「ヒソヒソ旅団入団日記」

 3年前、ヒソカは旅団になった。
 これはヒソカが、ホームで他団員と初の顔会わせをした日の、お話。

「ココが、ホームか」
 大きな建物を見上げ、ヒソカは少なからずドキドキしていた。
「とりあえず、第一印象は良くしておかないとね
 鉄の掟に従い、新たな4番となったヒソカ。だが旅団についての知識は、まだ金次第
で買えるレベルだ。
 クロロと少しでも早く戦う為に、他団員には不信感より信頼を与えたい。
(でも、旅団って仲良いのかな?仲間を殺した相手を新たな仲間にするくらいだから、
本当は火花がバチバチとか
 まだ見ぬ団員たちを思い浮かべながら、嬉々とヒソカはホームの中へと入っていった。

(ココを開ければ旅団と…いや、クロロとの対面か…。さて、少しは楽しませてくれる
のかな?)
 キィ…。
 静かに扉を開け、欲情にも似た期待を扉の奥に夢想する。

 全員の、おそらく扉に手をかけた瞬間からであろう自分への視線に、ヒソカは笑う。
(う〜ん一応、気配を消してみたんだけど、さすが
 しかし、まだクロロは来ていなかった。
「君が、ヒソカ?」
 1人の青年がイスから腰を上げ、ヒソカの方へ近づいてくる。
 短く、綺麗に整えられた髪。大きな瞳。その爽やかな外見。どれを取っても、とても
あの悪名高き幻影旅団の団員とは思えないだろう。
 普通の人間なら。
 だがどの道、自分と対極に在る人物だと、ヒソカは思った。
「そうだけど…君は?」
 青年は、ニコリと爽やかな笑顔を見せた。
「初めまして。オレの名はシャルナーク。シャルって呼んでいいよ」
 ヒソカの手を取り、握手してくる。
「けッ!何、そんな奴と仲良くしてんだよ!!その男は、アイツを殺った奴だろうが」
 唐突に感情的な声が響く。見ると、侍風の格好をした男がコチラを睨んでいた。
「落ち着きなよ、ノブナガ。気持ちは、わからなくもないけど」
 シャルがなだめようと、ノブナガと呼んだ男の方を見る。
「そうよ。全ては掟の元に。ノブナガも、忘れた訳じゃないでしょ?」
 ノブナガの隣、胸の大きく開いたスーツを着た女性も、優しく告げる。
「うるせぇッ!オレは…オレはアイツに…ッ!!」
 拳を強く握り、うつむく。その肩は震えていた。
(おやおや。意外と、仲間思いなんだ。じゃあボクも、仲良くした方が早くクロロと2
人きりなれるかな?)
 と、思ったその時、
「50億J貸してたんだぞ!!!!」
 心底悔しそうに、口唇を噛みしめるノブナガ。
「だから、その気持ちはよくわかるけど…」
「わかってたまるか!!明後日、明後日だったんだぞ!返却日!!あの金で刀を鍛えようと
思ってたのによ…ッ!!」
「運が無かったと思って諦めろよ。2、3度仕事すりゃ、すぐ貯まんだろ?」
「金も持たなきゃ、武器も持たねぇお前に、何がわかるってんだ!?3年かけて、刀を預
けれらる匠を見つけたんだぞ!!予約、キャンセルじゃねぇか!!」
 更になだめようとした、身長2mを軽く越える男に掴みかかる。
「ほら、ノブナガ!ヒソカは初めてなんだから、いきなりオレたちの印象を悪くしない
でよ。それに金なら、オレがハッキングして口座から引き落としてやるから」
 シャルの説得に、ノブナガもしぶしぶではあるが納得する。
 再びヒソカへ向き直ったシャルは、元の爽やか笑顔を浮かべていた。
「ごめんね、ヒソカ。まだ日が経ってないから、ごたごたした所があって」
「いや、構わないよ…」
 愛想笑いで答える。
「そう?じゃあ、改めて自己紹介。さっきも言ったけど、オレはシャルナーク。旅団の
サブリーダー。ハンター証も持ってるから、わからない事があったら何でも聞いて」
 ニコニコv
 想像していた旅団像とは、本当に違う。
「それで、そこにいるのが右から順に…」
 右手でシャルが6人を示した。

 

 全員の自己紹介が終わっても、まだクロロの姿は無かった。
「さて、その次は…」
 シャルが考える。
「やっぱ趣味だろ」
 ウボォーが、間髪入れず言う。
「それより生年月日と血液型よ。じゃなきゃ、占いも出来ないわ」
 パクが異を唱える。
「でもオレやフェイタン。今日は来てねぇコルトピも答えらんねぇぜ。オレなんか、血
液型もなぁ。こっちが答えらんねぇ質問はNGだろ」
「血液型なら調べられるだろ?オレがいつも調べろ、って言ってるのに」
「だって面倒だし」
「もう」
 少しムッとして見せるシャル。
「まず念系統からだろ」
 フィンクスが笑う。
「いや、特技からだ」
「違う。年収から聞くべきだ」
「ダメね。好きな言葉からね」
 ノブナガ、マチ、フェイタンの順に各々意見を述べていく。
「オレは、休日の過ごし方もいいと思うよ」
「じゃあ、好きな食い物」
「好きな色は?」
「行ってみたい国」
「好きな酒」
「人生設計」
「殺人歴」
 次にヒソカに何を聞くかの意見が並ぶ。シャル、ウボォー、パク、フィンクス…と、
先ほどと全く同じ順で。
(お見合い…?)
 違うとわかっていても、どうしてもその単語が思い浮かぶ。
「なら、旅団に入ろうと思った動機は?」
 6順目のシャルが、笑顔で提案する。
「そんなのこっちは全員…」
 マチの言葉に、5人が同時に続ける。
「団長にスカウトされたから」
「に、決まってるじゃないか(一部除く)」
「う〜ん」
 考え込むシャル。
 その後、37分も次に何を質問するかの議論は続くのだった…。

 ○月◇日。何だか、とんでもない団体に入った気がします(★T T;)

 

 ヒソカがホームを訪ねてから1時間後。
 質問地獄も終わり、落ち着いた空気が流れ始めていた。
(やれやれ…。でも、まだ来ないなぁ、クロロ)
 トランプででも遊ぼうかな。そう思った時だった。
「なぁ、ヒソカ」
「ん?何だい、ウボォー」
 近くまで、ウボォーが来る。
「1つ聞きたいんだが…」
 真剣な表情で、ヒソカの両肩を掴み、顔を覗き込んでくる。
「…何かな?」
 ヒソカも、その空気に合わせた表情になる。
「お前のその格好はサルテンバンコに憧れて、ってのは本当か?」
「その満ち満ちた期待を裏切るようで悪いけど、違うよ
 空気は本当に、緊迫していたのに。
「あっれ〜?っかしいな。団長からそう聞いてたのによ」
 つまらないといった表情で、頭を掻くウボォー。
 その言葉に、他団員も反応する。
「えッ!?オレは“ヒソカはデビット・カッパ●フィールドの弟子だ”って聞いたよ」
 まずそう言ったのはシャルだった。
「私は“素顔を見た者は皆死ぬ、呪いのピエロだ”って聞いてたけど」
「オレは“トランプ芸で有名な、よ●もとの芸人だ”って聞いたぜ」
「ワタシは“特●王国で優勝経験のある、トランプで料理する男”、聞いたね」
「アタシは“世界中のトランプを求めて彷徨うトランプマニアだ”って」
「オレは“トランプを武器に戦った、元必殺仕●人だ”って」
 今度は、パク、フィンクス、フェイタン、マチ、ノブナガの順だった。
(一体ボクは、どんな風に説明されてたんだろう…?)
 何となく、不安に似た感情がヒソカを占める。
 が、そんな事は他所に彼らは悩む。
「う〜ん、ちょっと情報がバラついてるなぁ」
(ちょっと!?)
「あ、ヒソカ、少し待ってて。今、まとめるから」
 再び集まり、話し合う旅団7人。
 30秒後。
「とりあえず結論として、ヒソカは…」
 満面の笑みを浮かべて、サブリーダー・シャルがヒソカの前に立つ。
ロリコンでショタコンで男好きで、見境なく所構わず欲情して、1度目を付けようも
のなら地の果てまでも追い掛け回す変態ストーカー
、って事で」
「何で?」
 確かに当たらずとも遠からず(?)な結論なのだが、7人の話のどこにも、そんな単
語は出てなかったのに。

 ○月◇日。彼らは、とても面白い人たちのようです(★−_−)

 

 ヒソカがホームに来てから1時間半後。
 ようやく、ヒソカお目当ての彼が現れた。
「やぁ。遅れてすまなかったな」
 ニコニコ笑顔で、クロロは皆の前に現れる。
「遅いですよ。一体、何をしてたんですか?」
 呆れるシャル。苦笑するクロロ。
「いや、この団長服に着替えている最中に、右のイヤリングが外れてしまい…。辺りは
ガレキばかりだからな、探すのに苦労してたんだ」
「また?この前も仕事中になくして、9人全員が血の海と化した床に這いつくばらされ
たじゃないか」
「そうですよ。もっと気をつけて下さい」
 女性陣の責めに、益々苦笑するしかないクロロ。
「まぁ、今回はお前らの手を煩わさずに済んだんだから、いいだろ?」
「仕方ないねぇ」
 マチがやれやれ、と笑う。
「それより団長。ヒソカが来てるんです。しっかりして下さい」
「わかったよ、シャル。そう睨むなって」
「言わないとわからないじゃないですか」
「そんな事ないさ。オレだって、頑張ろうと日々…」
「日々、読書してるか、宝眺めてるかでしょ?ホント、昔と変わらない」
「…はぁ。昔はいつも、“クロロ、クロロ”って甘えて可愛かったのに」
「そういう昔話をしたい訳じゃありません!!」
 顔を真っ赤にして、シャルが怒鳴る。
「でも本当の事だ。何をするにもどこでも一緒」
「だから!!ヒソカが来てるって言ってるでしょう!?今の貴方は、幻影旅団の団長なんで
す!思い出話は、やる事済ましてからにして下さい!!」
「わかった…」
 残念そうにため息をついて、クロロがヒソカの方へと近づいてくる。
 その瞳は深く、冷たく、クロロが団長である何よりの証拠の様に思えた。
「今日和」
「ああ」
 短く返し、向かい合う2人。見据えてくるその瞳に、ヒソカはゾクリとしたモノを感
じ、思わず笑みに殺気を含みそうになった。
「ヒソカ、クモになった以上、オレの…いや、クモの掟は遵守してもらう」
「わかってるよ
「この掟は、オレの命よりも重いもの。クモを生かす為の、絶対条件」
 全ての存在が彼の支配を望む。周囲に漂うのは、そんな空気。
「まず、クモではオレの命令は絶対だ。お前はあくまで、オレの手足」
 クロロが、掟を挙げていく。
「次に団員同士のマジ切れは禁止。もめた時はコインで決める」
「それで?」
「それから、コレが1番大切な掟。団訓と言ってもいい」
(団訓?)
 何か、嫌な予感がヒソカに過ぎった。
「よく覚えておけ!」
 クロロの瞳がキラリ☆と光る。勢いよく両腕を広げ、親指を開いてヒソカ指さし、
「弱肉強食、下克上は当たり前!隙を見せたが最期の時だ!!」
(下克上推奨!?)

 と、思ったその瞬間に、
 ドッ、ゴオォォオオォン!!!!
 けたたましい音と共に、クロロが消えた。代わりに、シャルの姿がそこにある。
 ヒソカの背後の壁には見事な人型が空いていた。
「…………」
 頬に、何か生暖かいものが流れる感触が伝わる。
 振り向くと、十数m先のガレキに首を埋め、身体をプラ〜ンと垂らした黒い人…もと
い、クロロの姿が確認できる。ダラダラと、周囲を赤い液体が染めていく。
 そう。シャルだ。
 シャルが刹那の内にクロロの後頭部に蹴りを喰らわし、音速でクロロがヒソカの頬を
かすめ、壁を突き破り、首だけをガレキに突き刺したのだ。
 ごくり。ヒソカは喉を鳴らした。
 シャルの表情が、先ほどクロロの瞳から感じた冷たさ以上に、見る者を凍てつかせる
冷たく妖しいものだったから。
 ヒソカの視線に気付くと、シャルは今までと同じ、爽やかで明るい笑顔を浮かべた。
それが更に、ヒソカの背中に気味の悪い汗を流させた。
「ごめん、ヒソカ。あの人、団長としての自覚がほとんど無くて」
「え、あの…」
 団長はいいの?という思いを込めて、シャルと黒い人を交互に見やる。
 その視線に気付き、シャルはクスと笑う。
「あの人なら大丈夫。いつもの事だから
(いつもの事ッ!?)
「それに旅団を実質的に指揮してるのはオレだしねー。あの人はいつも、命令するだけ
してオレたちを働かせ、自分はアジトでビール片手に読書なんだ。ホント大変なんだよ。
情報を仕入れ、侵入&逃走経路や作戦を考え、皆を指揮して、お宝整理して、売却先探
して、皆に報酬振り込んで、団長に報告して…」
 満面の爽やか笑顔で、グチを次々に並べていくシャル。ヒソカは、どうリアクション
して良いかわからず、ただ固まって聞くのみだった。
「だから、いてもいなくても一緒なんだ。どうせ、殺しても死ぬ人じゃないしv」
「ハハ…」
 今の今まで、ヒソカはシャルを、自分と対極にあるツマらない人間だと認識していた。
だが忘れてはいけない。
 目の前にいるこの青年は、自分の目的、幻影旅団長・クロロに背後から蹴りを、クロ
ロが受身を取る暇も与えずに喰らわせ、あげくに爽やかに笑っているのだ。
 もしかしたら、自分が倒さなければならないのはシャルではないだろうか。
 そんな命がけの興味を、ヒソカはシャルに抱くのだった。

 ○月◇日。シャルだけは、本気で怒らせないように心がけたいです(★++;)

 

「ところで、この中では誰が1番強いの?」
 大分、心拍数が落ち着いてきた所で、ヒソカが質問する。振り向き見れば、まだ黒い
人が風に吹かれ揺れている。
「そうだなぁ…」
 考えるウボォー。もちろん、他団員も。
「マジで戦った事ねぇから、わかんねぇよな」
 フィンクスが天井を見上げる。
「そうね。団員同士のマジ切れはご法度だから…」
「わかってるのは、団長には勝てない、って事だね」
「当たり前ね。だから団長になたし、ワタシたちも付いて行てるね」
「昔は弱かったのにな」
「へぇー、そうなんだ。オレも勝った事あるけど、本気じゃなかったしなぁ、団長」
「それ、ケンカした時でしょ。いつも団長、シャルに土下座して謝ってたわよね」
「そうそう!ったく、コイツ、その度にオレんとこ押しかけてさ」
「ワタシも散々、拷問の極意教えて、頼まれたよ」
「え!?そ、そう…だっけ?」
「そうだよ。オレがウボォーんトコ遊び行ったら、5回に1回はお前が怒ってた」
「オレも、フェイタンから口聞かされたっけ」
「アタシも、団長からシャルの機嫌を治すには…って相談されたよ」
「止めてよ!みんな!!…もう、意地悪なんだから!!」
 いつの間にか思い出話になり、笑い合う7人。
 ポツン…。
 置いてけぼりにされるヒソカ。疎外感に何となく、寂しい。

 10分後。
「…そう言やぁ、何でこの話になったんだ?」
 ノブナガがようやく、思い出話の幕を引く。
「何でだっけ?」
 フィンクスが首をかしげる。
「確か、ヒソカの“誰が1番強いか”いう質問ね」
「ああ、そうだったね」
 答えるフェイタンに、マチがうなずく。
「だけどどうして、そんな事を聞きたいの?」
「ん?だって、ほら…ボクは前4番を倒して入った訳だからさ。もしかしてボク、この
中でもイイ方なんじゃないかなvって」
 笑顔でそれとなく、冗談っぽく探ってみるヒソカ。いくら目的がクロロだけとは言え、
やはり確認しておきたい。
 まだ、全団員についての知識が乏しいから。
「あれ…?」
 固まるヒソカの笑顔。
 7人は一様に、怒る事も無く“???”という表情をしている。
「あの…?」
 何か変な発言でもしたのだろうか。急に不安が生まれる。
「それは無いよ」
「えッ!?」

 驚くヒソカ。全員の声が、見事にハモっていたから。そして
「だって、オレ(私)の方が強かったから」
 これまた、素晴らしく同時だった。
「っつーか、アイツが1番弱かったんじゃねぇ?」
「知識だって、オレの方が断然豊かだったしね」
「打ち上げの盛り上げ役は、1番上手かったけどな」
「そうね。でも、お互いに喋ってるだけで楽しかったから…」
「最後にはあんま、出番無かったよな」
「むしろ、旅団としては足手まといだたよ」
「アタシの方が、力も強かったからねぇ」
 50音順に、口々に死者にムチ打ち発言を述べていく7人。
 その言葉、例えるなら後のボノイジメ発言よりも鬼だったと、ヒソカは語る。
「変化系を苦手とするタイプって何だった?」
「強化系じゃねぇのか。なぁ、ウボォー?」
「ああ?違う違う。強化系は、操作系と具現化系。な、シャル?」
「うん。そうだよ」
「でも、ダメね。苦手なタイプであっても勝たないと」
「まったくだね」
「ワタシだたら、どんな相手でも殺れる自信、あるよ」
 その光景を、ただヒソカは見守るしかなかった。これで一体何度、存在を忘れられた
事か。
「…………」
 寂しい。
 1人、トランプで遊ぼう。ヒソカは虚しく、壁の隅へしゃがむのだった。

 ○月◇日。彼らは、元団員であっても“団員以外”には冷たいらしいです(★==;)

 

 1人寂しく、トランプタワーを作り続けるヒソカ。
 楽しみといえば、それしか残されていなかった。
(うぅ。確かに面白いし、イイ感じの娘にも出会えたし、楽しめそうなトコだと思う
けど、やっぱりこの扱いは…)
 悲しい。
「はぁ…」
「どうした、ヒソカ?」
「あ、クロ…じゃなくて、団長」
 奇跡の生還。
(無事だったんだ…)
 しかも全くの無傷。先ほどまで瀕死だった証拠は、衣服を染める赤い斑点のみ。
 ヒソカは、改めてシャルの“いつもの事”という言葉を思い知った。
「寂しいぞ、ヒソカ。お前ももうクモの一員だ。もっと仲間と仲良くしないとな」
「は、はぁ…」
 とてもあの、幻影旅団長の発言とは信じ難い。
「おーい、皆」
「あ、団長。お帰りなさい」
 微笑みながら、シャルがクロロに駆け寄る。
「今日は結構かかったな」
「どれくらいかかった?」
「1時間と12分。最長記録更新ね」
「シャルの蹴りもレベル上がったよな」
 笑い合う男性陣。
「ヒソカが独りになってるぞー。ほら、全員で仲良く遊ばないと」
 笑顔で団員に告げるクロロ。
「はーい」
 返事する団員。
(先生?)
「と、いう訳で!!」
 悩めるヒソカを他所に、クロロが両手を広げ、叫ぶ。
「第37564回!新人歓迎48時間耐久人生ゲーム(旅団編)大会を開催する!!」
(えぇッッ!!!?)
 何度入れ替わったの、団員!?と、驚愕するヒソカ。もちろん無視される。
「あ、あのボク…」
 帰っていいですか?と慣れない敬語まで飛び出しかけたものの、
「やらなきゃ、全員で制裁
 爽やかスマイル(殺意含有)に押し留められるのだった。
(で、でも、たがが人生ゲーム。旅団編と言ったって、それほど違いはないはず)
 祈るヒソカ。
「そ、それで…どういうルールなの?」
「簡単だ。止まったマスに書いてある命令を、遂行すればいいだけだ。遂行出来なかっ
たら、参加者全員の念能力を喰らうけどな」
「なーんだ安心し…、え?」
 ヒソカの笑顔が引きつる。
「オレは前に“イメチェン”ってマスに止まったぜ」
「ワタシは“わら人形を千体作る”だたよ」
「オレは“1時間以内に株価を暴落させる”ってのが出たっけ」
「でも1番辛かったのは、やっぱりアレじゃない?」
「ああ、アレか」
 懐かしそうにパクが微笑む。うなずく8人。
「“急に緋の眼が欲しくなり、クルタ族襲撃!!”」
(えッ!?それが理由!!!?)
 滅んだ理由が悲しい。思わず同情してしまうヒソカ。
「けど大変なのは、2、3回遊ぶと、改訂しなきゃいけない事だよね〜」
 満面の笑顔で、改訂班リーダー・シャルがさらりと言い切る。
「そうだな。もう14107回ほど、改訂したし。苦労をかけるな、シャル」
「いえいえ。これも皆の、引いてはオレの、楽しい暇つぶしの為ですから」
「シャル…」
 互いの手を取り、見つめ合うクロロとシャル。
(もう、何が何だか!!!?)
 すでについて行けないヒソカ。
「さぁ、ヒソカ!」
 ビク!!
 この時ばかりは、愛すべき獲物の笑顔が、物凄く恐ろしかった。
「ちゃんとお前用のコマも作ってある!!」
(嘘だ!!)

 クロロの手にあるのは、“ヒソカ”と彫られただけの消しゴム。他の団員のは、彼ら
そっくりの可愛いマスコットなのに。
「この命がけ感がハマるぞ
 クロロの笑顔は、逆らう事を決して許していなかった。

 そして。
「…………」
 鉛が入れられ、常にコツを掴ませずに回り続けるルーレットがヒソカを導いたのは、
“転職!急に“は○ぱ隊になりたくなる”だった。
「…………」
 凍りつくヒソカ。突き刺さる団員たちの視線が痛い。
「さぁ、ヒソカ」
 ビク!!
「1人で着替えられないなら、手伝ってやるぞ」
 クロロが、楽しそうに冷笑する団員たちに、指を鳴らして合図した。
「う」
 7人が、にじり寄ってくる。
「うわぁあぁあぁぁッッッ!!!!」
 ヒソカの悲鳴が、快晴の青空に高く響いた…。

 

 ガバァッ!!
 大きく身体を揺らし、ヒソカが意識を取り戻す。トランプタワーが激しく崩壊した。
「はぁ、はぁ…ッ」
 “人生ゲーム”を思い出し、急いで自らの衣服を確認する。
「いつもの服だ…」
 念の為に周囲も確認すると、7人が思い出話に花を咲かせていた。どこにもクロロの
姿を、いたという気配さえ感じられない。
 やがて1つの結論が脳裏に浮かぶ。
「夢…?」
 その結論に達すると、ヒソカは言い知れない安堵に包まれた。
(良かった…
 本当に良かった。そう、ヒソカが心から運命に感謝しかけたその時、
「寂しいぞ、ヒソカ」
「え?」

 見上げると、紛れもなくクロロの姿。そのコートは、血に汚れていた。
「お前ももうクモの一員だ、もっと仲間と仲良くしないとな」
 爽やかに笑うクロロの姿。ヒソカはその言動に、限りなく覚えがあった。
 まさか。まさか!まさか!!
 絶え間なく、無限地獄を彷徨うが如く、その3文字を繰り返すヒソカ。
 その間にも、クロロとシャルが夢の通りの光景を展開している。
「と、いう訳で!!」
 ビクゥッ!!!!
 硬直する、ヒソカの身体。ヒソカの記憶が正しければ、この後に続く言葉は…
「第37564回!新人歓迎48時間耐久人生ゲーム(旅団編)大会を開催する!!」
「嫌だぁああぁぁあぁッッッ!!!!」
 本能に従い、ヒソカはその場から猛ダッシュで逃げ出すのだった。

 この後、ヒソカがクモをサボリがちになったのは、言うまでもない。

 ○月◇日。神様、もう少しだけボクは仲間運が欲しかったです(★><

END  

 

・後書き
 
どうでした?時川個人としては、「笑いが薄いなぁ…」とか思ったりしているのですが;
ネタ出しの時点では、「イケルかな?」とか思ったりもしました。
だって、テーマが
「ヒソカがまともに見えるくらいの天然集団・旅団」ですから(笑)
まともに見えました?少なくとも、誰もツッコミがいないと、ああなってしまう訳です。ああ、大変(笑)
 ただ、本音の一言を言うと、
「あんな旅団、嫌だ!!!!」
書いた本人が何を…、ってツッコミは定番です。
 しかし、きっとあんなテーマのSSをUPしたのは、このHPが初のハズ…。ドキドキ。
もう少しすると、「絶対に初だよ!この2人メインのSSなんて!!」って事になります。きっと。

 ちなみに今回1番苦労したコトが、ヒソカの顔文字です。
補足すると、“★”はペイントのヤツですが、“;”は汗です。雫マークの代用で、ピンとくる物が無くて。
最後の“。”は涙の代用(笑)
 更に、人生ゲームの補足ですが、“イメチェン”はウボォーです。アフロ→現在っていう。
“株価暴落”はシャルです。あのメンバーで、それを達成できたのは彼だけ

“緋の眼”のでは、ヒソカがクラピカにクモ情報を流したのは実は…って。同情から。後、37564は皆殺し

 まぁ、コレは時川の裏設定みたいなものです。そう考えたら、少しは面白くなるかな、と。

 はぁ。次はどんなネタにしませうか?(悩)と言いつつこの辺でvでわ☆