「Gang」

   守りたい人がいる
   守らなければならない人がいる
   愛したい人がいる
   愛してはいけない人がいる

   死にそえられた
い白菊
   お前のようにいつか
   この想いも風化してしまうのだろうか

   オレは『手足』
   大切な 大切な貴方の一部……

−−−−−

 ピピピピピピ…♪
 素早く携帯を操作する。
 1つダイヤルが押される度に、見知らぬ誰かの命が消える。
「つまらない…」
 無意識に不満が零れる。
「そんなにつまらなかったか?」
 不意に、背後で声がした。
「ええ。とても簡単な仕事で」
 ピピピ……、プツンッ!
 液晶から光が消える。
「来た団員が4人だけだし、相手の数や宝までの手間から、
 多少は手ごたえがあると思ったんですけど…」
 振り向いて、声の主に笑いかける。
「ザコは何人集まってもザコ、って事ですね。
 ま、オレたちに手ごたえを感じさせる相手がいすぎても、それはそれで問題ですが」
「そう言うな。これでも選んでる方なんだぞ」
 腕を思いっきり上に挙げて、背筋を伸ばす。
「あ〜あ。良かった、ウボォーには連絡しなくて」
「どうして?」
「だってこんな退屈な仕事の時に呼んでたら、後でオレに文句言ってくるに決まってるでしょう?
 その時に限って、誰も止めに入ってくれないし…って、何度も見てるじゃないですか。
 いつも、笑ってるのは誰ですか?」
「ああ、そう言えば。すまなかったな」
 からかう様なその笑顔が、何だか少し悔しかった。
 1人、その場から出て行こうとオレは足を進める。
「これからどうするんだ?」
 足を止める。
「品物の整理をしてから帰ります。もちろん、貴方が解散を命じてから」
「ただ、帰るだけか?」
「はい。ただ帰るだけです。真っ直ぐ家に」
 顔だけ動かして、自信に満ちた笑顔を見る。
「……15分ほどしてから来れば、丁度良いと思いますよ」
「分かった」
 勝ち誇った様な、笑顔。
 オレの負けですよとばかり、オレは笑い返した。
「じゃあ、待ってますから。団長」

−−−−−

 部屋が、主の帰宅を静かに迎える。
「ふぅ……」
 帰るなり、オレはすぐに着替える。洗濯機の中に今まで来ていた服を入れる。
 仮宿にすぎないはずなのに、住み始めて大分経つ所為か、随分と落ち着く。
 風呂の用意をし、エプロンを着けて、遅い夕食の下ごしらえを始める。
 慣れた手つきで食材をさばいていく。これでも料理は得意だ。
「!」
 人の気配。扉の開く音。
「……まさか本当に、オレの帰宅15分後に来るとは、思いませんでしたよ」
 団長もどこで着替えたのか、軽装をしていた。髪も下ろして。
「心外だな。待ってると言われたから、ちゃんと言葉通りにしたんだぞ」
「いつも軽く10分は遅れて来るじゃないですか」
「だから今夜は、きっちり15分ほどしてから来たんだ」
 後ろから、団長が抱きしめてくる。
「料理中なんですけど、オレ…」
「何を作ってるんだ?」
「ビーフシチューですよ。そう毎日、手の込んだ物は作れませんから」
「別に良いさ。でも、1人でそんなに食うのか?」
「2人分です。どうせ、何も食べていないんでしょう?」
「まぁな」
 手を離して、団長はリビングのテーブルに着く。
「高い金払って美味い物を食べるより、ココへ来て、更に美味い物をタダで食べた方が良いからな」
 ニ…ッ、団長は悪戯に笑う。
「そんな事言うならお金取りますよ。今までの分も全部」
「それは困るなぁ。…だがその分、金が入ってるから良いじゃないか」
「それだって、オレが自分で動いて殺して、稼いだ金です」
 笑い合う。
 こうしてると、本当にこの人はオレと同年代なんだよな、と思わされる。
同じ『団長』と呼ぶにしても、まるで違う。同じ名を持つ別人が、2人いるみたいだ。
「で、下ごしらえの後は?」
 テーブルに肘を着け、手に頬を乗せて聞いてくる。
「風呂に入る予定でしたよ。特に今夜は血の匂いが付いたんで」
「血の匂いって…。今夜はそんなに殺してないだろ」
「でも何人かは直接この手で殺して、不本意ながら返り血も浴びてしまったんで。
 嫌いなんです、血の匂い。気分が悪くなる」
 エプロンをイスにかける。
「だから団長も洗い流して下さい」
「……一緒に?」
 ス…ッ、と立ち上がり、再び団長がオレを後ろから抱きしめた。
 その腕の中、オレは力を抜いて団長に身を委ねる。
「貴方が…そう望むなら」

−−−−−

 ザァァァ…ッ。
「ぁ…ん、ふ、ぅ……」
 息苦しい。
 零れる吐息をかき消す様に、シャワーが打ち付ける。
 広めの浴槽の中、何度もキスを繰り返す。
「あぁ…、ん……団長…ッ」
 熱い。
 苦しい。
 でも気持ち良い。嫌じゃない。
「シャル…」
「ぁ…」
 ただのキスの連続なのに、どうしてこんなにも満たされるんだろう。

 キュ…ッ。
 団長の手が、シャワーを止める。キスの終わり。
「苦しかったか?」
「何を今更…」
 返事をするのも面倒で、オレは団長の腕の中、ただぐったりしていた。
 優しくオレの肩を抱いて、支えてくれる団長。
「それにしても、アイツらはどう思うだろうな。
 いつも冷静なサブリーダーが、こんなにも可愛い表情を出来ると知ったら」
「さぁ……?」
 まだ少し苦しい。だけどオレは立ち上がり、湯船から出る。
「シャル?どこ行くんだ?」
「夕食の仕上げです。パン焼いて、野菜切って、デザート用意して、
 酒出して、食器並べて、注いで…って、まだやらなきゃならない事があるので」
 バスタオルを身体に巻く。
「10分ほど、ゆっくりして下さい。今度も時間通りでお願いします」
 そう短く告げて、出て行った。

   優しくなんて、しないでください

「お、良い匂いだな」
「……浴室には、時計なんて無かったですよね?」
 オレが出していた着替えに身を包み、髪を拭きながら団長が出てくる。
 オレが湯船から出て、ちょうど10分だ。
「スゴイだろ?」
 自慢気に、機嫌良く笑って、食事の用意が完了されたテーブルに着く。
「ええ。その調子で、今後も時間を守ってくれると、嬉しいんですけど」
「フフ、手厳しいな。…気をつける」
 グラスをオレに差し出す。オレは、それにワインを注ぐ。
 遅い夕食の始まり。すでに日は変わっていた。
「美味しいですか?」
「ああ、流石だな。朝食が楽しみだ」
「いくら誉めても献立は変わりませんよ。翌朝は和食って決めてますから」
「そんなつもりは無いさ。本当に…楽しみだからな」
 悪い気はしない。こういう事で団長は嘘をつかないと、知っているから。
 僅かな体温の上昇を感じながら、オレはフォークを進めた。

−−−−−

   夜は好きだ
   暗闇が、オレに安らぎをくれるから
   誰も、オレの狂気を笑わないから

   偽りの愛さえ、あたかも真実の様に錯覚させてくれるから

   貴方が、『痛み』と共にオレの傍にいてくれるから

 夜は長い。でも、とても刹那的だ。
 眠りを選べば、千年だってほんの一瞬。
「団長…」
 貴方のその手が、オレの肌を露にしていく。
「あぁ……」
 抱きしめる。
 団長の口唇が、オレの首筋にキスを落としていく。
「うん…ッ、うぅ……」
 様々な刺激に、オレは反射的に身をよじる。
「シャル…」
「ん…ッ」
 深く、熱いくちづけ。
 息苦しさと強い刺激に、瞳に涙がにじんだ。
「もっと…団長……。早…ッ、来て…くださ……い、ぁぅ…ッ」
 更なる刺激を求める。
 早くこの身に、貴方を刻んで欲しいから。
 団長が、オレの髪を優しく撫でた。
「――――ッ!!」

   眠りは死
   死に慣れる為に、人は眠る
   『生』の実感
   この一時が、オレに『生』を与えてくれる
               『死』を教えてくれる

   切ない
   求めるほどに、身も心も裂かれそうで
   どんなに身を捧げても、独占など出来もしないのに

 熱い。このまま、熔けていきたい。
 貴方の支配が、永遠なら良い。
 熱に浮かされたその顔を、ずっと見ていられたら。
「団長、だんちょ…ぅッ」
 甘い、痺れる様な、快楽の支配。
 オレを征服するその瞳。
 貴方の言葉1つ1つが、オレを堕とす絶対の媚薬。
「イイ子だ、シャル…。…愛してる」
「あ…ッ」
 嘘。
 相変わらず、こういう時だけ、嘘が下手だ。
 オレの事、愛してなんていないくせに。
 『愛』を、知りたいだけのくせに。
 もっと巧く騙して、オレから視野を奪えば良いのに。
 でも、それすらも信じてしまいたい。嘘ごと、貴方を受け入れたい。

   貴方を、愛しています
   もう、どうしようもないほどに
   貴方の笑顔だけを見て、生きていきたいと思えるほどに

   バカだと笑って良いんですよ

   全ての権利は 貴方の手の中にあるのだから

   ああ もう夜が明ける
   貴方は知らないでしょう
   再び貴方を迎え入れられるまでの間が
   どれほどつらく、永いかなんて…………

−−−−−

 目が覚める。
 隣りに団長がいる。オレを、腕に抱いたまま。
「……シャル…?」
「ああ、すみません。起こしてしまいましたね」
 身を起こし、オレは快いぬくもりから抜け出す。
「もう少し寝ていますか?それともシャワーでも浴びます?
 オレは…朝食の準備をしますけど」
「そうだな…。じゃあ、シャワーを浴びる」
「分かりました。少し…待っていて下さい」
「ああ。朝食、楽しみにしてるぞ」
 優しい微笑み。優しすぎる微笑み。
 それだけで、オレの切なさは簡単に騙される。
 心から純粋に、微笑む事が出来る。

   愛しい人
   『傍にいて』とは言えないけれど
   契約の様に割り切れるだけの術を持てば、オレは楽になれるだろうか
   けど『痛み』さえ伴って良いから
   オレは貴方を 貴方の全てを受け入れたい

   涙が出るほど 貴方が愛しい
   命を賭けて 貴方に永遠の愛と忠誠を捧げます

   いつか いつか貴方が
   偽りでもオレを愛せなくなったら、その時は

   貴方のその手で、どうかオレを
してください

「どうしたんだ、シャル?オレの顔に、何か付いてるか?」
「いえ。ただ…愛してるだけです、貴方を」

   死にそえられた
い白菊
   オレの想いが風化してしまうか お前には見える?

   答えは出ている
   だけど、そんなものは要らない

   『愛してる』
   決して枯れないこの想いこそ
   永遠に続く、刹那の真実なんでしょう?

   ねぇ、団長…―――――

END



・後書き
 
やってしましましたぁ〜ッッッ!!!!(恥泣)えぐえぐ。は、恥ずかしいよぅ〜/////
ア、アダルティ過ぎて…知人の目が怖い〜!えぐえぐ。(なら、やらなきゃ良いのに;)
いや、人目に出ないのなら、これ以上のコト、平気で考えてますが;(ダメじゃん;)
 何か回追う毎に上がっていくな、アダルティ度…;(色んな意味で体温急上昇

いや、表現も今更だけど…ちょっと…アレ……だな;
 この話のイメージソングは、タイトルからわかる通り「Gang」(福山雅治)。
そして「Ne」(河村隆一)と「The Only One」(清貴)だったりします。
なのでこの3曲を聞きつつ、読むのがオススメ。(その方が、駄文度ごまかせるし…;)

 ちなみに、『死にそえられた緋い白菊』というのは、写実的?に言うと、
『はなむけの、血にまみれた白菊』って情景です。『菊→死』、『緋⇔白』というイメージ。
『大切な貴方の一部』も、『大切な、貴方の〜』で区切るか、
『大切な貴方の、〜』で区切るかで解釈や意味が変わりますしね。
 またシャル語りなのも、その方がまだ露骨な表現を避けられるかなと思った為だったり;

 とにかく団シャルシリアス、2本続けて団←シャルだったんで、次は両思いっぽいのを!
次こそ、幸せになろうね!!シャル!!!!(悲愛にしてる張本人が何を言う)