっ?」
 フィンクスは気づく。今、シャルが不可解な発言をした事に。
「今お前…、何て言った?」
「え?みんなには本当、感謝してる、って」
「いや、その後!」
「ありがとう、って」
「いや、その間!!」
「おかげで予備も直ったしね、って」
「そう、予備!!……って」
 フィンクスは、いや、やり取りを聞いていた全員が、理解に苦しんだ。
「予備ぃいいぃいぃぃぃッッッ!!!!!!!?」
 激しく震撼する、アジト。
 この日、周囲の地域に謎の地震速報(震度4)が流れたという。
「うん。本機が狙われると困るから、
 相手がザコだったりする時とかは予備の方を使うようにしてるんだ」
 そう言って、シャルは今しがた『直った』と提示していたケータイと
全く同じ姿形をしたネコケータイを取り出して、見せる。
「今回壊れたのは、予備の方」
 満面の笑顔。そう形容するのに、ふさわしい笑顔。
「ちょっと待て!!それじゃお前は、予備の為に散々爆発起こして、
 デメちゃんフル活動させたあげく、コルトピを瀕死に追い込んだってのか!!!?」
 納得いかない。理解出来ない。
 誰もが、混乱していた。
 当のシャルは一瞬、きょとん、とした表情を見せた。
 が、すぐに最上パーフェクト爽やかスマイルを浮かべて、
「うん!!!!」
 事もなげにきっぱりと、シャルははっきり頷いた。
「ハ、ハハ…アハハ……ッ。そう…なんだ…アハハ……」
 
脱力。
 全員が、その場に倒れこむ。立ち上がる気力も湧かない。
「あれ?どうしたの、みんな!?」
「い、いや…急に……疲れが………」
 当然この疲れは、シャルの“予備”発言によるものだが。
「あ、そうか!みんな、最後まで付き合ってくれたんだもんね!!」
 見当違いの心配。
「わかった!お礼に、オレが腕によりをかけて朝食を作るよ」
 ガッツポーズ。
 シャルは、部屋から駆け出して行く。
「待っててね!オレ、料理には自信あるから!!!!」
 最後まで、天然のままに。

−−−

 シャルのいなくなった部屋は、とても静かだった。
 むしろ、生気すら微かにしかない。
「団長…、ちょっと…いいですか……?」
「何だ、フィンクス……?」
「しばらく…クモ、休んで良いですか……?」
「お前…、オレにシャルとヒソカの3人でクモをやれと言うのか…?」

 フィンクス以外の団員も彼同様の瞳で己を見つめている事を、
当然クロロは気づいていた。
 ここでフィンクスの休暇願いを受け入れたりしたら、
他の団員たちの休職願いも享受しなければならない事は間違いない。
「うぅ…ッ、ううぅうぅぅ……ッ」
 しくしくしくしく。
 悲しきすすり泣きが、その部屋全体を静かに支配していた…。

−−−−−

「えっと、ココでコショウを1つまみ入れて…」
 大鍋をおたまで掻き回してから、味見するシャル。
「うん、美味しい

 その邪気のカケラも無い笑顔が旅団に災難ではなく安息を与える日が、
果たしていつかは来るのだろうか?
 それは、誰にも分からない。
「コレならみんな、喜んでくれるよね

 『ラブリーゴーストライター』であっても、絶対に。

END



・後書き
 どうでしたでしょうか?最近、「何となくギャグに勢いがなくなってきたか?」と悩む時川です。
 この「ケータイ哀歌」、ネタが出来たのは3月上旬だったりします。
なので、
CDの影響を受けていない為、団長はまだボケの被害者だったり。
それにまさか、ジャンプでネコケータイがあんな目に遭わされるとは知らなかったさ…;
 でも、シャルのケータイはネコでなくコウモリという説が…。
ま、ネコの方が語呂いいし、カワイイし、シャルに似合うので
vvv

 何気にコルコルが可愛そうなお話。こんな目にあうんなら、出番要らないかな?
ボノにとっては贅沢な悩みなんだろうけど。(ヒドイな、自分/笑)
“真っ黒クロロ”も、実は結構お気に入り表現寒いけど(笑)
ま、アニメのシャルなら言うんじゃないかな?CDの団長も。(じゃあ、ボクも同レベル…;)

 おまけにまたドラ●もん…;(時川が好きなので;2歳の頃からずっと;)
また出ますよ、確定で。もう、ドラ●もんは欠かせない…;