「晴れた日には仕事を忘れて」 「暇」 読んでいた本を閉じ、クロロがもらす。 隣りに控えていたシャルが『?』となる。 「暇ひま暇ヒマ。とにかく暇だ」 思わずかな変換の仕方を変えてしまうほど。 「…そんなに暇ですか?」 ああ、と頷くクロロ。 「意味もなく3分毎に髪を上げたり下ろしたりしてしまう位、暇だ」 「でも、今日は仕事でみんなを呼んでいる訳だから、それまでの我慢ですよ」 「しかし、みんなの予定とオレの手違いで、あと3時間は来ないぞ」 「ヒソカがいますよ、……一応」 2人同時に視線を送る。 ヒソカは楽しそうに、周りが見えない程トランプタワー作りに夢中だった。 現在、この部屋にはクロロ、シャル、ヒソカの3人しかいない。 「仕事といっても、別にそれほど欲しい宝でもないからなぁ」 「えっ?そうなんですか?」 「あまりに暇だったから、仕事後の打ち上げ目当てで何となく欲しい宝を狙おうと思っただけだ」 ふぅーっ、と息を吐く。 「今日はお前にウボォーでも操らせて、 恐いもの見たさでウボォーにピンクハウス系の服着せて、 レース編みさせて、あげくにぬいぐるみと語り合わせてるトコを見て、 思いっきり笑ってやろうと思っていたのに」 「ああ。それでオレだけみんなより早く呼んだんですね」 「そういう事だ」 部屋に入ってきたところを不意打ちさせる気だったらしい。 「しかしそれも3時間後…。ああ…暇で死にそうだ」 「ダメですよ、そんなコトで死んじゃ」 クス、とシャルが笑う。 「本当に暇だ……」 近くにある小石を手にするクロロ。 「思わずヒソカの(完成したての)トランプタワーを(ヒソカが崩す直前に)崩してしまうほど暇だ」 崩れ行くトランプタワー。驚くヒソカ。 あまりのショックに、部屋の隅で小さくヒザを抱き、失意という名の闇を背負う。 「ボッ、ボクのトランプタワー…………」 そこから何か、ブツブツ聞こえてくる。 「落ち込んだなぁ」 「落ち込んじゃいましたねぇ」 部屋が、暗くなった気がした。 「移動するか」 「はい」 ヒソカをそのままに、2人は別室へと移動した。 −−−−− 「それにしても暇だな。打ち上げの余興も、大分飽きてきたし」 「そうですか?」 「ああ」 部屋にゴザを引いて、その上でおせんべいとお茶を手に、向かい合うクロロとシャル。 緑茶で喉を潤しながら、 クロロは今まで自分が『団長命令』という名の下に決行した余興を思い起こす。 「腕相撲大会にしても、思えば結果が最初から予想出来ていたから、 冷静になってみると、ツマらなかったし」 「右手でやった後に左手でもやって、より正確な順位を出そうと計算までしましたからねぇ」 「それにトランプ大会にしても、何をやっても何度やってもお前が最下位だから、 いくら罰ゲームを決めたところで、スリルも何もない」 「ハハ…」 苦笑するしかないシャル。 「罰ゲームといえば、前回のトランプ大会の罰ゲームは何だった?」 「『1週間、パクと同じ服を着る』でしたよ」 「似合いすぎているというモノでもなければ、爆笑出来るというモノでもなかったよな」 「中途半端でスミマセンでした」 「気にするな。それなりに可愛かった」 「そうですか?ありがとうがざいます」 そこは感謝するところじゃない、とツッ込む者など、この部屋にはいない。 「そういえば…」 クロロはまたも思い出す。 窓からの清々しい風が、2人の髪を撫でる。 「ボノレノフの包帯もどきを引っ張ってぐるぐる回す、『よいではないか遊び』も飽きたな」 ようするに時代劇の、悪代官あたりが着物の相手の帯をほどく時のアレ。 クロロが包帯を引っ張るほどにボノレノフは回転させられ、露になっていく肌…。 「あれは女性陣のヒンシュクを買いましたからねぇ」 セクハラだと、特にマチが怒っていた。 「コルトピの髪をイジり、セーラ●ムーンやら、サリーち●んパパやら、 サザエ●んやらにするのも飽きた」 「コルトピ、泣いてましたしねぇ」 シャルの顔には、変わる事無く穏やかな微笑みが浮かんでいた。 「フィンクスが寝ている内に、被り物を“野猿”のフナのヤツと摩り替えたコトもあったな。 その後、ダミーいっぱいの部屋に隠した本物を探させようとしたが…」 「マジギレして、帰っていきましたっけ」 気づかずフナの被り物をしていたフィンクスを思い出して、少し笑いあう2人。 「凝禁止で、隠使用のパクと握手1分間、というものあったな」 「結局、パクも念を使わなかったんですけどね」 「二人が見られたくないし、見たくもないと訴えてきて、止めたが」 パクと握手している最中の、相手の顔がたまらなく面白かったとクロロが笑う。 「フェイタンに『3日間中国なまり禁止令』を出した事もあったな」 最初こそフェイタンは紙に言いたい事を書いたり、 身振り手振りを加えたりして対応していた。が、 「最後には、話し掛けただけで、睨まれましたからねぇ」 「鉄の結束どころか、ってくらいにな」 会話の内容の割に静かな空気が流れていく。 「フランクリンの指でお手玉もしたな…」 「2、3個どっかいっちゃって、フランクリン物凄く慌ててましたねぇ」 「流石に、1度に10個はキツかったからな」 「あんなに慌てたフランクリン、初めて見ましたよ」 遠い目で回想する2人。 「ぶっちゃけた話、微妙に生温かくて気持ち悪かった」 どキッパリv 晴れやかな午後の日差しが、部屋に差し込んでくる。 「シズクのデメちゃんはどこまで生き物なのかという実験もしたな」 デメちゃんの口がどこまで広がるか引っ張ってみたり、目をつついてみたり。 「まさか、あんなに脅えた声を出しながら、シズクの意志と無関係に消えてしまうとは思わなかった」 「あの後1週間、どんなにシズクがイメージしても具現化出来ませんでしたからねぇ」 表情にこそあまり出なかったものの、 あそこまで失意に追い込まれたシズクはこの先2度と、 何があろうと見る事など出来ないと、後にF氏が語っていた。 「はぁ。何か面白い事はないものか…」 しみじみとクロロは嘆く。 「今、『ラブリーゴーストライター』が使えていたら、占いの結果を本人に見せず、 オレだけ笑ってみたり哀れんでみたりして、 どんな結果なのか焦るアイツらのリアクションを楽しむ事が出来るのに…」 「ダメですよ。まだ遠い先の話を嘆いちゃ」 あくまでシャルは、ほほえましい光景を見守っている様に微笑みかけている。 ほのぼのv 2人の表情は、とても穏やかだった。 −−−−− 「…………なぁ、シャル」 「はい、何ですか、団長?」 「あれから…どれくらい経った?」 ここで言う『あれ』とは、ヒソカを置いて部屋を出た時を指す。 「そうですね…。40分…くらいでしょうか」 「まだ40分しか経っていないのか……」 もう今までの余興ネタにも尽きてきた。 クロロの退屈さは、いよいよ深まっていく。 「『退屈が人を殺す』というのは、本当だな…」 ふぅ。本日数十回目の、クロロのため息。 「よし。決めた!」 突然、クロロが立ち上がる。 「団長?」 微かな驚きを浮かべる、シャルの顔。 「シャル、お前も私服に着替えろ。これから街へ行くぞ」 「街へ…ですか?」 「ああ」 額に布(白)を巻きながら、クロロが答える。 「ネットカフェで、オレの気に入る宝(次の獲物)がないかを探す」 そして、キラリと目を輝かせる。 「そのついでとして、デパートを巡り、ショッピング(もちろん盗る)をして、 夜は食い倒れグルメツアーで美味いモノを食べ、さらに映画なんかも見て、 バーでイイ酒飲んだりなんかもする」 「明らかについでの方が目当てですね、団長」 湯飲み等の片づけを終えて、シャルも立ち上がる。 「何だ?ついて来たくないのか?」 シャルの言葉に不服そうなクロロ。1人では、退屈のままだ。 そんなクロロの様子に、シャルは満面の笑顔で笑いを零す。 「いえ」 ドアへと向かうクロロの下に駆け寄り、後に続く。 「お供させていただきます」 −−−−− 昼と夕方の中間。 彼らは、感情をどこかに置き忘れて来た様な表情を浮かべていた。 部屋にはバラバラに散らばったトランプと、隅の方でひたすら闇を背負って落ち込んでいるヒソカ。 そして、『今日はもう解散。お前らの好きにしろ。by団長』と書かれたメモのみ。 「なぁ…」 最初に口を開く事が出来たのは、ウボォーだった。 「これからどうする?オレたち…」 湧き上がる怒りを堪えている声で、わかりきっている返答を待つ。指の関節をバキボ キ鳴らして。 「そうだねぇ。『好きにしろ』ってコトは、 これからアタシたちが団長を殺しに行ってもOK…ってコトよねぇ」 冷たい瞳で、マチが答える。針の鋭さを確認しながら。 「行ったとしたら街だな。デパート辺りにでも、いるんじゃねぇか?」 砕かんばかりの力で、刀を強く握りしめるノブナガ。 「…………行くか?」 フィンクスが、笑みすら浮かべて尋ねる。 答えは決まっていた。全員同時に回れ右。 「あんのヤロォオォオオォォォォッッッ!!!!!!!!」 全員同時に、音速を超えるスピードで街へと駆け出していった。 この日より1週間。少なくとも、クロロは退屈ではなかったという…。 END |
・後書き ふぅ。この話は思いついてすぐ、書き上げました。いや、思いついてから書くまでに3日ありましたが; なのでかは知りませんが、完成まであまり時間がかかりませんでした。良かった、良かったv そして何より、タイトルがオチばらしをいていたりします。こういうのもアリかな、と。 余興…。個人的に、ウボォーのピンクハウスは見たいですv似合うと思うんだけどなー…。 誰も同意してくれません。可愛いのにーvvv残念(笑) だってウボォー髪長いから、ちっちゃいリボン(赤)散りばめられるしvvvいや、マジで描きたいvvv でも、時川は筋肉や年配の方書くのが苦手で…;ウボォー描くと、20代前半の青年になります; 以前も別ジャンルで49歳の方を描いてたら、どう見ても20代後半…;うぅ…; いや、ウボォーのとフィンクスのは前々からやらせたいと思ってたんです。特にフィンクス。 野猿見る度に、「あの被り物、ぜひフィンクスに…v」って。 その他は、この話を書くにあたり考えました;パクのとかがそうです。ボクは握手出来ません; あ、コルトピのセーラ●ムーンも、即興かな、一応。 それと、F氏は誰かは明かせません(笑)プライバシー保護の為。某フランクリン氏ですが(笑) 何気に団シャルっぽいのはご愛嬌(笑)でわv |