「イノセンス」

 それは、彼らが“少年”と呼ばれてふさわしかった頃。
 雨の降る流星街を、2人の少年が歩いていた。
「シャル、シャル、シャール〜!!」
 黒髪の少年が、シャルと呼ばれた少年の後を焦りの表情で追いかけていた。
「オレが悪かったから。なぁ、シャル〜!!」
 シャルは不機嫌を隠さない表情で、呼びかけを無視して先へ行く。
「シャル〜ッ!!」
「…………」
 シャルが、相手の少年をキッ、と睨みつけてようやく振り返る。
「しつこい!!」
 怒りのあふれる言葉。
「シャル、オレが悪かったから。機嫌を直し…」
「しつこいって言ってるじゃないか!!オレは、しつこいのは嫌いだよ」
 フン!と、そっぽを向く。
「シャル〜…」
 そこへ
「お前ら、傘も差さずに何やってんだよ?」
 そう言った本人も、傘など差してはいないが。
「あ、ウボォー」
 2人が同時にその名を口にする。
「聞いてよ、ウボォー」
 シャルが、ウボォーの後ろに隠れる様に身体を回り込ませる。
「クロロってばヒドイんだから」
「は?」
「あのね、だって…――――――」

 

 ―――――回想。
 ガレキに形作られた、テントの様な室内に2人はいた。
「なぁ、シャル。これから街までデート行こう?」
 機嫌良さげな笑顔で、クロロがシャルを誘う。
「何でまた雨の日なんかに?」
「今日は、欲しかった本の発売日なんだ」
「それで…」
 呆れた様に、ため息をつくシャル。
「てっきり、1週間早くてもオレの誕生日を祝ってくれるのかと思った」
「えッ?誕生日?」
 クロロがそうだっけ?という顔になる。
「忘れてたの?来週のオレの誕生日」
「い、いや、そんな事は……」
 図星を指されて、無意識に目をそらしてしまうクロロ。
「別にいいよ。ココじゃ、誕生日なんてそんな重要なものでもないしね。でも…」
 にこと笑いつつ、クロロに両手を差し出す。
「シャル?あの、コレは…?」
「祝って。ていうか、祝え」
「え?」
「いや、祝ってくれなくてもいいから、何かちょーだい」
 悪戯な笑顔で、シャルは催促する。
「もちろん祝うさ。当然だろ」
「祝ってくれるなら、何かちょーだい」
 どの道、プレゼントを要求するつもりなシャル。
「じゃ、じゃあ……」
 クロロはすぐに笑って、シャルの手を取る。
「オレをプレゼントって事で」
「要らない」

「…………」
 ショックを受けるクロロ。しかも“いらない”ではなく“要らない”。
 クロロは気づかなかった。その時、シャルが激しくムッとした事に。
「な、なら、宇宙よりも大きい…」
「“愛”とか言ったら、怒るよ」
 言葉を飲み込むクロロ。まさに、シャルの予想通りだったから。
「まっ、まさか!!そそ、そんな訳…ないだろ」
「じゃあ、何?オレ、形のあるモノがいい」
 考え込むクロロ。
「……18禁ワード、OK?」
 バキィィィンッ!!
 シャルの拳を顔面に受け、綺麗な弧を描きながら宙を舞うクロロ。
 すぐにシャルは懐から携帯を取り出し、ダイヤルする。
「ど、どこへ…かけてるんだ、シャル…?」
「フェイタンに。拷問の極意を教わろうと思って」
「うわぁぁあぁッ!!」

 ―――――回想終わり。

 

「ね?ヒドイでしょ?」
「だから、ちゃんと来週にはプレゼントを用意するから。なっ?」
「信用出来ない。今まで、48回も約束破ったヤツなんて」
 シャルは、ウボォーの腕に抱きつく。
「ウボォーに乗り換えてやる」
「そんなッ!!!!」
 人を乗り物か何かみたいに…、と呆れるウボォー。
 けれど当のウボォーそっちのけで、さらに複雑にもめていく2人。
「ウボォーの方が優しいし、約束守ってくれるし、頼りがいがあるもん」
「オレだって優しいし、約束だって…これからは守るようにするから!」
「だからクロロは信用出来ないって、言ってるじゃないか!しつこいのも嫌いだって」
 きっぱりと、突き放す様に言い切る。
「そんな…。オレ、こんなにもシャルの事が好きなのに……」
 その言葉に、さらにカチンとくるシャル。
「嘘つき!オレの事なんか、全然好きじゃないくせに!!」
「嘘じゃない!オレは、本当にお前の事が…」
「だったら言うけど、何で、オレと2人っきりの時に本読んだりするわけ?オレが話し
掛けても、“ああ”“わかった”“ふーん”って曖昧な返事で、ちっともオレの話に耳
を傾けてくれないじゃない!そのくせ本を取り上げたら“何するんだ”って、必死で取
り返しに来るくせに!」
 今までの不満を、一気にぶつけゆく。
「どうせ、1.金2.本3.自分で、その後にオレが続くんでしょ!?」
「え?い、いや…ッ、それは…」
 即座に否定しないクロロ。シャルはどこかで何かが切れる音を聞いた。
「やっぱりそうなんだ!口だけで!!」
 ずかずかと、クロロの前に立つ。
「大ッ嫌い!!!!!!!!」
 パシィィィンッ!!
 クロロの頬を、シャルの平手が赤く染めた。
「クロロなんか、大ッッッ嫌いだ!!!!」
 そう怒鳴りつけて、シャルはその場から駆け出していった。

 

 しくしくしくしく……。
 わずかに雨をしのげる、ガレキの下。クロロは両膝を抱いて絶望していた。
「シャルぅ…」
「何やってるの、こんなトコで?」
「マチ…」
 顔を上げると、傘を差すマチの姿が視界に入った。
「じ、実は、実はシャルが……」
 事の顛末を、事細かに話す。
「オレはどうしたらいい?どうしたら、シャルは機嫌を直してくれる?」
「って言われてもね…。シャルが怒るのも、無理ない気がする」
「だからマチならこういう時、何されたら機嫌を直す?」
「そうだね…」
 自分に置き換えて、想像してみるマチ。それでも答えに悩んでいると、
「やっぱプレゼントだろ。プレゼント攻撃」
 突然、会話に入りこまれる。
「フィンクス!アンタ、どこから聞いてたのさ」
「“マチならこういう時〜”から。シャルとクロロがケンカしたって聞いたからな」
「ソレ、シャルからか?」
 不満を辺りにぶつけまくるほど、怒りが頂点に達しているのかと、不安がるクロロ。
「いや、フェイタンから。シャルから携帯あったんで、何の用かと思えば…って、散々
グチ聞かされたんだよ。ま、シャルからフェイタンに伝わってる訳だから、間接的には
シャルからか」
「シャル……」
「そんな訳で、オレにもこの会話に入る資格は十分にあるぜ」
 事態を楽しむ笑顔で、フィンクスは笑っていた。
「まったく、いい趣味とは言えないね」
「何言ってんだよ。人の悩みを聞いてやる、親切なお兄さんだろうが」
 呆れるマチ。
「で、さっきのプレゼントの事だけど、それで本当に怒りが収まると思ってるのか?そ
んな簡単に人の心が動くと思うのは、くだらない男の思い込みだ」
「動くだろ。プレゼント攻撃されたら」
「女はそんな簡単な生き物じゃない」
「シャルの話だろ?」
 あ、と気づくマチ。フィンクスは続ける。
「ココは流星街だぜ。外の考えなんて、通用しねぇだろ」
「確かに」
 納得する。
「…つまり、お前らの意見では、シャルをプレゼント攻めすればいいって事か?」
 話題の中心なのに、そっちのけにされていたクロロが、すがるような瞳で確認する。
「女としては、あまり誉められた手じゃないけどね」
 ココでは外の一般論は特異論だし、と自らを納得させる。
「けど、何を贈ればシャルが喜んでくれるのか、わからないし…」
 改めて、シャルの事を知ったつもりでいただけの自分に気づかされる。さらに落ち込
むクロロ。
「バカだな。折角、シャルの誕生日っていう、丁度いいイベントが控えてるんじゃねぇ
か。シャル誘って、ロマンチックな演出でもしてやれば、バッチリだって」
「ロマンチックな演出…?」
「そう。夜景の見えるレストランでディナーして、酒でも飲ませて、酔ったシャルをどっ
かに連れ込んで、コトに及んで、最中に“許してくれ”とでも何とでも言えば、シャル
はすぐに“うん”ってうなずくさ」
「本当に!?」
 ああ、と笑うフィンクス。
「行為の最中は本能でそっちの快楽を優先するから、相手の質問の意味をよく理解もせ
ずに了解するんだと。それで“結婚して”って言われてうなずいた男の例もある」
「なるほど…」
 クロロは素直に感心した。
「よし、それだ!ありがとう、フィンクス、マチ!!」
 決意に満ちた笑顔を浮かべて、クロロは手を振りながら走り去っていった。
 取り残される2人。
「よくもまぁ、あんな手が思いつくもんだね」
「オレの意見じゃないぜ」
「?」
「コレに書いてあったんだよ。特集で」
 ほら、とフィンクスは懐から丸められた雑誌を取り出す。
「アンタ、ソレ…」
 マチは少し、クロロがふびんに思えた。
「3年前の雑誌じゃないか…」
「いや、退屈でその辺発掘してたら、出てきたから」
 言葉を失ってしまうマチ。
 その様子に気づかず、フィンクスはふと、会話に割り込んだ目的を思い出す。
「マジ。言うの忘れてた」
「…何を?」
「何でもシャルが怒ってるのは、誕生日忘れられてた事とか、2人でいる時に読書に夢
中になられた事とか、そういうのじゃねぇんだと」

 

 5日後。とうとう、明日はシャルの誕生日という夜がやって来た。
「何の用?」
 いまだ怒り覚めやらぬ様子のシャル。クロロを睨みつける。
「……明日の午前10時から24時間、オレにお前の時間をくれ」
「は?」
「明日の10時、いつもの場所で待ってる」
 意を決した瞳でシャルを見つめる。
「それ、誘ってるの?」
「ああ。明日はお前の誕生日だから」
「…バカみたい」
 短くつぶやく。
「本気でオレが行くと思ってるの?行かないよ、オレは。行くわけないじゃない」
 そっぽを向いて、その場から立ち去ろうとする。
「それでも待ってる。お前が来るまで、ずっと」
「…なら、勝手にすれば」
 シャルの表情は見えない。
「そうする。…おやすみ」
「ふん」
 そのまま、1度も振り返らずにシャルは去っていった。

 シャルの誕生日が明日から今日に変わった刻。シャルは片膝を抱いて、月明かりを背
に受けていた。
「いつまで起きてる気だよ。さっさと寝ねぇとデカくなれねぇぞ」
 組んだ腕を枕代わりに、ウボォーは身体を横たえていた。
 静かな瞳を、ウボォーに向けるシャル。
「それって…ウボォーと?」
「なッ!!!?」
 瞬時に顔を真っ赤にし、飛び起きるウボォー。
 硬直するウボォーに近づき、その赤い頬に触れる。
「オレって、そんなに魅力ない?」
 くす、と悪戯に笑いかける。
「…って、ねぇ。そこまで逃げる事ないじゃない」
 ウボォーは壁を突き破り、遥か15m先で固まっていた。
「昔は、オレが寝るまで側であやしてくれたのに」
「その“寝る”と今のお前の“寝る”は、明らかに同音異義だ」
 調子を取り戻して、ウボォーは再び横になる。
「ったく、ドコで覚えてくるんだ、そんな事?」
「知らない方が珍しいでしょ、ココでは。オレこそ、ココ出身のウボォーが何でそこま
で純情なのか聞きたい」
 シャルは声を抑えずに笑う。彼の言葉を振り切ろうと。
 ウボォーは、そんなシャルのささいな違和に気づく。1つ、ため息をつく。
「お前さぁ…」
「何?」
「当ってる答え、書き直そうとすんなよ」
 月は、抱く様にシャルを照らしていた。

 

 翌日。クロロは、頂点を目指す陽と澄んだ青空を見上げていた。
 ガサ…ッ。
 突然の物音に、クロロは振り向く。その瞳に、驚きと嬉しさが映る。
「シャル…来てく…」
「何で待ってたの?今、11時だよ」
 さえぎって、シャルは目を合わせずに言う。
「約束したから。お前が来るまで、ずっと待ってるって」
「…き、気まぐれだからね。貰えるだけ、プレゼント貰おうと思っただけだからね」
 赤い顔を見せまいと、言い訳を紡ぐその仕草が愛しくて、クロロは微笑む。
「いいさ。それでも、来てくれたから」
 シャルの手を取り、駆け出す。
「さっ、行こう」
「ちょっ、ちょっと待って!急に走ったりしないでよ」
 軽い足取りで、クロロはシャルを街へと導き、流星街を駆け抜けていった。

 2人で街を歩く。その頃には、シャルも大分笑顔を見せるようになっていた。もちろ
ん、クロロを許した笑顔ではない。他の人にも見せる、普通の笑顔。
 それでもその笑顔が、クロロには嬉しかった。
「シャル、ゲーセン行こう」
「ゲーセンに?そういうお金のかかるトコ、嫌いじゃなかった?盗みがきかないって」
「いいんだよ。それに今日は全部オレのおごりだから、シャルは気にしなくていい」
 中に入ると、そこはにぎやかで騒がしくて、とてもシャルの好きな雰囲気ではなかっ
たが、とても新鮮だった。
 定番に従い、まずUFOキャッチャーの下に行く。
「どれがいい?好きなの、取ってやるよ」
「じゃあ、あのネコのヤツ取って。白いヤツ」
「わかった、まかせろ」
 自信満々に、クロロは1コイン投入する。
「まかせろ、ねぇ…」
 何も掴まず戻ってくるクレーンを見ながら、シャルがため息をつく。
 気まずいクロロ。
「い、いや!今のは練習だって!つ、次こそ!」
 コイン投入→失敗。
「あっ、あれ?」
 コイン投入→失敗。
「お、おかしいな。物理的にはコレでいいはず…」
 5分経過。しかし、まだクレーンは空を掴み続けていた。
 シャルの視線が冷たい。
「いや、その……」
「いいよ。別に期待してなかった」
 そうため息混じりにこぼして、シャルはUFOキャッチャーの側面に回る。
「ほら、コイン入れて。オレの合図に合わせれば取れるから」
「え?あ、…ああ」
 コイン投入。→ぬいぐるみGET!!
「あ、の…シャル?」
 呆れた瞳で獲得したぬいぐるみを両手で抱くシャル。
「クレーンは垂直に下りる物だけじゃないの。わずかに前に出る物だってあるし。物理
的観測よりも、重要なのは勘と予測」
「詳しいな…」
「雑誌に載ってた。クロロから借りたヤツ」
「そう…だったか?って、シャル!どこ行くんだ!?」
 シャルの足は、出口へと向かっていた。
「もういいよ。これ以上ムダにお金使ってるの見てると、気分が悪くなる」
「でも…」
「コレで、オレは十分」
 少し頬の赤い、複雑な笑顔がシャルに浮かぶ。
「それに、ゲーセンだけで1日過ごす予定じゃないんでしょ?」
「…ああ!もちろん!!」
 笑顔で答えて、クロロはシャルの手を取った。
 その後は、雑誌を参考にしたのが丸分かりなデートコースをたどる事となった。
 時代遅れだと呆れながらも、シャルは少しだけ機嫌を直した。

「…よく、子供だけで予約が取れたもんだね」
「親が泊まってるって偽装したからな」
 2人は今、ホテルの“夜景が見えるレストラン”にいた。
「あの、シャル…」
「何?」
「誕生日、おめでとう」
 そういえば、まだその言葉を聞いていなかった。
「ありがと。でも、よくお金があるね。もう…2万Jくらい使ってない?」
 ジュースを1口喉に流し、興味津々にクロロを見る。
「何か、イイ稼ぎ口でも見つけた?」
「実は…」
 クロロは、満面の笑顔で笑う。
「オレの持ってた本、全部売ったんだ」
「え…ッ?」
「オレにとって1番大切なのは本でも金でもなく、お前だから」
 だからまだ予算は残ってる、と続けて。
「…バカみたい。そう言えば、オレが喜ぶとでも思ってるの?」
「どう…だろうな」
 笑顔の度合いを下げて、クロロが自問にも似たつぶやきをこぼす。
 そのまましばらく黙り込んだ後、微かな笑顔を残して、クロロは真剣な瞳でシャルを
見つめる。
「あ、あのな…」
「?」
「オレ、いつかはあの街を出ようと思ってる」
 シャルの顔に、わずかに驚きが灯る。
「正確には、拠点はあの街に今のまま。だが、帰るオレが滅多にいない、という事だな。
誰の指図も受けず、オレの思う通りに生きたいから」
「……ねぇ」
「それでアイツらを誘って、盗賊集団でも創ろうかなって」
「それって口説いてるの?」
 冷めた口調で、シャルが聞く。
「それで名のある宝を全部手に入れて…」
 だが、クロロは答えない。その事に少し、ムッとするシャル。
「男が自分の夢を語るのは、相手を口説いてるんだって」
「その時、隣にお前がいるとか」
「!」
 クロロはテレた様に、髪をかきあげた。
「…今はまだ、その力は無いけど…いつか、必ず」
「…バカみたい……」
 その強い瞳から逃れる様に、シャルは様々な感情の入り混じる瞳を、夜景へと移した。

 

 深夜。人気の無い路地を2人、月明かりを浴びながら歩く。
 約2m先を行くシャルの背を、幸せそうにクロロが見つめる。
「決めた」
 シャルが、つぶやく。
「オレ、本気でハンター証取る事考える」
「?突然、どうしたんだ?」
 足を止めるシャル。ニッコリと笑顔で振り返る。
「のるよ、さっきの話」
「へっ?」
「あの街を出て、盗賊やる話」
 驚きで、クロロの表情が固まる。
「ハンター証があれば金次第でどんな情報も手に入る。この情報が全てが支配する世界
で、そんなイイ物持ってないなんて損でしょ。サブリーダーやるなら」
「え?あ、あの…」
「何?不満?オレが一緒に盗賊するのは嫌?隣にいろって言ったのに?」
 途端に不機嫌な表情を表すシャル。
「そ、そうじゃなくて…」
「じゃあ何、オレ以外のヤツをサブリーダーにする気?」
 睨み付ける。
「そうでもなくて、その…」
 クロロは頭を掻いた。
「まさか、シャルがその気になってくれるとは思ってなかったから…」
 わずかに間を置いて、クロロは戸惑いながら言う。
「お前は、まだ怒ってると思ってた」
「怒ってるよ」
 さらりと、シャルが告げる。
「怒ってるよ。クロロ、ちっともオレの事わかってくれないから」
 笑顔で、シャルはクロロの下へ近づく。
「何でオレがあんなに怒ったかも、わからないでしょ」
「え?あれは…オレがお前の誕生日忘れてたり、2人の時に本に夢中になったりしたか
らじゃ…?」
「違う。だって、オレはそれすらも含めて、クロロのコト好きになったから」
 純粋な瞳で、クロロを見つめる。
「始めに言ったよね。オレは、クロロのモノって」
「あ…」
「なのにあの時、クロロが“オレをプレゼント”なんて言うから、忘れられてたんだっ
て。オレの言葉、真剣にとられてなかったんだって」
 クロロは、シャルの怒りの原因が痛かった。何もわかっていなかった自分を責めた。
「シャル、ごめ…、ッ!?」
 謝罪しようとしたクロロの口唇を、シャルが自らの口唇でふさぐ。
 自らの首に腕を回して抱きつくシャルを、クロロは抱き返す。
「今度こそ忘れないで」
 口唇を放して、シャルが囁く。
「クロロがオレのモノなんじゃなくて、オレがクロロのモノなんだから」
「ああ。絶対に」
 その言葉に、シャルは満面の笑顔を浮かべる。クロロから身を離し、笑いかける。
「よろしい」
 クロロも、心から笑った。
「じゃあ改めて。プレゼント、何がいい?まだ金は少しだけど残ってるし、足りないな
ら盗ってもいい」
 その下見も兼ね(シャルには言っていないが)、デパート街も歩いたのだから。
 キッパリ、シャルが答える。
「要らない」
「えっ!?」
 またも固まるクロロの笑顔。
「そこら辺で売ってるような安っぽい物なんて、要らない」
 悪戯な笑顔を贈るシャル。
「いつか、世界に1つしかない様な名のある宝を、オレにちょうだい」
 出世払いでいいよ、と付け加えて。
「シャル…」
 嬉しそうに、クロロは口元をほころばせる。
 その時、シャルが思い出す。
「やっぱり盗ろう」
「?」
「クロロが売った本。全部、盗り返しに、ね」
 シャルがクロロの手を取る。
「行こう」
 無邪気な笑顔。クロロも答える。
「ああ!」
 2人はそのまま、街へと駆け出して行った。

 

 あれから、数年の月日が経った。もう、“少年”とは言い難い。
「今から思うと、全部本気だったんだな…」
 テーブルにヒジをつき、シャルはため息をつく。
「何か言ったか?」
 背後で愛しい声がした。振り向いて、シャルは言う。
「何で、こんなにも自分勝手でワガママで傍若無人で自己主義なエゴイストと誕生日を
過ごしてるだろう、って」
「それ全部、同じ意味じゃないか」

 シャルは笑って席を立ち、向かい合う。あたたかい手が、シャルの頬に触れる。
「でもお前は、オレのコトが好きだろ?」
「どこからそんな自信が湧くんですか?」
 自信に満ちた笑顔に言い返す。
「オレに優しくされると、嬉しいだろ?」
「さぁ?」
「素直じゃないな」
「嫌いですか?」
 その腕が優しく、シャルを抱き寄せる。
「好きだよ。このまま、時が止まればいいと思うほど」
(…結局、ホレたこっちの負けなんだよな…)
 幸せを噛みしめ、その胸に全てを委ねる。
「わかってます。オレの方が、その何百倍も、ですけど」
「?」
 その反応にシャルは吹き出して笑う。
「相変わらず、わかってないんですから」
 そっと、キスを交わす。
 あれから2人の立場は変わったけれど、
「オレの想いは変わりません。今も、これからも」
 何一つ変わらないモノがある。
「オレは、アナタだけのモノです。団長」
 クロロは穏やかに微笑む。
「ああ」
 2人がもう1度、口唇を重ねる。
 来年も、また次の年も、こうして共にいられる事を願って…――――――――。

END  

 

・後書き
ごめんなさい。まず最初に謝らせて頂きますです(汗)何故なら、占天様のオーダー
『シャルクロのギャグ』『2人が子供の頃で流星街での話』を、
著しく守ってないからです;(ドコをどう見たらシャルクロ?しかも中途半端なギャグだし…;)
 でも、シャルが(おそらく)優位なので、シャルクロ気味なクロシャルに、見えなくもないでしょうか?
子供の頃、って部分だけを意識していたら、こうなってしまいました;
時川的には、2人が13、4歳くらいの話として書いてます。個人的に、シャルは団長より2歳年下希望

 タイトルは鬼束ちひろさんの歌、「イノセンス」から。歌詞が、何となくシャルクロ的かな?と思ったので。
せめてタイトルくらいは、オーダー通りに…。(そうでもないか…;)

 ちなみに、アノ誕生日以来、シャルの誕生日当日は団長と2人きりで祝い、翌日以降に他の団員が
祝う事が恒例になってます。誰も恋人たちの邪魔はしない様にしてる訳です(笑)
 あ、結局団長はフィンクス(正確には雑誌)のテを使ってません。
流石に“シャルに殺される”と本能的に思ったようで。まだ子供だから、飲み込めてないってだけかも…;
 何気にまた、ハズれたら
恥を上塗りしてしまう旅団設立話入れてますねぇ…;

 喜んで頂けたら、何より幸いで光栄です!!!!でわ