「HONEY」

 12月23日。クリスマスイブ・前日。
 陽の高く、暖かな風景が窓から見える。実際は、凍える風に包まれているのに。
「シャル…」
 恋人の名を呼んで、クロロは隣に座るシャルを抱きしめる。その為、シャル辺りのソ
ファーがわずかに、柔らかく沈んだ。
「どうしました、団長?」
「いや、ちょっと幸せを噛みしめたくて」
「簡単な幸せですねぇ」
 微笑みと共に、シャルは呆れて見せる。
「明日の夜は、もっと幸せになれると思うぞ。簡単じゃ無かったけどな」
 聖夜に思いを馳せ、クロロは機嫌良く笑う。ずっと、ずぅ〜っと、シャルと一緒にい
られるのだ。
 2人っきりで。
 年1度ののチャンス。あれこれと予定を考えるだけで、随分と心が躍ったものだ。
 が、
「へ?明日?」
 意外にもシャルは、クロロの言葉の意味が飲み込めていない表情と声で返した。
「何言ってるんだ。明日はクリスマスイブ。明後日はクリスマス。そしてその境には、
恋人たちの熱〜い夜」
「でもオレ、明日も明後日も仕事で家にいませんけど」
「は?」
 クロロの思考回路が止まる。
「仕事って…?」
「旅団のじゃないですよ。全く別の、オレ個人の」
「そ、そそそんな!!聞いてないぞ!!」
「今、言いました」
「いやっ、そんな!!」
 驚きに襲われるクロロを他所に、シャルはにこりと笑う。
「で、でも、掃いて捨てるほど金持ってるんだから、いいだろ?仕事なんて」
「そうはいきませんよ。この世界、信用第一なんですから」
 悩む仕草を1つも見せず、シャルは告げる。
「じゃあ、オレはどうしたら良いんだ?」
「オレの家で留守番でしょうか?」
「そんなッ!!!!」

 クリスマスに、恋人の家で、たった1人っきりで留守番する26歳。
 寂しい男(自分)の図が、クロロに重くのしかかる。
「あ。そうそう」
 またもクロロのショック度合いを無視して、シャルは話を進める。
「明日と明後日、オレが仕事で家を空ける事は皆が知ってるんで、誰も訪ねて来ません
から。団長の所在も割れないので、安心して留守番して下さいね」
 ニコニコ
「寂しすぎる!寂しすぎるぞ、オレ!!クリスマスに男1人なんて!!1年に1度なのに!!」
「ケーキを作って、置いていってあげますから。もちろん料理も、温めればすぐ食べれ
る状態で」
「1人でかッ!!!?」
 シャルの両肩を掴み、すがりつくクロロ。
「何言ってるんですか?大体、旅団が神の子の誕生を祝ってどうするんですか?逆十字
のくせに」
「でもだな、今やクリスマスは宗教性を欠いた、恋人たちのイベントの1つとなってい
る訳で…」
「あ、ちょっとトイレに行ってきます」
 説得しようとしたクロロを押し離し、ソファーから去っていく。
 取り残されるクロロ。
「シャル…」
 今にも泣き出しそうな、情けない呟き。
「ど、どうしたらいいんだ…?そんな事になったら、部屋の隅で影と一体になり、果て
は妖怪と恐れられるまでに落ち込んでしまう…」
 重く、己の身をソファーに落とす。
「い、いや待てよ!大体、イブとクリスマスの2日に渡って仕事なんて…非常識にもほ
どがある。もしかしてこれは、仕事と夕食の時間を巧みに重ね、シャルを食事に誘い、
あまつさえ酒に酔わせたり、薬もったりとか――――!!」
「そんな訳ありますか」
 スパコーン!!
 勝手な妄想に翼をはためかすクロロの頭を、丸めた雑誌でシャルが叩く。
「シャル!それは罠だ!!お前を手に入れようと画策する、卑劣な罠だ!!」
「男が全部、貴方みたいだと思ったら大間違いです!!」
 シャルはキッパリと、クロロの思い込みを切り捨てるのだった。

 

「…………」
 部屋の隅、植木の隣で、小さくヒザを抱えて闇を背負うクロロ。まさに絶望真っ只中。
「団ちょ〜ぉ」
「…………」
「いつまでも落ち込んでないで、行きましょうよ」
「……どこへ?」
「買い物へ。食材を買いに」
 まるで子供だなぁ、とシャルは心で面白がる。
「オレが一緒に行きたいんです」
 優しい微笑みで手を差し伸べて。それでもその手を取るのを、クロロがためらってい
るのを見ると、シャルは強引にクロロの手を握った。
「団長の好きな物、たくさん作ってあげますから」

 

 コトコトコト…。
 台所から、美味しそうな香りと音が漂ってくる。
 けれど、クロロの心は晴れなかった。ちら、と台所に瞳をやり、エプロン・シャルの
背中を見つめる。
(嗚呼、犯罪的に可愛い…―――じゃないだろ、オレ!!)
 クロロは、静かに席を立った。
「シャル…」
 後ろから、料理するシャルの身体を抱きしめる。シャルの肩に顔を乗せて。
「シャル…考え直さないか?オレと仕事なら、オレの方が好…」
「団長、味見」
 スープを注いだ小皿を、クロロの口唇に触れさせるシャル。
「…味は?」
「美味いよ」
「それは良かった」
 笑顔で、どこかクロロをからかう様な笑顔で、シャルは手を動かす。
「シャル、別に仕事なんていいだろ?その失われる信用以上のモノを、オレが…」
「団長、こっちも味見」
 今度はシチューを注いだ小皿を、クロロの口唇へと。
「…味は?」
「物凄く美味い…」
「ありがとうございます」
 先ほどと同じ笑顔がクロロの瞳に映る。再びシャルの手が、料理を始める。
「なぁ、シャル」
 今以上に力強く、クロロはシャルを抱きしめる。
「オレの事、好きだろう?」
「相変わらず、結構な自信ですねぇ」
 半ば呆れたため息を、シャルが漏らす。
「嫌じゃないくせに。本当に嫌なら、オレの自信を打ち砕き、この腕を振り払えばいい」
「その両方を、オレはやろうと思えば出来るんですけど」
「なら、やってみるか?諦めないけどな」
「本当に、ワガママなんですから」
 もう1度、シャルがため息をつく。
「ワガママでいいさ。それで、お前がオレのモノでいてくれるなら」
「嫌ですよ、貴方のモノなんて」
 はっきりと、シャルは言い切る。
「でも…」
 その手が、止まった。
「オレの明日と明後日の48時間くらいなら、貴方に捧げても良いですよ」
 クロロの腕の中、するりと向きを変えて、向かい合う。
「シャル…」
「酷い人。オレが、貴方に惚れてるの知ってて…無茶言うんだから」
 どこか気恥ずかしそうに、シャルは口元を綻ばせる。
 クロロも、満足そうに笑った。
「決まりだな。明日も明後日も、お前はオレの隣にいろ」
「…、ええ。その代わり、“オレが失う信用以上のモノ”…期待してますよ」
「都合の良い所だけ、聞き取ってるんだな」
 2人は、同時に声を出して笑った。
「まぁ、めでたしめでたし…じゃないか?後は、お前がオレのモノになってくれれば、
文句は無かったのにな」
「嫌ですよ」
「どうして?オレの事、愛してるくせに」
 自信に満ちた黒い瞳。心の全てを、見透かされる気分になる。
 昼間との、このギャップがたまらない。いつもこうだったなら、ここまで支配を望む
気は決して起こらなかっただろう。
 シャルは、微笑みに苦笑を含めた。
「貴方は飽きっぽいから。貴方のモノになってすぐに捨てられたら、しゃくでしょう」
「そうか?お前は物じゃないし、意地はったり、素直になったり、冷たかったり、優し
かったりで、行動が不安定だから…飽きないと思うぞ」
「“思う”?」
 意地悪に、聞き返す。
「じゃあ、命を賭けて飽きない。事実、十数年以上も飽きてないだろ」
 互いの視線が重なる。
「…酷い人。そんな事を言われたら、なりなくなるじゃないですか。貴方のモノに」
「なればいい。絶対に、損はしない」
 楽しげに、クロロは笑う。自らの勝利を確信している様な、そんな笑顔で。
「本当に酷い人。最低最悪で、自分勝手で、自信だけはバカみたいに持ってて…」
 言葉と裏腹に、シャルは幸せを満面に表して笑った。両腕でクロロに抱きつき、己を
委ねる。
「どうしようもなく、愛しい人なんですから…」
「それをわかってて惚れた、お前の負けだ。…引き分けだけどな」
 愛しげに、クロロもシャルを抱きしめ直す。
「けど、団長」
「ん?」
 シャルは、少し冷たい笑顔を浮かべる。
「昼間の情けなさは本当に嫌なので、やっぱり貴方のモノにはなりません」
「えぇッ!?」
 クロロの反応に満足して、シャルはクロロの腕からすり抜ける。
「料理の続きがあるので。今度邪魔したら、一生、口ききませんから」
「そんなぁッ!!!!」

 こうして今日も、恋人たちの時間はゆっくりと重ねられていくのであった。

END  

 

・後書き
 いかかでしたでしょうか?こう、話の流れがえらく急展開ですが…;
この話を書き始める直前の電話で、「“団シャル”とはどういうのが多いのか?」という会話になり、
時川「簡単に言うと、“大人(シャル)と子供(団長)な関係」
後輩「物凄くよくわかりました!!!!(笑)」
…と続いた為に、その流れを汲んでしまいました。(でもウチの攻めって、大抵こんな感じ;)
加えて“結局シャルは団長に惚れてるだろう”と思い込んでいるので、時川が。
 タイトルは、ちょうどやってた音楽番組のランキングからです。「BE WITH YOU」も候補でした。
行き当たりバッタリでスミマセン;うぅぅ(死)
 クリスマスネタの様な、そうでない様な駄文ですが、どうぞ貰ってやって下さいm(−−;)m

 わずかでも楽しんで頂ける事を、心より願う次第です!!それでわ☆