「I will get your kiss」

 2月1日。寒さ厳しく、雪も見られるこの時期に、1人の男が一憂していた。
「ああ…。もうすぐバレンタインだ。シャルは…今年こそ本命チョコを…くれるだろう
か?毎年、本命とも義理とも言わず、軽いノリで、アイツらに渡したノリでくれるから
なぁ…」
 ホームでイスに腰掛け、クロロは悩む。
「いや、シャルはきっとこのオレが本命のハズ!…と、言い続けてもう十数年…。でも
本命チョコをねだるなんて、そんなのもてない男の哀願みたいで、カッコ悪いし、情け
ない…」
 はぁ。クロロが、ため息をついて落ち込んだその時、
「団長、どうしたんですか?」
 室内にシャルが入ってくる。相変わらずの、爽やか笑顔で。
「シャル…」
「?」
「チョコください」
 クロロは土下座していた。一瞬で、男としてのプライドを本能で捨てていた。
「チョコなら毎年あげてるじゃないですか」
 意外そうな顔をして、シャルもその場に座り込む。
「毎年、マチたち数少ない女性陣からしかチョコ(義理)がもらえない皆の為に、せめ
て1つでも多く、ってオレが。しかも手作りを」
 ちなみにシャルは近所付き合いが良好な為、毎年大量のチョコを本命、義理に関わら
ず貰っている。
 クロロは常に移動して所在さえ掴めない日々の為、チョコは女性陣&シャルのモノだ
け。更に言うなら、小さい頃はそれに知り合いの女性(年配)の分を加えた程度。
「だけど、本命が欲しいんだ」
 心からの懇願。
「本命、ですか?」
「そう。お前の本命チョコが欲しいんだ」
 シャルの瞳を見つめながら、その手を取るクロロ。
「お前が好きなんだ…」
「でも…」
「何でもするから!」
「何でも、ですか?」
 強くうなずくクロロ。
「本命チョコくれたら、団長の座をお前に譲ってもいい」
「それは困ります」

 真顔でキッパリと拒絶する。
「嫌だ〜、嫌だ〜!!シャルの本命チョコが欲しいんだ〜ッ!!!!」
 床に寝込み、手足をジタバタしたさせて、クロロが欲望を叫ぶ。
「子供ですか、貴方はッ!!!?」
 呆れてシャルが怒鳴る。
「だって…」
 落ち込む。闇を背負い、クロロが絶望に落ち込む。
「わかりました。団長が、オレの本命チョコを捧げるに値する人だと証明出来たら、あ
げてもいいですよ」
「本当かッ!?」
 パァァァ。クロロの顔に光が灯る。
「そ、それは14日の夜に、その…1つのベッドでこう…っていうのも…有り、で?」
 欲望丸出しで、機嫌を伺う様に確認する。“本命”の意味を。
 シャルは、ニッコリ笑う。
「ええ、もちろん。ノーマルでもアブノーマルでも、団長のお好きなように」
「本当だな!?」
「はい。二言はありません」
「テープレコーダーに記録してもいいか!?」
「しつこいですよ」

「そ、それで、オレはどうすればいいんだ」
 今なら、“空を飛べ”と言われても出来る気がする。
「そうですね、男の魅力を量ると言えばやはり…」
 証明方法を思いつき、シャルが、優しくクロロを見つめる。
 胸の高鳴りを実感しながら、クロロがシャルの言葉を待つ。
「団長」
「何だ?」
「旅団内アンケートで、“抱かれたい男No.1”になってください」
「任せろ!このオレの実力をもってすれば…」
 クロロの笑顔が、凍りつく。
「えぇぇッ!!!?」
 驚愕。
「なっ、何故!?」
「“抱かれたい男”ランキングは、最も男性の人気を忠実に反映する、重要なバロメー
ターですよ」
 ニコニコ
「回答者中12分の9が男だぞ!1位になったら、むしろ恐いだろ!!」
 想像して、怯えて涙する。その全員が、まだ可愛い系に属するならともかく。
「けど、オレが全てを捧げても良いと思えるだけのモノを、訴えてもらえないと…」
「な、なら、他のアンケートでいこう!男の魅力は、“抱かれたい”と思わせる事だけ
じゃないだろ!?」
「では、何にします?」
「えっと……、そうだ!」
 思いつき、クロロは自信たっぷりにシャルと視線を重ねる。
「“頼もしい男”っていうのはどうだ?」
「それだと、ウボォーかフランクリンが1位になりますよ」
 あっさりと、敗北を宣告される。
「じゃあ“漢らしい男”は?」
「それはウボォーです」
「なら“性格の優しい男”は?」
「それもウボォーかと」
「“仲間思いな男”!」
「やっぱりウボォーだと思います」
「“几帳面な男”!!」
「もちろんウボォーです」
 段々、ヤケになっていくクロロ。あくまで冷静なシャル。
「“力強い”!!」
「当然、ウボォーでしょう」
「“爽やか”!!」
「あ、それはオレです」
「“純粋”!!」
「ウボォーって気がします」
「ならぁ〜…ッ!!」

 

 数分後。2人は、
「“酒が強そう”!!」
「ウボォーです」
 まだ問答を続けていた。そろそろクロロも、ネタ切れが近い。
「え、えっと、じゃあ…」
 悩む。と、そこへ
「何やってんだ、お前ら?」
「あ」
 ウボォーとノブナガが不思議そうな顔をして現れた。
「出たな、宿敵!!!!」
「えぇッ!!!?」

 “スキルハンター”を手に、戦闘態勢をとり、ウボォーを睨みつけるクロロ。
 さっぱり訳がわからないウボォー。
「お前、団長に何したんだ?」
 ノブナガも突然の団長の怒りの原因がわからず、戸惑う。
 しかしクロロは、そんな2人の疑問など無視してウボォーに憎しみをぶつける。
「ウボォー!お前は悪魔だ!!このオレの今までの努力をせせら笑い、全てを奪ってい
く悪魔だ!!滅べ!!滅んでしまえ!!!!」
「何で!!!?」

 ウボォーは当然、困惑する。
「自分の胸に聞け!とにかく!!」
 クロロがウボォーへ向けて、足を踏み出す。
「貴様を消す!!」
「待て、団長!!ちょっ…わぁぁあぁ―――ッ!!
 ウボォーがとっさに受身を取ると、
「―――あ…あ?」
 直前で、力無くクロロが倒れた。
 その背後には、高く脚を上げたままの状態で立っているシャル。
「もう。団員同士のマジ切れ禁止と定めた本人が、掟を破ってどうするんです」
 呆れ顔で、脚を下ろす。
「お前って…」
「ん?何、ウボォー?」
 静かな口調で、ウボォーは本心を告げる。
「強いよな…」
「当たり前じゃない。でなきゃ、クモは出来ないでしょ」
「いや、そうじゃなくて…」
 後頭部に巨大なたんこぶを作り、情けなく倒れているクロロが、本当に哀れに思え
てくるウボォーとノブナガ。
「…おい、シャル。何で、団長はウボォーの事を“宿敵”なんて呼んだんだ?」
 とりあえず場の空気から逃れようと、ノブナガが話題をふる。
「あ、それは…」
 シャルが爽やか笑顔で答える。
「本命チョコが欲しいから」
「はぁッ!?」

 益々訳がわからない。
「いや…確かに、後2週間でバレンタインだけどよ…」
 だからって何故、1番恋愛イベントから遠い自分が憎まれなければならないのか。
「う…うぅ…」
「お。起きたか、団長」
 見下ろすノブナガ。頭を押さえながら、クロロがゆらりと立ち上がる。
「く…」
「大丈夫か、団長?」
 消されかけたとはいえ、クロロは団長。ウボォーは考えるより前に、声をかけてい
た。
「ウボォー…」
 物凄く悔しそうに、クロロはウボォーは睨んだ。
「あ、…」
 ヤバイ。ウボォーの身が硬直する。次の最適な言動がわからない。
「あの、な、何か気にくわねぇ事したなら…」
 謝る、と言おうとしたものの、クロロは既に回れ右。
「次に会った時は覚えてろよ!!バカ野郎ーーーッッ!!!!」
(捨てゼリフだ!!)

 泣きながら走り去っていくクロロの背中は、まさに敗者のソレだった。
 残される3人。奇妙な空気。
「シャル…」
「何、ノブナガ?」
「詳しい説明、頼む」
 それは本当に、奇妙な空気だった。

「なるほど…」
 床に3角形を作り座る3人。シャルの説明にやっと事態を納得できたウボォーとノ
ブナガが、呆れに近い表情でうなずいた。
「それって、単に質問内容が悪いだけだよな」
 率直にウボォー述べる。
「だよなぁ。“カリスマ”とか“読書好き”とかだったら、満場一致で団長だろ」
 ノブナガも、当然な意見を口にする。
「オレもそう思ったんだけどね」
 何食わぬ顔で、シャルが頭に手をやる。
「とにかくウボォー、団長には気をつけてね。3日は近づかない方がいいと思うよ。
じゃないと、消されちゃうかも」
「ああ…」
 何で自分がこんな目に。疲れた面持ちで、ウボォーはシャルの忠告を肝に命じた。

 

 2月10日。バレンタインまで、ほんのわずか。
 未だクロロは、シャルから本命チョコの確約を取り付けられずにいた。
「うっ、うっ…。シャル〜…」
 薄暗い1室、バーのカウンターの様な場所で、クロロはグラスを傾けていた。
「マスター、もう1杯」
 涙ながらに、グラスの中の氷を鳴らす。
『兄さん。今日はもうよしなよ』
「いいんだ、飲ませてくれ…。飲みたいんだ」
 そう言いつつ、自らの手でグラスに酒を注ぐ。
『わかった。もう、止めないよ。男には、飲みたい日もあるからねぇ』
「ありがとう、マスター」
 一気に酒をあおる。再び、自らの手で酒を注ぐ。
 クロロの目の前には、小さな液晶TVがある。音声はそこから発せられていた。
以前、興味本意で盗んだ、10万語録のAI搭載が売りのコミニュケーションヴィジョ
ン『マスター君』(独身男性向)だ。
「うっ、うっ、シャル〜…」
 えぐえぐ。情けなく涙し続け、その度に『マスター君』に慰められるクロロ。
「何やってんだ、団長?」
 冷めた声が、クロロを現実に呼び戻す。聞き慣れた声にクロロは振り返ると同時、
「出たな、宿敵!!!!」
『兄さん、いらっしゃい』
「いや、そのネタもうやったし…」
 『マスター君』の声が、より一層虚しい空気を際立たせていた。
 “スキルハンター”片手に、クロロが憎悪の視線でウボォーを刺す。
「貴様、何故ココに!?」
「何故って、ココはホームだろうが」
 呆れるウボォー。
「うるさい!大体、お前に出会う前はシャルはもっと素直だったんだ!!」
「出会う前も何も、出会う前はお前ら生まれてなかったろ」
 呆れ果てるウボォー。
 しかしクロロの真顔は続く。
「正直に答えろ!シャルの事…恋愛対象として見てるのか!?」
「ンな訳ねぇだろ」
「本当だな!?本当に、シャルと○○○○したいとか、××したり、◇◇◇して欲しい
とか、あまつさえ☆☆☆まで、とか思ってないんだな!!!?」
「ぶッ!!!!」
 赤面して吹き出し、床に顔をめり込ませるウボォー。
「どうなんだ?思ってるのか、思ってないのか?」
「誰が思うかーーッ!!!!」
 床に倒れたまま、ウボォーは力の限り否定した。

 電源の切られた『マスター君』が、更なる静寂を呼ぶその室内。
 カウンター席に並び、クロロとウボォーが座っている。
「疑って悪かったな、ウボォー。もう少しで、お前を消す所だったぞ
「ハハハ…」
 何故、自分はこの男に命を預けているのか。ふと、自問するウボォー。
 その後、ウボォーは延々とクロロの酒に付き合わされ続けるのであった。

 

 一方。
「おい、シャル」
「ノブナガ。どうしたの?」
「いや、ウボォーがどこいるか知らねぇかと思って」
 数刻前から姿を消してしまった親友の居場所を尋ねる。もちろん彼は、現在その親
友が上司のグチに強制的に付き合わされている事を知らない。
「さぁ…。オレも、ウボォーの姿は見てないし。ごめん」
「別に謝る事じゃねぇだろ」
「あ、そうか」
 シャルが笑う。
「ところで、もう1つ聞いていいか?」
「何?」
「何で、お前は男なのにチョコくれんだ?」
「ボランティア。愛情不足の皆への」
「それから?」
「見返りがいいから」
 キッパリ
「ほら、皆は定住しないし、しても近所付き合い希薄だから、毎年貰えて5、6個で
しょ?だから、数十倍になって返してくれるんだ」
「確かに…」
 年に1度、興味ないと言いつつ男として気になる日。義理とわかっていても、嬉し
くてお返しを奮発している、自分含む旅団男性陣。
「なんて。別に、お返しが目当てじゃないよ。それだけが目的だったら、毎年あんな
凝ったチョコあげないよ」
「そういや、全員違う菓子貰ってんもんな」
「そうだよ。低身長が悩みのフェイタンとコルトピにはCa豊富な食材を、ウボォー
には筋肉がつくよう、タンパク質豊富な卵を多めに使ったりとか。気を使ってるんだ
から」
 爽やか笑顔で、細かな気使いを説明するシャル。
「なら、今年は団長へのチョコにオレらのとは明らかな差を付けてくれよ」
「団長のを粗末にするの?」
「逆だ、逆!!」

 わかってるよ、とシャルが益々笑いを強める。
「大体、お前の本命が欲しくて、団長はああなってんだろ?団長がまた何か言い出す
前に…」
 ふふ、とシャルが愉快とばかり笑い出した。
「な、何笑ってんだよ!?実際、ウボォーは消されかけて…」
「違うよ。まったく、ウチの男どもはどうしてそうなのか」
「は?」
 意味の掴めないノブナガの肩を、シャルが叩く。
「じゃ、オレは14日の準備で忙しいから」
「おい!待てよ」
 部屋を去ろうとするシャルの背に叫ぶ。
 顔だけ振り向き、シャルは意味ありげに口元を緩めた。
「オレは、本命と言った覚えはないけど、義理とも言った覚えはないよ」
「は?」
 ノブナガの疑問は、閉じた扉の音に遮られた。

 

「本当、これだから男は」
「バカ、の一言に尽きるね」
「そうだよ。バカバカ」
「うぅ…」
 女性陣3人の言葉に耐えるウボォーとノブナガ。
 何故、自分たちがこんな目に。パクたちからもシャルに、団長に見かけだけでも本
命をやれとの口添えを頼みに来たはずなのに。
 イスに小さく着席する男2人。
「アンタたち、長年シャルと付き合ってるくせにわかんないの?」
「バカバカ」
「ま、団長も気付いてないし、しょうがないんだろうけど」
「だから、何に?」
 耐えかねて、2人が同時に叫ぶ。
「アンタたちへのチョコと、団長へのチョコの決定的な差に」
 呆れ果てた声で、パクが言う。
「差?」
 聞き返す2人。
「そうよ。差。アンタたち、シャルからハート型のチョコを貰った事ある?」
「……」
 必死で思い出してみる。
 そう言えば、ケーキ、ムース、クッキー…と様々なチョコ菓子を貰ったが、どれも
形は星や相手の顔など。お約束のハート型は、見た事がない。
「ない…」
「でしょ?でも、団長へのチョコは毎年全部ハート型よ」
「え!?」
「やっと気付いたみたいだね」
「バカバカ」
「あの、つまり…」
 言葉の正確な意味をウボォーが求める。
「最初から、団長は本命を貰ってた、って事」
 男の鈍感さを、改めて実感させられる2人なのであった。

 

 2月13日。決戦日の、ほんの2時間前。
「団長、ちょっといいか?」
「何だ、ウボォー?」
 3日前の夜と同じく、クロロはカウンターで『マスター君』を従え、酒を飲みふ
けっていた。
「いや、明日の事で…」
 ピク。クロロの耳が一瞬ダンボになる。
「何だ!?実はオレもシャル狙いだとか、そういう事か!!!?」
「違う、違う!!!!」
 涙目でシャツに掴みかかるクロロを、慌ててなだめるウボォー。
「その、えっと…」
 言葉に悩む。シャルからチョコを貰った時、それが本命だとクロロが気付くよう、
それとなく導きたいのに。
「シャルから、どんなチョコ貰いてぇのかな、って」
 オレのバカ。心で、ウボォーは泣いた。
「そうだな…」
 手の力を弱め、クロロは思いにふける。

「団長…」
「シャル、どうしたんだ?」
「実は今年、チョコは無いんです」
「え?」
「だって今年は…」
 頬を赤く染め、シャルが微笑む。そのまま、クロロの両手を取る。
「オレを貰って欲しくて…」

「うわぁあぁぁああぁッ!!!!」
 クロロの鼻から滝とほとばしる赤い液体に、とっさに怯え、身を引くウボォー。
「シャル〜vvv
 ニヤけ笑顔でやつれていくクロロ。
「戻って来い、団長〜ッッッ!!!!」

 

 やり直し。
 まだ血溜まりが、点々と生々しく残っている。
「どうしたら、シャルはオレに本命をくれると思う?」
「え?あ、ああ…」
 本当は既に貰っているのだが、それを言う訳にはいかない。そんな事を言えば、クロ
ロは調子に乗り、絶対にムードもシャルの機嫌も打ち砕くだろう。
「そうだな、やっぱ、ムードだろ」
「ムード?」
「ああ。イイ雰囲気になれば、シャルも告白とかしやすいだろ。バレンタインは、0時
まで丸々24時間あるんだ。その1秒前までに、シャルに認めさせればいいんだぜ」
「しかし…」
 すっかり自信喪失のクロロ。今日までシャルに良い所を見せれなかった事が、容易に
想像つく。
「だから食事誘ったり、何かプレゼントしたりとか。バレンタインは、別に女が男にチョ
コ贈る日じゃねぇだろ」
「そっ、それは…」
 急に視線に期待を込めるクロロ。
「食事にクスリを盛って、ホテルに連れ込めという事か!?」
「違う!!!!」
 クロロの暴走に何とか歯止めをかけようとするウボォー。
 期待を砕かれ、少し残念なクロロ。
「何だ…、ちッ」
「“ちッ”って、アンタはそんな事しか考えてねぇのか?」
 ウボォーは呆れる事にも疲れ気味だった。
「年中無休24時間、オレの頭はシャルの事でいっぱいだ!!」
 自信満々に、クロロはキッパリ言い切る。
(恐ろしい男だ…)
 色んな意味で。ウボォーがそれを実感するには、もう十分だった。

 

 2月14日。とうとう、決戦の日が幕を開けた。
 考えながら、ウボォーはクロロの部屋へ向かう。広間では皆、たった4個の収穫に歓喜
している。正直自分も、嬉しくないと言えば嘘になる。
(ま、シャルと2人になるようセッティングはしてあるし、昨日も上手く運べた方だし、
後は団長次第だろ)
 前向きに笑って、ウボォーがクロロの部屋の戸を開ける。
「団長、入る…ぜぇえぇえぇぇッ!!!?
 思わず後退するウボォー。
 クロロの部屋は、壁一面に“ふさふさ団長コート”がかかっていた。全64色。
「ウボォー、良い所に。なぁ、どれがいい?」
「いや、どれがいいって…」
 全部同じデザインだ。
「どれだ!?いつもの黒か、意外性の紫か、情熱的な赤か、知的な青か。それともウケ狙い
で黄色か」
「格ゲーかアンタは」
 もっともなツッコミ。
「いいから選べ!色が同じでも、材質が違う物もある!!勘の強い強化系で同性のお前にし
か頼めないんだ!!」
「だからって!!」
 芝生の上でどの草が好きか、と質問されたも同じ。
 なら、自分がすべき事は
「私服で行け」
 クロロの道を修正してやる事だった。
「その服じゃ目立ちすぎるだろ」
「なるほど。ありがとう、ウボォー」
「ああ、頑張れ…」
「お前の気持ちは忘れない!草葉の陰で見守ってくれ!!」
「まだ生きてるし…」
「じゃあ、行ってくる!!」
 見事なガッツポーズ&笑顔をキメ、クロロはシャルの元へ去っていった。
「昔は、まともだったよな…」

 

 21時。タイムリミットまで、3時間。
「シャル、どうだ?綺麗な夜景だろ?」
「そうですね。料理も美味しいし」
 クス、とシャルが笑う。
 クロロはウボォーの助言を実行中。ホテルのレストランに誘い、プレゼントも用意済。
付け加えるなら、スウィートも予約済。
「シャル…そ、その…そろそろ、なぁ…」
 顔色を伺う。まだ、チョコを貰っていない。
「え?あ、そうですね」
「ああ
 嬉しそうに笑うクロロ。
「会計の時間ですね」
「そうじゃなくて!!」

 ダン!テーブルを叩き、泣きながらクロロが立つ。
「え?違うんですか?」
「まだスープしか来てないだろ!!」
「そういうオチかと思って」
「うぅ…」
 シャルの本気の笑顔が眩しい。
「いや、その…」
 席に着くクロロの脳裏に、
(大事なのはムードだ。シャルが、渡しやすいムードにするんだ)
 ウボォーの言葉が浮かぶ。
「あの、シャル」
「はい?」
「プレゼントがあるんだ」
「え…?」
 わずかに、シャルが頬を紅潮させる。手応え有り。
「コレ…」
 おずおず。小さな包みを渡す。
「あ…」
 シルバーのブレスレット(男物)
「それなら、普段着けてても変じゃないだろ」
「あ…ありがとうございます」
 心底嬉しそうに、シャルが満面の笑顔で喜ぶ。
「シャル」
「何ですか?」
「今まですまなかった…」
 謝るクロロ。押してダメなら…方式で、謙虚さを見せようと、今までチョコを強要し
てきた事への詫びだった。が、
「嬉しい…。やっと、オレの気持ちに気付いてくれたんですね」
「そう、気付い……えぇッ!?
 驚愕を返されるクロロ。
「違うんですか?」
「いやいや!!違わない、違わない!!」

 クロロが、本能的に首を横に振る。その時、ハタと気付く。今なら、と。
「…あの、部屋をとってあるんだが…」
 ドキドキ。
「…そうですね。そういう…約束でしたね」
 顔を赤くしたまま、シャルは微笑んでうなずいた。
 この時、クロロが至福を噛み締めていた事は言うまでもない。

 

 スウィートルーム。
(嗚呼…どうしよう。予想外の事で、どう対応していいのか…)
「団長」
「はひッ!」

 上ずる返事。
「先にチョコがいいですか?それとも…」
 飲み込まれた言葉に、更にクロロの緊張度が上昇する。
「え、えええ、えーと…」

「団長、気持ちいいですか?」
「ああ
 シャルの太もものぬくもりと感触に感涙状態のクロロ。
「はい。次は右耳を掃除しますよ」
「ああ
「団長」
「ん?」
 クロロがふと顔を上げた時、
「……!」
 柔らかい口唇が、クロロの口唇に触れた。
「シャル…?」
「さ、次は右耳ですから」
 クロロは、シャルの膝枕で、必死に涙と鼻血を堪え続けた…。

 

 おまけ。
「何故、シャルは急に素直になったと思う?」
「まだ、気付いてなかったか…」
 例の場所で、ウボォーは今度は女性陣からの説明をクロロに行うのであった。

END  

 

・後書き
 
いかがでしたでしょうか?りおん様のオーダー
『バレンタインで、シャル&クロロ暴走気味で、ノブ&ウボォーがでてくる
シャルクロorクロシャルギャグ』
をなるべく意識して、書いてみましたが。
 シャルはともかく、クロロは暴走気味だと思うんですけど;
 ギャグ度も後半低いですが、少しでもリクに応えられていたら、幸いです
vvv

 実は、初期タイトルは「たいせつなひと」だったんですが、先日TVで「I will〜」をタイトルだけ聞いて、
「よし!団長はチョコが欲しい訳だし、コレに変更!!」と。新タイトルにちなみ、最後のキスも生まれました。
ダメダメですね;曲の方だって、前々から「いいな
」と思っていたくせに。あぅぅ;
 シャルへのプレゼントは、本当は扉絵で着けてた時計でもいいかな
とも思いましたが、
どう表現しようか悩んだ上、時計よりもブレスレットが先に思いついた事もあって。
 一応言っておくと、最後、団長とシャルは耳掃除&キス以上の事はしていません。
そこまで頭が回らなかった、という事で。後で「オレのバカバカ!」と悔やんだ事でせう。
 ただ一言で言うなら、「ウボォーの受難話」となるんでしょうか?でも、影の主役は『マスター君』希望(笑)
 あ、伏字の所は、好きな言葉を入れて下さい
字数制限なしでvv

 それでは、こんな駄文でしたが、喜んで頂けれたなら光栄です
vvvでわ♪