「光 〜Purity of Darkness〜

 荒廃した、ガラクタの大地。自らの育った地。流星街。
 陽の大分傾いた午後、クロロはガレキの山の上で壁にもたれて読書していた。
「クロロ」
 背後から、名を呼ばれる。首だけ曲げて上を見ると、壁から身を乗り出したシャルが
明るく笑っていた。
「ん」
 クロロの頭をそっと掴んで、シャルがその額に軽くキスする。柔らかなシャルの前髪
が、クロロの口元をくすぐった。
「何してるの?」
 壁をひょいと飛び越えて、クロロの隣に腰を下ろす。
 微笑みながら、クロロは答えた。
「読書さ。見てわかるだろ?」
「うん、わかる。…ねぇ」
 クロロの首に、シャルが腕を回す。
「キスして」
 真っ直ぐと、シャルはクロロの瞳を見つめていた。
「ほら」
 触れ合うだけのキス。
「もっと、して」
 クロロは本を閉じ、シャルの身体を強く抱いた。求めに応じて、今度は深く熱く、口
づけを交わす。
「ぅ…ん、ぁ…んん…」
 口唇の隙間から、吐息が零れる。
「も、もう…ッ」
 2人の口唇が離れる。先に息苦しさに負けたのはシャルだった。自分から求めたくせ
に、自分から離してしまったのが気に入らないのか、顔色を不満に染める。
「もっとするか?」
「…意地悪」
 頬を赤くして、それでもシャルは横からクロロを抱きしめる。クロロも、支える様に
シャルの腰に手を回した。
「どうした?今日はやけに積極的じゃないか」
「うん…。だって、明日だからね。クロロが『クロロ』じゃなくなっちゃうの」
「オレはオレだろ。明日だろうと、いつだろうと」
「ううん」
 シャルはどこか寂しそうに首を振った。
「明日はクロロが『団長』になる日。だからもう、こんな風にくっ付く事も、甘える事
も、“クロロ”って呼ぶ事も……出来なくなっちゃう」
「そうか?対して変わらないと思うが」
「出来ないよ。だって、ずっと一緒にいる訳じゃなくなる。外の世界は、ここよりもっ
と広いから。それに…」
「それに?」
「『頭』と『手足』は、同じじゃない」
 まだ幼さの残る瞳が、悲しげにクロロを映していた。
「オレはサブリーダーだから、その違いを皆に示さなきゃいけない。仕事の時、クロロ
が『団長』の時、オレたちの関係は幼なじみなんて甘い付き合いじゃなく、『命じる者』
と『従う者』であると。だから、今までの様に傍にいれない」
 瞳から、クロロが消える。これ以上は見つめるのさえ切ないと。
「そんな事ないさ。確かにオレの命令には従ってもらう事になるが…それだけだ。それ
さえ守ってもらえるなら、それ以上は求めない」
 シャルの心を慰める為、精一杯の想いを込めてクロロは囁く。その所為か、シャルを
抱く手に力が入る。
「それに今の言葉だと、プライベートなら今まで通りで良いんだろ?」
 口唇で、シャルの髪を撫でる。
「…嘘つき」
「え?」
「“今まで通り”なんて無理じゃない。プライベートだって、あまり一緒にいられない。
クロロ、世界中を見て回るんでしょ?」
「それは…」
「オレは無理。外に“家”を見つける。定住する。頭が消息不明で、サブリーダーまで
連絡がつかないじゃ…やってけないし」
 無理矢理、シャルは笑った。その笑顔が、クロロの胸を何より締め付ける。そんなク
ロロの気持ちがわかったのか、シャルはよりクロロに身体を密着させる。
「気にしないで。その為に、こうしてるんだから」
 互いのぬくもりが、心地良く伝わり合う。
「オレは、『旅団』が嫌い」
 きっぱりと、思いを告げる。
「『旅団』なんて嫌いだよ。オレから、クロロを盗っていく」
「シャル…」
「オレはこの街も、外の世界も嫌い。この世界のどこにも、オレの居場所なんて無いと
思ってた。どんなに優しくても所詮は他人。いつか裏切られると思ってた。信じられる
モノなんて、何もなかった」
 クロロの胸に顔を埋めて、表情を見られまいとする。
「だけど、そんなオレにクロロは『心』をくれた。クロロが、オレの『居場所』になっ
た。どこにいても、クロロがいてくれるなら平気だった」
 無言のまま、そっと両腕でクロロはシャルを抱きしめる。強く、抱きしめる。それが、
シャルの望みだった。
「だからこうして、クロロの全てを記憶する。その声も感触も体温も匂いも鼓動も、何
もかも全て、オレの身体に記憶させるんだ。そうすれば、きっと大丈夫だから」
 瞳を閉じて、意識する。
「嗚呼…クロロはあったかい。このまま、時間が止まってしまえば良いのに」
 もう1度、シャルは告げる。
「『旅団』なんて、嫌い」
「シャル…、オレは」
「なんてね」
 素早く己をクロロから離す。現れた時と同じ明るい笑顔を、シャルは浮かべた。
「冗談だよ、冗談。オレが、そんな感傷的になる訳ないじゃない。それに旅団みたいに
高収入で、このオレの能力を最大限に生かせる仕事、嫌いな訳ないでしょ。感謝してる
位なんだから。どの道、犯罪者しかなれないだろうからね、オレは」
 クロロにはその明るさが、どこか不自然に見えた。本音の中に、嘘を隠している様な。
それとも嘘の中に、本音が隠れているのか。
「おいで」
 クロロは少し脚を開くと、シャルに笑いかけた。
「うん」
 その隙間にシャルが、小さく膝を曲げて座る。すぐにクロロが、包むように抱きしめ
てくる。その腕に手を添えて、シャルは嬉しそうに微笑む。
 言葉通り、シャルはクロロに包まれていた。
「嘘が下手だな」
「それはないなぁ。沈着冷静なサブリーダーがオレの売りなんだから」
「いいや。オレにはわかる。…ごめんな」
「何が?」
「お前は、喜んでくれてると思ってた。ただ漠然と、何の根拠も無く、賛成してくれて
ると思ってた」
 シャルの表情が凍る。
「え…?や、だなぁ…。あんな冗談…間に受けないでよ…」
「冗談じゃないから、間に受けるんだ」
 耳元に響く声は、凄く優しい。
「…………なぁ。この事は、『旅団』の事はまだ…オレたちしか知らない。今ならまだ」
「止めてよ!!!!」
 クロロの言葉をさえぎって、シャルは周囲に響き渡るほど強く、叫ぶ。
「止めてよ、そんなの!」
 クロロの腕が、振り払われる。
「ずっと、ずっと夢だったじゃない!!この街を出て、外の世界へ行って、本当の自分を
探すって!!この街の偏った価値観だけじゃなく、色々な!色々な定規で自分を測って、
この世界にとって自分がどんな存在なのか知りたいって!!ずっと言ってたじゃない!!」
 振り向いてシャルは叫ぶ。その瞳からは涙が零れ、頬を伝い、顔を濡らす。
「止めてよ…お願いだから…。そんな風に、優しくしないで…。オレの為に、諦めない
で…」
 クロロのシャツを、思いを込めて必死に掴んで。
「そうだよ。オレからクロロを盗る『旅団』なんて嫌い。大嫌いだよ。だけどそれでも、
クロロが必要としてくれるから平気だった。クロロの望みだって知ってたから、平気だっ
た」
 何も言わず、クロロは小さく震えるシャルの手を見つめていた。
「オレの為に、諦めないで。クロロの夢を奪ってしまうなんて…そんな罪を背負わせな
いで。そんなクロロ…辛くて見てられないよ…。そんなの一緒にいたって辛いだけで…
傍にいる事も出来なくなっちゃう…。クロロの瞳がオレを責めそうで…何もかも失って
しまいそうで……」
 クロロから顔を反らすように前を向く。
「お願いだから…クロロは自分の事だけ考えててよ…。クロロの望みが、オレの望みだ
から…。クロロが笑いかけてくれたら…それだけで十分だから」
 両手で止め処なく溢れる涙を拭いながら、声を殺して必死に止めようとする。けれど
肩の震えが収まる気配はなかった。
「シャル…」
 抱きしめようと腕を伸ばす。シャルはかぶりを振って、腕を払おうとしたが、構わず
クロロはシャルを抱きしめる。
「シャル」
 小さくとも強い口調で、クロロが呼ぶ。本来なら、心を癒す喜びは
「ご、ごめん…。違う…。オレ、クロロを困らせたかった訳じゃない…。ホントに、本
当にただ、記憶できたらと思っただけで…我慢できると思って…その…ちゃんと、理解
してるから…ッ」
 理解を求め、説得を試みる声に聞こえたのか、シャルは身を固くして祈る様に謝罪を
くり返す。
 クロロの拒絶こそ、唯一シャルが恐れる未来。
「ありがとう」
「え…ッ?」
 それは、最も予想できなかった言葉。
「シャルの気持ちがわかって良かった。このまま、『頭』にならなくて良かった」
「クロロ…?」
「お前を苦しめていたなんて…知らなかった。勝手に、都合の良い様に思い込んで、お
前の気持ちを型にはめていた。謝らなければならないのは、オレの方だよ」
「…………!」
 シャルの頬を、今までと違う涙が流れた。
 強く抱きしめて、クロロは囁く。
「愛してる。お前の涙が、1番堪える。オレにとって、唯一の大罪だから」
「クロロ…」
「ごめんな」
 クロロが心から微笑んでいると、シャルには見えなくとも感じられた。また、シャル
の涙から悲しみが消えた事も、クロロには伝わっていた。
「ありがとう…」
 とても微かな、シャルの呟き。クロロは少しだけ、シャルに体重を預けた。
「オレね…、本当に…困らせる気はなかったんだ…。最後に思いっきり甘えて、明日か
らは冷静沈着なサブリーダーとして、言動をもっとしっかりさせて…ついついクロロに
甘えてしまうのを止めようって」
「それは困るなぁ。オレ、もっとシャルに甘えて欲しいんだから」
 冗談混じりに本音を贈る。シャルは嬉しそうに明るく、空を見上げて風を受けた。
「でも、そろそろいい歳だからさ。皆にからかわれちゃうの、ヤダし」
「2人っきりの時なら良いだろ?こうやって、シャル抱きしめてゆらゆらと」
「―――――、、」
 自らを包んでくれるクロロの腕を抱きしめて、シャルは満面の笑顔で、声無く笑う。

「うん」

 

「なぁ、シャル?」
「何?」
 どの宝よりも尚、愛しげにくっ付き合ったまま。
「夕陽、綺麗だと思わないか?」
 クロロが提示した陽は、その半身を既に彼方に埋めていた。
「う〜ん…。だけど廃れた建築物とガラクタの地平線じゃ…気分出ないんじゃない?」
 いびつな地平線。流星街だからこその光景。だが今の自分たちにとっては、唯一の地
平線。
 外の世界は煩わしくて、1キロ先さえ見通せない。
「オレは好きだな。この街でただ1つだけ、気に入ってる。…知ってるだろ?」
「夕方が好きなのは知ってたけど…そこまでとはね。何で?」
「世界が壊れた後みたいだから」
 クスと、クロロは笑った。
 見渡す限り『まとも』なモノなど無い世界。それは、このつまらない世界の終焉を思
わせて、その愚かさの鏡の様で小気味良い。
 壊れゆくこの世界に立つ、自らの存在を実感させてくれる。
 思いながら、クロロは続けた。
「それと、夜の始まりだから…かな」
「ふぅん…。もっと早く、教えてくれれば良かったのに。単純に、好きなんだ…位にし
か思ってなかった」
 今更に知った事実が気に入らないと、シャルが不満がる。
「オレだって…クロロと同じ視点で見たかったのに」
「今、見てるだろ」
「それは…そーだけど…。でも…でも、もっとクロロの事を知りたいって、いつも思っ
てたしさ」
「オレもシャルの事、知りたいって思ってる。けど、それは無理なんだし」
「それもそーだけど…」
 自分の事さえよくわからない。だから、他人なら尚更。自分以上に大切な存在であっ
ても、その心全てを理解する事など…不可能。
「それに、ここまでこの夕陽を気に入ったのは最近だ。それまではお前が正解。単純に、
訳もわからず気に入ってた」
「つまり『旅団』を本気で考えた頃からって事?」
「多分な。何でそう思った?」
「世界を壊す仕事だから。オレたちがやろうとしてる事は、全てを奪い尽くす事。宝を
奪い、命を奪い、耳障りな悲鳴だって…奪う事。与えるのは恐怖と絶望、それから静寂。
そして大地に血と亡骸を。……全てを奪われた世界は、壊れるしかないじゃない」
「なるほど」
 動機の言語化は好きじゃないが、シャルの言葉が最も近いのかもしれない。いや、そ
のものだ。確実に。
 我ながら、物騒な思考傾向だ。自然と、クロロに苦笑が浮かぶ。
「全てが壊れたら、オレたちはどうなるだろうな?」
「知らない。だけど…今よりはマシな環境で生きてるよ。まぁ、オレはクロロがいれば
それで良ーや」
「……結構、恥ずかしいセリフだぞ、ソレ」
 言われたクロロの方が、赤くなってしまう。
「なら、撤回してやる」
 スネて、シャルが頬を膨らます。
「それは嫌だな。嬉しかったから」
「恥ずかしかったんじゃないの?」
「それはもう」
「む…」
「けど、オレもそう思うよ。最期の瞬間まで、シャルがいればそれで良い。お前がいな
くなったら、世界より先にオレが壊れてしまう」
「……オレのセリフより…恥ずかしくない?」
「だから、これでおあいこなんだよ」
「うー…」
 シャルも顔を真っ赤にして、クロロの腕に顔を埋めた。互いの上昇していく体温を、
夜を運ぶ風が涼しく抑えてくれる。
 例えどんなに『熱』を感じても、抱き合う事を止めはしないが。
「シャル」
「何?恥ずかしいセリフは止めてよ。オレも言わないから」
 これ以上『熱』を感じると、触れ合う心地良さが軽減してしまう。シャルは、暗にそ
う伝えた。本音にある、多少の期待を我慢して。
 そんなシャルの姿が、クロロは堪らなく微笑ましかった。しかし顔に出して笑うとま
たシャルにスネられるので、心の中だけに留めておく。
「違うさ。ただ、聞きたい事がもう1つ」
「?」
「何で、昼と夜があると思う?」
「え?」
 まさかこれ程、一気に話が飛ぶとは構えておらず、シャルの表情が瞬間止まる。
「それは…太陽を含む恒星とこの星の位置、及び距離関係に自転が…」
「そうじゃなくて、感性の視点で」
「感性で?…オレ…非論理的な考えは、あまり得意じゃないからなぁ…。だけど夜は落
ち着くかな。昼は時々明るすぎて、オレはこの世界の特異なんだと思わされる」
 どう?とシャルは首を傾ける。
「うん。オレもそう思う」
 笑顔でクロロが返す。
「オレはね、光の下では生きられない者の為に、夜があるんだと思ってる」
 時に『明けない夜はない』のだと、昼は希望、活性、躍動として、夜は絶望、静寂、
孤独として相反するモノと意識される昼夜。
 光と闇は表裏一体ではなく、同一なのに。
「光は確かに生の源かもしれない。だが、光は加護するモノを選ぶ。光の下では生きら
れない者は、残酷なまでに排除される。だが夜は違う」
「夜は、全てを受け入れる?」
「そう。太陽と違って、月は誰の身体も焼かない。優しく抱き、決して誰も拒絶せず、
穏やかに安らぎを与える。―――オレたちにさえ」
 眩しすぎて目に見えないモノも、ほのかな光は克明に映し出す。陽が隠す汚い事実も、
月はさらけ出し、受け入れてくれる。
「暗闇は絶望じゃない。暗闇の中だからこそ、オレはシャルと出会えた。手探りでしか
歩けないから、本当に頼れ、信じられるモノが何か、知る事が出来た」
「…もう。おだてたって、何もないからね」
 本音では、期待が叶って嬉しいけれど。
「けど、クロロの言う通りなんだろうな。外の奴らは、どこか麻痺してるんだ。だから
偽物しか見えないんだよ」
「それで良いのさ。それが『旅団』にとって、最高の環境なんだから」
「ふふ。悪いなぁ、オレたち」
「『人間』らしいのさ」
「そうだね。だって」
 もう沈む夕陽に、シャルが手を伸ばす。うっすらと、皮膚を透けて見える緋色に満足
して、笑う。
「オレたちの血は、赤いもの」
「おまけに」
 手を伸ばし、伸ばされたシャルの手を握るクロロ。
「こんなにも、あったかいからな」
 昼が終わる。太陽の支配が終わり、訪れるのは自分たちの世界。
「ねぇ、クロロ」
「うん?」
「今夜は、ずっと傍にいて。くっ付いたまま、色々話そう」
 己の手を引き、握るクロロの手も引き寄せる。クロロの手の甲を、軽く口唇に触れさ
せる。
「……ダメ?」
 もう1度、両腕でシャルを抱きしめて、
「まさか」
 赤に染まった頬に、そっとキスが贈られた。

 

「あ、ぁ…」
 今日はまだ今日だろうか。それとも昨日と変わってしまっただろうか。
「もっと…ぅ、…ん…強く、抱いて…」
 熱に溺らされながら、暗闇の中でシャルは抱かれていた。
 ずっと傍にいる答えがいかにも自分たちらしい、と感じながら。
 このまま時が止まってしまえば、愛しい者と1つに溶け合ったまま永遠になれるのに。
ふと、そんな想いが頭を過ぎる。その度に、往生際が悪いなぁと苦笑を重ねる。
「なぁ?」
「な、何…?」
「どこに痕、付けて欲しい?」
「え…、あッ…」
 聞いたくせに、答える前にクロロは首筋を舌でなぞる。
「も、もう…好きな所に、つけなよ…ッ」
 息苦しさを押し殺して、吐息と共に答えをもらす。
「見える所につけても?」
「知らない…ッ」
 クロロを抱きしめる腕に、力を込める。
 少しむっとして言い捨てたけど、別に、嫌じゃない。むしろクロロの所有物であると
実感できて、安心すら味わえる事もある。
「シャル」
「ッ…」
 クロロが、シャルの身体を抱き起こす。背に手を回して抱き寄せて、その口唇を奪う。
 心地良い。この快楽に比べたら、息苦しさなどわずかな代償。窒息したって、後悔は
ない。
 そう、酔いしれていた時。
「痛…ッ」
 クロロの爪が背に触れて、一気に覚醒させられる。
「すまない。…大丈夫か?」
 酷く優しく、心配そうに、クロロがその箇所をさする。
「あの…さ…ッ」
「ん?」
 熱病患者の様なシャルと比べて、クロロは随分と涼しげに聞き返す。それでも、平静
よりは熱に支配されている。
「つけて…」
「え…?」
「爪痕…背中に…、お願い……ッ」
「シャル…」
 不安げに、クロロがシャルの頬に触れる。
「大丈夫だから…」
 クロロの手に手を重ね、シャルは精一杯微笑む。
「オレの身体に、クロロを刻んで」
「だが……」
「大丈夫」
 はっきりと、想いを告げる。
「傷にはならないから。それに、そんなに痛くないしね」
「本当に…?」
 軽く、クロロが爪を触れさせる。
「本能のままに生きてるから…、やりたい事しか…やらないよ」
「そうだな…」
 痛みの和らげを込めて、クロロが微笑みかける。
「強く抱いてね……最後まで」
「ああ」
 2人が激しく抱き合う。心まで1つになれたかがわからないから、せめて身体の結び
つきを求め合う。身体なら、1つかどうか明確に実感できるから。

 暗闇の中でも、相手の顔だけは見える。
 この世でただ2人だけ。
 そんな錯覚に、しばしの夢に溺れゆく。

 

 今日はもう、昨日だろう。人々が希望と謳う陽が昇れば、自分たちの関係は大きく変
わってしまう。
 だから出来るだけ、普段は殺したこの想いを…伝える。

「オレが壊れても…愛してね」
 薄いシーツにくるまり合って、隣で横になるクロロに頼んでみる。

 本当は、重荷を背負わせる行為は強要したくないけど。
 クロロは、どんな顔をするんだろう。

「バカだな」
 ピンと、クロロがシャルの額を弾く。
「絶対に離さない。オレの愛の方が、重いんだぞ」
「う…」
 シャルが、シーツの中に潜り込む。
「どうした?」
 理由なんて、わかってるくせに。
「意地悪…」
 シーツ越しに、シャルが責める。
「出てこいよ」
「嫌だ」
「なら、オレが潜る」
 クロロもシーツを引き上げ、シーツに潜り込んでシャルに笑いかける。
「え!?いや、ちょっと、ダメだって!!」
 真っ赤になった顔を、慌てて隠すシャル。それが益々、クロロの悪戯心を刺激する。
「さっきまでの素直さはどこへ行ったんだ?」
「慣れてないから、仕方ないじゃない…!」
「じゃ、慣れるように特訓とか?」
「そんなの要らな…、ッ!」
 両手首を掴まれ、クロロに組み敷かれてしまう。
「オレは慣れた方が良いと思うな。簡単に、動きを封じられる様じゃ」
「やっぱり意地悪だ…」
「ああ。知らなかったのか?」
「詐欺師」
「何とでも」
 クス、とクロロが勝利を確信して笑う。
 深く息を吐き、負けを認めざるを得ないシャル。やれやれと自らを納得させる。
「ずっと一緒だ。離れていても、すぐに会える。どんなに嫌がったって、通いつめてや
る」
「本気に…しちゃうけど?」
「詐欺師は信用出来ない?」
「答えわかってるくせに質問するの、止めようよ」
「それを言わせるのが、楽しいんじゃないか」
「じゃ、言ってやらない」
「いーや、言わせる」
 顔を見合わせて、しばし沈黙。そして、すぐに声を潜めて笑い合う。
「ふふッ。じゃあ、半分信用する」
「なら残り半分信じるまで、傍にいようか?」
「ううん。それはいい」
「じゃあ、どうすれば良い?」
「えーっとねぇ」
 右手を解放させ、クロロの頬に撫でる様に触れる。
「オレの事だけ見てくれるって、今一瞬だけでも誓ってくれたら」
 シャルの左手も自由にして、クロロは真剣な瞳で微笑んだ。
 そのままゆっくりと、身体を下ろす。シャルも自由となった両腕をクロロの首に絡め、
抱き寄せていく。
「答えは?」
「シャルしか見えない。オレが死んだ、その先も」
 少しずつ、2人の口唇が距離を縮める。触れ合うその直前で、
「今度はどれ位、信じる?」
 笑顔に、シャルが幸福を加える。

 止まらぬ時間の、夜明けの遠さを願いつつ。
 過ぎ行く時間に、はむかう様に強く抱き合い。

「キスの後でね」
「それは楽しみだな」

END  

 

・後書き
ヤッちゃいました…。久々のシリアスで。
ヤッてしまいましたーぁ!!!!(涙)
てか、実は全編通してラブラブ!?ただ、ず〜〜っとくっ付きあったまま!!!?

 今回のタイトルは宇多田ヒカルさんの曲から。「キングダム・ハーツ」買わなかったら、絶対違ってたです。
つか、このSSが生まれる事自体が無かったです。確実に。歌詞が気に入ったのです

副題は、SS内容にあわせて付けました。他にも「壊れゆくこの世界で」とか候補が多数。
歌とSSの意味する“光”が微妙に別物なので。暗闇を打ち破る光は、『旅団』とは違うな…って。

 そして苦労したのは言葉遣い!まだ対等なので、シャルはタメ口。
けど明日『頭』『手足』となる関係なので、幼すぎてもNGだろと。シャル、14〜6歳が希望です
vv
本当はもっと大人だったと思うんですが、DVDの過去団長が原作と比べ、あまりに若かった(失礼)為、
絶対シャルも『きゅる〜ん☆』に違いない!!と勝手に確信。『きゅる〜ん☆』なシャルに1票!!
 あとはラスト。どう閉めるべきか、3時間苦悩;(実話)マンガだと簡単な1コマだったのに…(涙)
 あ。背中の爪痕は、かぎった訳ではないので、そんなに『イタタ』じゃないです。あくまで行為の過程。
手加減無しで激しくヤると、思わず食い込んじゃうのです(死)それでも躊躇しないでって意味合い。
 ちなみに途中クロロが「昼と夜」の話をしたのは、シャルに『本当に信頼してるから、拒絶なんてしない』と
伝える為です。あの、「暗闇だからこそ〜」の下り。
 他にも問題点たくさんありますが…、見苦しいので止めます(−−;)

 相変わらずのヘボでしたが、どうでした?たまには、積極的なシャルも良くないですか?
時川は好きです!!むしろ、序盤はうるりとキました(←オイ;)でわ!!(逃)